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あの山本幸三先生も読んでいた白川総裁の“教科書”
 本日は、衆院予算委で日銀の白川方明総裁が参考人で登場。質問者は、あの山本幸三先生でありました。もはや金融政策をマニアックに追及する国会議員は山本先生ぐらいしか残っておらず、そのマニア度が期待された質疑でありました。
 私は、ご案内のように全然リフレ派ではない(方法によっては演技的にやるのはあり、と思う)ので、山本先生の見解には同調はしないが、その変わらないマニア度にはニヤリとさせられた。「マッカラムルール」とか、「ワルラス」(この名前でコメントしてくれる方もおりますね)とか滅多に聞かれない“専門的な言葉”にオーとなりましたよ。
 気が付いたのは、山本先生と白川総裁のやりとりが超空中戦となって、このところヤジで質疑が聞き取れないことが多い国会審議なのに、しばしばシーンとしてしまったこと。ヤジの入れようもないくらいにオタッキーになった、ということですね。シーンというよりポカーンであった、のが実情に近いと思うが。
 一番ツボだったのは、山本先生が「私も白川総裁のあの厚い本を読みましたよ」というところであった。もちろん、山本先生なので、批判的に読まれたのだと思うが、それでも敵を知るにはやっぱり読まざるを得ない本であった、ということが確認できた。
 この本、私も持っている。ただ、全部は読んでいない(先生は全部読んだのだろうか)。必要な項目を必要なときに読んでいる、という感じである。つまり、金融政策の実務を確認するうえで、非常に有用な参考書である、ということだ。日銀の方々も多分同じではなかろうか。まあ、いつも見聞きしていることなので、持っているけど読んではいない、という人が多い(知る限りでは)。
 金融機関に入ってマーケットに携わるという人、マクロ経済で金融政策を研究する人、個人投資家で金融政策に強い関心がある方、などにはお勧めであります。実際の金融政策について網羅的に解説した教科書はこれぐらいしかないので。まあ、いきなり読むと難儀かもしれません。
 山本先生と白川総裁の対峙は、国会議員が日銀総裁を質す、というより東大小宮ゼミの門下生同士の論戦という印象を受けて仕方がない。色々な思いが詰まった対峙ではないかと思える。年齢も近く、同郷でもありますしね。
 それと山本先生にはお節介かもしれないが、マネタリーベース(増やせ論)に立脚した攻めはどうしても単調に流れがちで、日銀側想定問答もほぼ予想されたものとなる。我々メディア側には過去の論戦の蒸し返しみたいなもので、思わず飛びつく新鮮なネタは浮上しにくいのではないかと思った。もう少し欧米中銀の手口を取り入れて攻撃方法を多様化し、日銀総裁が答弁で窮するような多段階型の攻めもあるように感じた。
 白川総裁はマニアックになるほどマニアに答弁する(底知れぬマニア)ので、新鮮なネタが浮上するかもしれない。また、マニア度が深まる途中で、道を間違えて万事休すになるかもしれない。これは巧妙な質問の勝利ですね。金融政策の理論と実際の間には必ずぜい弱なポイントがあるので、ここを突くしかない。そこを知るためにも白川総裁の“教科書”は必読。ただし、娯楽性はゼロです。
# by bank.of.japan | 2010-02-16 21:17 | 日銀 | Comments(3)
ギリシャ悲劇の影でラトビアの惨劇=クルーグマン教授より
 財政悪化の深刻なギリシャの悲劇が世界的な注目を浴びている中、クルーグマン教授が「Riga Mortis」という短いエントリーをアップしていた。世界的なバブル崩壊でバルト方面の打撃も大きかったのだが、Club Medの影に隠れてこのところ忘却されていた格好だ。教授のエントリーからは、ギリシャ以上の悲劇に見舞われていることがうかがえる。

 「Latvia isn’t in the eurozone. But its determination to keep a fixed exchange rate against the euro lies behind the catastrophe」
→ラトビアはユーロ圏ではないが、ユーロに対して自国通貨のペッグを堅持している(=切り下げしない)。しかし、実体経済は悲惨な状況にある。

 悲惨な状況は、エントリーにリンクされたリポートにうかがえる。
「The Latvian recession, which is now more than two years old, has seen a world-historical drop in GDP of more than 25 percent. The IMF projects another 4 percent drop this year, and predicts that the total loss of output from peak to bottom will reach 30 percent. This would make Latvia’s loss more than that of the U.S. Great Depression downturn of 1929-1933」
→ラトビアの不況は2年以上続き、GDPは25%以上も縮小した。IMFの見通しでは、今年はさらに4%減少し、GDPはピークから30%近くも落ちると予想される。ラトビアの経済的損失は米大恐慌を上回る可能性がある。

 本来、ユーロ圏ではないラトビアは通貨切り下げという選択肢がある(これもコストは大きいが)。切り下げないで不況をしのごうとすると、通貨調整の代わりに国内経済の大調整(=大不況=経済の切り下げ?)が起きてしまう格好だ。 リポートの題名(The Cost of Adjustment With An “Internal Devaluation”)はそんな意味ではないかと思った。
 
 独仏を枢軸とするユーロ戦線。あちらこちらが泥沼化し、ユーロを囲む全戦線の維持が難しい状態にある感じだ。バトル・オブ・ブリテンの赤い新聞(FT)、日本を語っている場合ではないような…
# by bank.of.japan | 2010-02-11 15:15 | ユーロ | Comments(8)
オーストラリア中銀が教える為替介入法
お知らせ=ブログパーツを強化し、簡単に翻訳機能が使えるようにしました。クリックして単語をなぞるとエキサイト翻訳が自動的に浮き上がります。
 
 オーストラリアの金融政策は、私は全然ウォッチしていないのだが、為替市場では注目されているようだ。オージー・円やっている人が多いからだろうか。予定された利上げがなかったとかで、一部では騒がれたようですね。ウォッチしていないのは、①GDPがとても小さい(スイスぐらい?)②そういう国の金融政策はグローバル的にはあまり影響がない③日銀でも話題にならない④同様にG7でも話題にならない-ため。
 ただ、そうは言っても日本人には昔から馴染みの国で、たくさんの人がオージー・円を手掛けるという行為が、あの国の金融政策にどんな影響があるのかな、と軽い興味を覚えてホームページをざっと眺めてみた。で、ちょっと面白いなあ、と思ったのは、マーケットオペレーションの中に「為替」の項目があったこと。その中に為替マニアor介入マニア(私は違いますが)にとっては興味深い記述があった。介入方法を具体的に紹介しておったのです。項目はここ
 その中のポイントは「How Does the Reserve Bank Intervene? 」です。
まず為替相場を操作する場合は以下のようにしている。
「For example, if the RBA was intervening with the intention of influencing the exchange rate, it could enter the broker market directly through the electronic broker market. Because the broker market is the main mechanism used by interbank market participants to trade among themselves, knowledge of the RBA’s presence in the market is immediately available to all active interbank players. They typically also inform their clients very quickly. This ‘announcement effect’ can itself have a significant impact on the exchange rate」
 要約→為替相場を動かしたくて介入したい場合は、ブローカーマーケットに直接介入する。そうするとインターバンクの参加者らはすぐに介入が分かってクライアントにしゃべりまくり、アナウンスメント効果がでかくなるんだよね。
 それと、オーストラリア中銀は外貨準備の調整(運用?)もやっており、その場合の為替取引(介入ではない)は以下の通り。
「if the RBA was intending to replenish foreign exchange reserves after a period of intervention, the aim might be to rebuild reserve holdings without having a significant impact on the exchange rate. Under these circumstances, the RBA might use an agent bank, so that the market as a whole is not aware of the RBA’s presence」
 要約→介入後に外貨準備を補強したい時は、相場に影響を与えなくないので、エージェントバンクを使う。そうすると、介入は気付かれず、相場に影響はない。(エージェントバンク=為替取引を委託された市中銀行=一般的には中銀取引の守秘義務を負う)

 世界的には介入と外準調整(=運用含む)を併用する国が多く、このオーストラリア中銀の説明は非常に参考になるので、為替取引に熱心な方はご一読を。日本みたいに「市場に出るのは原則として介入」という国はむしろ例外で、上記の解説はある意味、非常に新鮮に感じる。これぐらいMOFも解説したらいいのにとは思うが、そうすると介入の神秘性が薄れてつまらなくなるかもしれない(威厳も落ちる?)。口先介入、不意打ち介入、びっくり介入、隠密介入、覆面介入、だらだら(ジャンキー)介入、国売り介入、レートチェック、ポジションチェック、チェックまがい、まあ好きにやったらよろしい。

感想 豪州は基本は資源国で、経済も超小さい。それにしては豪ドルの取引規模はかなり大きく、ポンド・ドルぐらいはあるんですかね。これはかなりいびつな感じで、為替投機国ようなイメージがある。本当は、管理フロート色を強めて、資源取引に応じた実需原則の為替売買にとどめるのが身の丈に合っているように思う。オージー・円に突っ込むのはご自由なのだが、移住したいとか思わないのであれば、ボラの比較的高い通貨で短期の投機をやっている、と割り切った方がいいのかも。
 ドルを基軸とする管理通貨制度がぶっ壊れ、日本もかなりの社会不安が起きると思うのであれば、穀物と肉が豊富な豪州はラストリゾートの一つとしては有望。いいところらしいですし、英語が苦にならず、日本を簡単に捨てられるなら、淡々と豪ドル投資をやるのがいいかも。ニュージーランドもいいけど、あそこはちょっと寂しい。カナダもいいけど寒そう。
# by bank.of.japan | 2010-02-03 21:30 | FRB&others | Comments(6)
金融政策決定会合議事録より=介入、『アンパンマン』、短資預金など
 1999年後半の金融政策決定会合議事録が公開された。取りあえず読んだのは9月21日と10月13日の分で、その中で印象的な発言に関して合間をみてツィッターしたのが以下である。
・不胎化介入に関する様々な議論はほとんどナンセンスである=植田委員
・経済のような生き物を相手にする場合、事実に基づいて考え抜いた理論ならいいが、頭の中の理科の実験室でできたようなものは困る=武富委員
・(国債価格の支持政策を採らない、という)アコードからの逸脱は臨界事故を起こせ、というのに近いのではないかと感じる=武富委員
・パン職人にパンを作れと命じるとき、きれいなパンを作れと言っても仕方がない=雨宮企画課長
・日本の新聞のみならず、海外のクオリティペーパーも妙な記事を書いている=速水総裁
・日本の介入は、あくまで日銀が政府のエージェントとして行い、外為特別会計の勘定を使うわけである=平野国際局長
・協調介入とは、日本は日本の勘定を使って介入し、米国は米国の勘定を使って介入することである=平野国際局長
・(日本が自己勘定で介入する中、介入を米国に委託するのは)それは一般的には協調介入とは言われていない=平野国際局長
 雨宮課長(現企画局長)の発言はとても気に入った。ただ、現在の調節方針は、本業でも書いたように、一つのパンは明確な指示があるが、もう一つのパンはディレクティブにはない。白川総裁の最近のフレーズを借りれば「広い意味でのパン」なのであろうと思った。日銀内では「パン類」とか「ピザ」とかいろいろな意見が聞かれた。中には「きれいなパンを作れ」を支持する声もあった。議事録に出てくるパンは「あんこ」が入っているので、アンパンですね。
 金融調節課員らは「アンパンパン(&ウーマン)」かなと思った。
 
平野国際局長(現トヨタファイナンシャルサービス取締役)の説明は介入の基本事項であるので、関心のある方はチェックを。単独か協調かは混乱しやすい。単独で始まる場合、ロンドンやニューヨークで依託が入ると、実施するのは現地中銀なので一見すると協調に見える。恐らくFRBなど自己でやるときは、入った先のディーラーにはその旨言うとは思うが…。

 さて、9月21日は例の量的緩和の包囲網に対してそんなものはやらない、というステートメントを出した日である。よく覚えている。「青臭さを忘れた中央銀行のなれの果てがハイパーインフレだ」という名言を聞いた時でもあった。かなりヒートアップしているかと思ったが、そうでもなかった。まあ、文字なので、喜怒哀楽は読めないのだが。
 興味津々は以下のところ。
・速水総裁 グリーンスパンが日本の介入などの問題にどう考えているか聞くようにと依頼しておいたが、「                     」という答えであった。…彼は「                   」ということを言いたかったのではないかと思う。
 白抜きの部分、何を言ったのだろう。激しく興味を持つ。

余談 山下市場局長が短期市場の解説で「…短資預金が増えるということ自体がプレッシャーになっており…」と言っていた。『短資預金』は当時、同僚と私が考えた造語で記事に書いたことがある。日銀内にも広まっているとは聞いていたが、政策委員会でも使われていたとは知らなかった。懐かしい言葉に出会えた瞬間であった。しばし感慨にふけった。
# by bank.of.japan | 2010-01-28 20:37 | 日銀 | Comments(0)
あまりニュースのない日銀決定会合・会見でしたが=プチ“CPI対称性のやぶれ”について
 本日の日銀金融政策決定会合と総裁会見。各社報道がどんな見出しになるのか、よく分からないのだが、まあさほどのニュースはなかった。ちょびっとCPIの見通しが上方修正されたが、マイナス物価を「デフレだ!」と問題視する向きにはやっぱりマイナスのままだし、目くそ鼻くその修正でありましょう。総裁会見のトーンも少し明るくなったが、これとて出口戦略とかになる話ではないので、相場材料になるようなシロモノではない。
 ということで、エントリーを終わってしまってもいいのだが、微修正の物価見通しに少し細かくこだわって、“CPI対象性のやぶれ”を思わせるところがあったことをマニアックに触れたい。日銀版対称性のやぶれは、こちらをご参考にしてもらうとして、端的に言えば、物価判断に上方バイアスめいたものがうかがえることである。CPIがちょっとプラスになったら、プラスだプラスだと騒いであっという間に量的緩和を解除してしまい、その後マイナスになったら「ゼロ近傍である」と言っちゃったあれである。
 で、今回の物価見通し。少しばかり上方に修正されたが、主因は「原油高」。これで2年先のCPIが0.2%上方にシフトするのである。まあ、ロジックとしては新興国が成長して原油など国際商品市況が上昇するでしょう、というものだが、そうなるかもしれない、そうならないかもしれない。しょせん、原油のようのな相場物はどっちにいくか分からないもので、普通なら分からない物は「横ばい」とみなすもの。
 そうしなかったのは「横ばい」とすると決めていないから。市場の相場観を参考にしたんだと思うのだが、これはある意味、市場が見込む政策金利の経路を参考にして利上げしてしまう中央銀行の円環性(自分の尾を追う犬)症候群につなが得る話(もちろん、今の日銀はそんなことは考えずに、単なる見映えを気にしたのかもしれないが)。
 しかし、 「原油高」を取り込むと以下のようなことな論点が浮上すると思う。
・為替(例・円高)は織り込まないの?
・為替は分からないけど、原油は将来まで分かるの?
・原油が下がったら、見通しを下げるの?
 ということで、物価判断するときは日銀は上を見やすいCPI対称性のやぶれ感がうかがえた。なお、声明では「原油価格高の影響などから」とちゃんと「など」というヘッジが入っており、ああ言えばこう言う体制は一応は整っているので、この点で日銀を追求しても何も出てきません。念のため。

政権・与党は大物などがいろいろ問題抱えており、日銀にあまりかまっている暇はないので、市場が総じて平穏なら金融政策は取りあえずは何もないんじゃないでしょうか。そういう相場観です。与党の出方を織り込むのは私には不能です。
# by bank.of.japan | 2010-01-26 21:56 | 日銀 | Comments(1)


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