しばらく金融政策ネタから離れていたので、久々に取り上げてみたい。今回は、利上げの是非論ではなく、「政策ロジック」に絞ったややマニアックなネタである。もっぱら市場関係者(金利絡みの方々)を念頭に置いたものなので、ご関心のない方はスルーを。
さて、日銀はかねて金利水準の調整で「スケジュール感はない」と繰り返し強調している。何度も言うので耳にタコができるぐらいだ(笑)。先月発表された展望リポートでは「経済・物価情勢の改善の度合いに応じたペースで、徐々に金利水準の調整を行う」となっている。分かりにくいが、日銀文学では「改善の度合いに応じたペース」が「スケジュール感のない金利調整」を意味する。即ち改善度合いが急なら利上げピッチは速く、緩慢ならピッチは遅い、わけだ。 だよね、と納得してはいけない。なぜなら、分かりやすくできる金利調整をワザと分かりにくくしているからだ。まず、日銀ロジックによれば、現在の金融政策は「極めて低い金利水準による緩和的」(展望リポート)な状態にある。利上げは緩和度を緩めるだけの調整に過ぎず、景気にブレーキをかけるものではない。つまり、いつでも利上げできるのである。 だったら、四半期ベースとか、半期ベースとか、スケジュール感を示してあげた方が金融市場の安定にはプラスである。政策変更(特に利上げ)はショックを与えるので、それ自体が金融市場に最大の不透明要因となる。「利上げするけど、いつかは分からんよ」というスタンスは、金融市場にとっては細い紐にぶら下がったハンマーナイフがいつ落ちるかとびくびくしながら見上げるようなもの。 ナイフが落ちる間隔(スケジュール)が分かれば備えはできるが、日銀は「時期は未定」とはぐらかしているのである。どの指標が程度改善すれば利上げができるのかのヒントもない。その代わり日銀は「対話しようよ」と言っている。対話したって利上げ時期は読めないと思うな。 なお、日銀の政策ロジックは「今後の政策変更は今後の経済・物価情勢次第である」とも言い換えられるが、これが通用するのはFRBにように均衡金利に到達した場合であろう。その時に使うべきフレーズをなぜ日銀は今使っているのか。私は、日銀は経済の見通しに十分な自信がないからではないか、と思っている。強い自信があるならスケジュール感は示せるし、そのときに日銀が市場と対話すべきは「均衡金利」の水準である。これはなかなか正解がないので、一定間隔で利上げする中で市場の反応をみながら模索するしかないだろう。 恐らく日銀の利上げはまさに「気が満ちた」という心理的なものだと思う。政策委員会の9人の合成(集合)人格の気が満ちるのがどの辺かを探るのは、スーパー心理学者だって無理であろう。私は無理だ。みなさんは日銀の気を読めますか?
by bank.of.japan
| 2007-05-14 21:20
| 日銀
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Comments(19)
9人の政策委員の中に、ノーマライゼーションを第一義に考える方と、ノーマライゼーションに行うにも条件が必要と考えている人がいるのでしょうね。今回の展望レポートでは、さりげに潜在成長率のターゲットがタイトニングしていますね、、、。正常化のペースが6ヶ月程度だとすると、間延びして中立金利と言われる水準に辿り着くのは至難の業ですけどね、、、。
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30兆円さん、どうもです。ご指摘のように政策委の間で「正常化」の捉え方に開きがあるのだろうと思われます。1月会合で利上げを提案した3人はピュアな正常化論者でありましょう。結果的に利上げは6ヶ月間隔となっておりますが、今後はどうなるのでしょう。気紛れのようにやるぐらいなら、何もしなくてもいいような気もしますが…。
現在の日銀のスタンスは、金利は正常化していきたいけれども、景気の先行きに自信を持ちきれない中でさてどうする、という状況の下、選挙後に向けて、利上げする・しない双方のカードを持っておきたいということだろうと思います。橋本政権の時の消費税がそうでしたが、現在、実証分析の結果によると、橋本政権の時の景気後退は消費税によって引き起こされたものではないという見解が有力になっていますが、『消費税引き上げ』→『その直後に景気後退』、となると、完全に「消費税増税」が原因にされてしまいます。その当時においては実証研究など出来ませんから仕方ないところがあるにしても、今でもなお「あの時の景気後退は消費税が原因で・・・」と指摘する政治家も沢山います。つまり、日銀の利上げも同じで、『利上げ』→『景気後退』となれば、本当に利上げが原因だったかなどということは検証されることなく、時期が重なりを見せたというだけで、「利上げしたから景気が悪くなったんだ」という形で「結果責任」を日銀はとらされることになるでしょう。
利上げに関して日銀が強硬論をとるという見方もマーケットの中になくはないですが、そういう見方に少し違和感を感じるのは、「利上げの後に、景気が後退局面に入る」という時期的な重なりが生じることを、福井日銀は相当気にしながら政策運営をしているという点に対する考察がやや甘いのではないかということです。次期総裁の問題もありますし、せっかく勝ち取った日銀の独立性の問題もあります。本音としては金利を引き上げてはいきたいものの、これらの問題(リスク)を考えた時に、景気後退と利上げの時期が重なりを見せることは避けたい。そのような判断の下、「手持ちのカードを減らさない」というカードを切っているというのが今の日銀の状況だろうと思います。
久々に本石町日記さんの本領発揮のエントリーで,楽しく読ませていただきました.
量的緩和・ゼロ金利を解除した時の日銀は,景気は良くなる,CPIも上がってくるとの予想に自信があったようですが,CPIがついてこなかったのではしごを外された形になり,かといってさっさと尻尾を巻くのも格好が悪いので,第2の柱にすがって何とかロジックの整合性を繕おうとしているように私には見えます.金融政策の決定者の姿勢というよりは,しがないサラリーマン根性ばかりが見え透くのは,私だけでしょうか. 結果責任さんのコメントもよくわかるのですが,そもそも論として,金利操作のロジックがはっきりせず,ころころと左右させるような中央銀行に,余計なカードなんて持たせない方がいいのではないでしょうか? さっさとインタゲでも押し付けて黙らせた方が,市場にとっては安心できるかもしれません. 私は,決して,いわゆるリフレの観点からインタゲを勧めているわけではなく,シンプルな数値目標を課すことで,政策主体が言い訳(ノイズ発信)することを抑制するメリットからインタゲを勧めたいです.
「緩慢でピッチは遅い」場合、自ずと遅いピッチにも限度があると考えていいのでしょうか?一方で利上げという方向性は明確に宣言されているわけですから、例えば9か月から1年たっても利上げできないような場合、標準シナリオの誤りを認める必要が出てくると思います。「ゆっくり」に定義はないので次が利下げでなければ、インターバルは無限であってもよいということにはならないと思うのですが。一ついえることはリスクヘッジだらけのポジション(対話)は儲からない(成立しない)ということでしょう。なにせ市場はリスクをとる場所ですから。
次回利上げ時期を予測する立場としては、ECBのわかりやすさがうらやましいですね。「この時期に利上げするでしょう」と予想をしても、「何故?ロジックは?」と聞かれて困る今日この頃。前回利上げにしても、何故1月ではなくて2月だったのかが未だにわかりません。担当者としてまだまだ未熟なんでしょうか・・・。
利上げする方にロジックが存在しないのですから(関係者方、失礼)、それが説明できる方がおかしいということです(笑)。未熟からだとは思いません。>Ecoさん 日本人はこの説明で納得する、というか多くの方が同様に思っているのですが、海外となると...。
そのつど集まって一人一票で表決するのですから、ロジックの一貫性を保つことは困難でしょう。ロジックの一貫性ができるとしたら、グリンスパンのように圧倒的なカリスマ性で言うことを聞かせられるひとに限ると思われます。
私は投資家の立場として彼らが発する言葉の一貫性などにとらわれず総合的に日銀の行動を予想するのがベストだと考えています。あまり彼らの言葉の表面だけを重視してロジックを深読みしすぎると、取り返しのつかないことになってしまいそうで怖いですね。 スケジュール感を持っていないと繰り返し語られていますが、正常化という理屈が前面にあるのなら、そこにスケジュール感あるいは目標値(いつぐらいまでにこれぐらいの金利)というものがきっとあるに違いないと思っていますが。
カードの枚数という意味では、日銀はフリーハンドを得ているはずなので、利上げ・利下げ・ステイすべてのカードを持っているはず。にもかかわらず、利下げというカードはまったく存在しないように見えます。
何がしかのショックがあった時に、利下げのカードを切りそうにない中銀の存在は、ショックを緩和できないという事を意味するわけです。景気に先んじて利上げしちゃう事は既に行動で示されており、上ブレのリスクは無いわけで、下ブレのみがリスク要因になりそうな。 本石町日記さんの「自信が無い日銀」説を受け入れたいと思いつつ、自信が無い割には「景気は現状維持はあっても減速はありえない」あるいは「外生的ショックで起きた景気減速は仕方が無い」という非対称な態度をとり続ける姿勢にやっぱりどうしても疑問がふつふつと沸いてしまいます。
結果責任さん、どうもです。私の見立ても結果責任さんのご指摘に近いところがありまして、スケジュール感を示して利上げしていった場合に、その路線が失敗するリスクを感じているのではないかと思います。スケジュール感示せなければ、露骨に失敗するのは避けられますので。ヘッジが入った利上げ路線のように思われます。
three-hyphensさん、どうもです。ご指摘のような観点でのインタゲ路線は日銀内でも意外に同調する声があるように思われます。特に若手中心にそうした発想はちらちらうかがえるように感じますが。
walrusさん、どうもです。ご指摘のように、いつまでも現状維持だとシナリオが狂った(下振れ)ことが鮮明になります。この場合のリスクは、シナリオ通りであることを証明するための利上げ、でしょうか。あえてシナリオを下方修正する勇気があることを日銀には期待したいですね。
システム5.1さん、どうもです。いやいや、根本的なご指摘をされると、エントリーが成立しませんので(笑)。ロジックの基盤がないとは私も思うのですが、それだと日銀を相手に話すことなくなりますので…。
害債さん、どうもです。「正常化という理屈が前面にあるのなら、そこにスケジュール感あるいは目標値というものがきっとあるに違いない」というのは同感です。ただ、これが政策委として共通のものを出せるほどの合意がないor自信がない、のでしょう。もちろん、目標値(均衡金利)はFRBも明示しておらず、これは市場に推理させるしかないでしょうが、そのためには取りあえずは淡々と利上げを刻むしかないですね。
飛車さん、どうもです。現状の日銀シナリオでは利下げカードはないです。というか、いざとなれば利下げするのでしょうが、そのオプションは建前上は表に出せない、ということでしょう。出してしまえば、量的緩和解除以降の政策が間違ったとの批判につながりかねないです。今の日銀はチキンホークス(臆病なタカ派)であると思います。なお、私もリスクはダウンサイドの方だと思います。
市場・金融関係者以外で済みません。「日銀の気」ですか。門外漢には、こんな感じに見えます。①物価安定と金融緩和の継続が、日銀のトラウマたるバブル不安を再燃させていて、金融緩和の継続期待というか、期待の強気化を止めるために利上げはしたい、②ところで、今が中立金利か否か、正直、分からないから、ハッキリ言えなくてもどかしい、③経済情勢は、シナリオと少し外れてきているけれども、幅を持ってみれば大きく外れているとまでは言えないし、仮説を信じているけど、信じ切れなくなりつつある自分にも不安を感じはじめている、という印象です。だから、政策の説明が、総合的な判断、じゃなくて、あれこれ考えているような総花的な、いや、優等生的な、いや、不明瞭な、いや、チャレンジングな、いや、おっかなびっくりな感じの印象を受けます。だから、今後の政策展開は「ゆらぎ」で決まるのでは。意味不明でした。よく分かりませんね。失礼しました。
>>本石町日記さん
それが期待形成に影響を与えると・・・という話になっちゃうんですよね。僕は日銀が期待誘導に懐疑的なのは、「デフレターゲットであるとの批判を回避できなくなるから」だと思います。
勿論さん、どうもです。なかなかな「心理分析」ではないでしょうか。特に今後の政策展開は「ゆらぎ」で決まるのでは、という部分はツボにはまります。複雑性の金融政策、日銀自身も自分がいつ動くが分からない、でしょうか。
飛車さん、どうもです。CPIがマイナスですからね…。ここで利上げ時期を明示すると、デフレターゲットと言われても仕方ない面は確かにあります。
つまりは、次回利上げは市場が織り込んだかたちで行われるということですね。
つまりは、日銀の金利決定も市場の声に対して受動的に動かしているだけということですね。
また新しい日銀理論が生まれたようです。
いやいや、次回の利上げに限り受動的な素振りをするのではと思っているだけです。
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