日銀レビューシリーズの最新版「金融政策ルールと中央銀行の政策運営 」(http://www.boj.or.jp/ronbun/05/rev05j13_f.htm)がホームページにアップされている。詳しくはオリジナルをみてもらうとして、ルールとして主に取り上げられているのは「テーラールール」である。経済に中立的な金利水準(適正金利)を推計するルールとして知られている(私はこの手の専門家ではないので、詳しい説明はプロに任せたい)が、推計によっては幅があるため、政策運営上の参考にする際には注意が必要だ。
なぜこんなことを書くかというと、5年前のゼロ金利解除の際、テーラールールを用いた説明を聞いたとき、その内容が「えっ!?」というものであったからだ。当時の解除はファインチューニング的な説明もされていた。景気が良いから、それに合わせて金利を微調整していく、というもの。このロジックだと、適正金利がどの辺なのかが焦点となる。 私は、解除水準が適正だと思って取材をしていたが、ある幹部は「違う。適正水準は1%ぐらいだ」と言った。表面上、平静を装ったが、内心「えぇぇぇぇー、追加利上げを考えているのかぁぁぁ」と驚いたわけである。マーケットでも追加利上げの観測は浮上していたから、適正金利1%論は静かに浸透していたのかもしれない。一般的にマイナス圏、良くてゼロ金利近傍、解除を正当化する場合は0.25%だと思われた適正金利が1%になったのは、短観DIを応用した(これの詳しい説明もプロに任せたい・笑)ものだったからだ。量的緩和が解除されるとき、テーラールールを前面に持ち出すかどうか何とも言えないが、仮にそうする場合、取り扱いは相当に慎重にしないといけないだろう。下手な使い方すると、マーケットが恐怖してしまう。 教訓 ルールは、その使い方によっては政策を正当化するために改ざんされるリスクがある。テーラールールなら、テラー(恐怖=テロ)ルール、エラー(間違い)ルールとなってしまう。 補足 レビュー自体は日銀のオーソドックスな解釈で、なるほどと思う内容。ただ、あの適正金利のグラフはマーケット関係者が見ると、時期が時期だけに「オォッ」と思うかも。
by bank.of.japan
| 2005-09-06 00:57
| 日銀
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Comments(26)
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レレレのレー
at 2005-09-06 09:01
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結論先にありきのテーラールールはいつか来た道ですね。この手のリサーチをこのタイミングで出すセンスも、市場の感覚からすればちょっとズレているのでは。解除の準備運動するのは勝手ですが、今度失敗したらもう後がないです。。。
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そうなんです
at 2005-09-06 09:13
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そのセンスがあまりにも・・。「タイワ!タイワ!」と声高に叫びながら、どうしてこうも・・。
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システム5.1
at 2005-09-06 09:47
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レレレのレさんの意見に全く同感です。そこが日銀らしいとも言えますが(笑)。
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Marx
at 2005-09-06 09:55
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当時「適正水準は1%ぐらい」と言ったA級戦犯が今なお重用されていることに組織の自浄能力のなさを感じてしまうのは私だけでしょうか?
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bank.of.japan
at 2005-09-06 11:40
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みなさん、コメント多謝です。それぞれうなずくところ大です。解除に際しては、余裕を持った対応を望みたいところですが、どうなることやら。今度こそ、「目」と「耳」の駆使を願いたい。
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ラスト何マイル?
at 2005-09-06 23:57
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「市場の感覚」ですか・・・
あまたある個人名論文の1つ1つの公表タイミングについて、どこに軸があるのか分からない「市場の感覚」に合わせて、執行部がコントロールしようとすることが、適切かつ現実的だと思うその感覚に、私はむしろ疑問を覚えます。
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bank.of.japan
at 2005-09-07 00:30
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ラスト何マイルさん、ご無沙汰です。疑問に思われるのは、理解できます。審議委員の地方出張、それにレポート類の発表など、市場ではそれらが何らかのメッセージを伝えるためにセッティングされたものと受け取る風潮があります。よく考えると、かなり前から設定された会見、レポート類で、市場地合いに応じたメッセージの発信は無理なのですが、中央銀行は市場地合いの微妙な変化を把握し、かつコントロールしていると「過大評価」している面があります。日銀が思う以上に、市場は日銀の言動を相当に注目している、ということでしょうか。日銀は巨大組織で、広範な業務をシステマティックにこなしていますから、市場との対話は部分的業務ですが、片方の当事者の市場はそうは見ていない、ということでしょうか。このギャップはかなり大きいですね。非力ながら埋める努力はしたいと思っておりますが…。
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ザモデル
at 2005-09-07 00:37
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私もラストさんと同感です。
たとえばFRBは毎月(地区連銀もあわせれば毎週?)出ている個人名論文の公表時期をいちいちコントロールしていると思いますか。個人名論文に対してそうした見方をしてしまうところが、むしろ「日本の市場の感覚らしい」と言えるのではないでしょうか。 因みにボストン連銀のエコノミストが発表した労働市場についての論文に対してグ議長が先月、公然と批判したのを覚えていますか。個人名論文の位置づけがよく分かる例だと思います。
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at 2005-09-07 00:50
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システム5.1
at 2005-09-07 07:32
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ラスト何マイルさんとザモデルさんのおしゃることはその通りだと思います。ただ、過去の経緯があって、日銀にそういう意図があるという前提の議論だと思います。特にテーラールールの場合においては...。その観点からは、FRBとの比較は当たらないと思います。もっとも、過去の経緯も真実だと証明することが難しいのも確かですが。
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at 2005-09-07 08:57
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普通の感覚
at 2005-09-07 10:01
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「1つ1つの公表タイミングについて、・・・コントロール可能か?」という感覚自体がさらに日銀らしいと思います。どうしてそのように杓子定規にお考えになるのでしょうか。あくまでも個人名としつつも「企画局」仕出であること、微妙な情勢環境に差し掛かっているというさなか、いかにも中身が中身であること、前科があること、等々、ごく「普通の感覚」でみて身構えさせますよ。別に1本1本に神経使えと言っている訳ではありません。「市場」という言葉に「得たいの知れない」「いい加減」のニュアンスをお持ちなら(それはそれで構いませんが)、ぜひ「普通の感覚」で考えてみて頂きたいと思います。
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普通の感覚
at 2005-09-07 10:49
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先ほどの「杓子定規」を誤解されるといけませんので補足を。本来愚直なまでに杓子定規に考えていただくべきことはそのようにして頂かなくてはならないと思いま。世の中に対して示した約束事など。そこに自分から変なノイズを入れるから疑わしい目でみられる。一方、普通の感覚でみて杓子定規だと思われるところに、変なこだわりや屁理屈(FEDはこうだ)を付けてこられるから、これまた疑わしい目でみられる。やっぱりずれているおられるんですよね、感覚が。
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グローバルスタンダード
at 2005-09-07 11:06
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エコノミストというのは日本の市場関係者が思う以上に本来独立した存在で、個人名論文というのはあくまでそのエコノミストの見解です。FEDでもECBでもそれが普通の感覚です。もっとも日本の「普通の感覚」はそうではないという指摘は一理あるとは思いますが。エコノミストである以前に組織の一員であり、サラリーマンであるという固定観念が強いですから。
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bank.of.japan at 2005-09-07 12:23
さらなる議論、ありがとうございます。この問題、突き詰めると「市場との対話」がどうあるべきか、ということに帰着し、これはコメント欄で書くには重い内容ですので、機会があればエントリーで取り上げたいと思います。市場関係者はラストさんやモデルさんの指摘は理解していると私は思います。今回のケースでは、「テーラールール」の過去の経緯もあって、(私も含めて)反応した面があり、それはシステム5.1さんがご指摘したとおりです。普通の感覚さんのご指摘は政策運営ロジックの迷走、政策委員会メンバーの情報発信の在り方という根本的な面での信認を問題視するものだと思います。私も同調するところですが、今回のケースとは切り離して考えた方がいいと思います。なお、金融市場局などは市場感覚に近いですが、日銀としてそれをどこまで受容するか否かは、難しいけれどバランスの取り方ということでしょう。これもここで十分に説明できないので、市場との対話に関連したエントリーで触れたいと思います。
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普通の感覚
at 2005-09-07 13:31
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しつこいですが、最後に一言。「突き詰めると「市場との対話」がどうあるべきか・・」なんていうのは、決して難命題ではありません。「オレがこう言ってんだからお前らそう理解しろ」的な発想を捨てて頂くことです。マーケティングとか、IRとかをもっと勉強して頂ければと思います。
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at 2005-09-07 13:33
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レレレのレー
at 2005-09-07 15:11
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「個人名論文だから」という逃げ口上は、Fedはともかく、日銀の場合は通用しにくいと思います。組織の見解を個人名で公表するというのはいわば常套手段ですから。展望レポートの数字でさえ、「審議委員の見通し」になっています。企画局仕出であれば、局長、あるいは担当理事のチェックさえ入っているであろう、と思うのが「市場の感覚」です。「どこに軸があるか分からない」のであれば、分かるよう頻繁に対話してみるのも一法かと思います。確かに、市場にはおかしな事を云う人も沢山いるかもしれませんが、そこでついた価格にはすべての意見が集約されていますから。
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マーケティングする中央銀行?
at 2005-09-07 16:25
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FEDをはじめ世界各国の中銀エコノミストがマーケティングやIRを一生懸命勉強しているとは思えません。彼らは経済学専攻のPh.D.で、殆ど学者のような人も結構います。
「担当理事のチェックが入っているに違いない」というのは恐るべき指摘で、米国の債券市場のディーラーがFinance and Discussion paperを見て、ファーガソンのチェックが入っていると思うわけもないので、それは普遍的な「市場の感覚」ではなく、「日本人の市場の感覚」と言うべきでしょう。 指摘の事実はともかく、組織の見解を個人名で出すというのはやや穿った見方ですし、そうだとしても、そうした「日本的風習」は変わりつつあります。それ自体はよい方向ですから、市場関係者も変わっていくべきではないでしょうか。
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at 2005-09-07 16:34
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レレレのレー
at 2005-09-07 18:42
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「恐るべき指摘」とのご指摘ありがとうございます。それにしても、テーラールールをネタにこれだけのコメントが短期間で集まること自体、この種の政策反応関数における感応度の高さが表れた感があります。これは企画局にとり一つの収穫であったのでは、、、とまたまた穿った見方をしてしまいます。
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at 2005-09-07 19:10
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ラスト何マイル?
at 2005-09-07 23:54
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先のコメントで、私の言葉遣いがぞんざいであったために、一部の方に不快な思いをさせてしまったような気がします。失礼致しました。
私は、決して「市場」という言葉にネガティブな印象を持っている訳ではありません。そこには、多くの情報を多くの人が色んな形で消化したものが煮詰められていて、その集大成である「価格」はrespectすべきだと思っています。 ただ、一方で、「我こそは『市場』の代弁者なり」といったことをおっしゃる方には、違和感を覚えます(その点、非常に的確なエントリー・コメントを書かれながらも「市場の片隅から」とおっしゃるドラめもんさんのスタンスには、強く共感します)。
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ラスト何マイル?
at 2005-09-07 23:55
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日銀も「普通の感覚」で判断しろ、というご指摘は、そのとおりだと思います。ただ、今回出されたレポートの内容は、全体として決して刺激的なものではないと思います。その中で「オリジナルのテイラー・ルールが示す日本の政策金利の例」のグラフの一部分に刺激を覚えること、そうした人が居ることに配慮して論文の発表時期をずらそうとすることは、本当に「普通の感覚」なのでしょうか。
なんだか長くなってしまいましたが、要するに、余り細かいところに目くじらをたてて批判し合うのではなく、お互いにお互いの立場に身を置いた気になってみて、建設的な話をしたいものだなあ、と思う次第です。 失礼しました。
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at 2005-09-08 00:29
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普通の感覚
at 2005-09-08 06:42
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ラストさんどうもありがとうございます。わざわざお気遣い頂いた「一部」とは当方のことだと思いますが、現日銀の中にもラストさんのような方がおいでになることには救われる感じが致します。我こそは『市場』の代弁者なりのつもりでは全くなく、(正直吐露申し上げて)日銀OBとして申し上げさせて頂くと(といっても落ちこぼれ・挫折組ですが)、日銀はそれだけでやはり色々な面で”特殊”なのです。「お互いの立場に身を置いた気」というのもいいですが、もっと我々の目線に”降りて”来て頂くことが先決です。FedだECBだと持ち出す前に、日銀も「日本国の公僕」であることを忘れないで頂きたいと思います。「君子ドブ板を踏まず」では、まともな仕事はできません。
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