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一万田総裁の農政をめぐるやりとり=農地解放は失敗?
 国会会議録で一万田総裁の答弁をいろいろ探っていたら、農村金融をめぐるやりとりがあり、その中で質問者側に気になる指摘があった。もとより、私は農政の歴史には全然詳しくないのだが、農地解放が生産性の面ではむしろ失敗だったのではないかと思わせる指摘であります。この辺、詳しい方がいればご指摘頂くと幸いです。昭和25年07月29日、衆院・経済安定委員会より。

○渕委員 (略)今日土地改革によりまして、多くの諸君が小作農から自作農に転換いたしましたところが、かつての自作農であつた方々は、相当長い間経験を持ち、なおかつ財産を持つておりました。従つて営農資金はたんまりあります。馬もあれば牛もある。農機具もある、銀行の預金もあるということですから、そういう方々は、こういう状態に追い込まれましても、農業経営には相当苦心はありますけれども、そう困難は来していない、ところがこのたび解放されました多くの小作人の方が自作農になつたとき、営農資金がない、馬も牛もないというような状態に追い込まれております。こういう人たちに営農資金を與えて行かなければ、日本の食糧の増産はできない。今日土地をもらつた小作人は、失礼ながら今まで自作農が一生懸命やつておつたときよりも、生産は落ちております。言葉をかえて言えば、農地改革の結果、日本の労働の生産性は低下したというのが、偽らざる統計の示すところでございます。そういつた方向に思いをいたされますると、何か予盾があるのじやないか。そこで私がもう一点お聞きしますことは、問題は、農村ほほかの中小商工業と違いまして、まことにもうからぬ企業であります。従つて水の低きに流れるごとく、金というものがどうしても利益のある方へ流れて行く。これを日本の政治なり、あなた方が、低いところに流れないように、逆流させるような作用をさせるのが、農村金融を思うつぼにはめるということではないかと思うのですが、その点、引合わない農業に、いかにして長期資金を流すかという問題を提起いたしたいのであります。それに対する総裁のお考えを承りたい。
○一萬田参考人 (略)それから営農資金なんかでも、従来特別になかつたのですけれども、農業手形制度というものもここに創設しまして、農業手形で営農資金の供給をまず図つた。私の方ではそれを特別にやる措置をとつておる。こういうふうなことをやつておりまするが、しかしおそらく、今農村の問題は、具体的にお困りになつているのは金融であるかもしれません。すべて今は貨幣経済の中ですから、困る点は金融という面に現われて来るのですけれども、今の病気の根源は、もう少し深い違つたところにある。そこをひとつ直すようにして、当面の応急措置は応急措置として考えたらどうですか。元を直さずして、ただ応急措置々々々々では、ずつと間違つた方向に進んで行くかもしれない。だからやはり病根を切開して、直すところは直して、臨床的にも、内服薬も飲むというふうにせぬと、なかなかうまく行かない。ところがそれを言うと、切開をいやがるとか、いろいろな複雑な事情があるとか、何とかいうので、姑息的な当面お茶ぐらい飲んでごまかして行くというようなことをやる。それはいかぬ。決して営農資金に無関心ではないのであります。
 
 このやりとりの前には以下のような答弁もある。

○一萬田参考人 (略)ところがこの農業協同組合というものが、どうですか。私かれこれここで申し上げませんが、どうですか。よほど考えてもらわなければならぬ点が多いと私は考えておる。そうしてそういうふうな運営の仕方ですから、金がない、ないと言いつつ、この組合で集めた金で、最近まで百五十億円というものが、銀行の預け金になつておる。いわゆる同業者預金。これは金利が当時二銭数厘しておりましたから、組合でせつかく農村の金を集めて、農村に金融が非常に不足しているにかかわらず、農村にその金を使わずに、銀行に預けている。そういうふうなことをやられたのでは、なかなか農村金融というものはうまく行かない。組合というものは組合系統になつているので、この組合の健全化ということについてはどうすればいいのですか、それをたださぬ限りは、なかなか解決しないというのが私の考え方です。

 農地解放は、うろ覚えだが、困窮状態の農村が共産化の温床となるのを防ぐためにGHQが実行したものだが、結果的には集約された農地が細切れになり、生産性が極度に低下。組合組織があまりうまく機能しなかった、ということであろうか。日本がその後急速に復興し、いずれにせよ地方から労働力を吸い上げたことを考えると、農地解放は不要であったとも考えられなくもない。まあ、当時としては日本が復興するかどうか不透明で、とにかく政情安定化が喫緊であったということであろう。下のエントリーに絡めるわけではないが、いつの時代であっても、将来を予見するのは難しい。
by bank.of.japan | 2008-07-23 21:51 | 一万田総裁 | Comments(4)
Commented by Baatarism at 2008-07-23 23:09 x
農地解放が実はマイナスだったのではないかという話は、僕も考えたことがあります。
もし農地解放が無かったら、高度成長の過程で都市への人口集中がよりり進み、農業の効率化も進んでいたのでしょうね。
もっとも社会党や共産党がもっと支持を得て、50~60年代に左派政権が誕生していた可能性もあったのでしょうが。そうなると二大政党制になっていたのでしょうか?
Commented by bank.of.japan at 2008-07-24 19:16 x
Baatarismさん、どうもです。私の実家が元小作人だったかどうかは親父に聞かないと分からないですが、田舎の経験からしても、中途半端な農地は、それだけでは十分には食えず、むしろ土地に縛り付けられる側面があります。結果的には失敗だったのかもしれません。一方、農地解放がなかった場合に十分に生産性が高くなったかどうかはよく分からないところです。
Commented by べっちゃん at 2008-07-27 21:01 x
農地解放がなされなかった場合、大土地所有と左派政権が共存する中南米のような社会になっていた可能性がありそうですよね。
Commented by bank.of.japan at 2008-07-28 22:25
べっちゃんさん、どうもです。可能性はなくはなかったかもしれません。左翼勢力が今よりも増長した可能性はありそうです。
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