「ほっ」と。キャンペーン
カテゴリ:ALM( 4 )
ALMのゼロサムとイールドカーブ形成=多様性消滅の弊害
 ALMシリーズで、さくら銀、IBJ、三和銀など3行の例を紹介してきた。ここで2000年3月期の各行ALM操作の一環(スワップ&債券先物)における含み損益(バンキング勘定のデリバティブ取引で観察される損益)を紹介してみたい(当時の記事から引用)。
・さくら       3203億円
・東京三菱    2342億円
・住友       1316億円
・三和        540億円
・大和       ▲44億円
・あさひ     ▲211億円
・東海      ▲312億円
・第一勧銀   ▲578億円
・富士      ▲900億円
・興銀     ▲3060億円
 結果的にであろうが、全体として損益がゼロサム状態にあるように見える。精緻な分析ではないので見当外れかもしれないが、総じて金利低下の局面に沿った操作が行われ、ALM間でゼロサム関係がなければ、当時のイールドカーブはもっとフラット化していたのではないか、という感想を持つ。金利が下がると思った銀行、逆の銀行。双方が存在したということは、カーブ形成上にそれなりの影響をもたらしたのではないか。例えば、東京三菱銀行は旧東銀から継承していた金融債発行に対してマッチング的なレシーブを行っていたように記憶する。同じような手法を興銀が取った場合、スワップ市場ではレシーブ量が増大していたはずだし、さらに三和銀が金利低下を見込んでレシーブしていたら、さらにレシーブ量は多かったことになる。
 もともと邦銀は横並び体質が強いとは言え、上記のように10行も存在すれば、金利観には多少のばらつきがあったのだ、という結果が得られる。当時からしばらくして、大手銀行はメガ集約を図った。金融システム安定化の上では官にとっても民にとってもやむなき判断であったのかもしれないが、イールドカーブ形成の面では、①多様性の消失②バランスシート巨大化の進展③オペレーションインパクトの増大-などによって、不安定性を高めることになった。2003年の「VaRショック」はそれが顕在化した典型的な事例であったと受け止められる。
 日本の金利市場を分析する場合、価格という数値に注目すると同時に、価格形成の背後に存在する各巨人プレーヤーの振る舞いも視野に入れないと、中途半端なものになるのではないかと私は思う。日銀は金利形成を主として経済ファンダメンタルズに求めるが、それは必要なことではあるものの、アウトライヤー等の規制の動き、それに対する巨人銀行&中小銀行の対応、そして時間軸を捨てた政策運営への疑心暗鬼なども考慮に入れないと、安定的な金利形成を確保するのは難しいように思う。
 ユーロ円金利先物を金融政策の織り込み具合いの参考にするにしても、せめて「あうんの呼吸」や「微妙な横並び意識」などで決まるTIBORの実情、そういう原資産から派生した先物に入り乱れるALMや投機筋の思惑を十分に汲み取って欲しいと期待したい。価格だけみると、それこそミラーマンになる。
[PR]
by bank.of.japan | 2006-05-11 21:07 | ALM | Comments(10)
健全なALMの悲哀=三和銀行がペイ超に転じた訳
 まずは以下の数字をご覧いただきたい。これは1998年3月期決算「バンキング勘定」のスワップ取引(1年超)における受け・払いをネットしたポジション(想定元本ベース)である。私が当時書いた記事から抽出した。
さくら銀行 6兆6千億円の受け超
住友銀行 4兆7千億円の受け超
富士銀行 3兆4千億円の受け超
第一勧銀 2千8百億円の受け超
三和銀行 1兆8千億円の払い超
(資金の調達手段として金融債を発行していた長信銀や東京三菱銀行は除く=資産・負債構造が異なり、都銀との単純比較は難しいため)
 97年は三洋証券破綻を契機にした金融恐慌の勃発で暗い年であった印象が強いが、同年秋までは利上げが警戒されていた。そうした中、都銀の大半は「利上げの可能性」を理由に業務純益の減少を見込んでいたが、三和銀行だけは同じ理由によって業純の増加を予想していた。確か97年度決算発表の時であったと思うが、三和銀行幹部が「これからディーリングの稚拙が問われる」と言っていたのを記憶する。
 結果的に利上げはなく、金融恐慌の勃発で景気は失速していったわけだが、「三和銀行は金利観が外れて残念」ではあるものの、健全性の面では正しかったのかもしれない。金利がどうなるかはいつの時点でも読みにくい。上がるか、変わらないか、下がるか。これら三つの選択肢に常に直面し、どれかに賭けることになる。
 市場金利は90年代に入って下がり続けた。史上最低を更新していく局面で、さらに下がると見るか、それとも底打ちすると見るかは難しい。史上最低の更新に際し、一般論として「健全性」を重視すると、金利低下に賭けるよりも、金利上昇に対してヘッジする方がいいとも考えられる。三和銀行は金利上昇に賭け、そして外れたのが実情であろうが、健全なALMであったとも受け止められる。
 なお、後日談となるが、三和銀行はそれから後(UFJに移行後も)、スワップ取引を縮小。債券中心に金利リスクを取るようになっていった。これはかなり異色な事例として注目され、しかもかなりうまく金利リスクを取ったと関係者の間では評価されていた。経営はダイエーによってつまずいたが、市場・ALM部門の実力は高かったと思う。債券運用の中心人物であったT氏(個人的には面識はない)が東京三菱銀行と統合した後、転職されたと聞いた。残念であった。
 金融システムの安定化において、都銀の経営統合は有効であったかもしれないが、個別行の個性が失われていったのは確実だ。また、ALMの巨大化がイールドカーブの不安定化を高めているのも間違いない。この点については、郵政公社の民営化も含めて改めて取り上げるつもりである。
[PR]
by bank.of.japan | 2006-05-05 23:39 | ALM | Comments(4)
「興銀ALM」の回顧&検証=マクロヘッジの多面的真実の教材
 今回は前回エントリーに続くALMシリーズの第二弾である。前回は具体例として「さくら銀行」を紹介したが、今回は「興銀ALM」を取り上げたい。ある意味、市場的にも会計的にも当局的にも非常に興味深い事例であり、できることなら「マクロヘッジの多面的真実」を物語る教材として、どこかの大学院のファイナンス学科が取り上げたらいいのではないかと思ったりする。
 さて、私の手元に「2000年 興銀ディスクロージャー誌」がある。この中から、ある数字を時系列で紹介してみたい。具体的には、バンキング勘定の金利関連デリバティブ取引の評価損益(143ページ)の推移だ。97年度、▲431億8900万円。98年度、▲771億8600万円。99年度、▲1670億200万円。同じくバンキング勘定債券関連デリバティブ取引(147ページ)は、順に▲428億8800万円、▲1003億3400万円、▲1449億4200万円となっている。
 評価損発生の主要項目は、前者では金利スワップのペイ(固定払い・変動受け)であり、後者では債券先物の売り建である。ちなみに97年3月から2000年3月までの長期金利の動向を簡単に説明すると、2%台前半から低下して98年後半は1%前後。その後運用部ショックで2%前後に急上昇し、99年はゼロ金利導入で低下に転じて1%台後半での推移となった(詳しくはネット検索してグラフなど参照)。
 私が評価損拡大を不思議に思ったのは、興銀のバランスシート構造の特殊性による。負債側をみると、都市銀行が流動性預金という短期負債を抱えるのとは違って、興銀は主として長期負債の金融債を持つ。私は当時、一般的に長期債務を発行する銀行は、ALM上はそのヘッジとしてスワップをレシーブすると聞かされていた。従って、金利が低下すると、興銀はスワップポジションはネットで評価益が拡大するはずで、そうなっていなかったのに頭をひねった。
 一方、債券先物の推移は謎である。特に売建・買建の想定元本推移は、大雑把に6兆・4兆、9兆・8兆、14兆・13兆と両サイド膨張の一途をたどり、そのうえでロスが拡大する構図が描かれていた。ポジションを落とさずにロールオーバーを繰り返しつつ、主として売建サイドで損失が拡大する合理性は見出せなかった。唯一考え出したのは、同じ水準で売りと買いを出し、儲かった方を利食っていく手法だが、それはあり得ないであろう。
 ALM操作は一般的に経営中枢の極秘オペレーションなので、行内ですら一部にしか知られていない。私も含めてALM関係者の多くは、金利が上がると思ってそちらに賭けたけど、見込みが外れた結果ではないかとの見方が多かった。一方、興銀側の説明は「当行では多用なヘッジ手段を活用しており、その中でデリバティブだけを取り上げると含み損が生じる。ただ、ヘッジ対象であるオンバランスの資産・負債でデリバティブの含み損を上回る含み益を保有しており、将来的に含み損が実現すれば資産・負債の含み益も実現し相殺される」であった。
 この説明は一見合理的だが、一般的なALMの実態には沿わない。多くの銀行は「金利の動きをうまく予想して収益の極大化を図っていた(今でもそうだと思う)」わけで、興銀の説明ではオンバランスの含み益を消すためにALMで損失を発生させた構図になる。逆説的にはALMで何もしなければ、オンバランスの含み益が実現していくはずで、やっぱり金利の読みが外れたように私には思えた。
 真実はどちらにあるのだろうか。リスクのヘッジを究極化すれば、リスク・リターンはチャラになり、「マクロヘッジ」は100%ヘッジであるなら、興銀の説明は筋が通る。監査法人も納得したのではないだろうか。だが、投機の失敗とも見えなくもない。2001年12月29日、日経新聞は、みずほグループがデリバティブの含み損3000億円を合併差益を利用して処理する、との方針を伝えた。オンバランスにあったはずの含み益はどうなったのだろう。実際にあれば、合併差益でオフバラの含み損が処理された後に実現していったことになる。
 ALMの損益をオンバランスとの関係で想像すると、日が差せば影が生じるような錯覚を覚える。益が出れば損がある、損が出れば益がある、逆側の損益は存在が掴みにくい。あるとき、マクロヘッジはシャドーヘッジングという言葉を思いついた。

ps 上記の考察は、あくまでも市場取材を通じた理解に基づいたものであり、専門家の方から解説・感想等を頂ければ幸いです。ところで、例えばオンバランス(資産)の大半である貸出は時価評価してないはずで、どうして含み益があるのだろう。うーん、銀行会計は難しい。

もう一つps ある銀行アナリストと議論した際、その方は興銀の説明に納得しており、議論は物別れに終わった。が、しばらく後に、欧米で邦銀マクロヘッジの在り方が問題視されたとき、私にヘッジ会計適用のデリバティブポジション(主としてスワップ)の読み方を教えて欲しいと言ってきた。これには多少のコツがあるのだが、想定元本は巨額であっても、期間区分の意味を考慮しないと、実態を超過大視するリスクがあると伝え、一般的なALMのあり方を私なりの解釈で説明した。アナリストの方は、今度は私の説明に深くうなずいてくれた。ホッとした。なお、欧米勢は、もっぱら想定元本の巨額さに着目して騒ぎ立てた感があり、恐らくはマクロヘッジを問題視して邦銀のロスカット的なオペレーションでスワップ・国債スプレッドの拡大を誘おうとしたのではないと思われる。ヘッジファンドの幾つかは目論見が外れ、討ち死にした模様。
[PR]
by bank.of.japan | 2006-04-26 21:31 | ALM | Comments(6)
『アウトライヤー』初期案とALMについての所見
 日銀周りの話題としては、出張航空旅費の過払い問題だが、運用不備のお粗末さを会計検査院に指摘され、格好悪い姿をさらしてしまった。悪いことは悪いことなので、以後こういうことはないのように気をつけるべし、と言うしかない。この話題でエントリーを埋めると、前から書こうと思っていたことがまた書けないので、表題のテーマに戻りたい。
 このエントリーはシリーズを考えている。最近、注目されるようになってきたバーゼルⅡの「アウトライヤー」規制に絡めて、過去の邦銀ALMの実態やそれがイールドカーブ形成に与えた影響、マクロヘッジ会計上の考察点などに触れていきたいと思う。全体として、規制と実態の差、それが金利形成に与えた影響などが浮き彫りになればいいと思う(手におえず、脈絡なくなるかもしれないが)。なお、私は金融実務の専門家ではないので、記述が不正確になる恐れがあります。その場合はご指摘を。適宜修正していきます。
 さて、「アウトライヤー」だが、現在は割り当て資本をベースにして金利リスクを管理する概念となっているが、最初の案は違った。「各銀行の平均よりも突出した金利リスクを取っている銀行」がアウトライヤーとされていた。平均を突破した存在、という意味ではまさにアウトライヤー(ならず者、外れ者、突破者)である。
 だが、この概念は弱点があった。①「平均」をいかに導き出すかが困難②平均が出せないなら突破者も検出し得ない-のだ。なぜそうなるかだが、それは銀行ALMの実態が把握しにくいため。ALMとは「資産・負債の総合管理」と訳されるが、これだけでは良く分からない。多少噛み砕くと、金利リスクを適切に管理しつつ、収益の極大化を目指す、となる。分かるようで分からない。ぶっちゃけ言えば、うまく金利動向を当てて可能な限り儲ける、であろう。
 アウトライヤー概念が登場した6-7年前は、今は単体としてはもはや存在しない銀行が多くあった。その中からまず「さくら銀行」の例を紹介しよう。同行はスワップ市場の中期ゾーンで積極的なレシーブを行っており、ペイポジションとの比較ではネットで10兆円もレシーブポジションが多いことがあった。レシーブすると、同期間の国債を買うのと等しい。単純にレシーブするのは金利リスクを積み上げるだけだが、ある負債を念等に置けばヘッジとみなせる。推測するに、さくら銀行は流動性預金の長期滞留分を「長期負債」と認識して、それにマッチングする形でレシーブポジションを作ったのではないかと思われる。そう。まさに「コア預金」の概念である。
 当時の私は、ALM関係者らの取材を通じて、この概念にたどり着いたとき、ちょっと感動した覚えがある。話を戻すと、もちろん流動性預金は短期債務と認識できる(それが一般的)。この点について、当時の日銀考査局は「負債期間の認識は経営判断」と言っていた。ところが、流動性預金の期間認定が自在だとすると、バンキング勘定で保有する国債、それにALMのスワップも含めた金利リスクが多いのか少ないのかが特定しにくくなる。
 コア預金概念を導入してALMで金利リスクを取る銀行、そうはしない銀行がほぼ同列になると何が平均的かあいまいになる。それにみんなが一斉に金利リスクを取れば、全員が会うトライヤー化することによってアウトライヤーがいなくなることにもなる。こういった事象を当時、バーゼルⅡに関わっていた日銀マンと議論したのだが、「アウトライヤー認定は無理かな」という感想であった。

追記 
・銀行のリスクの取り方はオンバランスの資産・負債だけではなく、オフバランスも見ないとよく分からない。さらにオフを含めても実はよく分からない面もある。
・ある銀行は業務純益の半分を「市場・ALM部門」が稼いだが、決算短信からは収益のトラッキングができなかった(私の能力不足による面もある)
・個人的には当時のさくら銀行のALMは何か悟りきったフシがあり、「明日なきALM」との声もあったが、結構好きであった。
10兆円のレシーブポジションは「マクロヘッジ会計適用分の概要」から算出した想定元本ベースのものだが、この概要がざっくりしたものなので、実際の金利リスクがどの程度であったかは不明。特に期間の区切りが大雑把なので、IMMスワップという短期物が中期ゾーンに入れ込まれた格好であったので、10兆円という数字に驚いてはいけないかも。
・なお、最近のALMは金融不安の収束、景気回復などでそれほど積極的に動いていないように思われる。
 
 
[PR]
by bank.of.japan | 2006-04-20 22:40 | ALM | Comments(2)


無料アクセス解析