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最強の資金供給策は「いわゆるCDオペ」
 1997年末、三洋証券破たんを機にぼっ発したインタバンク恐慌の最中、私はある日銀高官に「“CDオペ”をやってはどうか」と問い掛けた。その瞬間、高官は血相を変え、「誰がそんなこと言っている。大蔵省か」とやや興奮気味になりながらきっぱりと否定した。これに前後し、企画局幹部にも同様の質問をしたが、「あんな汚いオペ、できるか」とこれまたばっさり切られた。聞いた二人はいずれも温厚な方で、激昂するタイプではない。日銀にきて間もなかった私は無知であり、CDオペのひどさを分からず、聞いてしまったのである。
 その後、ひどさが分かった。正式には“いわゆるCDオペ”と言う。仕組みはこうだ。資金繰りが苦しくなった金融機関があったとする。その機関にCDを発行させ、これを短資会社が買う。日銀はその購入資金を短資会社に貸すのである。日銀の短資向け融資には担保が必要だが、短資会社はどこかから国債を借りて日銀に担保として差し入れるのである。CDはただの紙で、いくらでも出せる。つまり、このオペ、短資会社をトンネルさせた特融だったのである。
 “いわゆるCDオペ”は1990年代半ばに実施された(手元に資料がないので時期は曖昧)。なぜやったかといえば、当時はセーフティーネットがなく、破たんしたらそのままペイオフとなったからだ。チェーンリアクションで金融システムが崩壊していくのを防ぐ為、極悪非道と言われるオペを考え出したのである。中央銀行は普通、取引先金融機関の債務は取らない(取引先信用は取らない、とも言う)。資金繰りがいつまでも続く意味では究極のモラルハザードとなるからだ。
 日銀の若手(30代前半)はもはやCDオペのことは知らないはず。知っていても伝説としてちらっと聞いただけであろうと思う。先輩達はシステムクラッシュの危機を前にして中央銀行の道を踏み外すようなひどいオペに手を染めたのである。先輩達は汚れた過去を語らないだろうが、私は逆に語った方がいいと思う。ノウハウは消えるからである。まあ、やる可能性はないだろうが、あの頃、あんなすげぇオペやっただな、という記憶があれば、無担保性資金が取れない金融機関が続出したときに慌てずに済むからである。
 欧米中銀がCDオペやれば流動性危機は一発で解決である(銀行発行のCPでも社債でもいい)。ただし、ウォルター・バジョットは泣くであろうが…。

追記① 日銀の古株にCDオペの話題を振ると、反応は①知らない振りをする②むしろ誇りとする-の二パターンに分かれる(後者は少ない)。どちらの気持ちも良く分かります。個人的には、こういうエグイ策を考え出すのは営業局の醍醐味でもあったのだろう、と思う。

追記② もっと凄いオペの案もあったらしい。少なくともマル卓までは上がった、と聞いた。

ps 良心の呵責を覚えるが、私はエグイ策を考えるのは嫌いではない。最近、日銀法37条のエグイ使い方を考え付いたが、あまりにひどいので披露するのはやめます。
by bank.of.japan | 2007-08-31 22:18 | 日銀 | Comments(15)
Commented at 2007-09-01 01:17
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented at 2007-09-01 01:26
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented at 2007-09-01 01:33
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by 日本の将来を憂う一国民 at 2007-09-01 01:38 x
CDオペ、懐かしいですね。たしか2~3回ですぐやめちゃったと記憶しているけど。(あまりにも昔のことで記憶もあいまいですが、)でも、CDオペをやったのは、たしか平常時ですよ。少なくともその後の本当の金融危機と比べるとね。平常時にCDオペを試してみて、危機に備えようと思ったけど、よく考えたら、これをやると、市場で資金をとれない金融機関の資金繰りがどんどん日銀に集まってきて、日銀が審査ではねたとたんにアウトになると、つまり、最後の引き金を日銀が引くことになることに気がついてしまったのだと思います。(CDオペって言っても、無条件、無制限に認めるわけにはいかず、日銀が審査で、銘柄、金額の枠を決めなければいけません)
Commented by 日本の将来を憂う一国民 at 2007-09-01 01:38 x
私は、みずほが商事のCPを担保に日銀から金を借りるのと東京三菱のCDを担保に金を借りるのとそんなに違うのかな、と思いますがね。でも東京三菱はよくて、なぜ長銀(当時)はだめなのかという人(特に政治家、財務省)が現れますからね。どっかで線を引きたい、引くなら、事業会社と金融機関ということでしょう。
日銀は責任回避だけは一流だから、そんな話はせずにスマートにやらない理屈をつけるけどね。
Commented by 日本の将来を憂う一国民 at 2007-09-01 01:39 x
でも、そんな理屈をこねることじゃなくて、金融システム不安は起こさせない、デフレは再発させない、日本のマクロ環境を良好に保つということに関して、もっと責任感を持ってほしいですね。私が見てきた中で責任感を感じたのは植田審議委員ぐらいですね。ほかの人は表面的なアカウンタビリティを振りかざしているだけに感じます。
Commented by 日本の将来を憂う一国民 at 2007-09-01 13:05 x
そういえば、今、思い出したけど、実際にやったCDオペは、金融危機の時に議論が盛り上がったCPオペと同じスキームのCDオペじゃなくて、CDを日銀が実質買い取る形でしたね(要するに無担保で日銀が銀行に貸し出した)。
Commented by bank.of.japan at 2007-09-01 22:02
非公開さん、どうもです。着眼点はよいです。でも、その道をふさぐため、日銀は適格担保から金融機関債務を除外しました。ご指摘の金融機関同士がお互いの債務を持ち合い、日銀のオペに打ち込むのは「差し合い」と呼ばれるものです。実際にやったことがあったのかどうかは不明です。うわさはありましたが…。

日本の将来を憂う一国民さん、どうもです。CDオペ、ご存知でしたか。今や知っている方はかなり少なくなったのではないかと思われます。確かに表面上は平時でしたが、水面下ではかなり厳しい局面もあったやに聞きます。経済のマクロ政策がきちんとしていれば、資金繰りというミクロで一大事が起きる可能性が極小化されるのは確かです。植田さん、よいですね。
Commented by うさこ at 2007-09-02 05:42 x
返答ありがとうございます。だめだったんですね。
(しっかりエントリーよめばだめだと分りましたね。失礼致しました)
では会社に無理やり証書貸し出しをつけて。その資金をNCDで借り戻し。さらに証書貸し出しを日銀の担保にすればいいんですね・・・(これもだめか。やりすぎたら日銀の適格からはずられてしまいますね)
これ見た目の貸し出しも伸びるしよくないですか?(ひどいと思いますけど)
Commented by 日本の将来を憂う一国民 at 2007-09-02 14:24 x
>水面下ではかなり厳しい局面もあったやに聞きます。
ああ、そう言えば、足切りがとんでもないレートで、大半がSさんだったといううわさでしたね。
Commented by 日本の将来を憂う一国民 at 2007-09-02 14:51 x
>今のまま時間軸やれば足元0.5%を起点に中長期金利が低下する圧力が働くと思います。

効果がないと言っているのではなくて、邪道だといっているのです。速水がゼロ金利解除した後、(政策の失敗を認めないで済ますために)なんとかゼロ金利に戻さずに済ます方法はないか、必死に考えていましたが、そういう姑息な方法を探り始めると政策がおかしくなります。実際、あの時も量的緩和とかって言って政策失敗の責任をごまかしましたが、政府と日銀の不協和はあのごまかしに始まっていると思います。金融緩和効果が必要と認識→政策の失敗を認める→金利の引き下げ、というプロセスが健全な政策運営には必要だということです。
(日本の政策に健全性を求めるのは不可能という見方がありますが、あえてそれに意を唱えたい)
Commented by 日本の将来を憂う一国民 at 2007-09-02 15:07 x
ちなみに、私は政策の失敗を認めることは恥ずべきものとは思っていません。グリーンスパンも、金利を上げたと思ったらすぐに大幅に利下げしたり、緊急利下げをして市場を支えた数ヵ月後には利上げに転じたりしています。またセブンイレブンの伊藤会長は、変化の激しい時代は朝令暮改に徹せよ、と言っています。こうして説明責任と同時に結果責任を果たすべきと思います。
なお、bank of japanさんは、今後利上げを出来たら水野先生は英雄との立場のようですが、私はそうは思いません。今後利上げできたとしても、無責任な日銀をみて必死に対応したFRBに安易に乗っているだけと思います。サブプライムは米国の問題だからとの反論がくるのでしょうが、足元の市場の動きをみれば、世界中の投資は影響がもっとも大きいのは日本と判断しているのは明白であり、その影響に関する責任は日銀が負うべきなのです。従って、14日の株暴落、円急騰を放置したことは万死に値すると思っています。
(バーナンキは、また、日銀は「ジャンク」だからしょうがない、とか考えているんだろうな、情けない。)
Commented by 日本の将来を憂う一国民 at 2007-09-02 15:08 x
PS ここ数日、長々とコメントしてごめんなさい。他人のブログで大人気ないので辞めようと何度も思いましたが、書き始めたら、結局最後まで書いてしまいました。今後は控えますので、お許しください。
Commented by 通行人 at 2007-09-02 22:11 x
ここにいらっしゃる方は、説明責任がアカウンタビリティーの邦訳であり、その意味するところが「良い事も悪い事も全部認めてちゃんと伝えて、批判を受ける事を妨げない」という点にあって、過去からの論理一貫性は問われていない事はご存知だと思います。間違いを認めずに言い逃れを続ける事はアカウンタビリティーに逆行する行為ですよね。為念。
Commented by bank.of.japan at 2007-09-03 19:30
うさこさん、どうもです。エントリーにお付き合い頂きありがとうございます。確かに見た目は貸出伸びます(ひどいと私も思いますが・笑)。

日本の将来を憂う一国民さん、どうもです。ゼロ金利に戻らず、量的緩和にいってしまったところは、私も胡散臭さは感じるところです。効果がないのにやっている政策という変な感じになりましたし。また、その後の意味付けも「流動性懸念の払しょく」というものに変遷しました。時間稼ぎできた、という弁も後で聞かれたものです。なお、FRBは日銀のことは眼中にないように思われます。もっぱら足元の危機に追われているのではないでしょうか。日銀はまだトラッキングレコードが十分にないので、グリーンスパンのような芸当は無理でしょう。やたら批判されやすいと思います。

通行人さん、どうもです。日銀の論理はたびたび一貫性が崩れました。そこは私も批判的です。
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