人気ブログランキング | 話題のタグを見る
健全なALMの悲哀=三和銀行がペイ超に転じた訳
 まずは以下の数字をご覧いただきたい。これは1998年3月期決算「バンキング勘定」のスワップ取引(1年超)における受け・払いをネットしたポジション(想定元本ベース)である。私が当時書いた記事から抽出した。
さくら銀行 6兆6千億円の受け超
住友銀行 4兆7千億円の受け超
富士銀行 3兆4千億円の受け超
第一勧銀 2千8百億円の受け超
三和銀行 1兆8千億円の払い超
(資金の調達手段として金融債を発行していた長信銀や東京三菱銀行は除く=資産・負債構造が異なり、都銀との単純比較は難しいため)
 97年は三洋証券破綻を契機にした金融恐慌の勃発で暗い年であった印象が強いが、同年秋までは利上げが警戒されていた。そうした中、都銀の大半は「利上げの可能性」を理由に業務純益の減少を見込んでいたが、三和銀行だけは同じ理由によって業純の増加を予想していた。確か97年度決算発表の時であったと思うが、三和銀行幹部が「これからディーリングの稚拙が問われる」と言っていたのを記憶する。
 結果的に利上げはなく、金融恐慌の勃発で景気は失速していったわけだが、「三和銀行は金利観が外れて残念」ではあるものの、健全性の面では正しかったのかもしれない。金利がどうなるかはいつの時点でも読みにくい。上がるか、変わらないか、下がるか。これら三つの選択肢に常に直面し、どれかに賭けることになる。
 市場金利は90年代に入って下がり続けた。史上最低を更新していく局面で、さらに下がると見るか、それとも底打ちすると見るかは難しい。史上最低の更新に際し、一般論として「健全性」を重視すると、金利低下に賭けるよりも、金利上昇に対してヘッジする方がいいとも考えられる。三和銀行は金利上昇に賭け、そして外れたのが実情であろうが、健全なALMであったとも受け止められる。
 なお、後日談となるが、三和銀行はそれから後(UFJに移行後も)、スワップ取引を縮小。債券中心に金利リスクを取るようになっていった。これはかなり異色な事例として注目され、しかもかなりうまく金利リスクを取ったと関係者の間では評価されていた。経営はダイエーによってつまずいたが、市場・ALM部門の実力は高かったと思う。債券運用の中心人物であったT氏(個人的には面識はない)が東京三菱銀行と統合した後、転職されたと聞いた。残念であった。
 金融システムの安定化において、都銀の経営統合は有効であったかもしれないが、個別行の個性が失われていったのは確実だ。また、ALMの巨大化がイールドカーブの不安定化を高めているのも間違いない。この点については、郵政公社の民営化も含めて改めて取り上げるつもりである。
by bank.of.japan | 2006-05-05 23:39 | ALM | Comments(4)
Commented by オレンジ at 2006-05-08 12:27 x
90年代後半以降は、本石町さんがご指摘の通り、金利が史上最低を更新する異例な時期であったのと同時に、金融会計(ヘッジ会計、時価会計等)が変化していった時期だと記憶します。また、資産負債ポジションのシステム認識については、ラグ、正確性について個別行の間でかなりのばらつきもあったようです。さらに、普通預金を長期固定債務としてみなす銀行も出るなど、ALMの手法もまちまち。こうした事情を踏まえ、各々の銀行が健全なALMを行っていたと思います。健全性の定義は難しい、というのが感想です。
Commented by bank.of.japan at 2006-05-08 19:08 x
オレンジさん、どうもです。銀行経営を取り巻く環境がかなり激しく変化した時期でもあり、銀行それぞれの事情は異なる面もあり、確かにご指摘のように「健全性の定義」は難しいかもしれません。ALM運営上の金利動向の予測も、正確に当てる能力があるのが健全なのか、外れても業務純益が減少するのに耐えられる体力がある方が健全なのか、悩ましい判断ではあります。
Commented by 徒然人 at 2006-05-08 23:29 x
はじめまして。欧米系金融機関と邦銀の国際戦略の相違に関心があります。その違いが例えば、ワシントンコンセンサスで動く米国と霞ヶ関の官僚主導で動く日本の対シンガポールFTA交渉内容等GGベースの形にも如実に反映しているようです。なぜあれだけ収益性が違うのか、金融商品やビジネスモデルのイノベーションが活発になされ競争力がある欧米銀と無作為の罪すら感じる邦銀との本質的な相違は何なのか。よろしければ率直な忌憚のないご意見をお聞かせください。
Commented by bank.of.japan at 2006-05-09 01:04 x
徒然人さん、初めまして。まず国際戦略の相違ですが、私は現在の邦銀はまだ国際戦略の出直しを練り直している最中で、これからの課題であると思います。もとより、商業銀行の形態で、真の国際化が図れるかは疑問ですが。恐らくはグローバル展開する企業のバックアップにとどまると思われます。国際協調融資のディスカウンターに舞い戻る愚は避けると思うのですが。収益性の低さは、経営層がなお旧世代であること、護送船団行政の名残り(規模の拡大重視)が色濃いこと、オーバーバンキングという構造問題、デフレの後遺症(資金需要の低迷)など、多くの要因が重なり、複雑骨折の様相を呈していると思っております。
<< 金利リスクをばら撒く国家のアウ... 郵政公社預金の構造運動・本論=... >>


無料アクセス解析