日経新聞「経済教室」に伊藤隆敏東大教授の論文が掲載された。
詳しくは読んでいただくとして、まずは実務的な欠陥が一つ。 伊藤教授は、札割れで当座預金残高が維持できない場合の処方箋として、当座預金への付利(利息を付ける)を提唱している。付利すれば当座預金残高は確かに維持できる。ところが、その利息(金利)水準はインタバンク金利のフロアとなる。すなわち、付利すると「利上げ」になってしまうわけだ。当座預金付利は、量的緩和の円滑な解除方法として位置付けられ、日銀内でも議論されたことがある。流動性を回収せずに利上げが出来るからだが、やり方としてはかなり邪道なので、今ではほとんんど話題にならない。 ただ、金利が正常化した際の金融調節体系を考えた場合、日銀は当座預金に付利する可能性が高いと私は思っている。先行して導入したロンバートを市場金利の上限とする一方、当座預金に付利して市場金利の下限を設け、金利回廊の中で市場金利を誘導していくのではないだろうか。かつてのドイツ連銀、現在の欧州中銀型の調節に近い。 それから疑問点について。当座預金に付利すると、それ自体が銀行から見て運用対象となるので、ポートフォリオリバランス効果などはなくなる。当座預金はただの「見せ金」だ。伊藤教授はその上で、インフレターゲットの導入(例えば1-3%を06年度末までに達成)を訴え、それをやれば当座預金残高は下げてもよい、との考えを示す。この場合、日銀は目標達成の手段を欠いたまま、インフレ目標を掲げることになるが、果たして「期待への働きかけ」だけで本当に物価が上がるのだろうか。 私は経済理論の専門家ではないので、期待形成論的にどうだこうだ言えないのだが、分かりやすく言えば、日銀が「06年度末に物価は1-3%になる」と宣言すれば、国民がそれを信じて物価が上がる、ということであろう。そのためには日銀への信頼が絶大で、人々が盲目的に信じないといけない。日銀信仰のような宗教を思わせ、想像するとちょっと不気味が感じがするのだが…。以前、日銀幹部と量的緩和の効果について議論したとき、いきなり「心理的な効果があるんだ」と強調し始め、私は「じゃあ、あなたの奥さんは効果を信じているのか」と言ったら、幹部は「うーん、信じないだろうなあ」とぼやいていた。 伊藤教授は「日銀が決断するとは思えない」としているが、やはり買い入れ債券の多様化を訴えたうえで、インフレ目標の導入を求めた方が筋が通ると思う。いずれにせよ、日銀という組織は実務家なので、目標を与えられると、それを達成する手段を考える。手段と目標を合わせた提案をしないと、日銀との議論はかみ合わない。この論文の主張では、恐らく失笑を買うだけで、無視されてしまう気がする。
by bank.of.japan
| 2005-03-29 15:26
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Comments(1)
エントリー拝読して慌てて当該記事を読みました。うーん、当座預金付利じゃあ実質利上げですわな~。資金供給を強制的にゼロ金利で行うのとセットだったら銀行への補助金??考えているうちに訳判らなくなって来た。
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