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景気後退下のユーロの危うさについて
 下のエントリーも多くのコメント頂き、多謝です。これもちょっと時間かかりますが、コメントをお返しする予定です。
 世界経済が景気後退に陥るとした場合、個人的に心配しているのは「ユーロ」の行方である。私はもともと「国がバラバラなのに通貨だけ同じにする」という実験には懐疑的(Euroscepticismですね)で、それに反してユーロがどんどん高くなっていったのは意外でありました(FXは別にやってません。ユーロ軟化の見通しが外れただけです)。
 私はマーストリヒト条約の締結、ポンドのERM離脱などが起きた時期にロンドンにいた(はるか昔で、記憶もおぼろげ)が、当時のユーロへの見方として、①国家間の人口移動がスムーズではない②地域(国家)格差を是正する財政的な所得移転がうまくいかない-などの理由から、通貨統合には懐疑的な雰囲気が強かった(ドイツにポンドを見捨てられたシティーのひがみの影響が大きいかも・笑)。
 米国のある識者(名前は忘れた)が、広大なアメリカ合衆国が一つの経済圏としてまとまっているのは、①景気が悪いところから良いところへ人が簡単に移動する②強力な連邦政府が存在する-からだとし、合衆国状態にならない通貨統合はうまくいかない、と論評しており、これにひどく賛同した覚えがある。
 もっとも、こうした懐疑論は、元財務官の行天氏から「ユーロに対するシティーやウォールストリートの典型的なアングロサクソンシニシズムだな。ヨーロッパの連中の強力な統合意志を見くびらない方がいい」と諭されことがある。実際に行天氏の言うようにユーロは発足し、まあ総じてうまくいった。
 ユーロが堅調に推移した背景として、もちろん各国の統合意思が固く、構造改革も(程度は不明だが)進んだこともあるだろうが、総じて景気は回復基調が続き、近年はドルを過剰に抱えるようになった新興国がユーロに資金をシフトさせ、これが欧州経済の資産ブームを巻き起こした面もある。
 問題は、景気が後退した場合である。景気が良いときは、各国は多少の格差やユーロ体制への不満があってもそれほど声をあげないが、悪化すると様々な不満が出やすい。特に景気悪化が相対的に進んだ国からは、利下げの声が強まり、財政も拡張気味になりやすい。経済・財政の収れんは逆行しやすく、通貨としてユーロはぜい弱性が増すのではないかと懸念される。
 金融システムもサブプライムでかなり痛手を蒙っている可能性もあり、金融機関への直接的なグリップが弱いとみられるECBがどこまで事態を把握しているのか不安もある。あと、ECBのインフレタカ派的(ブンデスバンクの遺伝子?)な性向も気になるところである。
 通貨統合の逆、通貨離脱が起きるほどの騒動にはならないとは思うものの、ユーロの行方は不安である。まあ、私は懐疑主義者の悲観バイアスが入っているので、多少割り引いて受け止めて欲しいが。みなさんのご意見は? この辺はeurosellerさんの専門領域ですかね。
 
 
by bank.of.japan | 2008-01-24 21:43 | マーケット | Comments(24)
Commented by 金融 at 2008-01-24 23:20 x
件のセンター試験の問題の件ですが、設問は中央銀行の金融政策の一般論ではないでしょうか。
Commented by リバタニズムの恐怖と国家権力 at 2008-01-24 23:33 x
ロシアと中国がいる限りそれなりに固まるかと。
ルクセンブルクの強烈な司法裁判がありますから妙なギルト化もあります。
EU指令については皆懐疑的です。賭博とかOKにしろとか。
経済優先と世界中覇権主義でいやな予感がします。
Commented by luke at 2008-01-25 01:05 x
通貨統合は究極の固定相場制(金融政策の自主性放棄)ですもんねえ。
労働移動が自由な圏内でないと問題が起きる、に同意です。
逆に、利点が何だったのかよくわからない。
「ユーロなんかこわくない」 http://cruel.org/krugman/euroj.html
「ユーロは貿易にあまり影響してないよ。」http://cruel.org/economist/eurobenefits.html

ユーロが高くなったのは、タカ派的引き締め傾向による低インフレの結果ではないでしょうか。これも、別に好ましいことではないような。
Commented by EURO SELLER at 2008-01-25 05:00 x
おっしゃるとおり,各国の失業率など関係ないという感じで利上げするなり,据え置きなりしているわけですが,マルクの国とマルクペッグ制の欧州諸国がいるというふうに考えたらどうでしょう。そのペッグ制から離脱する国が出てきてもなんら不思議ではないです。イタリアとかそういう可能性と国民性を秘めた国ではないでしょうか。ここのフラッシュ笑えます。
http://www.infonegocio.com/xeron/bruno/italy.html
Commented by 星の王子様 at 2008-01-25 06:30 x
小生もユーロに懐疑的でした。昨年ユーロは買われすぎユーフォリア状態でした。イギリスの景気が堅調でなくなるとユーロ高は景気に悪影響があることがより顕在化しご指摘のように景気後退期にどう異なる国の金融性政策を機能させるかという難問に直面します。拡大EUの方向性が
いずれユーロ高を転換させると見ていましたがユーロ以外の主要通貨がだらしなくEUROSELLERさんが書かれているようにイタリア等がユーロを離脱という見方が再びでできてもおかしくないですね。
Commented by 通りすがり@USA at 2008-01-25 07:52 x
ユーロについて、最適通貨圏じゃないとか、域内移動がどうとか、経済学的に小難しいこと(失礼)が言われたりしますが、所詮は「政治の産物」と見れば、分かりやすいと思います(ちなみに域内労働力移動については、今の日本でも青森から愛知に人口移動は起きてません)。ドイツから見れば、あれは「マルクを売って統一を買った」ということです。時間的順序から言えば、統一のツケ払いにマルクを捨てたということです。
あれをしないでは大陸の、特にEUの中核である独仏のバランスオブパワーがおさまらないんです。ですから後戻りもない。独仏が仲良くなれる通貨同盟は、イギリスには面白くないということで、行天さんのご指摘通りと思います。独仏ベネルクス以外の国が入ったり抜けたりしても、この本質に変わりないでしょう。極論すれば残りの参加国はどうでもいい、オマケなんです。(続く)
Commented by 通りすがり@USA at 2008-01-25 07:54 x
通貨としては、弱いに決まってます(笑)。軍隊持ってませんから、いざというときに卓袱台ひっくり返すような力はない。ユーロ相場が強いのは、あくまでドルに不安があるから。あるいは世界にドルがばらまかれすぎたからかも。ドルの持つ機能を、全部ではないけど、かなり肩代わりする力があります。ただ、あまり出しゃばりすぎると、強い軍隊持ってる基軸通貨国に叩かれることもあり得ます。このことはユーロ側ではよく分かっていると思います。
非(反)経済学的な見方で申し訳ありません。でも、通貨というのは国家が信用を保証するものなので、政治学抜きには語れません。

長文でご迷惑お掛けしました。ああー忙しいのに、こんなところに出没していると知れたら…。本石町さん、そのあたり、よろしくお願いします。(笑)
Commented by PK at 2008-01-25 11:49 x
人口移動は、移動(主に都市間)が活発化すればいいのでユーロは成功です。欧州は、通貨の水準を判断するのに購買力を基準として考えていて、かつ、ユーロが登場間もないので新しい市場や市場結合が生じた際の常として一方に振れ易いのだと思います。この通貨高の時期をどう乗り越えるか? 保護貿易的に日本企業など外国企業への制裁が増えるだろうと思います。域外旅行も増えるでしょう。域外投資も活発化し、その結果、域外での権益守るために欧州軍の強化が必然的に起きるようになるだろうと思います。
Commented by luke at 2008-01-25 14:39 x
通貨に関して「基軸通貨」とか「軍隊」とか、それこそどうでもいい話だと思いますね。イギリスにとっては、参加したら経済的に損なだけでしょう。

>青森から愛知に人口移動は起きてません。

隣の県やら東京・大阪・愛知やらとの相互の移動が常に起きていて、
経済状況に応じて速度の差が生じるなら、全国で移動が起きてるのと
同じことですね。A→B→C→Dと順繰りに隣に移動するのと、A→Dへ
の移動が起きるのと、結果は同じです。
Commented by 星の王子様 at 2008-01-25 20:01 x
>青森から愛知に人口移動は起きてません。
近年の人手不足で自動車産業等は愛知県から青森まで人手を求めていますので、目立つほどではないかもしれませんが青森から愛知県へ人口移動おきています。
Commented by bank.of.japan at 2008-01-25 20:02
金融さん、どうもです。ご指摘の通りかと。

リバタニズムの恐怖と国家権力さん、どうもです。ユーロ圏の成立条件として、他の勢力グループとの対抗は重要な要件でしょう。まとまった方がいいのか、出た方がいいのか。あとはメリットの比較でしょうか。
Commented by bank.of.japan at 2008-01-25 20:17
lukeさん、どうもです。インフレホークのジャーマンマネタリーファシズムという声もシティーでは聞かれたような…。ポンドがERM離脱時、見捨てたドイツへの怨嗟は凄かったです。景気次第ですが、似た不満が圏内で浮上する可能性もなくはないです。
Commented by bank.of.japan at 2008-01-25 20:27
EURO SELLERさん、どうもです。このフラッシュ、笑えますね。私も経験あります。低インフレのイタリアは、何だか違和感がある、というのは言いすぎでしょうか。財政はダメだけと、だからファッションとメシが良い、という印象が強すぎて。

星の王子様さん、どうもです。通貨は相対関係なので、美人・不美人投票の結果として強くなった面もあります。まあ、離脱まで行かずとも、景気後退時にいかに結束をするか問われそうです。
Commented by bank.of.japan at 2008-01-25 20:44
通りすがり@USAさん、どうもです。ご指摘の通り、通貨は経済ファンダメンタル以外の要因(政治や軍事面、外交力)なども重要です。スーザン・ストレンジ的かもしれませんが。いつもコメント頂きありがとうございます。

PKさん、都市間移動はかなりあるかもしれません。また、東欧などからの先進国への移動でしょうか。懸念されるのは、不況になった際、失業率が高まったユーロ内先進国での移民排斥の動きかもしれません。

Commented by 三面当か at 2008-01-25 23:30 x
僕たちしってるか。経済は家計、政府、企業だっけ、で日本は家計がいたんでいるというか、そこに所得分配が機動的にかかないので、消費に点火しないのだよ。わかるか。株主は海外投資家、結局日本成長企業の付加価値は全て海外に流れているのだよ。だからいくら景気あおったって、国内消費はよくならない。それはアメリカが見てWかるでしょう。
米国国内は最悪でも、米国籍の多国籍企業は最高ってさー。
Commented by 通りすがり@USA at 2008-01-26 00:22 x
EMSからのポンド離脱の時、Bundesbank総裁(当時はシュレジンガー)の記者会見にえげれすの記者が大挙押し掛けて、「英語でやれ」と要求して、一悶着ありました。この記者たちが公衆電話で原稿送っているのが横で聞こましたが、すごい内容でした。怨嗟ですね、まさに。でも、現在までのえげれすの繁栄は、マルク圏から追い出されたおかげですよね。
日銀総裁会見にアメリカあたりの記者が大挙押し掛けて、英語でやれと言ったらどうなるんでしょうか。Bundesbankの時は、ドイツ人の記者は「仕方ねーな、こいつらは」という感じで静かでしたよ。彼らはほとんど記事にもしなかった。シュレジンガー総裁が諄々と、「われわれはドイツ国民に説明する義務を負っているので・・」と説明しました。
Commented by bank.of.japan at 2008-01-26 00:57
通りすがり@USAさん、どうもです。その一件、何となく記憶にあるような…。ご指摘のように、離脱後の英国、「急激なポンド安で輸入インフレが起きる」とシティーは予想しましたが、景気が回復し始めた。本当は、ポンドの過大評価を見抜いていた?ドイツに感謝しなくちゃいけないんでしょう(笑)。シュレジンガー、懐かしいなあ。東独マルクとの交換比率はさぞ断腸の思いだったかもしれません。Mサプライ急増で引き締めましたねぇ。周辺国はヒイヒイだったですが…。またよろしくです。

三面当かさん、どうもです。まあ、ご指摘のような側面はあるかと思いますが、内需が振るわないのは事実ですね。ダムの水は流れが悪いのは確かです。
Commented by 飛車 at 2008-01-26 01:44 x
ユーロに関する評価は本石町日記さんと100%同じです。

内需に火がつかないのは、インフレ期待がまだまだマイナス状態だからかなと。内需の中で景気感応的なのはむしろ投資で、消費は所得に依存していても、景況感にはあんまり依存していない印象なんですが。せっかく総合やコアCPIがプラスになってるので、コアコアがプラスになるまで放置しましょう。そのうち、企業は投資のチャンスと考え出すと思います。
Commented by バンコ一族の方が要は問題かと at 2008-01-26 11:03 x
胴元に勝てません。富への憧れ、学問もつなげとけば完璧。
市場経済、経済戦争とは所有の移転のことになってしまった。
所有を移転しながら最終消費者へ向かう不思議な構造が経済。
移転のたびに、金融資本が太る構造。
NWOは社会をそう考えたいのでしょうが現実は異なる。
エネルギーが食う食われる、で連鎖する、食物連鎖、生態系に近い構造です。
神になりたいのしょうが、神になれるはずないので、無理がたたる。
そしてユーロ指令も通貨統合もそして世界政府とやらも。
もっといえばリバタニズムも。
問題はそれを小国におしつけかねない本来正しい多極化を汚すような
もある意味反対なのです。アメリカはそれでも発言権もつということ自体がおかしい。
Commented by PK at 2008-01-26 16:48 x
欧州人は、日本人よりよく考えるので、世話を焼いても仕方がないと思う。彼らが何を考えているのか知ることさえ及ばないのに。EUが出来た時、物や人が活発に動くのかが心配だったけれども、今は心配していない。移民排斥騒動があること自体が良い兆候。
理解できないのは日本の方で、トヨタ正社員の賃上げ
グローバル化は、国内産業間の生産性競争を引き起こして、弱い産業の衰退を早める。これは分配の偏りにつながる。だとしたら、それを緩和するには、外注費などでの下請けへの分配と正社員非正社員の是正をやらないと、恒常的ににトヨタ正社員の賃金が上がり、格差が広がることになる。ダム論の正しい姿は、外注費の合理的な再分配と正社員非正社員間の格差是正でなくてはならない。
Commented by どおも at 2008-01-26 20:55 x
フランスの暴動は過去のことですか。喉もとすぎればなんでしょうか。
国境警備隊はさすがに増やしたこととか一応効果あったのでしょうか。
Commented by bank.of.japan at 2008-01-27 21:24
飛車さん、どうもです。欧州で、景気後退に資産価格の下落が重なると、ユーロはかなり不安定化するのではないか、と心配です。ECBがタカ派色を薄められるかどうか、でしょうか。

バンコ一族の方が要は問題かとさん、どうもです。金融資本も景気循環(含む資産価格)とは無縁でなく、恐らくボラの高い収益の振れがあるのだろうと。儲かるときは儲かるけど、ダメなときはダメが加速する、そんな感じかもしれません。
 市場経済が食物連鎖的になるのはそうかもしれませんね。

PKさん、どうもです。一般論として、ユーロが今さら引き返せないのは園通りかもしれません。国内格差の是正は、政府の介入が強力だと、たとえばトヨタは本社を海外に移転(日本籍を離脱)とか、そんなことはあり得ないですかね。

とおもさん、どうもです。暴動は不況期の方が起きやすいので、まさに今後の景気情勢次第という面があると思います。
Commented by 無理では at 2008-01-30 20:42 x
本社機能まるごと日本の人材もですか?
本社工場含め全て直結しているのがトヨタの強みだと思いますが。
IT企業がどこかへ行くならともかく。
Commented by bank.of.japan at 2008-01-30 21:52 x
無理ではさん、どうもです。無理だと聞いて逆に安心しました(笑)。
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