しばらく前、ツィッターで記者クラブの開放問題をつぶやいていたので、そのまとめをこちらでやってみたい。私がこの問題で関心があるのは、このエントリーに関連するが、開放後のビジネスモデルである。ここでは対象となる記者クラブを官公庁に絞る(つまり政治経済ニュース)が、誰でも参加できるようになれば、果たして誰が生き残るのか。
まず、現状である。マスコミは「記者クラブ」をベースに取材し、マス向けにニュースを流している。一部はマーケット向けに実務的なニュースを流している。で、儲かっているのか。ダメである。どこも苦しくて悲鳴を上げている。ニュース量が減って、売り上げが落ちたのか。違う。むしろニュース量は政変やら金融危機の余波で増大しているかもしれない。主因は、広告収入が落ちていること。ニュースに関係なく、企業は金を払ってくれない、払う余裕がないのだ。 新聞社は個人にニュースを売っているが、広告収入の減少をまさか新聞代の値上げで補えるはずもなく、発行部数は落ちる一方だ。簡単に言えば、既存マスコミはどんどん儲からなくなっているわけだ。 で、新規参入組である。個人かもしれないし、異業種かもしれないし、ベンチャーかもしれない。いずれせよ、取材に参入した人or組織は、まさかタダ働きするはずはないのだから、記者クラブ開放をビジネスチャンスとしてみなしているのだろうと思う。NPO的な動機でもよいが、それでも法人なら人を雇うコスト、または個人なら最低銀餓死しないだけの収入は必要なはずだ。 新規参入組にとって幸いなのは、既存マスコミを反面教師にすればよい、ということ。つまり、より少ないコストで取材し、人々が金を払うニュースを安いコストで提供すればよいのだ。そのためには、①スクープは狙わない②マスコミとは違う切り口のニュースを書く③ネットを利用し、校閲・整理部を無くす-がポイントとなるだろう。 ①は、スクープの大半はいずれ明らかになる事実を早く報じるもので、そのために夜討ち朝駆けなどで膨大なコストがかかっているため。②は、既存マスコミとの差別化のため。③は、ニュースが人々の手元に届く間のコストが莫大なため(多少の誤字脱字や変換ミスをなくすために別な人を雇うのは無駄でしょ?)。 以上をクリアして画期的な取材モデルと画期的なニュースビジネスを考え出したあなたは、新たなマスコミ王です。初期的には、クラブ開放で物珍しさからたくさんの参入があるかもしれないが、いずれにせよタダ働き的な取り組みは長続きしないので、大半はあっという間に消えていくでしょう。 ps あなたの考え出したモデルが画期的でも、模倣が簡単なら既存マスコミが取り込むので、競争は厳しいでしょう。また、あなたの考えた画期的なニュースが売れないとしたら、もはや人々はニュースはタダで読むものであり、金を払うぐらいならニュースはいらない、という風土なのかもしれません。この場合、「マスコミ」(大衆向けの政治・経済ニュース)はビジネスとして終了。 ps2 一般論として、パイが縮む市場で生き残る方法は、より弱い会社が死ぬのを待つこと。このため、体力のあるメディアが生き残り、市場の寡占化を図る。このとき、ニッチ的に生き残る空間はあるので、そこがチャンスと言えばチャンス。大部隊の正規軍が無敵となる広い大通りに迷い出たりせず、路地裏の暗闘で勝つ方法を見つければよい。
by bank.of.japan
| 2009-10-20 21:19
| マスコミ
|
Comments(20)
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広報室長未経験者
at 2009-10-20 22:54
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私は最強の既得権益保有者は記者クラブに守られたメディアだろうと思います。これほど閉鎖的な組織もまずお目にかかれません。まずは、記者クラブを開放して市場の淘汰に任せるべきだと思います。基本的には新聞の専売制も同じです。
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いつどこ名無し
at 2009-10-20 23:31
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大手マスコミという大規模正規軍が本来得意であろう、事実をひたすら垂れ流しながらその履歴を保持し、いつでも遡れるようなデータベースを提供する、ということをどっかにやって欲しいですね。
そりゃ官報とか議事録とか取り寄せて全部見ればある程度追っかけられますが、他に仕事を抱えてる社会人が毎日そればっかりやってるわけにはいかんですし。 既知のデータを元にしたグラフや表を提示したり相関のある情報にポインタをつけるとか、またそういったサマリを読者側でも作れるようにすれば、特に売文するまでもなく十分に付加価値を載せられると思うんですよね。 大手がこれをやらない理由は能力的にできないからではなくて、情報の独占と配信内容の選別がマスコミの力の泉源だと理解しているからでしょう。社内データベースは各社大事に抱えてるはずなので。 そこをかなぐり捨てて体力勝負に出られると死にますが、その場合は討ち死にする前に白旗を揚げて大手と事業合弁し、死して皮を残すというのもいいのでは。
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bank.of.japan
at 2009-10-21 00:38
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広報室長未経験者さん、どうもです。「最強の既得権益」=「巨大な収益源」であるなら、これをマネタイズできない既存マスコミはかなり無能であり、しかるにクラブ開放は多様なマスコミビジネスの発生を促す起爆剤となるはず。であるなら、私は開放論に賛成です。
いつどこ名無しさん、どうもです。意外に思うかもしれませんが、マスコミ各社はいかに収益を作るかを必死に考えております。「情報の独占と配信内容の選別がマスコミの力の泉源」のために死ぬつもりはどの会社も全然思っていないので、ご指摘のビジネスが収益源となるなら、どこかが手がけるのではないか、そうして欲しい、と強く願っております。
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ぬぼ
at 2009-10-21 00:47
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例えば日銀で言うなら、記者会見に経済学者が乗り込んできて丁々発止のやりとりが繰り広げられたら、非常におもしろいとは思うのです。売り出し中の経済学者だったら、うまくすれば名前を売る絶好のチャンスだろうに…。
ニュースの量が増えたのに売上は落ちているっていうのは、不況で広告絞っているのが第一でしょう。ただ、それとは別に、情報量が増えすぎて却って必要な情報にアクセスできなくなっている…それがために情報の価値が激減しているのではないでしょうか。そこら辺も以前から言われていることではありますけど。 ニュース読者の個人として言うならば、「お金を払って読みたくなるような価値のある記事がほしい」というところですが、実際はそういうものは週刊誌でも厳しいかもしれず、書籍でないと得られないかもしれないですね。
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bank.of.japan
at 2009-10-21 01:05
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ぬぼさん、どうもです。「記者会見に経済学者が乗り込んできて丁々発止のやりとり」がマスコミ報道として十分な収益源となるなら、私はかなりアイデアあります。そうなればクラブ開放はかなりわくわくします。
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北の書生もどき
at 2009-10-21 01:28
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こんばんは。ニッチ的なニュースでも面白ければお金は出します・・・とは言え、小生の可処分所得から、ニッチなニュースに出せる金額は月500円くらい(苦笑)・・・i-modeか有料メルマガであれば、実現可能性は割合高いのかもしれませんが。
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bank.of.japan
at 2009-10-21 01:41
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北の書生もどきさん、どうもです。このブログ、そのお値段で有料化できるなら、もっと面白い日銀ネタぶちこんで配信可能ですが(苦笑)。
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いつどこ名無し
at 2009-10-21 02:23
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コメント頂き恐縮です。なるほど、そこまで追い詰められている状況でしたか。
個人的に、ある程度コストと手間暇をかけて自前のデータベースを整備・維持しているのが現状なので、これが一般的かつ精度の高いサービスとして提供されるなら、どの社のサービスであれとりあえず喜んで飛びつきますね。しばらくは併用して内容比較する必要があるでしょうが。 横レスですが、 > このブログ、そのお値段で有料化できるなら、もっと面白い日銀ネタぶちこんで配信可能ですが(苦笑)。 最近、ブログに付随して有料メルマガを発行するお方が増えてますね(課金や配信のシステムはまぐまぐ等を利用しているようです)。実際、これぞと思う人の有料メルマガはお金を出して何箇所か購読していますので、よろしければ本石町さまもご検討いただければありがたいです。
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PK
at 2009-10-21 07:17
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ジャーナリズムは、現実からテキストを起こす段階を担当する仕事ですから、過去の批判的思考から蓄積された知識を使って、漠然とした現実の中に、構造を想定し、どの部分がノイズを出すかに習熟することだと思います。
取材対象の構造ごとに、ノイズをだす場所と特徴は違ってくるでしょう。 そのノイズを意味づけるのも、ジャーナリストの力量だと思います。
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椿ライン
at 2009-10-21 19:08
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毎度興味深いエントリー、ご苦労様です。
個人的に、良い情報ならお金を払って読みたいですが、WSJやワシントンポスト、NYタイムズなど質の高い海外メディアがネット上で無料(一部は裏技で可能)で見れますから、記者クラブモノ・企業の発表モノしか報じない国内メディアにはお金を払いたくないですね。スクープの有無もさることながら、論調・分析にミスリードが多いこともマスコミが専門家に評価されなくなった一因かと思います。 その意味で、私も本石町さんの有料ブログなら購読したいです(^^
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通りすがり
at 2009-10-21 22:05
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記者クラブの開放より、記者クラブの発表内容(質疑応答含む)のブログ公表がいいです。警察も市町村の役所も、とにかく全部。それを一般人がRSSでおっかけられれば、速報性を争うつまらない記事は不要になって、馬鹿な質問を公開されて困る記者が真面目な質問をするようになって、ついでに夜討ち朝駆けなんかも不要になって、深い記事を書かざるをえなくなって、読者だけでなく結果的には記者もハッピー、になりませんか。
「誰でも取材できる」と言っても実際にはほとんどの人にはできませんので、これは知りたければ取材に来てください、と省庁や記者の言い訳にされてしまいます。
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bank.of.japan
at 2009-10-21 22:12
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椿ラインさん、どうもです。ありがとうございます。
通りすがりさん、どうもです。カバー範囲がどこまで出来るか不明ですが、やりとりを文字に起こすだけの作業なので、難しいことではなさそうです。問題はやはり潜在的読者数と課金でビジネス的に採算に乗るかどうかでしょうか。
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bank.of.japan at 2009-10-21 22:30
通りすがりさんへ追加。
会見のやりとりは文字で起こすより録画をそのまま流す方が表情なども盛り込まれて圧倒的に情報量が多いと思います。また、編集の必要がないので、我々も楽なのですが、いかがでしょうか。
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先ほどの通りすがり
at 2009-10-21 23:14
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あっという間のレスポンスに逆質問までいただいて、恐縮です。
録画は、後でその場の雰囲気や声の調子や質問した記者を確認するためには、一緒にあったほうがいいと思います。ただ、こちら(読者)の立場としては、文字のほうが同じ情報量を短時間で情報を受取れます。1時間の記者会見を1時間かけて見ていたら、1日にひとつの記者会見が精一杯です。なので、文字が主、動画が従です。 録画を面白く使うなら、ニコニコ動画にアップして、その会見にツッコミを入れる、というのがありますが、それだとよくも悪くも反応が極端になってしまうので、被会見者には厳しいかもしれません。 あと、どちらかというとメディアのビジネスについては私はどうでもよくて(申し訳ないです)、それを見た一般人の解説に期待しています。人事一本で1日でいろいろ含みのあるエントリーを書く人(本日の極東ブログとか)もいることですし。
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PK
at 2009-10-22 08:28
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批判的思考の過程
(1)リアルからテキストを起こす(結構難しい) (2)証拠付ける (3)要約する (4)構造化する。再現性や安定性を推定する。 (5)多様な文脈から検討・批判する (6)ライブラリーに保存する 戦略的思考の過程 (1)目的を定める (2)仲間を集める (3-1)対話と内省から戦略の道筋を立てる (3-2)ライブラリーから使えそうな概念を探す (4)資源を用意する (5)実行する
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bank.of.japan at 2009-10-22 22:03
先ほどの通りすがりさん、どうもです。参考になります。ありがとうございます。
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売り出したい経済学者
at 2009-10-23 05:18
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大学で経済学を研究、教えている者です。
記者会見が開放されても、「まともな経済学者」がそうした場に乗り込むようなことはまずないとおもいます。記者会見で名前を売ったところで、アカデミアで評価されるような業績にはまったくつながらないからです。 また、経済学者を名乗って、マスメディアに頻繁に登場するほとんどすべての方は(特にマスコミ、官僚出身である場合)、所属が大学であっても、残念ながら、経済学の体系だった教育を受けたこともなく、、研究をしていることも、したこともない方ばかりです。「まともな経済学者」であれば、そういった方々と同列にみなされることを嫌うかもしれません。
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bank.of.japan
at 2009-10-23 21:05
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売り出したい経済学者さん、どうもです。アカデミックな世界で活躍する方が、基本としてはアカデミックで評価されるのが一番であることはよく分かります。
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ネット左翼
at 2009-10-29 14:15
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>①スクープは狙わない③ネットを利用し、校閲・整理部を無くす
これ、47news.jp(共同通信)のウエブサイトが実践している 全国紙と在京キー局は、共同通信から情報を取っているところが多い >②マスコミとは違う切り口のニュースを書く これ、j-cast.comとか、上杉隆や神保哲生のブログが実践している 結論 共同通信とj-cast中心で報道して、 上杉隆と神保哲生がラジオ、雑誌、ネットで情報を流せば、 テレビや新聞が必要なくなる。
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bank.of.japan at 2009-10-29 21:45
ネット左翼さん、どうもです。そうした取り組みが継続してやっていけるビジネスだと良いのです。
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