人気ブログランキング | 話題のタグを見る
金融庁・大森氏の特別論考(下)=マクロ経済&マクロプルーデンス
 前日の続きとして、金融庁・大森氏の特別論考の下である。ここでは私の取材フィールドに重なるマクロ経済とマクロプルーデンスに関する見解に絞って紹介したい。その前に前日の村上判決に関連した部分を一つだけ。
 「(略)市場経由型資金仲介を拡大しなければならず、そのためには株主をこれまで以上に大切にしなければならないから、ライブドアや村上ファンドだって一概に否定したくない」

<マクロ経済観>
・バブル崩壊後の失われた10年と過去形で言うが、その後の景気回復はグローバル展開する製造業がけん引し、国内にとどまる企業の多くは失われたままである。
・もはや大手自動車メーカーは国内で売れなくても成長できる。成長しても国内労働者にはさほど還元しないからいざなぎ景気を超えても豊かになれない。
・まして、成熟した国内市場にとどまる企業は、リストラしないとやっていけないから、景気回復過程において生活保護受給世帯は増加していく。
・内需による持続的成長が望ましいとは一般論ならその通りだが、現実の目立った内需は三大都市圏の不動産である。
・実体経済の構造からいって、ある程度まで地価や株価上昇の資産効果から個人消費による内需が喚起されないと、グローバル経済の動向だけに振り回される国になってしまう(この部分続きがあり、金融が実体経済を破壊するリスクも付言)。
→以上の総評として、日本経済分断仮説(勝組グローバル圏と負組内需圏)の解釈であり、同感ですね。

<マクロプルーデンス>
・優良な貸付先が少なくなっても相変らず預金は集まるから、過当競争して信用リスクに見合わない低金利を設定する…
・国内市場にとどまる企業を相手に不動産担保を取って完済まで抱える従来型の貸付を続けても、あまり明るい展望は描けそうもない。
・ただ、当面は原資としての預金が多過ぎるから、どんなタイプの貸付でも過当競争によるダンピングの可能性がある、ABLにおける担保価値の評価だってバイアスがかかるかもしれない。
→反論なし。その通りでしょう。

解決策は「貸付を証券化したり、貯蓄を投資に置き換えていくしかない。…すなわち市場経由型資金仲介の拡大」(大森氏)なのだが…。これはハードルが高いであろう。ご存知のように、貸付資産の証券化は、根っこの貸出のスプレッドが異常に低いため、証券化コストを差し引くと証券化された商品の魅力は乏しい。また、証券化しても、それは資産サイドの減少であり、負債にある預金に見合う資産を何か持ってこないといけない(再び貸出に回るか、債券買うしかない)。また、銀行負債にへばり付いた貯蓄が投資に向かうためには、株式市場の活性化が不可欠だが、その起爆剤と期待されるM&Aに対するアレルギーは強い。どうしたらいいもんですかね。
 なお、上記の総合的な解釈において、金融政策がどのような影響をもたらすのか。日銀の利上げ路線は、日本経済分断化を助長(格差を拡大)し、預金金利の上昇によって貯蓄を銀行負債にへばり付ける(投資から貯蓄への逆流)働きをもつ。預金利息が増えると消費が増えて景気が良くなりハッピーというトンデモ議論も撲滅されていない。この点に関し、成長が期待できない国内をすり抜けて海外に流出する個人マネーは立派な「貯蓄から投資への流れ(円安要因)」なのだが、世の中には“円安が心配だ”シンドロームが根強く、日銀に円安を歯止めをかける利上げを求める輩すら存在する。
 大森氏の論点に照らせば、金融庁は日銀利上げ路線に待ったをかける必要があるのではないか。なお、前日・本日と論考を取り上げたが、いずれも超部分的な紹介にとどまっているので、氏の主張が正確には伝わっていない可能性がある。興味ある方は原文をお読みすることをお勧めする。

ps マクロプルーデンスは多少思うところがあるので、別途エントリーをあげるかもしれない。
by bank.of.japan | 2007-07-20 23:09 | 経済 | Comments(14)
Commented at 2007-07-21 00:01 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by 飛車 at 2007-07-21 00:14 x
マクロ経済環境については基本的に同感。日本経済分断仮説について、毎度毎度の指摘ですが、その原因は日銀による内需抑制キャップの存在があると思います。グローバル企業が牽引したわけではなく、これは海外の景気に受動的になっていて、欧米が好景気なら輸出産業が好景気になっただけです。
最近恐れているのは、素材系の合併進展による寡占価格の成立です。コアコアCPIからは除外されている石油関連製品の価格は、2001年ころから待ったなしで上昇するようになっています。これは相対価格の変更でありコアコアではないCPIを見ているとスタグフレーション要因となります。

>優良な貸付先が少なくなっても相変らず預金は集まるから、過当競争して信用リスクに見合わない低金利を設定する…

金融市場は完全競争市場に近いから、金利が適切に調整される事で供給それ自体が需要を作り出す状況が成立しているわけですね。もし、市場経由型資金仲介の方が利益が上がるのであれば、銀行がそちらで資金運用すればよいと思います。
Commented by 飛車 at 2007-07-21 00:14 x
ところで、
>市場経由型資金仲介を拡大しなければならず、
とするのは、どういう理由からでしょうか?銀行預金の保護について責任はとれないという意味でしょうか。

企業側からすると、経営権の一部を売る事もさることながら、元本返済が不要とはいえ業績が良い時ほど高い利払いを、一生継続して求められる株式による資金調達と、財務内容が良い企業ほど低金利で融資を受けられる間接金融との比較になります。有料企業ほど、後者を好むのは明らかです。株式市場は、大企業の勲章状態を脱却し、ベンチャーの博打資金の供給に傾倒しないと無理でしょう。

P.S.
ここでいう貯蓄というのは、マクロ経済学的な意味での貯蓄ではなく、銀行預金という意味ですよね?いや。株買っても外貨買っても、マクロ的には貯蓄先の変更にすぎませんので。
Commented by bank.of.japan at 2007-07-21 01:19
非公開さん、少し対応してみました。

飛車さん、コメントはしばらくお待ちください。
Commented by 内需産業をどうするか at 2007-07-21 02:51 x
日本の経営学の第一人者が非常に冷静な筆致でこの問題を分析しています。「非製造業の生産性はアメリカの約半分」という見出しから始まる箇所だけでもお目通し頂ければと思います。
http://www.president.co.jp/pre/20070716/002.html
Commented by 飛車 at 2007-07-21 03:54 x
>内需産業をどうするかさん
1.内需と限定せず「営業部門の生産性」と捉えた場合、日本の営業組織は組織が未分化で求めるスキルが雑多で経験至上主義になり各人の弱点克服が課題となっております。一方、新規顧客獲得のためのプロセスを確立し、分業で組織分化させていく事で、スキルが単機能化して習得・強化が容易になります。同時に、プロセス管理ができるようになり、ここから工場的発想が営業に応用できるようになり、生産性改善が係数管理できるようになります。最終的には置き換え可能な末端営業マンを歩合制の比例費にして売上変動に強い組織にする事が可能になります。この点で、日本は明らかに遅れていると思います。
とはいえ、そういうスタイルの外資系企業が日本で圧倒的な販売力を持つかというとそうでもない。アメリカなんぞへ行くと、売り方は参考になるけど、その中身のいい加減さに唖然とさせられる事が良くあります。というわけで、中身がしっかりした企業が売り方上手になったら最強じゃね?とも思う次第。
Commented by 飛車 at 2007-07-21 03:54 x
(続き)

2.生産性という数字は、おそらく「労働者一人あたりの付加価値生産性」だと思いますが、付加価値の多寡については市場環境・経済環境に依存します。たとえば、内需産業の会社がそっくりそのまま海外にて国内と同じサービスを行った時(一昔前の状態の劣化コピー)、日本とは比較にならないほどの粗利益をとる事が可能で、日本以上の付加価値生産性を発揮するなんて事が生じます(実は自分の目の前に、その典型例たくさんある)。つまり、「競争にさらされないから内需産業は効率が悪い」という命題は、実際に海外に行っている企業の実例によって棄却されてしまうのです。つまり、これは景気が悪いから指標も悪くなっているという結果論ではないか?という疑問が生じます。

生産性の議論に限らず、経済学と経営学の領域問題は、実証結果を「吟味しないまま」即現実の説明に使おうとして「世間知に従った解釈」を暗黙に正しいとした上で、「世間知に従った解決策」を何の根拠も無いまま対策として列挙するだけのものが多いですから鵜呑みにするのは危険です。
Commented by 飛車 at 2007-07-21 03:54 x
(さらに続き)

あと、これは揚げ足取りですが、シュンペーター流のイノベーションは結果的にしか測定できない偶然の産物であるがゆえに「不況による淘汰」を使って剪定する事を重視します。つまり、「イノベーションを起こしましょう」とは「念仏を唱えましょう」と同レベルの無意味な提言です。逆に、既知の手法で改善可能な事はイノベーションとは言いません。でも、イノベーションという単語を文中にちりばめると格好良い文章になっちゃうんだよね。
Commented by ぼやき@アカデミア at 2007-07-21 11:36 x
同業者も含め皆諦めてますが、「相関関係と因果関係を取り違えているのでは」「因果関係が逆では」と一般の人が批判しているのをネットで目にします。
日本ではアカデミアで通用するレベルで議論できるプロとアマチュア愛好家の方々の間にほとんど知的な交流がないので仕方ないですが、論文を書く際に予め検討し、その可能性が実証的に棄却されることを確認してから書いてあるまさにその事柄に関して、「因果関係が逆なのに気付いてないですね」と一般の人達に指摘されているのを見るのは切ないです。運命として受け入れるしかないのでしょうが(泣)
Commented by 通行人 at 2007-07-21 13:29 x
でも、その実証のプロが「俺は頼まれたらどんな事でも事実にしてやるぜ」と豪語しているのも事実なんですよ。
Commented by bank.of.japan at 2007-07-21 22:37
飛車さん、どうもです。海外景気に受動的であるのはその通りですね。「グローバル経済の動向だけに振り回される国になってしまう」(大森氏)わけです。貯蓄は「預金」という理解でいいと思います。貸出金利の低さは、確かに自由競争の結果ではあります。それと、「市場経由型資金仲介の拡大」or「貯蓄から投資」というのは、人為的に操作できるものではなく、自然にそうなるかどうか。投資した方が有利と人々が思うかどうかでしょうね。

内需産業をどうするかさん、どうもです。参考にさせてください。有難うございます。
Commented by 通行人55 at 2007-07-22 14:01 x
>大森氏の論点に照らせば、金融庁は日銀利上げ路線に待ったをかける必要があるのではないか。

業界人からみれば、大森氏の金融庁内での影響力は限られていますから、無理でしょう。
それに、金融庁は「金融行政」が担当ですから、「金融政策」に意見もつことはありません。

日銀は「金融政策」が担当で、本来は「金融行政」に口出しできません。プルーデンスとかいう言葉でちょかいを出しますが、本来の担当でないので、たんなる「評論家意見」にすぎないと、業界人としては思っています。
Commented by PK at 2007-07-23 08:31 x
個人的には、内需が維持されるための有力な回答は、移民だろうと考えています。もちろん他にも色々考えつくのですが。需要の本質は移動であり、しかも人間の移動が様々な波及という点で最も重要な移動だと思うので。
その上で、大量のエスニック集団を抱えた場合、どの民族が文化的により日本に適合的だろうか観察しています。
とりあえずの結論としては、韓国朝鮮人、モンゴル人や中央アジア人、南アジア、ロシア・スラブ系の人々が比較的良いだろうと考えています。フィリピン人も日本語がうまくないのですが性質が良いのでたぶん大丈夫なのだろうという観察分析です。
常識を外れて突飛な考えだろうと思いますが、いずれ移民問題に行き着き、どの民族が・・・という課題に直面するだろうと思います。
Commented by bank.of.japan at 2007-07-23 19:55
通行人55さん、どうもです。「金融庁」という組織としては、金融政策には口出しできないのはその通りですね。一方、日銀のプルーデンスも独自色を出そうと四苦八苦しておりますが、なかなか思うようにはいかないです。単なる「評論家意見」、これは行政権限がない悲哀であります。

PKさん、どうもです。個人的には、移民受け入れは有力な選択肢とは思っておりますが、世論として盛り上がるかどうかは現時点では難しい気がします。
<< 預金の圧力を回避するには…=極... 金融庁・大森氏の特別論考が面白... >>


無料アクセス解析