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ドル安を懸念する日中外準大国のアンビバレント=クルーグマン教授の一理ある指摘
 大量のドル外貨準備を持つ日本がドル安を懸念しても仕方ないのではないか、というのはちょっと前に書いたとおりである。円高(ドル安)を避けるために介入し、結果的にドルを抱えた。つまり、日本の通貨政策は円高回避が最重要であった、ということだ。ドル安が不安だからドルを買わない、というのは外貨準備の損失回避が最重要となり、通貨政策は「円高に耐えるぞ」に変わるとを意味する。

で、クルーグマン教授の見解だが、「China and the liquidity trap」で興味深い指摘をしている。これはニューヨークタイムズの経済コラムニスト、David Leonhard氏の米中関係の記事(の一文)に反論したもの。同氏はこの中で「中国がこれからはドル(米債)を買わないと決めたら、金利が急騰して米経済は大変なことになる」と憂慮するが、クルーグマン教授は「違う」と反論している。その内容を超簡単にまとめると以下の通り。
①米国は金利がほぼゼロでも貯蓄が増えている、つまり“流動性の罠”にはまっている。
②中国のドル購入が減るとドル安になり、それは米国の輸出をサポートするので良いことである。
③むしろ中国がドルを買うのは、米国の立場からはピュアに悪いことである。

 まあ、中国のドル買い停止に米国の長期金利がどんな反応見せるか、少なくとも短期的には上るように思うが、クルーグマン教授のように「俺たちゃ“流動性の罠”にはまっちまった。通貨は安い方がいいんだよね」とか言われたら、ドル安を心配する日中外準大国は困るのである。「ドル買わなくて結構、ドル安にしてくれよ」と詰め寄られたら、日本(と中国)はその裏返しとして円高に耐えないといけない。
 各国とも金利がほぼボトムに落ち込み、それでも景気が回復しないのは「流動性の罠」に近い。取りあえず残された緩和策は、財政出動か通貨切り下げである。クルーグマン教授の「中国のドル買い減少は、金利上昇を招いて米経済に緊縮的であるとの主張は、(金利が上るから)財政出動が引き締め的であると言っているようなもので、間違っている」との言い分は一理ある。
 日本が好景気で円高なんか気にしない、という状況なら「ドル安が心配だ」と言える。しかし、現在の苦境に際してドルを買わないのは、円高による一段の苦境に耐えるというアンビバレントが生まれる。円高回避が今でも最重要なら政府ないし有力政党の偉い人は「ドルが不安だ」とかあまり言わない方がいい。
by bank.of.japan | 2009-05-19 22:28 | マーケット | Comments(7)
Commented by Teddy at 2009-05-20 10:50 x
外準の問題点は、急激な円高へのショック・アブゾーバーの効用がありうることは一概に否定されるべきではないでしょうが、急激な円安に対しては外貨売りが一切発動されない非対称性をもっている点でしょう。
Commented by PK at 2009-05-20 12:26 x
預金課税に、中銀の国債買い切り+子ども給付金をすべし。
消費税は、匍匐前進で引き上げすべし

麻生さんに、もう少し首相をやってもらいたい
民主党になったら、この国はどうなってしまうのだろう・・・

マルクス主義は、本当に日本の癌だ 狂ってる
Commented by osome at 2009-05-21 00:36 x
クルーグマンは今頃なにを言っているのでしょう。
この前のマネー資本主義でもおさらいしていましたが、クリントン政権の初期、ドル安をどんどん推し進めても既に製造業がダメになっているアメリカの輸出は一向に増えなかったんですよ。
世の中に供出される物やサービスの増加に合わせれば、通貨を増やしてもインフレにはならないのですから、ドル安になるのが困る国は、負けずに自国通貨を増やすべきでしょう。本石町さんがおっしゃるカウンター攻撃です。
こうすることの限界は、地球が資源・食糧・環境の面で持たなくなる所でしょう。この限界を上げていく活動に、人材・資源を投入して欲しいです。
Commented by bank.of.japan at 2009-05-21 00:59
Teddyさん、どうもです。10年ぐらい前にドル売り・円買いやっているような記憶があります。一気に円高にいっちゃいましたが…。あれは外準の利食いだったかも。

PKさん、どうもです。民主党政権はやや不安です。

osomeさん、どうもです。ご指摘の側面があるのは確かです。一方、流動性の罠からの脱却に着目すると、通貨切り下げ(うまくいくかどうか別ですが)は一つの考え方ではあると思います。議論は分かれるところだと思います。
Commented by TK at 2009-05-21 01:35 x
素人考えですが、中国がドルを買わない事によって、短期的には金利が上がるという事であれば、その短期的ショックに今の米国が耐えられるのかという点は論じられて然るべきではないでしょうか。
とても今の米国にその体力があるとは思えませんが。。。
Commented by まる at 2009-05-22 05:49 x
実質中国とブラジルが自国通貨で通商しましょうと。
ttp://online.wsj.com/article/SB124259318084927919.html#mod=todays_us_page_one

自国通貨とは、有り体に言うとぶつぶつ交換です。
共通通貨に換算する理由がない、ということ。
Commented by bank.of.japan at 2009-05-23 18:53 x
TKさん、どうもです。金利が上がっても、貸し出し金利などを通じて実体経済に波及する前に収まれば、そう大きな問題になることはないのですが、まあ実際の反応は読めないです。

まるさん、どうもです。ドル離れの動きが少し出てきましたね。為替に大きな影響なければよいですが。
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