人気ブログランキング |
日銀にとって国債購入(買い入れ)はただのオペに過ぎない
 bewaadさんのところで、齊藤誠先生の主張をめぐり「国債買い入れ」がネタの一つになっていたので、改めて解説をしてみたい。
 ざっくり言えば、表題にように「国債買い入れ」は金融調節の実務上は「ただのオペ」に過ぎない。資金供給の一つの手段でしかなく、強いて言えば「長めの資金を供給できる」というのが特徴として挙げられる程度だ。
 にも関わらず、「国債買い入れ」は、その残高が銀行券の上限を超えない(いわゆる銀行券ルール)ことが条件付けられ、月間買い入れ額の増減も政策委員会が決定する仕組みになっている。ただのオペが大げさに扱われるのは、いろいろ注目されやすいからで、日銀もやや自意識過剰なあまりに大げさに扱ってしまった、という経緯がある。
 注目のされ方は、いろいろである。債券市場からは主として需給要因の観点から注目され、その増減は長期金利に影響を与える可能性がある。また、世間的(含むマスコミ)には、買い入れを増やすと財政ファイナンスを支援しているかのような印象を与えるかねないので、日銀も気を使う、というわけだ。
 これまで何度か触れたように、国債買い入れの規模が柔軟に決められるなら、現状では増やした方がいい、と言える。銀行券(負債側=70兆円以上)に対して国債買い入れの残高(資産側=50兆円強)が少なくなっており(去年は財務省の国債買い入れ償却に応じた)、その分、短期オペへの負担が高まっているからだ。
 日銀のオペは、突き詰めると負債(銀行券や準備預金)に対して受け身(注)の下で、資産側に何を持つか(orどう構成するか)、に集約される。これは預金に対して受け身の銀行が、資産構成をどうするのか、に似ている。
 理屈上、もっともオペ負担が軽いのは、銀行券をそっくり長期債で見合わせることだが、これだと銀行券が減ったときに下手すると国債売り切りをやらざるを得ず、需給に敏感な債券市場に大きな影響をもたらす恐れがある。従って、銀行券残高まである程度の余裕を持ち、銀行券のトレンドに合わせて国債買い入れを増減させ、短期オペの負担を調整するのが理想的だ。
 なお、国債の持ち方だが、市場買い入れでも、直接引き受けでも、負債に対する資産構成上の問題としては、実はどちらでもいい。ただ、後者は国債引き受けを連想させ、見栄えが悪いだけ。要は、引き受け額の決定権が日銀側にあればいい。
 ところで、日銀は数年前に保有国債の償還ルールを変えた。それまでは満期が来た国債は新発債に乗り換えていたが、ルール変更後はまず短期国債に乗り換え、次に現金償還することにした。これにより何が起きたかだが、保有国債のデュレーションが短くなったわけだ。
 現在の銀行券残高が一定という前提で、調節上は、昔の方法だと、長期資産が少しずつ積み上がるので、市場買い入れが少なくて済む(楽である)。今の方法だと、満期が到来すると、どっと抜けるので、市場買い入れは減らせない(今は抜ける額と買う額がほぼマッチングしている)。

注 マネタリスト的な立場では能動的となる。銀行券(プラス準備預金=マネタリーベース)に対して受動的か能動的かは、日銀とマネタリストの議論がかみ合わない大きな理由でもある。私は「受動的」(従ってリフレ派でない)との立場である。ただし、能動的になれないこともない。そのためには担保政策をかえる必要がある、と私は思う。

ps 金融正常化の観点で、国債買い入れを減らせ、という主張があるが、これは上記説明したように実務的には合理的ではない。量的緩和時の札割れ対策として増やしたものは、金利政策(札割れはない)では減らせ、というわけだ。ところが、償還ルールを変えたことで、実は負債との兼ね合い上、国債買い入れを増やすのが合理的であったのだ。この点は、実は日銀も増やすときには気がついていなかったのではないか、と私は見ている。
by bank.of.japan | 2007-01-29 21:48 | 日銀 | Comments(12)
Commented by ゴム3号 at 2007-01-29 23:16 x
日銀はマルクス学派と同様、内生的貨幣供給論者だと思うのですが、外野から見ると主流経済学の外生的貨幣供給論者とは全く話がかみ合ってないように感じます。なんとかならないのですかね。
Commented by bank.of.japan at 2007-01-30 00:21
ゴム3号さん、どうもです。実務重視の日銀と学会との距離はかなり遠いですね。もう少し両者が歩み寄り、建設的な議論が発展するのを望んでいるのですが。私自身は文学部ですので、この点は外野として両者の交流を願いたいところなんですが…。
Commented by 学と at 2007-01-30 01:58 x
>銀行券(プラス準備預金=マネタリーベース)に対して受動的か能動的かは

マネタリストかどうかではなく、いわゆる銀行券ルールを金科玉条と思うかどうかでしょう。

日銀の人は理由もなく絶対的ルールと考えています。
一方、学者や海外中銀は何の根拠もないルール(縛られている理由がわからない)と考え、インフレ目標があれば不要と考えています。

Commented by 元IB現PB  at 2007-01-30 08:29 x
 ん?本石町日記さんの話は、マネタリーベースを日銀が能動的にコントロールできる(する)かどうかと言う話では?>学とさん
 この金利情勢では、仮に日銀が積極的に動かそうと試みてもそう簡単ではないことは確かですね。頭の体操として、マネタリーベースを極端に変えるために日銀が出来ること・・・コール目標と公定歩合とのコリドーを極端に狭くして、短期資金供給を日銀が独占するってのはどうでしょうね(^^;
Commented by 学と at 2007-01-30 09:23 x
豆もらう鳩でしょうかの立場でしょうか?>元IB現PBさん
簡単な話でして、銀行券ルールを無視して長国買いオペすれば、マネタリーベースは増えますね(by definition)
Commented by システム5.1 at 2007-01-30 09:35 x
学とさん、確認ですが、「銀行券ルールを無視して長国買いオペすれば、マネタリーベースは増えますね」というのは、①不胎化しない(吸収オペを行わない)、②「無視した」分は、日銀当座預金が増えるor景気刺激効果によって券の発行が増える部分もある…ということですよね。
Commented by システム5.1 at 2007-01-30 09:39 x
この議論が噛み合わないのは、「償還ルールの変更」を知らない人が多いことに起因していると思います。
Commented by bank.of.japan at 2007-01-30 13:53 x
みなさん、私の説明にやや不十分な点がありました。日銀が受動的なのは「銀行券」で、買いきりオペ(or他の供給手段でも可)を増やすとマネタリーベースは伸びます。もっとも伸びるのは当座預金残高の部分(だから日銀はそれを量的緩和のターゲットにした)です。仮に当座預金残高を一定にし、買い切りを増やすとその規模が「銀行券と当座預金残高の合計」を超えところから吸収オペ(売り手など)が必要となります。
Commented by bank.of.japan at 2007-01-30 14:03 x
学とさん、どうもです。銀行券の上限ルールは金科玉条的な扱いではありますが、かつてこの上限に抵触しそうになったとき日銀内ではルールを外す議論もありました。ご都合主義的なところがまた信頼を損なう、という危うさもあるのです。

システム5.1さん、補足ありがとうございます。償還ルールの件は、あまり浸透していないので、正常化論の延長として買い切りを減らせ、という主張があるのが悩ましいです。何とかならんですか。

元IB現Pさん、どうもです。マネタリーベースを能動的に増やすには、当座預金残高の増大(=量的緩和)しかなく、銀行券部分に能動的に働き掛けるのは難しいです。日銀的には、当座預金残高を無制限に増やす方向で買い切りを打ちまくり、カーブを全部潰して景気刺激を行う(券が増えるかもしれない)方法でしょうか。
Commented by bank.of.japan at 2007-01-30 14:18 x
みなさんへ。この問題を突き詰めると、一昨年に「マーケットの馬車馬」さんと「bewaad」さんの間で行われた壮大なる議論の再現となる可能性もあります。興味ある方はお二方の議論をご覧になるのがいいかもしれません。馬車馬さんの「金融政策論議の不思議」シリーズとそれを受けたbewaadさんのエントリーは、近年まれに見る建設的な議論として永久保存版であるとお勧めします。
Commented by システム5.1 at 2007-01-31 10:27 x
政策委員の皆さんはこの件を完璧に理解する必要があると思います。
しかし、おそらく理解されていない方がいると想像しています。
Commented by bank.of.japan at 2007-01-31 18:36
理解して欲しいです。理解していると期待したい…。うーん、どうなんでしょうね。
<< ところで介入すると米債市場は…... CPI、0.1%かあ=2月利上... >>


無料アクセス解析