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これは何だかホッとする答弁です=一万田総裁の精神的なゆとり論
 金融経済はもとより政治&社会などの様々なメディア報道を眺めると暗くなる(報道の仕方も首を傾げるものが多い)この頃だが、まあ世の中はいつも先行き不透明なもので、これは恐らくは終戦直後の方が不安が大きかったのだろうと推測される。引き続き一万田総裁のシリーズだが、当時の困難な時期に訪米した総裁が国会で述べたことが妙に心に染みた。昭和26年3月14日の参院予算委員会より。

○高良とみ君 一民間人として一万田総裁がアメリカを見ておいでなつたという御趣旨に非常に共鳴いたすのでありますが、一つ率直に国内の融和を阻害しないという御見識の点を伺いたいのでありますが、一体アメリカの財界にお立寄になりまして、曾ての日本のようでなく、日本の財力或いは日本の経済的国力というものが、曾つての日本の二円が一ドルであつたというようなことはなく、非常に下つておるということを御痛感になつただろうと思うのであます。その点で、私ども国民としても過去の戰争の破壊を思うのであますが、その点日本は今日戰後五年の復活を以てしましても、よほど世界各国の財力からいつて低いところにあるというふうに御覧になつたのか、或いは私ども日本から一方的に考えておますように、アメリカが非常に好意をもつてくれておつて、回復も早い、又国力においても国内輿論のごとく、対米ドルの為替レートさえも上げてもいいんじやないかというような気構えのある状態からいいましても、その国際市場における日本の財力の見通しを、四等国と見られるか、七等国と見られるか、その辺についてのお感じだけで結構でありますが、先ずお聞かせ願いたいと思います。
○参考人(一萬田尚登君) 無論物質力の比較になると問題にならない。私、丁度デトロイドに行つて、そうしてクライスラーのプリムス、あの自動車を見たのですが、これはまあ五十六秒で初めから終いまでの自動車の検査もやり、ガラスも張り、何もして五十六秒で一台できる、もう実にプラニングと言いますか、或いはメカニズムと言いますか、或いはエフエシエンシイと言いますか、実に見事なものである。併し、それを日本に持つて来て、仮にやつたら、一日やつたら翌日から原料がなくなりはしないかというふうにまあ感ずる。これはまあ物質力の比較の一つの問題で、必ずしもそういうことは日本ではやれないということで、そこまでは行かないが、併し一面これは精神でしよう、精神的には……実はこれは甚だ時間がないので、おしやべりをして漫談になりまして恐縮でありますが、実は私は関東大震災の頃にアメリカに行きました。そうしたらもうハワイに着いた頃から、これは大変な国に来た、サンフランシスコに着けば又感心する、ニューヨークに行けばいよいよ以て大変だ。その当時ウールウオースが五十七階で一番高く、その上に登つてニーヨークを見渡し、どうも足や尻が上つて来るようで、何だか下に飛んで見ると気持がよさそうなそういう感懐である。併し、今度それで自分としてもアメリカがどういうように自分に映るだろうかという興味を持つて行つたのです。だが併し、行つて見たら何も驚くことはない、ニユーヨークに行つて見るが少し家が高いというふうにも思わないし、エンパイヤステートというと百何階だが、私から言うとクラッチの芯が立つておるような感じ、そこで私はどういうわけかと非常に疑問にした。これは自分が飛行機に乗つて太平洋を、地球の上から見た、そうして地球の廻転と競争して見た、それで自分の気持が大きくなつて、此細なアヌリカどうでもよろしいという気持、そこでそういうふうな感じを私は持つたと思うのです。そんならば同じようにもう一遍地球を上から見て、今度は地球と追駈けつこをして日本に帰つて来る、日本が如何に小さく見えるかと、それで私が羽田が見えたその瞬間において私の胸間において起つた感懐でありますが、何にも小さく見えない、日本はそれでよろしい、何もそういうような点について大小の気持は起らない、形態は違つておるが大小の気持は起らない、これは一体何であろうか、これはまだ私は解決をいたしておりません。だが併し、物質的にさように相違するにかかわらずそういう感懐が湧くということは、これは日本の精神的の成長ではなかろうか、こういうふうにまあ考える、その精神的な成長が具体的にどういうふうに何を意味し、今後においてどういうふうにこれが発展するかということは、私は今宿題としてじつと考えております。

 物質的な豊かさを比較すれば圧倒的な差があったにも関わらず、羽田に降り立った一万田総裁が物質的な大小の気持ちは起きなかったはなぜか。普通なら戦勝国に追いつき追い越せの檄を飛ばすor額に汗して頑張ろう的なスローガンを発するようなもので、一万田総裁はそういうタイプのようにも思えるが、意外に精神的なゆとりを大事にしているのではないかなと思った(違うかもしれないが)。面白い人ですね。
 最近のメディア報道は、疲れるというかなんというか、そんなに騒ぐことか、ということが多く、そういう中で昔の国会論戦を読むと新鮮ですね(様々な意味で)。

野村証券の田淵さんが亡くなった。ご冥福をお祈りしたい。「私の履歴書」は貴重な証言でありました。ありがとうございます。
by bank.of.japan | 2008-06-30 22:07 | 一万田総裁 | Comments(7)
Commented by 共感人 at 2008-07-01 01:35
全くおっしゃるとおりです。最近の政治家やマスコミのちまちまとした態度にはもううんざりという感じです。こういう態度には「そんなの大した話か」と反論すると、もう手をつけられない状態になります。それに大衆もついつい無批判に迎合してしまいます。
今はちまちましたことだから良いのですが、そのうちさらにエスカレートした原理主義的な主張に「そんなの大したことか」と言えないようになったら一体日本はどうなってしまうのか。最近の政治家が何かと「冒涜だ」という物言いをすることにも気味悪さを覚えます。誰か止めて。
Commented by 一個人投資家 at 2008-07-01 08:17
昔の方のお話を楽しく拝読させて頂いております。味がありますね。今後ともこの手の題材のアップも期待しております。
Commented by PK at 2008-07-01 08:34
資産が何もなければ、その価値の変動に心が乱れることも無いが、今の日本は違う。
社会保険庁のザマをみても最低限のことも放棄して反省もしない。誰も責任を取らない。人の金を盗んでも、能力があるから雇うそうだ。
役人には、能力があれば罪を免れる特権があるのだろう。
そうこうしているうちに、ムーディーズが日本国債格上げ
そうですね、下げるためには、一度上げておかないと。
どう考えても、アングロサクソンの次の獲物は日本国債だと思います。
Commented by 柿の種 at 2008-07-01 12:33
>羽田に降り立った一万田総裁が物質的な大小の気持ちは起きなかったはなぜか。

日本人の人生観の根底には、昔から諸行無常や色即是空といった、物・富・権威など自然を除いた万物への懐疑が有ったはずです。
神道は自然信仰だし、仏教も欲への執着からの開放がテーマでした。

金や物に追いまくられ、宗教と称して現世利得を追求する輩が横行する現代日本は、果たして進化・進歩してい来たのでしょうか。

一万田尚登氏はかなりユニークな人物のようですね。
この人の傍若無人な言動も、現代の気持ちの悪い平等主義と違った、ケースバイケースで判断出来た当時の日本の鷹揚さによるのではないでしょうか。

ウィキペディア/一万田 尚登
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%80%E4%B8%87%E7%94%B0%E5%B0%9A%E7%99%BB
Commented by bank.of.japan at 2008-07-01 22:02
共感人さん、どうもです。食うのに必死な状況においては、ちまちまことにかまける余裕がない、逆説的に今はある意味で余裕があるからちまちましたことにこだわるのでしょう。このまま行くと、まああまりろくな状況にはならないと思います。世間・世論はともかく、個人としていかにこれからを生き抜くかを考えた方がいいかもしれません。

一個人投資家さん、どうもです。金融政策関係に絞って議事録を読んでおりますが、昔の方がリアリティがあって読み応えがあります。国会議員も本当に聞きたいことがあるから聞いている、のでありましょう。これに対し、今は選挙民受けを狙って総裁を引っ張り出す、というくだらない議員がおりますから…。困ったものです。

PKさん、どうもです。アングロサクソンから仮にJGBが狙われても、JGBの将来を左右するのは基本的には日本国民でありましょう。ホームバイアスの強力さが続くかどうかに尽きます。

柿の種さん、どうもです。当時の国会論議を(金融政策に限りますが)読むと、質問者も答弁者もつまらぬことにこだわらない、ある種の鷹揚さを確かに感じます。諸行無常…。そうですね。
Commented by 官僚とテクノクラート at 2008-07-02 00:07
ここで何回か続けておられる一万田特集というか、経済政策に関するまともな国会論戦のをたずねてみたいな特集実にいいですね.清涼効果抜群です。
戦後の間もない混乱した世相の中、国会で一般うけしないかもしれないが、大きな視点で政策論争ができた時代っていいですよね。それを見逃さないマスコミ人も多分いたことでしょう。
今は猫も杓子も政府系Fだの活用だとか、金利をあげればいいとか。自分の頭で考えん国怪議員が、どっかの方々にそそのかされたものを検証もせず、勉強もせず発言しちゃうってところが終わってます。
マスコミもすぐ誰かの意見にとびついちゃうからね。バイアスかかりまくってるという意味では、経済専門誌も左30度の新聞とあまりまわりませんよ。でも一面の左側の特集はそこそこ取材やってる気がしますし、最近は大機小機より一目均衡に注目してます。というか先月は吉田監督面白かったよ。
Commented by bank.of.japan at 2008-07-03 00:46
官僚とテクノクラートさん、どうもです。清涼効果を感じて頂けたのであれば紹介した甲斐があります。ありがとうございます。一面の左側はたまに外しもありますが、かなり力は入れていると思います。吉田監督の履歴書は面白かったです。
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