紺ガエルさんのこちらのエントリーに触発されて、最近の経験を踏まえて別な切り口で銀行リテールサービスについての感想を書いてみたい。率直に言うと、窓口対応している行員の方々の努力に頭に下がるわけである。
・きっかけ 最近になって三菱東京UFJ銀行に口座を持つ必要に迫られた。新規口座を作るのは手続きが大変そうなので、旧三和銀行に持っていた口座が使えるかどうかをチェックした。このときの私は、通帳は奇跡的にあったが、キャッシュカードがない、という状況であった。しかも8年間使っていない。残高は360円前後。 ファーストアクション 口座がある地元支店に電話。この支店は旧三和銀行と住所がいっしょ。で、話が簡単に通じるかと思ったら、旧UFJ銀行の番号にかけて欲しい、と言う。 興味津々の私 「えっ?、住所は旧三和銀行ですよ。東京三菱銀行が廃止されたのでは」 担当者 「この番号は旧東京三菱銀行のコールセンターです。旧UFJ銀行の番号にお掛け下さい」 さらに興味津々の私 「旧三和銀行はどっか別なところに行ったのですか」 担当者 「同じビルの別なフロアーにあります」 納得した私 「なるほど…」 で、電話したのだが、やっぱり支店に行かないといけない。これは半日仕事。ここでいったん口座起動を断念する。 セカンドアクション 勤務先近くの三菱東京UFJ銀行支店。前を通ったついでに中に立っていた行員の人に口座の件をちょっと聞く。そしたら、通帳と印鑑持ってくればこの支店でも対応できる、とのこと。何だ、簡単じゃないか。次の日、行ったら奇跡的に窓口も空いており、あっという間に新しい通帳もらう。ここで私は致命的な判断ミスを犯す。担当の方がキャッシュカードの再発行手続きを薦めたのに、わずかな手間を惜しんだ私は別な日にやればいいや、と断ったのであった。 サードアクション このエントリーのクライマックスである。まず前置き。銀行支店の窓口は、ガチガチの金融行政、過大なサービスを要求する顧客群、幅広い顧客の取り込みを要求する経営など様々な構造的圧力を一身に背負った現場である。そこでの待ち時間が長いのは日本の宿命。窓口業務の方々は、待たせたいと思って待たせているわけではない。待つほうも待たせる方も精神的に疲弊していく拷問の空間である。私は、自らの判断ミスを激しく悔いながら、キャッシュカードの再発行に向かった。 行ったら意外に人がいない。これはラッキーと思って、窓口が空くのを待った。窓口は二つ稼動しており、どっちかが空けば私の番であった。座りながら、何気に稼働中の窓口それぞれの会話が耳に入った。 一つは、おばさんが座っていた。何やら訳のわからないことをぶつぶつと言っている。きれぎれに聞こえる話は要領を得ない、しかも途中から世間話が交じり、用件が進んでいない模様。難しい用件かと思いきや、単なる口座振替のような印象であった。 もう一つの窓口。こちらは神経質で、ややおかしな感じのオジサン。何やらクレーム付けてるらしい。やれ、電話の応対が悪かっただの、口座のなんちゃらがなんちゃらで、これはあり得ないミスだとか。きれぎれに聞こえる会話から本人がミスと主張する金額は数百円程度と推定されたが、まあ尋常な感じのクレームではなかった。 ああ、これは待つぞーと観念。30分近く待った。私の要件、簡単に終わりました。対応してくれたのは、おばさんの相手していたお姉さん。子供相手の口調になっていたのには物悲しいものを感じた。私にはこの業務、精神衛生的に務まらないと思った。途中でキレるのは確実である。 金融リテールサービスは、子供クラスの金融リテラシーを基準にした護送船団方式の対応を余儀なくされ、わずかなミスさえも許されない精神的に苛酷な世界に置かれている。見た限りのサービスが超大赤字であるのは間違いない。 三和銀行時代の残高360円は新しい通帳では401円となっていた。8年近く口座を維持してくれ、40円の利息まで付けてくれ、さらに通帳&カードも再発行してくれ、行員の方に丁寧な対応までしてくれた。三菱東京UFJ銀行(旧三和銀行時代を含む)の私に対するリテールサービスは滅茶苦茶な赤字である。こんな過剰サービス、恐らく海外ではあり得ない。日本だけである。凄いことである。ありがとうございます。 先般、振込み詐欺に関する番組を見た。明らかに詐欺に引っかかって振り込もうとするおばあさんを行員の方々が何時間も説得した、というある銀行の対応が紹介されていた。凄い親切である。リテールは本当にNPOですね。投資銀行は核の冬時代に入り、商業銀行は監視強化にさらされるだろう。不採算口座の切捨てを検討しようものなら暴動が起きる恐れがあるのではないか。そんな悪寒もするのこ頃である。
by bank.of.japan
| 2008-11-27 21:34
| 金融システム
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Comments(21)
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at 2008-11-27 22:57
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ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
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at 2008-11-27 23:24
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ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
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bank.of.japan at 2008-11-28 00:34
最初の非公開さん、どうもです。ありがとうございます。
次の非公開さん、どうもです。リテール業務に収益をもたらすのは、ごく一部の顧客でしょう。このごく一部を取り込むために、現場は膨大な顧客を相手に消耗戦を展開しているように見えます。NPOのNが「Negative」なのはその通りかもしれません(苦笑)。御行にはお勧めしません。
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まる
at 2008-11-28 06:51
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それいったら郵便局も過酷ですよ。
特に都心。切手代にしろなんにしろ1円のミス、サービスについてミスはゆるされない。これやらないと日本じゃなくなる気もしますが。 結局過酷なところは過酷なんですよね。JRも含め。きっと。 それなのにどうしてこういう状態になったのか。 国営じゃいけなかったのでしょうか。
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PK
at 2008-11-28 08:55
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過酷にしているのは、マルクス主義の土壌のためです。
日本は相当に良い国ですが、良い国であってはいけない。 そういう頭の人が言葉を牛耳っているので、奴隷ですよ。 一番悪いのは、アメリカですがね。この国は、少しづつ改造されてる。 私が生まれた頃と相当に違っている。 今に年末も正月も無くなる。あれは日本の5Sの基本です。 アメリカと手下の朝日を筆頭とするマスコミのやっていることです
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O山O
at 2008-11-28 10:09
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通行人
at 2008-11-28 11:30
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日本の場合はマルクス主義ではなく、上尾事件みたいな土壌に原因があるんじゃないかと思います。
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PK
at 2008-11-28 12:18
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失業率やはり上がりませんね。
この認識はもっと広く共有されないといけない
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けん
at 2008-11-28 13:35
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NPOとか護送船団とかマルクス主義などという言葉を使う以前に、単なる昔からどこにでもある顧客囲い込み経営戦略ですよね。
儲からないならリテールから撤退すればいいだけ。 コンビ二にも電池を置くし、ゼネコンも大手デベロッパーに対して赤字受注するし、マイクロソフトも無料のブラウザを配布するし、日銀も見学ツアーをしてくれる(関係ないか)。 それとも銀行リテールのみ神格化する理由でもあるのでしょうか。
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うどん蹴りχ
at 2008-11-28 15:37
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たしか2年くらい前のテレグラフに、エントリーのような日本の銀行の「のたのたぶり」を揶揄するコラムがありました。
「日本の銀行は一事が万事この調子だから、最新の金融の流れについてこられないんだ」 とかいう結論(?)で締められていたと記憶しています。 今やその「最新の金融の流れ」のほうが「のたのたぶり」をさらけ出しているように思います。 まあ、どっちが正しいってわけでもありませんが。
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通行人
at 2008-11-28 17:20
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顧客満足主義か、資本家満足主義かの違いかなと思ったりする
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かるぱーす
at 2008-11-28 23:15
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いいところついてくれました。で世の進歩的社会派の人たちはこれを、儲けてる分の社会還元として当たり前だという。そうです郵便局も信金さんも農協さんでもみんなやって当たり前、民間でもそうですよね。お客様には頭を下げてサーブするのです。でその対価として金利を払ってもらってます。これって経済合理性はあると思うのですがどうでしょうか。
なので、当然そんな必要のない分、金利を高くしてほしいチャネルを利用する人たちにはその分ベネフィットをなんて、そんなことはどうでもいいのですよ。 日本はそういう余計なことをやっていながら、経済は極めて順調に動いていた事実を忘れてはいけませんね。そういう民度の高い社会は社会的コストが極めて少ないという事実を忘れてはなりません。 なので、そういうことを無視した形骸的なアホな法律は、どっかの国の女性はスケートをみたいなものよりひどい法律ですね。そういえばSOX法なんてバカな法律作っても本家じゃこの有様なのに、まだ日本人はとんでもねーコストを払ってまだごっこをやってますな。
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にちぎん☆NIGHT
at 2008-11-29 10:14
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以前からインターネットと日本の金融はデフレの元凶なんじゃないかと思ってます。
無駄にサービスが良く、リスクの少ないリテールサービスは貨幣への偏愛を助長して無駄な金融資産を庶民に持たせます。 他のアジア諸国のように銀行に預けておくと、没収されるかもしれないぐらいがちょうどいいかもしれませんよ。 振込み詐欺の説得に1時間以上かけているようではだめです。
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bank.of.japan
at 2008-11-29 17:00
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まるさん、どうもです。似たような状況の過酷な職場は色々なところにあるのだろうと思います。国民性なのか…。何とかならないものかと思います。
PKさん、どうもです。マルクス主義かどうか分かりませんが、過酷になりがちな全体主義という感じはあります。 O山Oさん、どうもです。接客業務は、接客が向いている人でないと辛いですね。普通のお客さんならいいですが、難しいお客さんで真価が問われます。百貨店の接客のプロは頼もしい助っ人です。 通行人さん、どうもです。なるほど。
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bank.of.japan
at 2008-11-29 17:08
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けんさん、どうもです。神格化というよりも過酷な職場の一例で、たまたま私は金融の世界にいるので、取り上げたという次第です。昔からある風景としても、経営環境は変化しており、例えばリテールの収益向上において、どうして無数にある不採算口座を切り捨てできないのか。風土的要因が大きいように思います。
うどん蹴りχさん、どうもです。確かに、経営の風景はのたのたぶりですが、英国のリテールは日本人のスタンダードからすると、テラーのねえちゃんとかチンタラ風です。ご指摘のように今は欧米の経営が絶叫状態ですが…。 通行人さん、どうもです。なるほどな指摘ですね。
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bank.of.japan
at 2008-11-29 17:14
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かるぱーすさん、どうもです。まあいろいろな面で諸外国と比較すると、非常に利便性の高い住みやすい国であるのは間違いないです。一方で、ストレスは強く、うつ病、自殺者の数が多いのは代償的コストかもしれません。どっちがいいか、ですね。
にちぎん☆NIGHTさん、どうもです。「安全」が売り物の社会なので、行政もそういう志向、マスコミもそういう志向、国民もそうだとすると、貯蓄偏重は根強いのかもしれません。
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gam
at 2008-12-01 16:36
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平時には忘れられがちですが、金融機関にとってやはり最も安価で最も安定した調達基盤は店舗網で吸収したリテール預金なのだろうと思いますよ。
リテールが儲からない、赤字、というのもセグメントで見る限りは真実とは思いますが、銀行全体としてみればもとは取れているのではないですかね。
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bank.of.japan at 2008-12-01 22:43
gamさん、どうもです。流動性預金は確かにもっとも安い調達になり、全体としてはプラスかもしれません。ただ、規制金利時代のプラス度に比べると、今はその貢献度が落ちているようにも思えます。この辺、どうなんでしょうね。流動性預金のコアを長期調達と認識して、ALMで挽回するとか。技術的なカバーも考える必要もありそうです。難しいですね。
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gam
at 2008-12-02 10:20
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一昔前に某銀行の営業推進部の人と議論したときには、超低金利下においては(預金金利をマイナスには出来ないので)、預貸利ざやが充分確保できないため、リテールの採算は悪化するけど、金利が上昇すれば預金金利の上げ幅以上に貸出金利が上昇するため、採算は好転する、と言われたのを思い出しました。
しかしそれから何年もたつのに、金利はほとんど上がってないのも事実ですね。(^^
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bank.of.japan at 2008-12-02 22:06
gamさん、どうもです。今は景気悪化で与信コストがジワッと上がってもいますので、採算悪化中ではないかと思われます。
こういう顧客に対する対応があるので、日本企業は海外で受ける訳です。全くボランティアにも近いサービス精神こそが日本の宝と心得ねばなりません。こういう所を合理化する企業は目先は黒字を出しますが、行く先は暗いと考えます。こういう作業は派遣社員にはやらさないですから。
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