カテゴリ:大機小機( 20 )
本日の大機小機は同感=祝・FRB議長再任
 まずはバーナンキFRB議長の再任。マーケット的には議長再任をめぐる不透明感が払しょくされてめでたし、という結果となった。サマーズ議長はちょっとね、という感じもありましたしね。まあ、危機対応の過程をよく知る議長がこのまま難航するであろう出口政策も手がけるのが一番良いと思う。

 で、本題の大機小機。下のとは打って変わって本日の内容はうなずくところが多く、自己資本規制の在り方としてはまあ正論ではないかと受け止めた。筆者は、無垢氏。実態を良く知る当局者(or金融実務家)という印象を受けたのだが、どうなんでしょう。取り合えず内容をつまみながら簡単に感想・解説など・
・金融危機はまだ収束していない。自己資本規制を強化して信用収縮に拍車をかけては元も子もない。
→その通り。危機直後はバブル(=金融)憎しの大衆的感情の高ぶりから規制強化となりがちだが、得てして羹に懲りて膾をふくことになる。
・BIS規制はもともとプロシクリカリティが懸念された。金融有事のもとで規制強化に走れば信用収縮の増幅効果はさらに高まる。
→その通り。実際、90年代後半の日本の金融危機では自己資本を維持しようとして資産圧縮(貸しはがし)が勃発し、マクロ的打撃が大きくなった。この点は無垢氏も指摘している。
・金融有事ではむしろ自己資本規制を緩めて信用収縮を防ぎ、平時に戻ってから資本強化すればよい。可変的な自己資本規制が必要。
→妥当である。一般論として金融セクターが打撃を受けたときは、むしろ傷を癒す措置が必要であり、リスクテーク能力の維持を図る方がマクロ安定に資する。
・バーゼル銀行委は専門化の集まりだが、銀行の健全性という金融の庭先でなく、グローバル経済の回復という広い視野が求められる。それは日本の金融危機の教訓でもある。
→おっしゃる通り。資本規制というものは健康な人が病気にならないための健康法の目安のようなもので、病気になった人には害が大きい。規制強化で銀行を元気にしようという発想は、ショック療法でしかなく、むしろ経済が不安定化し、それが金融セクターをさらに悪化させるという悪循環を招きかねない。規制強化は議論してもよいが、まあマクロ経済の安定化が相当に確実になった段階から実施に移せばよいのではないか。それぐらいのマクロ観がないと規制強化はうまくいかない。
 なかなか会心のコラムであった。こういうのが続くと良いですね。
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by bank.of.japan | 2009-08-26 00:26 | 大機小機 | Comments(6)
本日の「大機小機」はかなり違和感あるなあ
 詳しくは実物をご覧頂きたいが、後段のところはマーケット関係者(特に銀行ポートやALMの方々など)から「なんじゃこりゃ」という反応が多いのではないかと想像する。取り合えずポイントとなる部分を引用して解説(批判かも)を試みたい。
大機小機 「銀行が国債を保有することの社会的意義とは何か。疑問は解けない」
→社会的意義などない。投融資行動の一つに過ぎない。「社会的意義」と言うからには、まずその定義を行うべきであろう。
大機小機 「(銀行が国債を保有するのは)民間に資金需要がないからだというのでは、説明にならない」
→いや、十分説明になっている。一般的に不況になると、民間の資金需要は低迷する。一方、不況対策として政府は財政出動を行い、財源としての国債発行が増える。この場合、政府部門は資金不足、民間は資金余剰となりやすい。銀行が担う金融仲介機能とは余剰な資金を不足に回すこと。従って、不況下で銀行が国債を買うのは仲介機能を働かせていることに他ならない。政府・企業・家計で構成される国家経済において、資金を円滑に循環させているわけである。
大機小機 「銀行が国債保有から収益を得るためには、長短の金利差を利用するしかない」
→しかない、というネガティブな言い方はおかしい。長短金利差を取るのは通常の市場取引であり、何らかの差を取るのが市場取引ではないのか。
大機小機 「このような国債保有では金利の予測能力が問われる」
→当たり前である。
大機小機 「この能力において銀行に優位性がないだろう」
→例えばコア預金概念に沿って長めの債券を満期保有すると、長短金利差の確定が可能だ。銀行の金利予測能力に差はあるが、銀行業とは宿命的に(貸出債権も含めて)金利リスクを背負うものであり、銀行業の金利予測の優位性を否定すると、銀行業の存在意義の否定となりはしないか。もしかして貸出には金利リスクがないと思っているのではないか。そもそも相場予測において絶対的有利性があるのか。そんなことを言っていたら、ありとあらゆる金融機関がリスクテークできないのではないか。中央銀行ですら未来が分からないのである。
大機小機 「(金利の低位)安定状態が永続しないのは明らかだ」
→永続の期間を数十年、数百年、数千年と定義すればそうかもしれないが、そうじゃないかもしれない。
大機小機 「銀行の国債保有量が規制の対象になったとしても不思議ではない」
→そう考えること自体が不思議だ。(金利)リスクが大きいからその規模を規制するなら、もっとリスクの大きい貸出債権(クレジットリスク)には強力なリミッターが必要になるのではないか。そもそも経済が変動するのに銀行B/Sの資産側の一部(国債ポート)に枠をはめると金融仲介機能が歪み、経済内で資金は余剰なのに、規制によって国債が買われず、悪い金利上昇が起きて、それが経済に打撃を与えるのではないか。または、余った資金が無理に貸出に流れて、不良債権と化すのではないか。
 いやはや、何ともいえないコラムでありました。この筆者、そういえば前も変なこと書いていた気がする。
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by bank.of.japan | 2009-08-20 18:33 | 大機小機 | Comments(14)
山河氏の「大機小機」はマクロプルーデンス論として必読=中銀が監督機能を担う問題点
 23日付の日経新聞「大機小機」で山河氏がマクロプルーデンス論のあり方として非常に参考になる論点を提示していた。山河さん、なかなか鋭いご指摘で、感銘を受けた次第です。さて、山河氏の主張だが、これは中央銀行に金融監督の権限を委ねる場合の問題点を整理したものだ。
 現在、米政府は金融監督体制を見直しており、大手金融機関の監督をFRBに委ねることを想定している。このアイデア、中央銀行が最後の貸し手機能(LLR)を果たし、個別の資金繰りもモニタリングしていることを考えると、金融システムにおいて大きな存在である大手金融機関の監督を担うのは合理的にも思える。
 ただ、監督機能を担うことは、金融システム安定の責任をフルに背負うことを意味する。ところが、この責任を果たすことが金融政策運営の目的と齟齬をきたすことがあるわけだ。山河氏が指摘したのはまさにこの点である。例えば、インフレが高進している局面で大手金融機関が破たんしたらどうなるのか。金融システムが不安定化すると、結果的にマクロ経済は打撃を受けてインフレは沈静化するとも考えられるが、実際にそうなるかはよく分からない。
 中央銀行はいずれにせよインフレ高進に対応して利上げして良いのか、金融システム安定化のために利下げすべきか迷うはずだ。場合によっては利下げしたものの、結果的にインフレ率を加速させてしまうかもしれない。一方で、インフレ対応の利上げに踏み切ったものの、結果的に金融システムを一段と不安定化させてしまい、マクロ経済に打撃を与えることも考えられる。
 また、中央銀行は一般的に資産の健全性を重視する存在であり、金融システム安定化のために無担保・無制限の融資が必要な局面でありながらも、これを渋る可能性もある。一方で、無担保・無制限の融資を過剰にやってしまって通貨価値が激しく劣化する事態も考えられる。
 山河氏は結論として、この問題は中央銀行の独立性に大きな影響を与える、との認識を示しているのだが、これはその通りである。

 補足として。海外では盛んにマクロプルーデンスの在り方が議論されているが、これは従来の対応が不十分であったことに対する反省によるもの。一方、日本は既に金融危機を経験しており、マクロプルーデンスは一歩進んだ状態にあると考えられる。ある意味、海外はやっとマクロプルーデンスの重要性に目覚めた段階で、日本に追いつく段階にあるわけだ。従って、海外のマクロプルーデンス論がどういう形になるにせよ、日本は日本のやり方を追求すべきで、必ずしも海外論調に左右される必要はない。心配なのは、民主党が政権を取った場合である。それなりにうまくいっているマクロプルーデンスであるにも関わらず、脱官僚のノリで従来のやり方を台無しにして、海外論調に盲従するリスクがあることだ。民主党の先生、この問題、よく考えた方がよいと思う。
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by bank.of.japan | 2009-07-24 23:19 | 大機小機 | Comments(11)
これは超弩級のトンデモ論かも=日経コラム「十字路」
日付訂正しました(14→17日)。失礼しました。
 無視しようかと思ったが、無視するには惜しい超弩級のトンデモな主張だったので取り上げます。17日付の日経夕刊コラム「十字路」である。論旨は以下の通り。
①安定負債の預金を抱える金融機関(銀行)は優位になっている。
②しかし、一部で囁かれる最低預金金利法が実施されたら銀行優位は崩れる。
③もし預金金利が1%引き上げられたらメガバンクは逆ザヤかも。必死に貸出を増やすかもしれない。究極の貸し渋り対策だ。
④預金者の利息が増える。こんな消費刺激策はそうはない。貸出金利の上昇で企業は苦しいが経済全体ではプラスに見える。
⑤政策金利も上がるなら円高になるが、緩やかならこれも日本経済にプラス。
⑥高金利通貨がまた買われている。バブル的取引のキャリートレード復活だ。利上げも視野に入ってきた。

 まあ、何というか、めまいしそうな内容なんだが、とりあえずそれぞれの論点を取り上げると、①流動性の面で銀行はたまたま公的支援もあって今は強いだけ。中にはダメな銀行もあり、論点の設定として強引②聞いたことがない③聞いたことがない法律があたかも実施されることを想定して、さらに1%も金利を上げるというのは荒唐無稽。これで必死に貸し出し増やしたら不良債権が増えて金融不安が再び起きるでしょ。④出たあぁぁ⑤上がりません⑥高金利通貨買う人もいるでしょう。それで利上げなど視野にはないですよ。
 筆者は九楽氏(誰なんですかね)。タイトルは「預金金利引き上げの誘惑」。そんな誘惑、どこにもない。こういうコラムは日経さんの読者にウケるのだろうか。そもそもこういう誘惑を覚えること事態が極めて謎である。
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by bank.of.japan | 2009-04-19 23:03 | 大機小機 | Comments(19)
「国は破産しない」と「仕組み債」のニ題について
 15日と16日の大機小機についての簡単な感想。

15日は越渓氏の「日本国は破産しない」。コメント欄でも指摘されたやつです。国債が多いのは、国民が国債を買い、その金融資産が増えることなので国は破産しない、だから国債をドンドン出して財政をバッと出せ、という主張。
 財政は、日本のようにホームバイアスが強く、経常黒字国であるなら、そう簡単には破産しない。ただ、ものには限度があって、企業・家計が困窮化して預貯金取り崩しが優勢になると間接・直接に国債を買う余力は乏しくなり、やっぱり国債増発にはどこかに限度があるようにも思う(それがどこかは不明確だが)。
 私が財政問題でよく思うのは、土光臨調のことである。数年前、NHKでメザシの土光さんが再放送されたのだが、番組の中で当時のニュース場面があり、アナウンサーが「財政赤字が深刻であり…」と言っていた。で、そこに出ていた国債発行残高は80兆円ちょっと。これで大騒ぎしていたのである。土光さんをタイムマシンで現代に連れてきて、国債発行残高の急増するチャートを見せたら、何と言うだろうか。そして長期金利がまだ1%台である事実をどうみるのか。
 もう一つ財政で読めない部分。確かに日本の財政事情は悪化しつつあるが、他の国は急速に悪化しつつある。もとより、(国債が裏付けする)通貨価値は相対的なものなので、日本がいくら悪化したとしても、他国の悪化ぶりがさらに深刻であるなら、相対評価は高いのである。しかも、日本は社会的安定度も高いので、「質への逃避」を目指すマネーを呼び込む(国債消化力の増大)可能性もある。
 財政は当面大丈夫なようにも思う半面、やや不安を覚える、という微妙な感覚である。越渓氏のようにノープロレム、バンバン出せ、と言えるほどの自信はないです。
 財政についてはまだ感想はあるが、これは別途述べたい。

もう一つのコラム、陰陽氏の「仕組み債の落とし穴」について。
オチがあるかと思ったらなかった。これ、そもそも旬の過ぎた話題で、一般紙が取り上げるならまだしも、経済新聞にしてはかなり初歩的な内容ではないかと思った。というか、一般紙でももはやネグられるようなネタであるような気がする。それとも、マーケット欄の読者層(レベル)を念頭に置いたネタがこれだったということだろうか。やや首を傾げるコラム内容でありました。
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by bank.of.japan | 2009-04-16 22:44 | 大機小機 | Comments(9)
現在の膨大な資金供給は(次なる)バブルの温床にはならない(お知らせを追加)
お知らせ 明日の物国入札は中止です。財務省のこちらです。まあ、人気ないですし、このまま無期限に中止(事実上の廃止)でいいんじゃないですか。健全な成長に伴う物価の健全な上昇は見込めず、ヘッジニーズも見込めないですし。

 本日の「大機小機」。うなずけるところもあったが、首を傾げるところもあった。後者としては「(中央銀行による現在の)膨大な資金供給は再び金余りを招き、資産バブルの温床となる。一時しのぎが制御不能の怪物をつくる繰り返しだ」という部分。本当にバブルになるならバブル崩壊の傷が癒えちゃうので、そうなって欲しいのだが、残念ながらそうはいかない。
 各国中央銀行が必死に流動性供給しているのは、リーマン法的破たんでカウンターパーティリスクが増大し、インタバンクでの資金取引(特にターム物)がほぼ枯渇したため。つまり金融機関の資金繰りニーズが急激に増大し、まあ必要に迫られて潤沢に資金を供給しているに過ぎない。
 これを金融政策運営の面から説明すると、流動性がほぼ枯渇した中、資金を必要とする金融機関は金が取れるまでビッドアップしていく。この結果、多くの中央銀行が誘導目標にしている短期金利はどんどん上がっていく。放置すると利上げ状態になってしまう。中央銀行が金融政策スタンスを一定に保ちたいと思うなら、潤沢に資金を供給しないといけないわけだ。これは金融政策を遂行する上でも潤沢な資金供給が必要になることを意味する。
 で、その後である。資金取引が正常化し、流動性が復活したら、中央銀行は大量供給を止める、ないしは過剰になった資金を回収する。この結果、インタバンクからは過剰な流動性はなくなることになる。さらに細かいことを言えば、これまた何度か説明しているが、資金需給のひっ迫状況にもよるが、一般的には潤沢に資金を供給する(これはターム物になることが多い)一方で、資金は吸収されており、「潤沢供給」を合計した金額がそのまま放置されているわけではない。FRBが超過準備に付利したのは、金利が過度に低下するのを防ぐための資金吸収が目的である。
 バブル崩壊に煽られたのか「過剰流動性」という言葉が独り歩きして、化け物扱いされている感じなんだが、過去数年間のバブルは別に中央銀行が過剰に流動性を供給したから発生したわけではない。金利水準はもしかしたら実体経済に対して低めであったかもしれないが、仮に高めであればバブルが防げたかと言えば、これまた何度も指摘しているようにバブルを金融政策で制御するのは難しいわけである。
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by bank.of.japan | 2008-10-07 21:55 | 大機小機 | Comments(20)
本日の「十字路」は良コラムです=でも「大機小機」は…
 良い話と悪い話。どちらを先にしましょう? 後味良くするため悪い話から。
 本日の「大機小機」は下の続編的な内容。やっぱり筆者は同じではないのかと思ったのだが、前回のびっくり利上げ論は「十字路」&富民氏というコンビだったのに対し、今回は「十字路」&癸亥氏という組み合わせ。十字路氏と富民氏と癸亥氏がそれぞれ違う人だとすると、メジャー紙に寄稿するほどの著名人の中に少なくとも3人の利上げ論者がいるわけですね。困りました。
 主張内容を簡単にまとめて反論しようかと思ったが、止めます。

 良い話。本日の「十字路」は良かったです。みずほ証券の高田氏によるものだが、「インフレの衣をまとったデフレ」というタイトルは言い得て妙である。供給ショック的であっても物価指数が上がってくると、どうしてもインフレ期待は強まらざるを得ない。ただし、その裏側では実体経済は低迷を続け、投機的要因のはく落で供給ショックによる物価上昇が収まると、デフレを懸念すべき状況が現れてくる。これは日銀も懸念するシナリオでもあろう。
 以下の部分には激しく同意であります。
・サブプライム問題は、企業セクターを中心に生じた従来の調整とは様相を異にするが、結局はバランスシートの拡大とその収縮に伴う過程で信用収縮が生じ、資産価格が下落するという点では同じである。
・クレジットバブルの崩壊で退避資金が商品市場に流れ込み、その結果、消費者物価が上昇して国際社会に深刻な影響を与えたが、これは退避資金によるゲリラ戦や局地戦が原油先物市場で加速された面が強い。
・信用収縮の中で「デフレのオオカミ」が「インフレの衣」をまとった状態ではなかったのか。

こんな十字路が続けばよいのに…。
 
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by bank.of.japan | 2008-08-20 21:27 | 大機小機 | Comments(7)
景気後退局面の財政政策は…=「大機小機」の続き
 オリンピックに一喜一憂であります。北島選手の二個目の金は立派でした。柔道は残念な結果になり、がっくりでありました…。まあ、引き続き観戦しましょう。それはさておき、久々に経済ネタとして、本日の「大機小機」といきます。見出しはそのまま使わせてもらいました。
 筆者は与次郎氏。主張を超簡単にまとめると、2011年度までプライマリーバランスの赤字を解消する目標について、深刻な不況下での財政再建については06年の「骨太方針」でも柔軟に対応することになっているのだから、PBの目標も柔軟に設定すればよいのではないか、ただし政府は今後の景気動向についてどのような展望を持っているのか説明責任を果たすべし、というもの。
 この主張に概ね違和感はないが、政府は説明責任を果たしたとしても、今後の景気動向がどうなるかは誰にもよく分からない、ということだ。政府は基本的には財政再建路線を維持したい(orそういう姿勢を見せる)けれども、一方では選挙も控えて多少は景気対策もちらつかせたいだろう。そういう心理状態におかれた政府にとって説明しやすい景気展望は「後退は比較的浅く、その期間も短い」という内容である。
 景気後退が「比較的浅く短い」は今のところはマーケットコンセンサスであり、政府が同じようなことを言ってもあまり市場からは反論も出ないだろう。一般的に政府は人々が必要以上に不安になるほどの暗い見通しを示すことはない。景気は後退するけど、谷は浅く、期間もそう長くならない、という見通しがマーケットコンセンサスであるなら、その範囲内に収まる展望を示すんのだろう。実際に政府もそう思っているかもしれないし。
 日銀も「先行きは当面減速が続くものの、その後次第に緩やかな成長経路に復していくと予想される」としておりますしね(苦笑)。
 問題は、谷が意外に深く、期間も長くなる可能性がやっぱりある、ということである。米国がコケて、ユーロもコケる、中国もオリンピック熱狂の反動が加わって大きくヘコんで、新興国に連鎖していく。この可能性はそれなりにあるでしょう。
 で、財政政策である。まあ、政府には信ぴょう性をもって景気動向を語って欲しいものだが、実際はどうなるか分からんのだし、苦しくなればいずれにせよ財政出動は必要となり、それを国民も求めるであろうし、結局は自然体で財政運営するしかない。これは再建論者には耐え難いかもしれないが、苦しみに耐えて財政を健全化する、というのは現実にはなかなかとり得ない選択肢である。
 ありがちなのは財政破たんの声が上がることだが、破たんするかどうかはとりあえずホームバイアス次第である。国民の苦境に応じて政府が財政を出し、そういう政府(国)を信じるか信じないかは別にして、国民の貯蓄選好が強い状態が続けば、不況になるほど金融機関を通じて国債に向かう資金の流れは強固になるので、長期金利は簡単には上がらない。
 まあ、財政再建を放棄せよ、と言うつもりはないが、みんなが仕方がないよね、という程度の景気対策はやってもいいんじゃないですか。景気見通しに関する政府の説明責任は、きちんと果たしても、その通りになることを約束するものではないですから…。

ps 篠原氏の柔道解説は率直で良い。かなり気にいっております。鈴木選手が一本負けしたとき、アナウンサーは「場外なんですが」とフォロー。篠原氏は「いや、場内です」とあっさり。いい味出してます。
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by bank.of.japan | 2008-08-14 22:36 | 大機小機 | Comments(6)
人は増やせばいいというものでもない=「大機小機」のパピ氏
 非公開コメントである方がしばらく前の「大機小機」に疑問を呈されたので、エントリーで取り上げてみたい。そのコラムは金融から遠いテーマで、ある方も「市場系・株系の双方とも外れていたのでネットの話題にはなりにくい内容」とご指摘されていたが、私はそのコラムには金融的な面も絡めて関心を持った。ので、エントリーにすることにした。非公開コメントさん、背中押していただき、ありがとうございます。
 そのコラム、すなわち「大機小機」は8日付の「医師数増加への政策転換」と題するものでありました。筆者はパピ氏でありました。久しぶりの登場でありましょうか。何か変な主張したことがあり、当ブログではやや評判は芳しくないのであるが、部分的には共感も覚えるパピ氏でありまして、今回も共感するところは一部あるものの、やっぱり答えの導き方が変であった。
 まず、ある専門的なサービスの充実が必要なとき、その専門人材を強制的に増やすのは基本的には質の劣化を招く、という事態になりかねない。一時期、企業会計向上のために公認会計士を増やせばいいのではないか、という議論があった。
 基本構図として、企業会計がお粗末な状態にあるのは、企業側に会計をきちんとしたいインセンティブが乏しいからで、これをそのままにして会計士を増やせば、仕事を取りたい会計士は企業側の意向に沿う方向にどんどん流れ、会計はまともになりにくい。企業が会計向上に強い熱意を持ち、にも関わらず会計士の数が決定的に不足していればどうなるのか。この場合は、会計士はひっぱりだこになり、会計士の報酬はどんどん上昇。会計士という職業は憧れの的となり、会計士を目指そうとする人は自然に増える、と考えられる。
 これは弁護士も同じ構造であり、国民の間で真に弁護士ニーズが高まっている状態(相当の報酬を払うつもりなのに弁護士が足りない)なら、儲かる職業としての認識が高まり、弁護士を目指す人は増える。
 で、医師である。医師不足とか、医師が超多忙とかよく言われる。需給関係として本当に医師が足りないなら、医師報酬が増大しているはずで、でもそうはなっていないようだ。よく拝見しているレジデント初期研修用資料さんのブログを読む限り、熱意ある良心的な医師ほど労多くして報酬的に得るものは少なく、下手すると訴訟リスクが高いようである。
 こういう状態で医師を増やそうとしても、まあ合理的な人なら医師の置かれた状況は分かるだろうし、医師になれるほど高い能力のある人材は一般的にリターンの高い別な専門分野を目指すはず。で、それでも医師を増やそうとしたら、結果的に医師になるためのハードルを下げざるを得ず、これは質の劣化を招くだろう
 パピ氏も「医師数を単に増やすだけでなく、システム全体として士気の向上・処遇改善に配慮した施策が必要だ」と主張する。一番良いのは、医師になるためのコスト&超多忙に見合うほどのリターンを得る状態になることであろう。例えば「産婦人科医不足は弁護士数が増えたためだった!」というのが本当なら、現状では産科医は増えない、増えても質が劣化する、ではなかろうか。
 パピ氏はまた「人の先回りして利ザヤを抜くような先端的金融に日本人は適性があるようには思えない」(パピ氏のこの発想にはいつも同感)、「モノ作りが得意で和の精神を尊ぶ日本人には知恵と心と技術が結びついた医療が性にあっている」(これもまあ同感)などと指摘。そして医師の活躍の場を海外に広げるべきで、医師数を内需だけを基に判断するのは視野が狭い、と唱える。医師という職業はグローバルに通用するからどんどん増やせ、という発想であろうか。これは違うのじゃないか。まあ、ゴッドハンド系の外科医は通用するけど、医師という職業は言語の壁もあって基本は内需であるように思う。
 非公開さんは「日本語ができて、年収5百万円で喜んで働く医療従事者を輸入したほうが、国民ニーズ満たせる」とご指摘されており、私もこれに同感であります。

結論 真のニーズがない中で、人材供給を強化すると「悪貨が良貨を駆逐する」現象が起きる恐れがある。金融士を増やしても金融はまともにならず、単に金融士の価値が落ちるだけ、というのと同じである。
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by bank.of.japan | 2008-07-09 23:14 | 大機小機 | Comments(25)
「大機小機」の富民さんはもしかして…=供給ショック下の金融政策論の整理
 本日の「大機小機」は富民氏。「超低金利・円安政策の転換急げ」と題する内容は、下の下のエントリーの最後で取り上げた日経夕刊コラムとほぼ同じであった。富民氏と夕刊コラムニストはもしかして同じ方なんであろうか。筆者が同じでも同じじゃなくてもどうでもいいのだが、富民氏の主張で技術的な観点で興味があるのは「低金利政策で過去4年間にわが国が海外に供給した資金は64兆円」、「31兆円が購買力平価を下回る円安の結果だ」などの数値的な算定根拠。どういう計算をして、その計算は妥当なのか。
 夕刊コラムと大機小機の共通しているのは、原油高をもっぱら投機筋のバブルとみなしていること。バブルの側面が大きいとしても、バブル的になった本質的な原因である「需給ひっ迫」に焦点を当てないと問題の本質を見失う。この点、本日の日経夕刊コラムで野村アセットの榊経済部長の示した分析が的確であろうと思う。即ち、原油は天然資源であるがゆえに価格が変化(急騰)しても、すぐには供給は増えず、一方で必需品でもあるため需要の落ち方も鈍い、ということだ。さらに深い分析としては、奇奇怪怪さんが紹介したフェルドシュタイン教授の見解が非常に参考になる。
 榊部長、そしてフェルドシュタイン教授らの分析を通して分かることは、日銀の利上げなど何の関係もない、ということである。何度か論じたことだが、原油高と金融政策の関係を簡単に整理してみたい。
・バブル的に上昇した原油高の根っこの原因は需給のひっ迫である。
・需給がひっ迫したのは新興国の高成長が原油需要を強めたため。
・金融政策を引き締めるべきは需要が強いところ、即ち新興国である。
・日本は原油も含めて国内需要は弱かった、今も弱く、原油高でさらに弱くなっている
・日銀が利上げして需要全般を弱めて、それで需要の一部の原油消費が落ちても、世界的な需給ひっ迫の緩和には糞の役にも立たない。
・世界的な原油需給に大きなインパクトを与えるほど日本の原油消費を落とすには、猛烈に利上げして経済を大失速させる必要がある(大恐慌に陥らせる)。ここまで景気を叩き潰せば日本の原油輸入は激減するでしょう。車に乗れない、車も持てないほど貧しくするわけです。
・言わずもがなだが(原油であれ株であれ土地であれ)バブルを叩き潰すことをダイレクトに狙った利上げは経済をオーバーキルさせる

 原油高で消費者物価指数(ヘッドライン)は上昇しているが、供給ショックの物価高は産油国から課税されているに等しい。つまり、単純に物価高をインフレと見るのは正しくなく、現実的には産油国が(日本に)消費税を付加している感じである。消費税引き上げで物価指数が上がってもインフレが高進したとは言わんでしょ。
 
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by bank.of.japan | 2008-07-03 22:27 | 大機小機 | Comments(19)


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