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さくらリポートに見る貸出事情=後ろ向きの資金需要と金利ダンピング
 総じて明るい色調(桜色)になった日銀「さくらリポート」(地域経済報告)だが、貸出事情はまだ冴えない。相変らず地公体向けや住宅ローンを挙げる地域が目立ち、景気拡大・企業部門のの資金需要増大という感じは受けない。むしろ、全般的な資金需要の弱さを象徴する金利ダンピング、資金需要が発生しても、その中味は“後ろ向き”というまずい動きも報告されている。色調の明るさには違和感のあるリポートだが、憂慮すべき事象を盛り込んだのは評価したい。
 中小企業の資金需要動向について、同リポートは「全体としては増加基調」としている。ただ、運転資金需要の増加については「原材料価格が上昇する一方、販売価格への転嫁が進まないため、足元の運転資金需要が増加するという後ろ向きの動きもみられる」という。地域としては、大阪、神戸、高松、松山、高知、北九州、鹿児島などで、かなり広範囲で後ろ向きの資金需要が発生しているのがうかがえる。
 後ろ向きの資金需要とは、利益が減少して支払いが苦しくなり、借り入れを増やすこと。簡単に言えば、財務内容の悪化である。後ろ向きの貸出が増えているとき、それを景気回復を裏付ける材料の一つと錯覚して利上げすると、後ろ向きの借り入れを増やした中小企業は打撃を受ける。貸出は増加基調とは言え、後ろ向き・前向の見極めが必要と思われる。鮫島“ダンディ”正大・大阪支店長は「個人的には前向きが多いと思う」と言うが、どうだろう。
 もう一つの注目点は、利上げ後の「貸出金利の引き上げが小幅にとどまった」こと。まあ、これは十分に予想されたことだが、私が密かに期待していた動きがやっぱりあった。「(中小企業の一部は)一段と低い貸出金利を提示する金融機関からの借り入れ比率を引き上げる動きもみられた」そうだ。地域は、京都、長崎、熊本など。日銀が利上げしようと、資金需給の低迷に応じて一段と低い金利を提示した金融機関はエライと思う。
 極端に低い預貸利ザヤはわが国金融システムの本質的な問題だとは思うが、それ自体は金融機関の投融資行動の問題というよりも、資金需要が弱い、オーバーバンキングにある、という経済&構造問題によるところが大きい。
 みずほ証券のチーフストラテジスト、高田創さんが邦銀融資行動を「南極の氷売り」と絶妙の表現をしていた。氷がたくさんあるところで氷を売る、すると氷の価格(金利)は下がる、わけだ。高田氏はだから工夫を凝らして南極でも高く売れる氷を売れ、と言いたいわけだが、私は氷は氷でしかない、と思っているので、価格を下げて売るのは正しい。
 京都、長崎、熊本で低利融資の攻勢をかけた金融機関は是非「氷売り」の全国展開をして頂きたい。なぜなら、日銀利上げに便乗する貸出金利引き上げよりも、貸出需要の弱さに応じて一段と低い金利を提示する方がファンダメンタルズに合っているように見えるからだ。そうした行為は、景気回復を実感できず、しかも金利債務を背負った企業・家計(私も)にとっては、日銀利上げの悪影響に対する防波堤となろう。
by bank.of.japan | 2006-10-20 21:52 | 日銀 | Comments(15)
Commented by ファルマコン at 2006-10-21 10:10 x
確かに地方は苦しそうですね。高齢化・人口減少が急速に進んでいるのですから、再度バブルがこないと「全員がハッピー」という繁栄はこないと思います。しかし、そもそもそんな状況でなぜ地方銀行の淘汰がもっと起こらないのでしょうか?貸出金利の「低さ」は循環的な資金需要よりも、構造問題の解決が進んでいないことの証左であると認識した方が日本経済を考える上では重要な気がします。
Commented by 壱万円札 at 2006-10-21 11:52 x
貸出金利を下げる余裕があるならば、預金金利を上げるべき。そんな銀行は預金者全員が預金引き出しで対抗すべし。貸出金利の低い方に借り換える企業は、経済的には合理的行動だが、その企業が危機に陥った時、倒産リスクは高まります。(困った時、借り換えられた銀行に泣きついても、良い返事がもらえるわけはなく。借り換えた銀行もドライに考えるから、少し金利が高くても銀行とは長く付き合った方が倒産リスクは低くなる。)
Commented by ⊂(゚Д゚⊂⌒`つ≡≡≡(´⌒ at 2006-10-21 13:19 x
>貸出金利を下げる余裕があるならば、預金金利を上げるべき。

預金の利息を上げるにはその分の利益を出さないといけないはずですが、貸し出しを減らすと利益も減るので結局貸出金利を下げなくても預金の利息は上がらないんじゃないでしょうか?貸出金利を下げなかった銀行のほうこそ貸出がのびず将来の利益を失っているわけだから、預金者にとっても利益はないでしょう。

>貸出金利の「低さ」は循環的な資金需要よりも、構造問題の解決が進んでいないことの証左であると認識した方が日本経済を考える上では重要な気がします。

少子高齢化人口減少が進んでいるのは日本だけではありませんが、資金需要が低迷してるのは日本だけです。社会構造の問題ではなくて日銀の政策ミスでインフレ率が低すぎるから資金需要が出てこないだけではないでしょうか。
Commented by 壱万円札 at 2006-10-21 16:25 x
⊂(゚Д゚⊂⌒`つ≡≡≡(´⌒さん、 「貸出金利を下げなかった銀行のほうこそ貸出がのびず将来の利益を失っている」は必ずなるのですか?
Commented by 通行人 at 2006-10-22 09:45 x
そりゃ、民間企業は私企業なんですから、金利を下げた方が利益が上がると判断するから金利を下げているんじゃないですかね。需要と供給の経済理論で言えば、金利を下げれば供給に見合う量の需要が生まれワルラス安定に至るか、金利を維持した結果、需要に見合うレベルまで供給が低下しマーシャル安定のに至るか、どちらかです。いずれにしてもうれしい話じゃないですよね。つまり金利を下げているのは、銀行は借りてくれる人がいなくて困っている証であって、余裕があるかと言えば、むしろないと言った方が現実に近いんだと思います。ましてや預金金利を上げるなんて無理ですよ。集めても貸す先がないのに、余分なコストを負担する理由がどこにあるんでしょうか。
Commented by 通行人 at 2006-10-22 09:47 x
誤)民間企業 → 正)民間銀行
Commented by ファルマコン at 2006-10-22 09:59 x
⊂(゚Д゚⊂⌒`つ≡≡≡(´⌒さん、私も日銀がこれまで政策判断を間違えたことはないとは思ってません。しかし、ゼロ金利をこれほど続けてきたにも拘らずデフレの完全脱却ができていない現状をみると、逆に日銀にインフレを起こさせる力も(少なくとは短期的には)ないと考えています。
このため、私は構造問題、すなわち色々な市場で競争が阻害されているために、資金需要が乏しい、または資金供給が過剰になっているのではないかな~と思う次第です。もう少し深く考えて説明できないとあまり説得力はないかもしれませんが、実体経済がそれほど弱いとは思っていない私としては、資金需要と実体経済の間に齟齬が生じていると考えています。
Commented by walrus at 2006-10-23 08:23 x
「大企業キャッシュリッチ下での中小企業後ろ向き資金需要」という構図のもとでの利上げは、静態的に考えると二極化加速要因となります。政治的に利上げは預金者にアピールする点からは受け入れられる余地があると思いますが、一方で二極化加速という観点からは中小企業筋からの根強い反対を招く可能性があります。
Commented by システム5.1 at 2006-10-23 09:53 x
そもそも論的には、預金金利も貸出金利も規制金利下にないわけですから、自由に決めらるはずです。また、銀行経営の観点から必要なのは、預金金利の引き下げだと思います(上げるという理由は理解できません)。ローンポジションが深くなり、有効な運用手段を見出せない中では、コスト高の預金調達は足枷になります。しかし、拡大思考を含め、銀行の従来的発想(預金は増やすもの、お客様の大切なお金等々...)とは別に、その公的役割などを考えると、難しい問題ではあります。
Commented by 害債 at 2006-10-23 12:17 x
実態としては、地銀や和製投資銀行を目指す某銀行、あるいは政府系某政策投資銀行などのシンジケートを通じた金利ディスカウント合戦で、融資金利が低くなっているような気がします。その結果社債市場の低格付け企業へのスプレッドが著しく抑えられてしまっています。そしてそれがまた低金利での調達期待につながるという運用側にとっては悪夢のような循環です。
確かに通常の資金需要は低いのかもしれませんが、ディスカウントされた金利ならば取ってくるのは当たり前です。大手企業は次第にキャッシュリッチになって、設備投資も自前の資金でというところも増えている。という意味で、今の融資増のうち多少の部分は実体経済の回復とは切り離して考える必要があるように思います。広い意味では社債金利の低さこそが実体経済をあらわしているという点に一票。このなかで預金などこれ以上集めてほしくはないのですが。
Commented by システム5.1 at 2006-10-23 13:03 x
皮肉な言い方になってしまいますが、コストの相対的に高い預金を集め、低い金利での貸出競争をするだけの「余裕」が金融機関にはあるということです。その意味では、貸出競争も経済原理が働いていると言えます。しかし、今後の人口動態(中央と地方などの格差拡大、団塊世代の退職金の預貯金流入、長期的な低成長経済といった問題を内包)、世界的にはディスインフレーションという状況でのカーブのフラット化圧力など、金融機関を取り巻く環境は一層厳しさを増します。それらに対する戦略はあるんですかねえ。
Commented by bank.of.japan at 2006-10-23 20:09
みなさん、コメント多謝です。私の見解も、walrusさんやシステム5.1さん、害債さんに近く、付け加えることはないほど説明してもらった感じです(笑)。ありがとう御座います。景気回復と資金需要の相関が乏しい中、利上げを続けるのが整合的か、疑問に思い続けております。ベアフラットニングが強まる利上げは、金融機関には厳しい状況でしょう。心配です。
Commented by 通行人 at 2006-10-24 00:18 x
ファルマコンさんへ
>私も日銀がこれまで政策判断を間違えたことはないとは思ってません。しかし、ゼロ金利をこれほど続けてきたにも拘らずデフレの完全脱却ができていない現状をみると、逆に日銀にインフレを起こさせる力も(少なくとは短期的には)ないと考えています。

むしろ短期的にも長期的にも、日銀はインフレにする気が無いのです。なぜなら、おきてもいないインフレに対して、「インフレ予防措置」としてゼロ金利解除を断行したのですから。以前福井総裁が言っていた、「物価が安定的にプラスになるまで」をあっさり反故にしています。
デフレ下で金融政策に効果があるのか無いのかは、いろいろ議論がありますが、インフレにしないように努力している日銀が相手では、どうにもならないと思うしだい。というわけで、100%政策判断の間違いというか、確信犯的に実施している事なので、彼らは日本経済の事を考えていないという事だと僕は考えます。いかがでしょうか?
Commented by 通行人 at 2006-10-24 00:24 x
面白いネタなのに乗り遅れてました。えっと、先月の話ですが、9月末決算対策と称して、金利ディスカウントキャンペーンをやったメガバンクがありまして、ゼロ金利解除前より低い金利の提示をいただきました。資金需要無かったので、残念ながらお断りしました。一企業の話で全体を語るのも変な話ですが、そういう実話もあったということで。

ときに、いつの間にプライムレートは有名無実になって、TIBOR+n%になったんですかね。
Commented by 星の王子様 at 2006-10-24 00:42 x
インフレは確実に生起していると思いますが、かたや一部の企業がディスカウントして業績をあげようとしているのも事実。米国同様日本も地域格差個別格差が大きい。例えば愛知県の景気がいいといわれるが名古屋市に隣接する小牧市ではイトーヨーカドーが撤退桃花台線というローカル線が廃止されました。貸し出しについては昨日も需要減退ということである種貸し出し競争もあり恩恵も被る企業が存在するのでは。
BOJの人日本経済を考えている人は間違いなくいると思いますがいろいろな力学が働き表面にでてくるものは考えている通りのものではないのでしょう。
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