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「興銀ALM」の回顧&検証=マクロヘッジの多面的真実の教材
 今回は前回エントリーに続くALMシリーズの第二弾である。前回は具体例として「さくら銀行」を紹介したが、今回は「興銀ALM」を取り上げたい。ある意味、市場的にも会計的にも当局的にも非常に興味深い事例であり、できることなら「マクロヘッジの多面的真実」を物語る教材として、どこかの大学院のファイナンス学科が取り上げたらいいのではないかと思ったりする。
 さて、私の手元に「2000年 興銀ディスクロージャー誌」がある。この中から、ある数字を時系列で紹介してみたい。具体的には、バンキング勘定の金利関連デリバティブ取引の評価損益(143ページ)の推移だ。97年度、▲431億8900万円。98年度、▲771億8600万円。99年度、▲1670億200万円。同じくバンキング勘定債券関連デリバティブ取引(147ページ)は、順に▲428億8800万円、▲1003億3400万円、▲1449億4200万円となっている。
 評価損発生の主要項目は、前者では金利スワップのペイ(固定払い・変動受け)であり、後者では債券先物の売り建である。ちなみに97年3月から2000年3月までの長期金利の動向を簡単に説明すると、2%台前半から低下して98年後半は1%前後。その後運用部ショックで2%前後に急上昇し、99年はゼロ金利導入で低下に転じて1%台後半での推移となった(詳しくはネット検索してグラフなど参照)。
 私が評価損拡大を不思議に思ったのは、興銀のバランスシート構造の特殊性による。負債側をみると、都市銀行が流動性預金という短期負債を抱えるのとは違って、興銀は主として長期負債の金融債を持つ。私は当時、一般的に長期債務を発行する銀行は、ALM上はそのヘッジとしてスワップをレシーブすると聞かされていた。従って、金利が低下すると、興銀はスワップポジションはネットで評価益が拡大するはずで、そうなっていなかったのに頭をひねった。
 一方、債券先物の推移は謎である。特に売建・買建の想定元本推移は、大雑把に6兆・4兆、9兆・8兆、14兆・13兆と両サイド膨張の一途をたどり、そのうえでロスが拡大する構図が描かれていた。ポジションを落とさずにロールオーバーを繰り返しつつ、主として売建サイドで損失が拡大する合理性は見出せなかった。唯一考え出したのは、同じ水準で売りと買いを出し、儲かった方を利食っていく手法だが、それはあり得ないであろう。
 ALM操作は一般的に経営中枢の極秘オペレーションなので、行内ですら一部にしか知られていない。私も含めてALM関係者の多くは、金利が上がると思ってそちらに賭けたけど、見込みが外れた結果ではないかとの見方が多かった。一方、興銀側の説明は「当行では多用なヘッジ手段を活用しており、その中でデリバティブだけを取り上げると含み損が生じる。ただ、ヘッジ対象であるオンバランスの資産・負債でデリバティブの含み損を上回る含み益を保有しており、将来的に含み損が実現すれば資産・負債の含み益も実現し相殺される」であった。
 この説明は一見合理的だが、一般的なALMの実態には沿わない。多くの銀行は「金利の動きをうまく予想して収益の極大化を図っていた(今でもそうだと思う)」わけで、興銀の説明ではオンバランスの含み益を消すためにALMで損失を発生させた構図になる。逆説的にはALMで何もしなければ、オンバランスの含み益が実現していくはずで、やっぱり金利の読みが外れたように私には思えた。
 真実はどちらにあるのだろうか。リスクのヘッジを究極化すれば、リスク・リターンはチャラになり、「マクロヘッジ」は100%ヘッジであるなら、興銀の説明は筋が通る。監査法人も納得したのではないだろうか。だが、投機の失敗とも見えなくもない。2001年12月29日、日経新聞は、みずほグループがデリバティブの含み損3000億円を合併差益を利用して処理する、との方針を伝えた。オンバランスにあったはずの含み益はどうなったのだろう。実際にあれば、合併差益でオフバラの含み損が処理された後に実現していったことになる。
 ALMの損益をオンバランスとの関係で想像すると、日が差せば影が生じるような錯覚を覚える。益が出れば損がある、損が出れば益がある、逆側の損益は存在が掴みにくい。あるとき、マクロヘッジはシャドーヘッジングという言葉を思いついた。

ps 上記の考察は、あくまでも市場取材を通じた理解に基づいたものであり、専門家の方から解説・感想等を頂ければ幸いです。ところで、例えばオンバランス(資産)の大半である貸出は時価評価してないはずで、どうして含み益があるのだろう。うーん、銀行会計は難しい。

もう一つps ある銀行アナリストと議論した際、その方は興銀の説明に納得しており、議論は物別れに終わった。が、しばらく後に、欧米で邦銀マクロヘッジの在り方が問題視されたとき、私にヘッジ会計適用のデリバティブポジション(主としてスワップ)の読み方を教えて欲しいと言ってきた。これには多少のコツがあるのだが、想定元本は巨額であっても、期間区分の意味を考慮しないと、実態を超過大視するリスクがあると伝え、一般的なALMのあり方を私なりの解釈で説明した。アナリストの方は、今度は私の説明に深くうなずいてくれた。ホッとした。なお、欧米勢は、もっぱら想定元本の巨額さに着目して騒ぎ立てた感があり、恐らくはマクロヘッジを問題視して邦銀のロスカット的なオペレーションでスワップ・国債スプレッドの拡大を誘おうとしたのではないと思われる。ヘッジファンドの幾つかは目論見が外れ、討ち死にした模様。
by bank.of.japan | 2006-04-26 21:31 | ALM | Comments(6)
Commented at 2006-04-27 08:23 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by bank.of.japan at 2006-04-27 20:41
…さん、背景、思い出したらよろしくです。
Commented by 元投資銀行員現PB at 2006-04-28 09:42 x
 早速のALM続編興味深く拝見しました。さくらのレシーブの次のエントリーがあるとすれば、興銀のペイだろうな、とは予想していたのですが(笑)
 往時の長信銀の資産構造は、債券発行20兆円(概ね 利金債3:ワリコー1)、預金6兆円、資産は貸出20兆、条件は長期といっても、基本は長プラ連動で固定比率はさほど高くなく、他に割とデュレーションの長い債券運用(3兆円台)。これを考えると、正しいヘッジALMはレシーブで、往時の金利動向ならば益が出るはず、と、私も思います。
 細かく言うと、興銀の金利スワップ損失は、契約額では レシーブ>ペイなのに、評価損益では ペイの評価損>レシーブの評価益 というところにも特徴がありました。
好意的に解釈すれば、利金債を平均残高としては2年半でヘッジ、
保有債券および長期固定貸出分を平均残高5年超でヘッジ、とすると、同様の傾向が出るかもしれません。ただ、往時のイールドカーブのフラット化を考慮しても、負けすぎだろゴルァ、とは思っておりました。
Commented by bank.of.japan at 2006-04-28 10:41 x
元投資銀行員現PBさん、毎度どうもです。かなりマニアな話題で、反応薄を覚悟していたのですが、前回に続きコメント多謝です。専門的な解説、参考になりました。私はもっぱらアネクドータルな理解をベースにしておりますので、助かります。このシリーズ、個別ではもう一行取り上げる予定です。よろしくお願い致します。
Commented by 元投資銀行員現PB at 2006-04-28 11:32 x
  私の方こそ銀行ALMは聞きかじり知識に近いです。日本のリアル金融世界ってのは、アカデミックには取り上げられる機会が少なくて残念なのですが、もし本当にどこかの大学院のケーススタディに取り上げられた際には、ぜひ参加させていただきたいものです。
 さて、長信銀ALMについてマニアックな聞きかじりを付け加えますと、高金利ワイドの償還が続いた1995年あたりから、「金利上昇時における低金利ワイドの解約率の上昇」=ALM的にはペイオプションの売り効果、が、長信銀の内部で悲観的に研究されるようになったという話を、元某長信銀の方から聞いたことがあります。98年の底の見えない預金流出への不安と考え合わせると、その効果(負債サイドのPLへの金利感応度上昇)は本気で過大評価されていたかもしれません。個人的には、不良債権化(資産サイドのPLへの金利感応度がゼロに)の影響こそ考えられて然るべきだと感じてましたが。
Commented by bank.of.japan at 2006-04-28 12:25
確かに、ケーススタディとして取り上げられる機会は少ない感じです。生きた教材を検証すると、実践への応用度は高いと思います。ALMは特に銀行の場合は、重要な収益マシーンで、こういうことはあまり本に書いてないです。長信銀ALMの件、私も資金繰り面での影響があったとの声は聞いたことあります。実際どうだったのか、この面でも興味深い教材ですね。不良債権化の影響は、私もアグリーです。最初、ALMの実情が分かりかけたこと、不良債権と同規模をレシーブすればいいのかな、と思ったことありました(笑)。なお、当時別な長信銀の知り合いは「ばんばんレシーブしまくっていた」と言っていました。生きるためにキャリーを取る、そのうち「レシーブジャンキーになった」とのことです。悲しいことに、金融監督庁にとどめを刺されましたが。こういうオペレーション上の物語、機会があれば語り継ぎたいです。
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