市場との対話においては単なる雑音でしかない、というのが私の理解だ。本業では一度書いたが、こちらでも改めて解説したい。通常の金融政策はフォワードルッキングが基本となる。つまり、将来起こりうる事態に備えて早めに政策を舵取りするわけだ。これは、政策変更の影響が実体経済に及ぶまでにはタイムラグ(いろいろな見方があるが、ここでは半年から一年半と仮定)があるからだ。インフレになってから利上げしても手遅れであり、今から半年-1年半後にインフレになる可能性が高いなら、今利上げするわけだ。景気が悪くなりそうなときは逆。
日銀の場合は特殊で、緩和方向に制限はないが、解除は足元CPI(前年比上昇率)が安定的にプラスになるのを確認しないとできない(こうなった理由は省略)。つまり、将来のインフレをどう予想しても、現実に物価がプラスにならないと解除できない仕組みにある。フォワードルッキングに対し、ビハインド・ザ・カーブを約束した金融政策と言える。 日銀が来年度の予想を行ったのは「強めの見通しを出し、解除を示唆することで出口政策への思惑を温存し、来るべきイベントで市場の過剰反応を避けたい意向がある」(知り合いのエコノミスト)と思われる。だが、足元物価に連動する政策を取っている限り、解除思惑を温存する狙いは叶わない。まず日銀の予想が当たるとは限らない。もともと1年以上先の経済・物価の正確な予想が困難なのは市場関係者の多くは知っており、日銀は既に今年度の物価見通しを外してもいるため、予想は願望に過ぎない。従って、経済・物価に対する見方を市場と共有し、将来の解除を織り込ませようとするのは無理があるのだ。 そもそも市場関係者の相場観のタイムスパンはかなり短い。日計り筋はデイリー、債券ポートやALM関係者はそれよりは長いが、せいぜい数週間、最長でも中間決算までか(違ったらご意見を)。解除は余程現実味を帯びないと織り込めないわけで、来年度の物価はプラスと日銀は予想しても、今解除するわけでもなし、予想も当たるか怪しく、市場としては反応できない。むしろ目先の株価や統計に左右され、株価が軟調になったり、統計が悪いと日銀の予想などすっかり忘れてイールドカーブはフラット化するだろう。 私の山勘としては、来年度の予想も外し、日銀は予想ベタであるとの印象が定着。将来フォワードルッキングに戻っても、市場との対話がなかなかうまくいかないのではないか、と恐れている。来年度の予想をするかどうかをめぐっては、政策委員会でも異論があったのは事実のようだ。無理するとろくなことはないのだが。運不運でいくと、日銀の運はあまりよくないので、裏目に出る予感がする。 なお、マーケット関係者に参考まで。 日銀は ・潜在成長率は1%としている ・来年度いっぱい、景気の山は来ない(ずーっと回復基調をたどる) ・来年度のCPI改定は織り込んでいない ・金融システム不安はリスク評価から外した そうです。 ご意見・感想があればどうぞ。
by bank.of.japan
| 2005-04-28 22:58
| 日銀
|
Comments(13)
私は、今回のリポートについて、あまり違和感を持ちませんでした。本石町日記さんの指摘に対しては、以下のように考えました。
・目標とすべきインフレ率がsmall but positiveであれば、「ゼロ%以上」というハードルは決して高くなく、ビハインド・ザ・カーブの政策運営を意味しない。 ・市場関係者の相場観が短いのは、短視眼的な投資家しかいないことに問題があるのであって、中央銀行の見通しがどうあるべきかとは直接関係がない。 ・1年以上の経済・物価の正確な予想が困難だから、予想を出さないというのも、中央銀行の姿勢としてあるべき姿とは思えない。民間は1年を超える見通しを出しており、そうした見通しに対するニーズはある。 ・中央銀行の見通しは、それを基に政策運営にも言及することで、政策反応関数を明らかにすることに目的があり、当たりはずれが重要なのではない。
0
・CPI改定の影響は、パソコンを対象に含めた2000年基準への移行の際も0.25%程度しかなく、総務省が大掛かりな改定をしようとしていない2005年基準への移行については、影響が過大視されている。
・回復基調が続くと言っても、潜在成長率をほんのちょっと上回る程度でしかない。CPI前年比の改善もごくわずかで、それは、過去の関係からみて、無理したものではない。 ・これだけ長い期間に亘って景気の振幅がないというシナリオについては、議論の余地がある。特に海外経済の拡大基調持続については、かなり強い前提のような気がする。
いずれにしても、問題は、構造問題の調整が進捗しても、この程度の経済の姿しか展望できないということにあるのではないでしょうか。経済の力を最大限に引き出すことができない社会経済全体に問題があるような気がします。そうしたもとで、そのつけまわしが全て日銀にまわされる、まわされようとしているということなのでは?それに対するささかやかな抵抗が今回のレポートであるような気さえします。だけど、そんなささやかな抵抗なんて、誰も気が付く訳がない、仮に気が付いても無視する、ということでしょう。日銀が何をするか分からないという感じが高まってこないと、市場は日銀の微妙な言い回しの変化を深読みするようにはならないということでもあり、確かに、それまでは市場との対話は成立しそうにないですね。
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
???さん、どもです。かなりお詳しそうなので、かいつまんでコメントへの感想を。現状、ビハインド・ザ・カーブですが、インフレリスクの面ではリスキーとは言い難く、その意味ではご指摘の通り。市場関係者の相場観が短いのは、そういうものだという気がします。ブラインダーも「金融政策の理論と実践」で、近視眼な市場との対話の難しさを指摘していた気がします。一年後の見通しは出さないより出した方がいいですが、最初から春の時点で来年度分を出していた方が、良かったように思います。なぜ今、というタイミングが気になります。「政策反応関数」の観点は気づきませんでした。ちょっと調べて見ます。CPI改定の影響度は知り合いのエコノミストに聞いてみます。海外経済の評価は同感しました。景気振幅の微弱性は、むしろ構造問題の調整が十分に進捗していないからではないかと思います。「ささやかな抵抗」は深い読み方ですね…。示唆に富むコメントありがとうございます。引き続きよろしくお願いします。
展望レポート導入前段階において、予測を出すことについて外れることによる信認低下リスクを警戒するスタンスが日銀内に根強く存在していたのを記憶しています。隔世の感を禁じ得ません。
「CPI前年比の改善もごくわずかで、それは過去の関係からみて無理したものではない」
本当にそうでしょうか? 恐らく、本日出された「展望レポート」の図表10「最大産出量ギャップと消費者物価指数」において、最大産出量ギャップに付けられた係数0.43を念頭に置かれたご発言と思われます。しかし、私は天下の中央銀行が、たかだかこの程度の根拠で物価予想を公式に出すことを兼ねてから苦々しく感じております。この近似線の係数は過去20年超の計測期間における傾きの平均値に過ぎません。1-2年程度の期間を取ってみればほとんどランダム・ウォークの世界です。超長期の関係を1-2年程度の短期分析に当てはめている日銀こそ短視眼的との思いを禁じえません。
walrusさん、予測を出す出さないではいろいろ議論があったのを思い出しました。私は今でも審議委員の予測ではなく、執行部がもともと内部で持っていたはず?の数字を出した方が良かったのでは、と思っています。一発逆転さん、なかなか厳しいご指摘。日銀としては公式の予測ではなく、総裁も言っていたように、数字はあくまでも参考・イメージということらしいので。数字よりも景気を予想する際のシナリオが大事だということを力説しています。フォローになってませんが…
経済指標の予測が難しいということは、一般に共有されていることだと思います。一つの指標に対し多くの予測が存在するというのが現実だと思います。中央銀行が予測を出せば、形の上では、その予測力の高さを世に問うことになるわけで、当初、日銀が慎重であったのも、頷けます。でも、出さないと、その先の話ができません。市場よりも予測力が高いことを示すことに目的がある訳でなく、その予測を基にどのように金融政策を運営するかを示すことに、見通し公表の主眼があるのではないかというのは、そういう趣旨です。日銀の行動をサポートするような発言をするとそれに対し厳しい反論が返ってくるというのはまさに噂に聞いていた通りですね(笑)。日銀はもう少し人気取りが必要そうです。
私は予測を出したこと自体はそれまでに比べると大きな前進だと思っています。ただ、まだ予測の歴史が浅いですし、今はまだ厳しい評価にさらされる時期なのでしょう。いずれは???さんのご指摘されたことが浸透するのではないかと思うのですが。このブログも日銀をテーマにしていること自体が厳しい目でみられているのではないか、とふと思ったりします。
ついでにもう一言。「当たりはずれが重要なのではない」
本当にそうでしょうか。当たりはずれは、信認獲得の上でやはり重要と思います。Fedの信認もグ議長の概ね的確な景気判断に負うところ大です。私は、審議委員の見通しという変則的な形ながら経済予測のヘッドラインだけでも示すようになったことは大きな前進だと思っています。でも、当たるか当たらないかは問題でない(あるいは、予想ではなく願望である)という程度のスタンスであれば、市場としてはこれに正面から向き合えなくなります。あるいは、今回の日銀のやや大胆な見通しに市場が無反応であったのは、そういう匂いを敏感に感じ取ったからでしょうか。それとも単なる連休ボケ?
「当たるか当たらないかは問題でない」という言葉は、舌足らずであったかも知れません。少なくとも「予想ではなく願望である」という話とは違います。どちらかと言うと、「政策の説明責任は、直感でそう思ったというのでは果たされない、多くの人が納得する(全ての人ではなさそうです)ロジックを伴っていなければならない」というくらいの趣旨でした。誤解を生じさせてしまったとしたらすいません。見通しについて政策委員がどのように考えているかを日銀のHPを探してみたら、植田元委員が2004年 9月16日に行った講演「最近の金融経済情勢と金融政策運営」がありました。これをみる限り、見通し期間の延長は、それなりの覚悟をもって行われているような気がします。
植田前委員はこの講演で、予測の難しさを繰り返し強調していたように記憶します。もっとも、これまでのところ、日銀の予測は民間より多少ましといった説明だったような。確度が増していけば市場もより尊重し、それに当たった方が調査統計局の早川局長以下職員もうれしいのではないかと思うのですが。
|
ライフログ
検索
最新のコメント
カテゴリ
全体 リンク 連絡先について メルマガ 日銀 経済 マーケット FRB&others 金融システム 替え歌 欧州便り ユーロ マスコミ ブログ紹介・お知らせなど ALM 大機小機 その他 議事録 一万田総裁 未分類 以前の記事
最新のトラックバック
ブログパーツ
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧
| ||||||||||||||||||||||||||
ファン申請 |
||