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金利上昇の心理分析=日銀フリーハンドへの恐怖心
 長期金利が2%に接近してきた。17日は株価が下がったため、金利の上昇は一服となったが、「景気回復」というシナリオに乗った動きである以上、このシナリオが揺らぐ材料が出てこない限り、2%に乗せていくのではないかと思う。
 量的緩和解除後のイールドカーブの動きを追うと、まず“数次の利上げ懸念”から短中期の金利が高くなり、相対的に長期金利が安定化していたためにベアフラット化した。ところが、その後米長期金利がインフレ懸念から上昇、日本の長期金利も連動した格好だ。私としては米イールドカーブのフラット化状態は不変との前提で日本もベアフラット化だと見込んでいたが、米金利のカーブが変わったので、見込み違いの展開となった。トホホ…。
 ともあれ、市場は地合いが弱くなると、今まで無視していた材料も弱気に見る。例えば、短中期の金利を跳ね上げた“数次の利上げ懸念”は長期セクターでも気にされ、もともと押し目買いを入れると期待された機関投資家の動きを鈍くしている。まあ、投資家にしてみれば、待てば待つほど安く買えるなら、待ってしまうもの。売られるとき歯止めがかかりにくくなる構図である。
 さて、ここで問題なのは、金利上昇の根っこにある“数次の利上げ懸念”がなぜ生じたか。もともとは解除直後の審議委員のタカ派発言や、日銀内部での中立金利論議が表面化したためだが、時間軸が消滅して将来の金融政策運営が読みにくいことが背景にある。フリーハンドを握った日銀がどのタイミングでどの程度の利上げを行っていくのか、が不透明なのだ。
 一つには、日銀のメッセージが不安感を煽っていると思う。解除時の声明が「物価の上昇圧力が抑制された状況が続いていくと判断されるのであれば、極めて低い金利水準による緩和的な金融環境が当面維持される可能性が高い」だけならまだよかった。「金融政策面からの刺激効果が一段と強まり、中長期的にみると経済活動の振幅が大きくなるリスクには、留意する必要がある」というバブルを懸念する姿勢が示されたのが結構影響しているように思う。
 インフレ対応の利上げなら、物価動向を見極めていけばいいわけで、政策の方向感はCPI見通しが一つの尺度となる。ところが、「バブル」対応となると、「株価が上がるほど利上げが重なるの?」といった発想を広めやすく、スポット的な地価上昇が脚光を浴びるたびに利上げに怯えるムードが強まる。これに審議委員のタカ派発言が利上げイメージを浸透させ、中立金利(2-3%)が数次の利上げのメドになってしまうのである。
 実際のところ日銀は早めに利上げしたいとは思っているだろうが、それとて願望に近いものであり、先行きの政策運営はフラットなスタンスであると思われる。市場はしかし、みんなたくさんの国債を持っているのに加え、リスク管理も厳しくなっているので、日銀の実際の姿ではなく、日銀がメジャードペースで中立金利に向かって利上げするイメージに怯えているわけだ。日銀の実際の姿など、どうせ誰にも証明できないのだから、弱気のムードでは最大限のヘッジをするのが正解となる。日銀にしても先々の政策が縛られたくないので、「そんなに利上げしない」とかは言えないのである。
 量的緩和を解除した際の決定会合で、財務省や内閣府の代表は、長期金利への配慮や期待形成への配慮をかなり強く求めている。解除前からの“地ならし”を見て、対話下手の日銀がフリーハンドを握ると市場が恐怖するのを分かっていたのだろうと私は思った。その杞憂は案の定、現実になったのである。特に財務省、頭に来ているんだろうなあ。
 長期金利がさらに上がり、リスクが顕在化した場合に日銀がどうするのか。それはまた別途エントリーで。

ps 総裁は会見ではゼロ金利解除に「まったく予断を持っていない」と強く否定するが、「まったく」とか強く否定する言葉が入るほど「本当は解除したいんだろう」と疑心暗鬼を招く不幸な構図にもなっている。強い否定は、肯定の裏返しと受け止められやすい地合いだ。
by bank.of.japan | 2006-04-17 20:40 | マーケット | Comments(2)
Commented by EURO SELLER at 2006-04-18 04:49 x
同感です。わが国の総裁はトリシェのような演技は出来ませんからね・・・え。
Commented by bank.of.japan at 2006-04-18 11:45
EURO SELLERさん、どうもです。願わくば、腫れ物に触わるような慎重な発言を続け、金利市場が落ち着くのを辛抱強く待つしかないないですね。景気回復に「はしゃいだ」のは実は日銀だけですので、慎重な態度が取り続けられるか心配ですが…
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