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ミクロの資金偏在はどうなるのか=量的緩和解除のテクニカル解析
 量的緩和の解除に際し、ミクロレベルではどのような資金偏在が起こりえるのか。マスコミでもこれをテーマにした記事が出始めている。ただ、一般向けであるので、紙面上の制約もあって細かいところには踏み込んでいない。ここではちょっと技術的だが、想定される資金偏在の在り様と、誰がどのように動けば偏在が解消するのか、しかしそうするには幾つかの障害がある、ということを説明してみたい。政策論的には解除しなきゃいいわけだが、それを書くと話が始まらないので、ここでは脇に置いておく。

 まず、解除で起きる混乱だが、全体として大きな問題になる可能性はないと考えられる。人がいない、ノウハウがない、といったことがよく指摘されるが、短期ディーリングが収益として見込めるなら、金融機関は人を投入してくる。その間、仮に調達面で苦しい局面があっても、そもそもロンバートを利用すれば資金繰りには困らないのだから、そんなに大騒ぎする必要はない(借り方は簡単。電話一本即実行。金融機構局の担当を調べておくこと)
 ここで押えておくべきは、①大手行は実質的にオーバーローンが解消し、資金ポジションは中立から余剰に振れている(ローン行=出し手になっている)②地銀は伝統的に余剰ポジションでこれは解除後も変わらない③邦銀は大小含めて日銀適格担保は十分にあると思われ、ロンバート利用すればいい-ということ。従って、本邦金融機関(銀行)は解除に際して危機的になる可能性は非常に小さい、と解釈される。
 では、どういう主体が困った立場になりやすいのか。具体的には、証券会社、短資会社、外資系金融機関などが場合によっては苦しくなる恐れがある、との見方が多い。この中で、大手は大丈夫だろうが、インタバンクでのアクティビティが小さいところが、解除に伴って調達を活発化しようとすると、思うように調達できない可能性がある。例えば、円転を中心に資金繰りしていた外資系が、いきなり円の直接調達をやろうとすると、クレジットラインの問題が引っかかる恐れがある。このとき、日銀の取引先で担保が十分ならロンバートを利用すればいいが、無担保なら日銀は助けられず、誰も放出に応じないと、理屈上はデフォルトしかねない(何らかの救済措置が多分あるとは思うが)。
 クレジットラインの問題は実は深刻のようである。私は、出し手になれる都銀は相手が相応の水準までビッドアップすれば、収益チャンスとみて簡単にラインを作って資金を出すと思っていたが、聞いてみるとどうも事情は違うようだ。具体的には①この数年でリスク管理は厳しくなった②各行とも貸出業務に傾斜し、市場部門への資本割り当てが難しい③新規のクレジットライン設定は資本を食うため、余程儲かることでないと行内的な了解が得られない④感情論(特に古参の方々)-などが障害となって、市場に資金は潤沢でも局地的に金が流れないケースがあると思われる。従って、東京インタバンクでマイナーな存在だと自覚する金融機関(特に外資系)はクレジットラインだけはあちこちに作っておく営業努力が必要かもしれない。解除はないとの見通しを持つのも見識だが、日銀がどうするかはちょっと予測不能なので、備えあれば憂いなしが安全であろう。

 もう一つの資金偏在は決済に絡んだ特有の現象。現在の即時グロス決済(RTGS)は、返金先行ルールが基本。オーバーナイトで借りた場合、翌日は返すのが先行する。金を出した向きは返金を確認して出すが、出し手の多くは資金繰りが固まるまで出し渋る可能性があり、放出が活発化するのは午後にずれ込むかもしれない。この場合、朝方は資金が不足、午後に入って余剰になる、という時間差の資金偏在が起こり得る。
 この局面で活躍が期待されるのが、大量の金を抱える郵便貯金である。郵貯が日中コール(半日物)を機動的に放出すれば、時間差の資金偏在はかなり解消される。ところが、大方の見るところ、郵貯は民営化への対応で手一杯で、組織的に市場運用をきめ細かにやる余裕がない、そういうことに気を配る余裕もないだろう、というわけだ。場合によっては、郵貯が資金繰りの読みを誤り、いきなりコールを調達したら、大変な騒ぎになる。さすがに、安全運転するぐらいはちゃんとやる、というか、それが短期運用の基本となるのだろう。機動性の発揮を日銀は期待しているが、どうなんだろうか…
by bank.of.japan | 2006-01-31 17:58 | マーケット | Comments(1)
地検特捜部が動いた意味=「経済教室」への同調
 ライブドアの不法行為で地検特捜部が動いた意味を色々考えているのだが、本日の「経済教室」(26日付)の内容がしっくりきた。ブログ界での論調として私は不動産屋金融日記のカナリヤ投資家さん、ことバブルバスターさんのエントリー「連結の定義」に同調するものである。
 私は社会部の経験がないので、地検特捜部については一般的な理解しかない。だが、本当に「逮捕容疑」だけで捜査に入ったのか納得しにくい面がある。これは何人かの日銀関係者と議論しても、彼らもまた同じ気持ちを抱いている。確かに、ホリエモンの世間的な影響度は大きいとは言え、ある日銀幹部が「一民間企業の不正行為に特捜部が動くのはちょっと意外だ」と漏らした感想に私は同調する。
 例えば証券市場を舞台にした民間企業の不法行為を(世間への影響も考慮して)正すためだけに特捜部が(報道されたように金融庁・SECを素通りして)動いたのなら、証券市場の究極の番人は地検特捜部ということにもなる。長年市場に携わった一人として、理想的には市場の風紀は市場を監督する機関が取り締まるべきだと思う。仮に、これまでの監視体制が十分ではなく、特捜部が一罰百戒の狙いでライブドアを挙げたのなら、今後やるべきことはルールの一層の厳格化と強力な日本版SECの設立であろうと思う。そうしないなら、我々は再び不十分な監視体制と不備のあるルールの下で証券市場を運営することになり、風紀が緩めばまた特捜部が第二のライブドアに目を付けて一罰百戒の捜査で鉄槌を下すという事態を繰り返す。
 これでは市場経済の在り方としてはやや不自然であり、やはり市場の風紀は市場を監視する組織によってきちんと管理されるのが筋論ではないかと思う。もっとも、ライブドア事件の背後に政治家または官僚または暴力組織との不透明な癒着があるのなら特捜部が動いた理由はうなずける。事件の解明がこれから進む中で、その方向に波及する動きが出るのか。知り合いの多くも含めてこの点に注目している。

最後にバブルバスターさんのエントリーの一部を紹介させていただく。
「金融市場に携わる人間からしてみれば、とてもこんなことが粉飾と呼ばれるような話でないことは承知しているだろう。もし、報道されているように関係会社の利益の付け替えが粉飾と呼ばれて証券取引法違反に問われるのならば、日本の銀行(ただし、破綻したものを除く)はすべて粉飾決算まみれの決算をついこの間までつづけていたのだ。不良資産の事実上段階的償却なるものは商法では一切許されていない。日本中総出で粉飾決算をしていた事実を忘れ、目の上のたんこぶであるライブドアに対して恣意的に粉飾なる謗りがなされるのであれば、これまた市場の自治は完全に失われ、世界中の資金は東京証券取引所から逃げ出すことになるであろう」
少なからず不良債権問題に関わった私としてはこの指摘はとても重いものであった。
by bank.of.japan | 2006-01-27 01:01 | マーケット | Comments(12)
それを言ったらおしまいでは?=潜在長成長率のタブー
 昨年12月15、16日の金融政策決定会合の議事要旨が発表された。まだ全部を読み終わっていないが、取りあえず気になったのは、ある委員の以下の発言。
 「潜在成長率が足もと高まっているとすれば、予想したほどには需給ギャップが縮小していかない可能性もあるのではないか」
 日銀が物価上昇の主たるメカニズムとして位置付けているのは、潜在成長率をやや上回る政調によって需給ギャップが縮小していくこと。しかも潜在成長率を1%程度と見込んでいる。もともと潜在成長率を特定するのは難しく、幅をもって見るのが普通。1%程度は幅の下限と考えられ、個人的には物価が上がるシナリオを描くために低めに見積もっているのではないかと邪推している。
 この委員が誰か分からないが、発言内容は日銀のデフレ脱却シナリオの根幹を揺るがす側面があり、数字なども含めて詳細に指摘していたのであれば、それを盛り込んで欲しかったと思った。この委員の発言に対し、別の委員は「生産性の上昇は、家計や企業の長期的な所得見通しの改善を通じて、需要の増加につながる面もあり、必ずしも物価の低下圧力となる訳ではない」と反論しているが、どうだろう。「長期的な所得見通しの改善」は個人的には実感が乏しく、なかなか同調しにくい。
 
by bank.of.japan | 2006-01-25 21:10 | 日銀 | Comments(11)
直列する惑星のキャラ=マニア向けです
日銀人事の惑星直列の意味について簡単に。惑星をギリシャ神話の神々に喩えると、総裁は太陽となり、以下
木星(ジュピター)
土星(サタン)
水星(マーキュリー)
が並ぶと想定してみた。

ネット検索してまとめた神々のキャラは次の通り

ジュピター   正義感が大変強い一方、精力的な策略家
サタン      天空の神であると同時に破壊をもたらす
マーキュリー  その存在は目立たないが、太陽に極めて近く、神々のメッセンジャー役を務める知性のシンボル

マーキュリー、侮りがたし



ps 某日銀筋は「惑星直列はおこがましい。衛星直列であろう」との感想。この場合、衛星をたくさん抱える惑星は限られる。木星?土星? 総裁はどれだろう。なお、“衛星(サテライト)”はラテン語ではあまり言い意味はないようだ。
by bank.of.japan | 2006-01-23 21:35 | 日銀 | Comments(1)
福井総裁、不動産融資の抑制を否定=会見の簡単なまとめ
 福井総裁の会見。取りあえず簡単にまとめると、年末年始の不動産融資を抑制するとの報道を公式に否定した。ほぼ想定問答の通り。不動産関係の方々、ご安心を。銀行の融資動向に目を光らせるのは日銀金融機構局のルーティンワーク。首都圏で不動産融資が急増している場合、それに関心を持つのは当然(持たないなら職務怠慢)。ただし、関心の持ち方は個別銀行の経営の健全性の観点であり、それを素通りして地価動向に何らかの影響を及ぼそうすることはあり得ない。なお、仮に融資を抑制しようにも、もはや「窓口指導」のような力を発揮するのは受動的貸出を導入した以上は不可能なのが実情。
 このほか、会見のポイントは①インフレ目標・参照値には否定的②景気には一段と強気③しかし、量的緩和の解除時期は匂わさなかった-など。ちなみに月報は「回復」を「着実に回復」とし、景気・物価情勢の判断を上方修正。文面から判断するに、解除は一段と接近(と言うか解除は時間の問題)と受け止められた。ここまで解除方向に傾斜する姿勢を示してしまうと、物価の出方次第ながらも引き返すのは難しい。遅くとも4月までに解除をやらないと信認の問題となる公算が大きい。グッドラックである。
 以上、簡単ですが、こんなもんで。

ところでライブドアショック。地検特捜部は一体何を狙っているのでしょうね。興味深いです。
by bank.of.japan | 2006-01-21 00:51 | 日銀 | Comments(7)
占星術で占う日銀人事=惑星直列は起きるのか
 ついでもう一つ人事ネタ。今回はかなりマニアネタなので、興味ない方はスルーを。
 今年の幹部人事で予想される幾つかのシナリオのうち、政策ラインに超大物が並ぶものがある。そのシナリオが実現するかどうかはまったく分からないが、そうなったら滅多に見られない現象であるかもしれない。占星術的に言えば、惑星直列(グランドクロス)と言えよう。
 なぜそうなるのか。まずは福井総裁が昭和33年入行のスーパーエースだからだ。ちなみに30年代入行組は大分前から誰もおらず、福井氏がその年代を代表する超大物。そして企画担当理事と企画局長にある人とある人が就けば、年代代表が並ぶ構図となり、かなり壮観な顔ぶれとなる。現場レベルでどのような思いがあるかはご想像にお任せしたい。

グランドクロスの起きた場合の政策的インプリケーション
→政策運営は成功しても失敗してもボラティティは非常に高くなる危険あり

なお、本件はディテールを盛り込むことは可能だが、一線を踏み越えかねない内容・示唆・表現になっているので、この辺で。
by bank.of.japan | 2006-01-20 00:38 | 日銀 | Comments(9)
株暴落?、量的緩和の解除?=そんなことより日銀の関心事は…
じんじ、ジンジ、人事である。
株の暴落、東証の売買停止などはもちろん注視している。量的緩和の解除も本業であるから関心は高い。だが、but、しかし、日銀マン&ウーマンがどういう言葉に最大反応を示すかと言えば「人事」なのである。
 日銀は今年、理事クラスが5人も替わる。うち一人はMOF枠であり、これは多分変わらないであろうから、プロパー枠4人をめぐって内部では猛烈・苛烈な勢いで予想が飛び交っている。人事に対する反応関数は激烈であり、人事に関しては冗談が通じない状況である。
 例えば、日銀10階の食堂で、人事通の日銀マンと飯を食うとする。そこでワザと周囲に聞えるか聞えないかぐらいの大きさでまことしやかに理事人事の話をしたとしよう。
「〇〇〇さんがどうも理事になるらしい」
 周囲の彼・彼女らの耳はめちゃくちゃ大きなダンボと化し、もしかしたらシーンとなるかもしれない。そして数秒後にはこの話は各種ルートを通じて日銀全体に波及すると思われるわけだ。なーんてことを空想するのだが、私には勇気がないのでとてもこんな悪ふざけはできない。

日銀人事を予想するのは魑魅魍魎、百鬼夜行の世界に踏み入れるようなもので、特に4人も変わるとあっては解読不能の複雑方程式を前に途方にくれるしかない。人事の縦軸・横軸の迷路は複雑怪奇で、私は迷い続けている。幾つか作ったシナリオのうち、どれが当たるのか。あぁ、誰か助けてくれ…
by bank.of.japan | 2006-01-19 00:58 | 日銀 | Comments(2)
ライブドアショックと金融政策=直結はしないが…
 日銀は本日から、金融政策決定会合を控えて停電(ブラックアウト)状態に突入しているため、ライブドアの強制捜査で急落した株価の件では日銀マン&ウーマンとは意見交換していない。もっとも、こういうときに日銀がどのようなスタンスを取るのかは予想可能だ。基本的には「様子見」であり、「株価の動揺が一時的なものかどうかを慎重に見守っていきたい」というのが想定問答となりそう。なお、日銀は景気動向には強気であるので、中長期的な株価動向には心配していないと思われる。
 「量的緩和の解除」の観点ではどうか。これも推測だが、これまでの株価の上げ足が速かったため、早めに調整が入ってホッとしている面もあると思う。日銀にとって最悪のシナリオは解除後に株価が下がっていくこと。仮に4月に解除するとして、それまで株価が上げっ放しとなり、上げ過ぎた反動が解除後に到来し、それが結果的に景気後退を先取りした動きだったりすると、前のエントリーで書いた「バブル潰しがお家芸」が本物となる。理想的には、もう少し調整が進み、そこからゆっくりかつ着実に景気と整合的に上昇基調をたどり、解除してもその基調が崩れないのが最高かもしれない。そんなにうまくいくかは不明だが…。
 ライブドアショックを契機に株高の基調が反転してしまったら? この場合、ライブドアが身を挺して日銀の解除熱を冷ます“クスリ”となり、ひいては日銀の信認が守られることになる。私は金利に長年接してきたせいか、株高・債券高が並存するときにどちらが正しいのかと問われると、どうしても金利の動きに同調したくなる。個人に広がる株式投資は簡単には衰えないと思うが、株高の持続性には違和感を感じざるを得ない。金利に染まりすぎですかね? 
by bank.of.japan | 2006-01-17 21:37 | マーケット | Comments(2)
「バブル潰しは日銀のお家芸」という誤解
 それほど頻度は多くないが、勉強会のような会合で「日銀および金融政策運営」について説明役を求められることがある。先般もそういう機会があり、参加者から興味深い質問を受けた。具体的には「物価はそれほど上がらない中で、株や土地がじりじりと上がり、いわゆるバブルの香りが匂い始めたときに日銀はどうするのだろうか」という内容である。こうした質問が出る背景は、先般の財政諮問会議での奥田委員のバブル警戒発言やそれに乗っかった格好の福井総裁の金融正常化論などを念頭に、日銀がバブル予防の利上げを行うのではないかという警戒感が根強いからだろう。
 こうした質問が出ること自体、日銀にとっては不幸なことだと思う。なぜなら「バブル潰しは日銀のお家芸」のような印象が浸透していることを暗示し、日銀自身は決してそういうつもりはないからだ。確かに80年代後半のバブルを退治しようとする利上げ(崩壊の原因として金融政策以外にも土地融資への総量規制も大きい)を行い、5年前のゼロ金利解除は結果的にITバブルを崩壊させたように見える。バブル潰しが得意技と言われても反論しにくい実績だが、バブルが崩壊するとどんなに悲惨な目に遭うかが分かっていればあれほどの利上げはしなかっただろうし、ゼロ金利の解除は間が悪かった(判断ミスは明らかだが)に過ぎない。
 では、現在はどうなのか。冒頭の質問に対する私の答えは、先のエントリー内容にも重なるが、①少なくとも現在の株や地価動向を日銀はバブルと思っていない②仮に誰が見ても明らかにバブルが起きているとしてもそれをつぶそうとする強引な利上げはしない③極めて慎重に引き締めを行い、バブルが崩壊したら思い切った緩和を行う-というものだ。この答えの最大の弱点は、福井総裁の発するメッセージとの整合性が取れないことだ。奥田委員の発言に相乗りした福井総裁の金融正常化論は、個人マネーが一気にリスクテークに動くことを抑制するトーンがうかがえる。これはいかんともし難い。
 「福井日銀」の政策運営は論理的な一貫性がなく、市場との対話もなっていない。総裁のアドリブ発言も不用意だし、誤解されても仕方ない面がある。ただ、それでもなお景気は回復基調をたどってきているので、直感的な政策運営は破たんしないで済んでいる。運に恵まれていることは、逆説的には直感が優れていることを意味する。解除が結果的にバブル潰しになるような危険を察知すれば、直感を働かせて解除を見送るのではないかと期待するしかない。
 福井総裁の“勘ピューター”はきちんと作動するはず。多分。
by bank.of.japan | 2006-01-17 00:36 | 日銀 | Comments(0)
私のバブルの思い出=「ミスター・ヨース」
 モルガン・スタンレー証券のレポート、『シニアアナリスト新春座談会=バブルはまた来るのか?』がなかなか面白かった。「現状はまだバブルではないものの、その可能性は否定できず、またバブルになるしても前回とは質が違う」というのが座談会の結論で、私も概ねそう思う(ただし、景気のビューは日銀の逆張りなのでベア)。それとは別に特に楽しませてもらったのは、“シニア”らのバブル体験談。これを読みながら同様にバブル期を経験した私自身の思い出につかの間浸ってしまった。
 当時の私は以前のエントリーでも紹介したが、安月給にあえぐ生活を送っており、世はバブルを謳歌しながらも、ほとんど何の恩恵もなかった。ただ、このレポートを読みながら、恐らくは唯一の“バブルのおこぼれ”というべき出来事を思い出した。みなさん、ウソだろうと思うが、これは本当にあったことだ。

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 1980年代後半。私はある中小企業に勤めていた。そこは当時としてはちょっと変わった会社で、今風に言えばイベント事務請負なのだと思う。ある日、上司から東南アジア某都市への海外出張を命じられた。ある業界団体の海外ツアーの同行であり、「何もする必要はないから。ただ、行くだけ。旅行と思えばいい。本当はさあー、俺が行きたかったんだよな」と妙に優しい口調が気になったが、基本的にどうでもいいとのスタンスで仕事していた私は「はぁ」と言って飛び立った。
 私がやることはあるイベントのコーディネートだが、ほとんど座っているだけで確かに暇ではあった。ただし、いろいろな事情から自由は効かず、ホテルに缶詰となり、外に出る機会はなかった。そうした中で、困ったのは参加者らが私のことをツアコンとみなして様々な頼みごとをしてきたことだ。「なるほど。これがあったから俺に振ってきたのか」とチラッと思ったりしたが、簡単な通訳程度の頼みごとであったので可能な限り引き受けた。
 この団体にはちょっとワケありげな方々が加わっていた。マダム系の女性を同伴したオジサンらである。どうみても夫婦には見えないから、アレなんだろうと思った。ウソかと思う出来事はそうした一人のオジサンの頼みごとである。
「君さあ、ちょっと頼まれてくれないか」
「えっ?、何ですか」と身を引く私。
「僕らね、これから仕事上の友人に会いたいんだ。だから電話して欲しいんだよ」
「いやー、僕はただ同行しているだけなんですが…」と言いながらも、断わりきれない私は電話番号の書かれた紙を受け取っていた。
「(ミスター)ヨースさんと言うんだよ。その人がいたら僕らが何時に行くか伝えて欲しい」
電話する私。出た相手に「ミスター・ヨースをお願いしたい」と言ったところ、「そういう人はおりません」と先方。オジサンにそれを伝えると「そんなはずはない」と言い張り、もう一度チャレンジ。しかし、「いない」と相手は繰り返す。
 「ヨースさん、そこにはやっぱりいないんじゃないですか」と言うと、オジサンは「そんな、そんな」と呟き、「僕はね、ヨースさんから手紙をもらったんだよ。僕らが旅行するから是非会おう、と書いてあるんだ。そうだよな」と同伴マダムに同意を求め、マダムも「そうよ、そうよ」となぜか私を咎めるかのようなが口調で言う。
「その手紙、お持ちであれば見せてもらえますか」と私。
「ある。ほら、これだよ」と勢い込んでブランドのバッグから手紙を取り出してオジサンとマダムの二人が同時に指差したヵ所にあった名前は… 
sincerely yours  ガーーン。
 
 その後、事態がどのように推移し、どう収束したのか記憶は定かでない。

 振り返ってみると、恐らくはバブルでキャッシュリッチになった面もある業界団体は海外旅行を計画。それだけでは格好がつかないので補完的にイベントをこしらえ、そのおこぼれが私に回ってきたということであろう。「おこぼれ」との思いはなく、空港とホテルの行き帰りのリムジンバスから見た風景だけが目に浮かび、今もってアジア某都市がどんなところか知らない。バブルの思い出として強烈に甦ったのは「Mr. Yours」と「ガーーン」である。
by bank.of.japan | 2006-01-13 22:38 | 経済 | Comments(7)


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