FRBが「預金ファシリティ」という吸収手段を導入する。既にリバースレポ(試験実施済み)もあり、吸収手段の品揃えを充実化させている。遠い将来には国債&MBS売り切りなどの実施も視野に入れているのだろう(できるかどうかは不明)。ここではこれら吸収手段の有効性はさておき、もっと基本的なこと、即ちなぜ手段を増やす必要があるのかを簡単に説明したい(基礎編ですので、資金関係者は無視を)。
まず、そもそもお金に色は無いので、供給も吸収も手段はそれぞれ一つでいいor少なくていい、と考えられる。インタバンクが一つの大きな水溜りで、そこに必要量を出す、または吸い上げれば、金融調節の基本作業は終わる。出すor吸うのは、要は水溜りの量の加減さえできればいいので、手段は何でもいいはず。極論すると、一つの手段で出し、一つの手段で吸えればいい。 しかし、このインタバンクは見た目は「一つの大きな水溜り」だとしても、水溜りの中は微妙に分かれており、意外に水の流れが良くなかったりする。実は、水溜りは幾つかに分かれ、それぞれの間の水の流れが悪いと、中央銀行が必要な量を投げ込んでも、水溜り全体に浸透しない可能性がある。この時、中央銀行がやる対応は大きくは二つある。①放置する②親切にする(分かれた水溜りそれぞれに金を投げる)。 ①を選ぶと、金の出し&吸いは適当で、お金が届かない水域の金利が上がったり、逆に下がったり、短期金利のボラは総じて高くなる。②は、ボラは低くなるが、中央銀行の手数は増える。①の典型はFRB、②はわが日銀である。ECBはちょっと違うが、これは別途必要があれば解説したい。 で、FRBである。ご案内のようにもともと調節手段は少なく、国債系のオペでやや大雑把に調節をやっていた(FF金利の上下動はあまり気にしない)。マーケットは直接金融が発達し、FRBから遠い水溜りの市場関係者はその中でいろんな担保を使って自立して資金繰りをしていた。ところが、バブル崩壊で担保がうまく使えなくなり、各水溜りは干上がる危機に直面した。FRBはこれは大変だとばかり、各水溜りに向けた供給手段を装備。おかげでB/Sは急膨張したのである。ちらばっていた水溜り(で使われていた担保)をそのまま腹に抱え込んだわけだ。 吸収手段を増やしているのは、急膨張過程で実施した国債・MBSの買い切りが資産に長期滞留し、これは売り切りによる吐き戻しが当面はできないため。買い切りで放出された金はいろんな参加者に散っているため、満遍なく吸収するには手段は多い方がいい。例、日銀の売手は銀行が中心だが、国債売り現(リバースレポに相当)は証券会社が多い。 日銀は昔からインタバンクのいろんな資金取引市場(水溜り)に全方位のオペを実施し、これは緻密に金利を誘導したいためでもあるが、ある意味では優しい対応を取ってきた。逆説的には、やさしいから市場内の資金偏在が温存され、あまり資金循環の効率がよくないという面もある(なので市場機能論は嘘っぽいとも言える)。 FRBは放任的調節で発達した各水溜りがいきなり壊れて一気に日銀化し、しかも壊れ方が激しかったのであっさりと(供給の数で)日銀を追い越し、今は落ち着き始めたので急速に巻き戻しのインフラ整備をしている、という状況だ。この巻き戻しがうまくいくかどうかはよくわからない。かなりターム物金利が上がる気がするのだが、これは別の機会にでも考察したい。 FRBの取引先も随分増えたが、これは干ばつによる難民を受け入れたような措置でもある。
by bank.of.japan
| 2010-01-03 23:29
| FRB&others
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Comments(5)
素朴な疑問なんですが。
こういう話を聞くと、リフレ派の言ってることは、そもそもFRBとかおそらくイングランド銀行、そしてわが日本銀行との間にあるはずの、中央銀行としてのあり方や機能が違うのにも関わらず、その違いを無視して論じてるようにしか見えないんです。なんで、リフレ派の人たちは、そこを無視するんでしょうか、とここで言っても仕方がないんですが、リフレ派の人たちのほうでは、こういう話はできない空気を感じるので。 と、とりあえず、リフレについてはいまのところ私も本石町さんのスタンスに似ていて、日銀総裁がもうちょっと芝居すればいいのに、という以上の意味があるのかな、というところです。
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日銀がやっていた量的緩和はターゲットとしての「数字」があって、広い対象に向けたコミュニケーションとしては分かりやすい、というメリットはあったと思います。まあ、それを恣意的に使うか使わないかが論点ですかね。
預金ファシリティは、Fed版の売手ですね。そうなると転々流通性とかは議論されたのでしょうか。
まさに技術的な争点がこれ。エントリーで取り上げるかもしれません。
売手は、金の需給(金利)と物の需給(レポレート)を切り離す点で柔軟なツールだと思います。MBSやAgencyを沢山買ってしまった一方で、資金吸収に当たってレポマーケットに影響を与えたくないFedが導入する理由もそこではないかと思いますが、中銀の負債が新しく作り出されることに関しては哲学論争を引き起こしやすいのでしょうね。
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