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英量的緩和をめぐるAliceとMarkの不思議な会話
 量的緩和(or信用緩和orハイブリッド型)なる金融政策は、金利の上げ下げとは違って、一般的には分かりにくいもので、議論が噛み合わないことが生じ得る。日銀の量的緩和は「量」(=当座預金残高)にターゲットを置く→これを増やす→緩和である、とまだ分かりやすかったが、現在の英米中銀のはメカニズムにファジーさがあって、余計に分かりにくい。案の定というか、欧米金融系のブログで噛み合わない事例があった。
 具体的には、有名処のブログからもリンクが張られているUK Bubbleである。これを書いているのはAlice Cookさん。最新エントリーの「In August, QE hit the economy」の内容をめぐってコメントしてきたMarkとの対話が噛み合わないのであった。Aliceの主張とMarkのやりとりは以下の感じ(超訳)。
Alice 「8月はBOEのリザーブが減ったわ。これは銀行がお金を引き出したから。BOEは何も言わないけれど、銀行がやっと(引き出したお金を不動産に)融資することに違いないわ。住宅バブルが起きるかもしれない。BOEはちゃんと対応できるのかしら。国債売ったら大変。金利が急騰してまた不況入りするかも」
Mark 「量的緩和がそんなに効果があると思わないがね。君の理論『BOEはプリントマネーしていない。国債をお金に換えているだけ』が正しいなら、ここで言っているリザーブと不動産の関係は嘘だろう。さもなければ量が増えた時期に不動産は急落して、減った時に急上昇するんじゃないか」
Alice 「Mark、BOEはお金を創出するの。でも、そのお金が(BOEの)リザーブにある限りは何も起きないの。銀行がお金をリザーブから引き出して初めて信用が創造されるのよ。で、そのお金は不動産市場に行く可能性があって、そうなれば不動産は上がるでしょ」
 量的緩和下においては、量(=リザーブ)の増大が緩和で、減少は引き締めとなる。この点、Aliceは量を増やしても意味はない、減って効果が出る、という不思議な理解をしていて、それ故にMarkと噛み合わず、その他から厳しい突っ込みを受けている。
 もっとも、量の増減の受け止め方はいろいろで、日銀が初めて量的緩和をやったときも、意外な質問を受けたりした。つまり、「銀行がお金を日銀にどんどん積んだら、世の中からお金がなくなって引き締めじゃないか」というもの。
 まあ、金融政策運営の観点から一つ言えることは、非伝統的な政策は対外コミュニケーションにおいて難がある、ということだろう。いやはや。
# by bank.of.japan | 2009-09-10 21:59 | ユーロ | Comments(9)
米連銀ブログは西村日銀副総裁の講演が気に入ったようだ
 国内政局に追われて海外ブログのチェックがややおざなりになっていたのだが、久しぶりに見たアトランタ連銀のmacroblogで西村日銀副総裁の講演が取り上げられていた。この「Words of wisdom from the South and East (way South and East)」というエントリーである。筆者は同連銀のアルティグ(Altig)調査統計局長で、この講演がいたく気に入っているようである。
 アルティグ局長、このところジャクソンホールやブラジルなどでのコンファレンスを転戦。その中で、最も感銘を受けたのがDr. Nishimuraの講演であったようだ。具体的には、西村副総裁が整理した非伝統的金融政策を考える上でのポイントや、やってはいけないリストで、これらは「a great starting point for conversation 」と評価している。
 非伝統的金融政策の考え方などは白川総裁も指摘しているので、ここでは「Five Don’ts in Assessing Unconventional Policies」(非伝統的政策の評価でやってはいけない5つのこと)を紹介したい。
1 中央銀行のバランスシート(B/S)規模のみを金融緩和を図る尺度にしてはいけない
2 (非伝統的手段によって)介入対象となっている市場だけに集中してはいけない(意訳→全体を見る必要がある)
3 セーフティネットの価値を過小評価していはいけない
4 国や地域の違いを無視してはいけない(一つのやり方で全部に対応する方法はどこにも通用しないかもしれない)
5 物事が元の状態に戻ると思ってはいけない。
 macroblogはかねてから考え方など日銀化している印象があって、これはアルティグ局長の趣味なのか連銀全般に通じる傾向なのかはよく分からないのだが、まあ日銀の情報発信がきちんと受け止められたエントリーなのだろうと思った。西村副総裁、アルゼンチンまで行った甲斐がありましたね。講演があったのは知っていたのですが、実はまだ目を通しておりませんでした。このエントリーで内容を知った次第です。すいません。改めて読みます。日銀ホームページの講演はこちら。邦訳あると楽なのですが…。
# by bank.of.japan | 2009-09-08 22:15 | FRB&others | Comments(0)
BIS自己資本規制強化の考察=取りあえずは景気に配慮
 BISのバーゼル銀行監督委員会が自己資本規制の強化で合意した。夕刊では各社報じているが、日銀仮訳のプレスリリースはこちら。予想された通りに優先株が多い邦銀には厳しい内容となったが、取りあえずは景気への配慮がなされたのは一安心であろう。具体的には以下のところ。
 「実体経済の回復を阻害しないよう、これらの新たな措置を段階的に導入するための適切な実施基準が策定される」
 これが景気が十分に回復して段階的に実施する、という意味であるならば邦銀への影響は大したことはないのではないか、と考えられる。景気が回復していれば株価も安定or上昇基調となっており、ブルマーケットであるならば邦銀の自己資本強化に伴う株式の発行も容易に消化される、と考えられるためだ。
 ただ、個人的には今回の資本強化は、欧米監督当局のある種のポピュリズム的な対応ではないか、と思っている。各国とも金融機関に対する公的資金注入は国民から非難されており、特に英米では政権運営が厳しくなっている。金融規制は政治的パフォーマンスとして強化せざるを得ず、行政当局も監視体制が不備であったことが露呈しており、規制強化に動かざるを得ない。逆説的には、監督の失敗を規制強化にすり替えている面もないではない。
 邦銀も国際基準行であるなら規制に従うしかないのだが、どうしても窮屈であるなら、いっそのこと国際基準行であることを止めるのも手であろう。国際業務といっても、投資銀行業務で上位を狙うのも非現実的でもあるし、海外業務をやっていないのは少し格好悪いけれども、現地で投融資やっても元々そんなに儲かるわけでもないし、当分海外経済は低成長を続けると思われるので、厳しい規制に耐えてやる意味があるのかどうか。国内回帰して足元を固める、というのも一案ではないかとも思うのだが。
 本気で投資銀行業務(国際的なベースで)をやりたい人は、欧米有力投資銀行の本社採用を目指しましょう。

 「儲けたい」というのは人間の本質的な欲望の一つで、欲望の総量を規制でコントロールするのは無理があると私は思っている。規制で押さえ込むと必ず規制の抜け穴から欲望が漏れ出し、金融を歪ませるものである。禁酒法でマフィアが増長したようなケースもあるし。いずれ規制が窮屈になれば、再び見直すことになるのではないか。まあ、そんな相場観である。
# by bank.of.japan | 2009-09-07 22:08 | 金融システム | Comments(4)
民主党政権下の金融政策論戦の焦点
 金融政策をめぐる国会論戦の焦点と見所などについて箇条書きでまとめてみた。

・与党民主党
基本路線→白川体制の生みの親として日銀の独立性を尊重。財政・金融の分離原則を堅持する。
見所 野党時代は日銀を政府に抑圧された存在と位置付けた。低金利政策や国債買い入れは政府・与党にやらされている、という解釈である。大塚先生は下でも紹介したように43条の使い方にも否定的で、低金利については失われた預金利息を日銀に計算させて、その数字を総裁に言わせていた。従って、野党時代と整合的な金融政策は利上げ、国債買い入れの減額、43条乱用禁止といったところか。そこまでやれば筋は通り、野党時代に日銀を与党攻撃の単なる材料に使っていなかったことが証明される。

・野党自民党
基本路線→野党になったので、与党時代からの整合性はどうでもよく、日銀を守る与党を攻めまくる。
見所 攻め方の鋭さが焦点。野党時代の民主党と同じ主張をしては芸がない、というか間抜けになってしまう。嫌みな言い方としては「与党が中央銀行を甘やかすからデフレになる」とか考えられるが、ロジカルな突っ込みが期待される。例えば、インタゲで攻めるとか。この場合、山本幸三先生が先鋒役。金融政策については、小沢鋭仁先生と連携するとか。

総評 残念ながら、与野党を通じて先生方は金融政策に対する関心があまりないのが実情。なので、あまり盛り上がらないかもしれない。それに与野党を通じて低金利は人気がなく、自民党にも低金利批判があったりする。あまりロジカルな論戦にはならないかも。

ということは、やっぱり共産党・大門先生の論陣が最大の見物となりそうであります。
# by bank.of.japan | 2009-09-04 19:06 | 日銀 | Comments(8)
大塚先生のメルマガで日銀法43条のお勉強
 下のエントリーに関連して政権交代に伴う国会論戦(金融政策関係)の見所を考察しようと思っているのだが、その前に面白いものを見つけたので紹介したい。民主党・大塚耕平議員の日銀法43条に関する見解である。メルマガにあったのだが、一部を紹介したい。日銀が株の買い取りで43条を初めて発動したときのものである。これはこれで日銀マンらしい考え方であるので、BOJウォッチャーの方々はご一読を。

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・不健全な中央銀行の独立性:「ルビコン川を渡った」より抜粋。

 日銀法第43条は「打出の小槌」ではありません。日本銀行が「認可さえ受ければ何をやってもいい」という認識でいるとすれば、この点は間違っています。日銀法はあくまで「平時」の法律であり、先進国共通の中央銀行制度の枠内の法律と言えます。日本経済が「非常事態」であり、先進国中央銀行制度に前例のない政策を行う以上、別途の立法によって法的根拠を確立すべきでしょう。それが「法治国家」というものです。

 速水総裁がこうした政策を選択する決断をしたことは理解できますが、日本銀行が立法府や行政府に何の説明もなく最終決定を行い、実務の詳細も内部で決めようとしていることは「法(のり)」を超えていると言わざるを得ません。速水総裁を支える幹部の皆さんは、法的根拠についてどのようなアドバイスをしたのでしょうか。

こうした短絡的な行動を取った結果、日本銀行は「失ったもの」と「負ったもの」があります。

 「失ったもの」は、総裁をはじめ、中央銀行幹部の発言に対する「信頼」です。過去に発言していたことを、ある日突然180度転換したのですから、残念ですが、やむを得ないことです。仮に、別途の立法によってこの決断が行われていれば、「中央銀行としての原則は変えていない。しかし、経済が非常事態の中、国権の最高機関である国会が決めたことであれば、例外的、緊急的な対応として日本銀行としても協力する」という抗弁が成り立ちます。後世の人たちも、どのような経緯と背景で、日本銀行がそうした行動を選択したかを正しく理解してくれたことでしょう。残念ながら、中央銀行幹部の発言の重みが、著しく軽くなったと言わざるを得ません。

 金融政策(例えば、公定歩合の変更)に関連する発言は、ある程度「前言を翻して良い」(=誤解を恐れずに言えば「嘘を言って良い」)というのは、内外の金融市場関係者の共通認識です。しかし、原理原則(例えば、株や不動産を保有しないこと)に関する発言は違います。この点の認識と判断が、やや間違っていたのではないでしょうか。

「負ったもの」はふたつあります。ひとつは、自主的な判断で第43条認可を申請した以上、株取得に伴うより明確な結果責任を負ったということです。もうひとつは、一般企業の株を取得することに伴う業務の公正性、透明性に関する立証責任です。例えば、取得する株の発行企業役員に元日銀幹部が在籍したり、後にその企業に幹部が再就職した場合、そうしたことが株取得と何ら関係がないことを立証する義務があります。

 株取得は平成16年9月末まで行われ、最長平成29年9月末まで保有される仕組みになっています。速水総裁をはじめ、今日銀に在籍している皆さんは「断腸の思い」で今回の決断(株取得の決断)をしたことと思います (そう願いたいです。一部で報道されているような「政治に一石を投じた」という認識でいるとすれば、自ら「政治からの中立性」を放棄したことになります。日本銀行はそういう組織ではないはずです。こうした認識が事実であるとすれば、これも「法(のり)」を超えた発言と言えるのではないでしょうか)。

 平成29年頃の幹部や職員の皆さんがどういうメンバーと状況になっているか分かりません。中央銀行に対する国民からの信頼を維持するためにも、「李下に冠を正さず」の精神で、将来的に問題の起きないルールを自主的に決めて頂くことが必要だと思います。

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若き青年将校の声といった感じですね。日銀金融機構局信用制策担当の諸君、感想はいかに。
# by bank.of.japan | 2009-09-02 20:02 | 日銀 | Comments(5)


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