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「連銀貸出」は恥か=米公定歩合の考察
 米公定歩合引き下げに関する海外メディアの報道をいくつかチェックしていたら、興味深いコメントがあった。ある金融機関関係者が「FEDの貸出はあまり使いたくない」と言っていたのだ(アドレスをチェックしなかったので、後で一部引用しようと思ったが、見つからなかったです。すいません)。
 米公定歩合引き下げは、取りあえずアナウンスメント効果はある程度発揮されたが、実際にはどうなのか、について当エントリーでは考察してみたい。その前に「discount window」の表現だが、直訳調では「割引窓口」となる。個人的にはあまりしっくりこないので、ここでは日銀関係者と話するときに使う「連銀貸出」という表現にしたい(discount windowと言うことも多いが)。
 まず大まかに説明すると、中央銀行の資金供給はマクロとミクロに分かれ、前者は「オペ」と称される。インタバンク全体の資金需給に応じて実施されるもので、もちろん余剰があれば吸収の「オペ」が打たれる。一方、ミクロは個別金融機関向けのもので、「貸出」形態が一般的であろうか。この貸出だが、事例としては資金繰りの失敗などが多いので、貸出を受けるのは恥ずかしいことだと受け止められている。
 日銀の場合、昔はこれを制裁的に使う面もあったので、金融機関は貸出を受けるのは大変な事態との思いが強かった。米国はどうかと言えば、仄聞するに、日本ほど大変でないけど、連銀貸出は恥だとの意識が強い(評判にも響く)ようで、ほとんど使われていなかった、ようだ(もちろん地区連銀によって事情は違い、田舎は使われるらしい=この辺の話も結構面白いです)。
 いずれにせよ、日米とも公定歩合は以前は市場金利よりも低いにも関わらず、恥意識やらペナルティへの恐怖感やらで、金融機関が敬遠するシロモノであった。その後、日銀は2001年にロンバート(正式は補完貸付制度)を導入、FRBも確か03年(違ったら指摘を)に導入した(discount windowの呼び名は変わらないが、中味はロンバート)。いずれも機能は同じで「市場金利よりも高いが、機械的に利用できる」ようになったわけだ。
 もとより、制度上は気兼ねなく使えるものとなっても、金融機関側の長年の恥or恐怖意識は変わらないもの。中央銀行としては、気兼ねなく使ってもらわないと市場金利の上限として機能しないので、この点に関し日銀は量的緩和の解除で金利が跳ねないようにするため、盛んに利用促進のキャンペーンを行った(私も当時ブログでいろいろ書いたのはご案内の通り)。おかげでガシガシ使われるようになった。良かったです。
 一方、FRBである。今回は以下のように伝えられている。
「New York Fed President Timothy Geithner encouraged the Clearing House, a group of major banks including Citigroup Inc., JPMorgan Chase & Co. and Goldman Sachs Group Inc., to hold a conference call yesterday. On the call, Geithner and Fed Vice Chairman Donald Kohn encouraged banks to use the discount window and said it was a ``sign of strength,'' the group said in a statement」
 せっかく公定歩合下げても、冒頭に紹介した金融機関のように「借りたくねえなぁ」というところが多かったら、流動性不安の払しょくで実効性がなくなるので、必死の呼びかけを行ったのだろうと推測される。この辺の事情は「Economics, Technology & Media」さんが簡単に触れておられた。まあ、こういう事は慣れの問題なので、米銀も必要なら気軽に利用することになると思うが、実際のところどうなるのかは非常に興味深いところである。
 余談ながら、中央銀行と言えば「金融政策」がすぐにイメージされるが、専門的にはこの手の流動性供給(LLR=レンダー・オブ・ラスト・リゾート機能)が奥深いものがある。特に1990年代以降はやり方が世界的に近代化(?)されつつあり、担保政策も含めるといろいろ考察することは多い。セントラルバンキング全般に興味ある学生さん、この領域は未開拓なので非常にやり甲斐がある研究テーマではないかと思う。
 これにちょっと関連するが、モルガン・スタンレーのフェルドマン氏がウォルター・バジョットの「ロンバート・ストリート」に絡めて、流動性供給を行うにしても金利を下げて実施するのはいかがなものかとの論陣を張っていた(こういう議論、好きだな)。ECBの指値オペ(あたかもロンバート金利を緊急に下げたのと同じ)を念頭に置いたものだったが、FRBの今回の措置にも厳しいかも。

追記 ウォールストリートジャーナルに「Banks have traditionally been reluctant to borrow from the discount window as it is often seen as a sign of weakness.」との一文ありました。やっぱりね。
by bank.of.japan | 2007-08-19 16:44 | マーケット | Comments(14)
Commented by 本石町さんは神 at 2007-08-19 16:59 x
これだけの質の記事(しかも誤植なし)をこれだけの頻度で更新できるところはさすがはプロのジャーナリストですよね。まさに神(脱線失礼)
Commented by bank.of.japan at 2007-08-20 01:19 x
ありがとうございます。気恥ずかしい限りで、身に余るお言葉です。もっとも、誤植は結構あります。気が付けば、直したりしております(笑)。すいません。
Commented by EURO SELLER at 2007-08-20 07:18 x
今回のdiscount rate の引き下げは,主にCountrywide Financial救済を目的にしたものではないかと思っています。たとえ恥でも緊急時にどうしても使いたい場合は使うのではないでしょうか。
Commented by dell at 2007-08-20 08:52 x
公定歩合下げというFRBの決定は苦肉の策でしょう。
インフレ懸念がくすぶる現状でFFレートは下げにくい、しかし放置すれば市場の混乱がどこまで続くかわからない、とりあえずアナウンスメント効果を狙って公定歩合を下げたというところではないでしょうか?
ECBなど他の中銀も事情は同じと思われます。
しかし、先進国の中にはインフレの心配をすることなく金融緩和をできる国が一つありますね。その国が主導しない限り、いったいどこの国がこの危機を救えるのでしょうか?その国の中銀にその自覚が全く無いように見える点が、控えめに言っても、非常に残念です。
Commented by SAKAKI at 2007-08-20 10:05 x
前回はいろいろ取り上げていただき、ありがとうございます。
本石町さんのブログを読んでおりますと、中央銀行一派のウラでの努力は、泥臭いんですね。
 このたびの利下げと資金供給で実際に市場に出たマネーはいかほどだったのか??興味ありますね。
 これで日銀は利上げの必要がなくなった(笑)ので、実は安心しているんじゃないでしょうか??むしろドル買い介入を心配(覚悟)?している??
 
Commented by 元IB現PB  at 2007-08-20 11:13 x
 実際、FEDのコメントは、金融市場の混乱さえ収まればダウンサイドリスクはない、と言ってると読むのが筋で、あまり本気ではないのでは。今回は言わばロンバート金利単独の下げ、しかもここで紹介されているように通常は日本以上に使われない代物ですから、まさにアナウンス効果のみ、でしょうね。プレゼンが非常にうまいとは思います。

dellさん
>先進国の中にはインフレの心配をすることなく金融緩和をできる国が一つありますね。

まぁおっしゃる通りなのですけど、その国は、今回の状況で最も金融緩和を行う必然性と効果のない国であると思うのですが?
 ・日本円全体の流動性が問題になっているのか→ 明らかにNO
 ・部分的に日本円の流動性を与えることで事態が改善する「ポイント」が存在すると仮定して、事態の改善に向けて日銀が対応すべきなのか→ たぶん議論あり、私見ではNO
 それでは、マクロ金融政策が効果的なのか→ 私見では明らかにNO
金利下げ+資金供給では、今回のポイントに流動性が向かわないと思うのですが。
Commented by なるほど at 2007-08-20 12:33 x
たしかに金利に敏感でない日本では利下げの効果は限定的かもしれません。また今回の混乱の原因をよくよく考えれば、日銀低金利があったことは間違いないでしょう。
Commented by Teddy at 2007-08-20 14:05 x
供給された余剰資金はいずれ他のところへ波及するので、事実上の緩和とそう変わらない、という議論もあります。実体経済が悪化するのはかなりの確度で見込める(まぁ、これはマクロ・ビューで争いがありますですが)とFed自身声明で言ってます。この先Fedは、depressionを避けるため、stagflationを許容せざるをえないのではないか、と。原油はデフレ懸念一巡後は$150/bblに向けて大ラリーの予感・・・
Commented by 飛車 at 2007-08-20 18:43 x
FFレートの変更は企業の借入金利に影響するけど、連銀貸出ならマクロには影響なく決済不安が払拭できると考え、インフレ抑制と両立を目指すのでしょうか。下げ幅より貸出期間の延長が重要だという感じですね。日本で言うところの「但し書き」に該当するのでしょうか。

日本の失われた10年はデフレ下の信用不安なので、物価安定もプルーデンスも両方とも同じ方向で金融緩和の速度だけが問題だったんだけど、あちらはインフレ抑制しながら信用不安の払拭という難しい舵取りが必要に見えます。バブルとうまく付き合えば・・・などと日頃言っている僕的には、シナリオ通りうまく行く事を祈ります。

P.S.
ECBの資金供給オペもそうですが、緊急理事会やってさっさと対策発表しちゃうところに好感持っちゃうなぁ。
Commented by bank.of.japan at 2007-08-20 20:32
EURO SELLERさん、どうもです。金融機関の資金繰り不安が払しょくされ、結果としてCountrywide Financialも何がしかのメリットがあるかもしれませんが、特定先の救済を狙ったものだとは考えにくいです。あくまでも金融システム全体の安定が狙いでしょう。

dellさん、どうもです。公定歩合の下げが苦肉の策であったとの見方には私も同感です。FFをどうするかは今後の金融市場の動向次第ですね。日銀はインフレを懸念せずに緩和できると思いますが、それで世界を救えるかどうかは分からないです。世界経済をけん引する機関車役まで演じられるかどうか…。

SAKAKIさん、どうもです。プルーデンスの現場は結構泥臭いと思います。昔はもっと泥臭かったのですが、段々薄らいできたのが現状でしょう。相手の事情を探るにはベタな関係になるのがいいですが、癒着も招き、難しいと思います。
Commented by bank.of.japan at 2007-08-20 20:43
元IB現PBさん、どうもです。FFを温存したのは、公定歩合下げで時間稼ぎし、なるべくならFF使わずにしのぎたいという思いもあるのでしょうね。その通りにいくか、今後の展開を見守りたいと思います。本来なら、貸出使ってね、と言うだけですが、下げたところに演技感じます。

なるほどさん、どうもです。日本の低金利が世界的な過剰流動性の大きな原因とは思いにくいです。多少は影響したかもしれませんが。日本発流動性の発生をあまり主張すると、われわれ高めの金利を課せられる恐れがあるのですよ(笑)。

Teddyさん、どうもです。供給された資金で計測するよりも、やはり金利で見た方が緩和的かどうかが判断されると思います。現状では、クレジット物のレートが下がるかどうかでしょう。原油はどうでしょう。実体経済が悪化すると、原油消費も落ちる気がします。スタグフレーションは避けて欲しいですね。

飛車さん、どうもです。貸出期間の延長は日銀を参考にしたかもしれません。ターム物の金利を抑える効果が何がしか期待できますので。それを狙ったふしがうかがえます。
Commented by dell at 2007-08-20 20:54 x
元IB現PBさんへ

>今回の状況で最も金融緩和を行う必然性と効果のない国

日本はデフレなのですから世界で最も金融緩和を行う強い必然性があります。また、日本の大規模な金融緩和は円キャリートレードを促すことで世界に流動性を供給する効果がかなり大きいのではないでしょうか?日本単独で問題を解決でjきるかまでは保証できませんが、かなりの力にはなり得るのではないでしょうか。

Commented by なるほど at 2007-08-21 03:33 x
有り難うございます。確かに高めの金利、、、はよろしくないですね。しかし「高めの金利」とはどの程度の水準を意味するのでしょうか?
Commented by bank.of.japan at 2007-08-21 18:17
なるほどさん、どうもです。金利差が円安を招いた、との主張に基づくと、金利差がなくなるまで金利を上げることになります。欧米は4-5%台なので、そこまで上げることになり、これはきついです。あくまでも国内経済に沿った低い水準でよい、と思います。
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