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金融政策“糊しろ”論の陥穽
 水野委員の講演で気になった点が一つ。以下の部分である。
 「将来の景気減速局面で機動的に対応できるマクロ経済政策として金融政策を位置付けるのであれば、『政策金利の糊しろ』は不可欠です」
 論評する前にまず量的緩和解除の際の日銀声明を見てみよう。
 「先行きの経済・物価情勢については、物価安定のもとでの持続的成長を実現していく可能性が高い。ただ、企業の収益率が改善し、物価情勢も一頃に比べ好転している状況下、金融政策面からの刺激効果が一段と強まり、中長期的にみると経済活動の振幅が大きくなるリスクには留意する必要がある」 
 明らかにアップサイドリスクを警戒した解除であり、「物価安定の下での持続的成長がより息の長いものなる」ための措置だと受け止められる。
 さて、ここで疑問なのは、「将来の後退(減速)局面」がどの局面で来る恐れがあるのか、ということだ。声明で描いた景気シナリオが実現した後の話であるなら、その間にある程度の糊しろはできているだろうから、糊しろ論を今言う必要はない。そもそも、物価安定下の持続的成長が長く長く続くかどうかも分からぬうちから、長く続いた景気回復の後の減速・後退を今から心配するのは意味のある話ではない。
 では、目先の後退局面を心配して糊しろが必要なのだろうか。これは論理矛盾であろう。非常に近い将来の後退ないし減速局面の到来に備えるぐらいなら、そうならないようにしっかりと量的緩和を継続して持続的な景気回復を確かなものにすることが先決であるからだ。
 6年前のゼロ金利解除の際に日銀は一時糊しろ論を唱えたことがある。私はこの解除が景気を失速させたとは思っていない(失速しそうなのに解除した)が、構図としては、糊しろを作るための解除で景気は失速し、それによって糊代を使い果たすどころが量的緩和に追い込まれたようなものだ。水野委員の言う糊しろ論は、あの当時の構図を思い起こしてしまう。
 次の後退に備えた糊しろ作りは、マッチポンプ的でどうもおかしい。少なくとも解除から一年以内の後退は、解除の失敗であって、糊しろがあって良かったね、とはならない。糊しろ論は日銀の隠れた本音かもしれないが、それ自体はよくよく考えると、矛盾だらけであまり口外しない方がいいように思う。

ps 委員の講演では論評したい点(プルーデンス政策としての量的緩和論やバブル懸念など)が数多くあったが、すでに過去のエントリーで何度もしつこく取り上げたので割愛した。
by bank.of.japan | 2006-03-14 21:16 | 日銀 | Comments(17)
Commented by 胡桃 at 2006-03-15 02:35 x
本石町さんの言われる

>ここで疑問なのは、「将来の後退(減速)局面」がどの局面で来る恐れがあるのか、ということだ。

ですが、カントリーリスク(日本にとどまらず、アジア経済、世界経済)が存在すると思いますが。このカントリーリスク(特に、日本以外でのリスク)は突然おとずれる可能性はゼロでないわけで、場合によればハイパーインフレが数ヶ月で起こりえる可能性もあるかと思います。政策金利以外武器を持たない中央銀行としては、のりしろは必須だと思うのですが。
Commented by システム5.1 at 2006-03-15 07:49 x
個人的には、「糊代」というのは???だと思います。あくまで、長期の物価安定などを目標に、現在必要な措置が利上げであり、その利上げが将来の「糊代」になるなら認めますが。
Commented by 胡桃 at 2006-03-15 17:14 x
水野委員の講演要旨を読む限りシステム5.1さんが言われる「現在必要な措置が利上げであり、」の「利上げ」はなにも言っていないです。福井総裁にしろ、「利上げ」は言っていない。量的緩和=「利上げ」と騒いでいるのは、各種レポートとか内閣府が出す統計データをもとにした日銀シュミレーションを精査して論評していないジャーナルの尻馬に乗っているだけではないでしょうか?
日銀にしろ、財務省・金融庁にしろ、各種統計データは内閣府の調査データをベースにするのもので、政府側が国家行政・国策としてのバイアスをもって国の経済を誘導するのは当然です。日銀は通貨の安定(国家の信用)に対して責任をもつ(だから政府に対して独立するとともとに中央銀行として価値がある。)だけで経済誘導に第一位の責任があるわけではないはずです。あくまで日銀は「利上げ」を示唆しているわけでなく、水野委員の「糊代」にしろ「現在必要な処置としての利上げ」を意味するわけでないわけでしょう。各ジャーナルの解釈でもって日銀を批判するのはおかしくて、ジャーナルの各種解釈を評価すべきだと思うのですが。
Commented by 馬車馬 at 2006-03-15 19:50 x
私は量的緩和は一切効果の無い無意味な政策であった、という理解をしておりますので、量的緩和=利上げとは思いませんが、日銀が「追加的金融緩和策」として量的緩和を行ったのは事実であり、それを取りやめたからには(ある種利上げと同等の)引き締め効果がある、又は少なくとも日銀がそのような引き締め効果を期待している、と考えるのは当然では無いでしょうか(だからこそ、私個人は解除前に量的緩和を総括すべきと主張していたのですが・・・水野委員は「大変な仕事が将来に待っている」とか言ってますねorz)。

のりしろ云々については本石町日記さんに同意ですが、記者会見の最後で「潜在成長率を1.5%と考えると、それに比べて現在の金利は非常に緩和的」という発言には眩暈がしました。潜在成長率に比べて実際の成長率が低いから金融緩和するんでしょうが。潜在率と今の金利を直接比べる馬鹿がどこにいるのか、と言いたくもなります(教育責任は日銀にあると思います。せめて大学1年生レベルの経済学は教えてください)。
Commented by 馬車馬 at 2006-03-15 20:00 x
それから、日銀は「通貨の安定に対して責任を持つだけで経済誘導に第一位の責任があるわけではない」というのは50年前には正しかったのですが、現代の中央銀行は通貨・物価の安定だけでなく、景気(失業率)のコントロールにも責任を負うべきだというのが常識的な理解です(そうでなければ、インフレターゲットという議論それ自体が成立しなくなります)。責任の第一位か二位かという議論は責任の押し付け合いになるだけで不毛ですので、ここでは措きます。

それと、今の期待インフレ率が非常に高いことを前提とするなら、現在の日銀の態度はある程度正当化できると思います。ただ、それを示す説得的な証拠が日銀から提示されたとは思いませんが・・・。
Commented by bank.of.japan at 2006-03-15 20:24 x
馬車馬さん、どうもです。量的緩和の総括について、日銀の本音は、「マクロ対応としては無意味であったが、政策運営の道具としては有用であり、時間は稼ぐことができた」であろうと思います。時間稼ぎとは、不健全な政策に追い込まれないよう、何とか時間を稼げた、という意味です。流動性懸念の払しょく効果を謳っておりますが、これは後付けの理屈に過ぎません。「教えて!日銀」にも明記されておりますが、量的緩和導入時に狙った効果は①ポートフォリオリバランス効果②期待への働きかけ-の二つだけでした。展望リポート(昨年秋)が何気に総括した内容は、この二つには触れず、もっぱら金融不安対応を全面に出してマクロ効果を否定しているわけです。
Commented by bank.of.japan at 2006-03-15 20:31 x
私が推測するところ、日銀は量的緩和は無意味とは認めない、と思います。なぜなら①認めると、緩和と称して何度も当座預金を引き上げたことが欺まんであったことがさらけ出され、謝らないといけない(日銀は誤りを認めない)②もしかすると量的緩和を使わないといけない局面が将来あるかもしれず、そのときの政策運営の道具として温存したい-と思われるためです。量的緩和が昔話で語られるときではないですかね(笑)。
Commented by bank.of.japan at 2006-03-15 20:44 x
追記・修正 
マクロ効果を否定→マクロ効果を暗に否定
量的緩和が昔話で→量的緩和が真に総括されるのは昔話で
胡桃さん、どうもです。「量的緩和=利上げ」は「量的緩和解除=利上げ」との前提でお答えすると、私も解除=利上げとは思っておりません。ただ、日銀は解除プロセスについて「概念的に整理すると、極めて低い短期金利の水準を経て、次第に経済・物価情勢に見合った金利水準に調整していくという順序をたどる」と位置付けており、現在は解除の序盤です。水野委員の指摘する糊しろは、無担保コール翌日物を「経済・物価情勢に見合った金利水準に調整する」ことで、この調整は金利の引き上げですから、素直に利上げと解釈されるのですが。
Commented by 胡桃 at 2006-03-15 22:10 x
日銀言動をかってに擁護wするのは、汗、汗、汗。
>「量的緩和=利上げ」は「量的緩和解除=利上げ」との前提
そのとおりでございます。解除が抜けていました。「無担保コール翌日物」の調整は、現時点ではまさに実質金利の引き上げに相当しますね、汗、汗。
Commented by bank.of.japan at 2006-03-15 23:02 x
胡桃さん、どうもです。量的緩和はややっこしい政策なので、解除一つとっても金利政策に切り替えた瞬間を指すのか、中立水準への利上げも含めた全体のプロセスを指すのか、私も混乱するときがあります。お気になさらず、今後ともよろしくお願いします。
Commented by walrus at 2006-03-16 07:49 x
解除後のプロセスが既に昨年10月展望レポートで示されており、連続線上の対応として量的緩和解除の(近距離)延長線上に利上げがあるのは明らか。水野委員講演は、利上げの予告以外の何物でもありません。「金利糊代論」、「金先イールドにbihindした利上げ」への言及は、まず利上げありきというスタンスがみえみえです。実質短期金利マイナスはあまりにも刺激的、従って緩和的状況を維持しながらの複数回の利上げは可能との説明であればまだ許せますが、自分でタカ派なことをいって金先市場に織り込ませ、それを市場が催促していると解説しながら利上げを行うスタンスは、自己実現的利上げ(自作自演)といわざるを得ません。水野委員「ミラーマン」説を声高に唱えたいと思います。
Commented by オレンジ at 2006-03-16 10:23 x
自作自演、その通りですね。期待の誘導が重要な役割である以上、仕方がないかもしれません。市場は共演者(助演、共演、エキストラ?)。ただ、主演者が自縄自縛に陥らなければよいのですが・・・
Commented by システム5.1 at 2006-03-16 12:01 x
私の文章が稚拙なせいか、それに応えて下さった胡桃さんのコメントが私にはよく分かりません。すいません。私も量的緩和解除=利上げとは考えておりません。また、水野審議委員は、「『糊しろ』は特に何ベーシスポイント、何%というものではないと思っている。ただ、半年前の経済情勢の中で、何%の政策金利がいいですかと問われれば、ゼロ金利と答えていたと思うが、現時点ではもう少し高いところにあると思う」(日銀)と発言しています。これは利上げですよね。私が言いたかったのは、「糊代」がただ単に、次の利下げに備えるためのものであれば正当性を欠くということです。でも、よく読むと、そもそもこの水野審議委員言う「糊代」は、通常の「糊代」と違うようですね。
Commented by bank.of.japan at 2006-03-16 12:48 x
walrusさん、日銀“ミラーマン”説、ウケました。
オレンジさん、どうもです。政策委のヒーロー&ヒロインが“鏡(市場)”の前で自己陶酔しないことを祈りたいです。
システム5.1さん、糊しろ論は色々考えてもやっぱり分からないです。
Commented by システム5.1 at 2006-03-16 13:39 x
そうですね。そもそも、「糊代」という言葉が適切ではないと思います。
Commented by 胡桃 at 2006-03-17 04:20 x
システム5.1さんの文章が「稚拙」とはおもっておりません。私の理解力、特に糊代論、に無理があるのは馬車馬さん等から単純に論破されるように、50年前の考えだからです(笑。
21世紀の新しい日本経済の体制に入ってきているわけで、色々な極端な観点からのコメントも、議論のネタになろうかと。どうも、福井総裁をみていると、商売繁盛のえびすさんの顔をされているので、日銀を応援したいわけですね。先の総裁と東証の社長はPCの上ではごみ箱行きのドジふむ顔(icon)をしてますので。
Commented by システム5.1 at 2006-03-17 07:20 x
お誉めにあずかり、恐縮です(笑)。胡桃さん、福井総裁は短気ですよ(爆)。
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