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長銀粉飾決算の逆転無罪の雑感
 ちょっとタイミングが遅れたが、長銀粉飾決算の逆転無罪についての感想を。とりとめもない雑感ですが…。

ネットを見ていたら、「長銀粉飾決算、逆転無罪 消えた税金、責任どこへ」というヘッドラインが目に入った。いみじくも当時の空気を引きずったものである。税金投入に怒る国民(&マスコミ)、振り上げたこぶしを何らかの形で振り下ろす必要があった。その犠牲となったのが、旧経営陣であろう。

もとより、粉飾を問われた経営陣は、人事的なめぐり合わせで、10年以上前の過剰融資の敗戦処理をやる羽目になった。そんなことは金融界では誰もが知っていて、「タイミング悪いときに経営陣になるというババを引いた」という感想が多かったように思う。これは日債銀の窪田さんや東郷さんも同じで、二人は会えてババを引く(火中の栗を拾う)ほどの善人であった。

先日、当時をよく知る日銀幹部は言った。粉飾を問われたのは「当時の空気だった」と。

バブルが市場経済に付き物であり、その生成と崩壊のマクロインパクトが大きければ大きいほど、金融システムクラッシュの引き金は誰にも引けない。結局は、ゴーイングコンサーンしか選択肢はない、のだろう。マクロ経済現象の結果として生じた敗戦処理にぶち当たった人々に責任を負わせるのは、怒る空気のスケープゴートでしかない。そんなとき、公的資金注入せずに破たん処理したら膨大な公的資金が必要なのだ、と説いても誰も耳を傾けない。

じゃあ本当の責任はバブル期の経営陣にあるのか。これも良く分からない。人は神の予見能力は持たない。地価が上がり続ける局面で、不動産担保融資を伸ばさない「英断」は、バブルがはじけた後で振り返れば、英断だったと誰もが言えるが、その局面で本当に断言できるのか。

長銀は状況の犠牲者だったと思う。

この仕事に就いた初期の頃、どんなにマクロインパクトがあっても問題債権は徹底処理が必要(清算主義)ではないかと思ったものだが、現実はゴーイングコンサーン以外には選択肢がないのだろう。今の米国もそんな感じである。

金融機関経営は基本的にはマクロ連動する。商業銀行は緩やかに、投資銀行は激しく。金融マンがマクロ循環のどの局面をどのようなポジションで迎えるかは運命でしかない。言えることは、バブル崩壊の初期に金融マンとしての人生を終えた人々は本当に良い人生を過ごした、ということだ。
by bank.of.japan | 2008-07-22 22:48 | 金融システム | Comments(17)
Commented at 2008-07-22 23:16 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by PK at 2008-07-23 00:15 x
富の大部分を持ってる老人に消費税だ所得税だ派遣社員が払って養う
まあムシャクシャするから人を刺すのも分かるな
老人の介護要員も薄給だし。
オマケに首相が福田だよ。あの人何歳?
この国はダメだよ。何度も言うけど。
消費税上げて皆、少なくとも俺は消費を減らす。
国に納める税金は意思で可能な限り少なくするね。
Commented by える at 2008-07-23 01:08 x
世間のムードが厳罰化に傾いていった時期とも、
ちょうどあっているような気もします。

刑法には「罪を犯す意思のない行為は罰しない」とあり、
罪刑法定主義の原則が示されています。故意犯の処罰が原則で、
過失犯の処罰は定めがある場合のみで許された例外です。

経営の傾きを抑えきれなかった銀行経営者を捕まえ、
会計手続きの不備に気づかなかったベンチャー経営者を捕まえ、
口うるさいファンドマネージャーを捕まえ、
…彼らは本当に犯罪者なのか、いまだに疑問です。

恣意的な取締りをするから、経営者はチャレンジすること慎重になり、
潜在成長率が1%ほどしかない国になってしまったのではないかと。
それだけでは無いのでしょうけど。
Commented by WBJ at 2008-07-23 02:23 x
今回無罪になった2人や、日債銀の窪田氏、東郷氏が犠牲者だというのは、私も全く同感なのですが、bank.of.japanさんの「 じゃあ本当の責任はバブル期の経営陣にあるのか。これも良く分からない。」という部分は、多少異論があります。旧長銀の杉浦敏介、旧日債銀の頴川史郎の2人のドンは、やはり「戦犯」というにふさわしいのではないかと思うのですが・・・私は当時の銀行業界に身を置いていたわけではないので(まだ学生でした)、あくまでいくつかの書物を読んで得た印象ですけどね。この2名についてはいかが思われますか?もう故人なので、歴史上の人物(笑)として、遠慮無く評価しても良い時期だと思いますが。
Commented by 飛車 at 2008-07-23 02:37 x
バブル当時の長銀の経営陣ってのはわかりませんが、バブル末期の長銀従業員の知り合いというのはいまして・・・。おい、おまえら仕事はいつしてるの?って印象が強く残っています。まあ、数年後には「外資系になりましたorz」となっていたのですが。

>その局面で本当に断言できるのか

この点に関しては同意。成功者・失敗者の差というのは、経営者となる者のキャラクタが、「その時代にあっていたのかいないのか」だけで、そのキャラクタ自体に優劣は無いと思っています。後から振り返って、時代にあっていたかどうかがわかるわけで。成功者の体験を伝える類の経営読本みたいなのは、結果的に時代があっていただけの事を、さも普遍的にそれが正しいみたいに伝えたがるので、個人的には大嫌い。
Commented by 平成の愚民 at 2008-07-23 12:54 x
>バブルが市場経済に付き物であり、・・・マクロ経済現象の結果として生じた敗戦処理にぶち当たった人々に責任を負わせるのは、怒る空気のスケープゴートでしかない。

話を摩り替えてませんか?
彼らをスケープゴートにしたのは庶民じゃないですよ。
莫大な血税が投入された以上、原因と責任の所在が問われるのは当然の事。

>人は神の予見能力は持たない。地価が上がり続ける局面で、・・・

バブルは弾けて始めて判ると言う人が居るが、当時の不動産バブルが異常だった事は不動産関係者なら大抵気付いていた。
特に居住用物件では明白で、バブル末期には実需はほとんど無く、転売益を狙った売買が大半だったからだ。
Commented by 平成の愚民 at 2008-07-23 12:57 x
続き

直接金融の拡大によって歴史的使命を終えた長期信用銀行が、リストラせずに延命を図る為に、高収益が見込める不動産に突っ込んで行ったのではないか。
ドン杉浦会長は、反対意見の有力役員を左遷してまで不動産融資を拡大した。

>長銀は状況の犠牲者だったと思う。

その「状況」は、日銀・大蔵省の行政当局と二人三脚で作り出したのでは?
あれだけの不動産バブルは自然に起こる事では無い。
金融当局との関係を含めて、過去の経緯を洗いざらい国民の前に明らかにする事が求められていたはずだ。






Commented by Cru at 2008-07-23 21:20 x
ま、問題は法律的裏付けをもってバブル期の「真の」「戦犯」に対して平成の愚民さんが言う「原因と責任の所在」を問う事ができるかってことでしょね。
世論を鎮めるために事の本質と関係ありそでなさそなところを見つけ出して引っ張るんでは「スケープゴート」以外の何物でもないのでは。

そもそも「事の本質」が犯罪を形成していたのかという事もあるわけですし。
Commented by bank.of.japan at 2008-07-23 22:13
非公開さん、どうもです。人間の(儲けたいという)性がバブルを繰り返すならば、これを制御するうまい仕組みはなかなか難しいと思います。職業人生におけるタイミングorめぐり合わせは本当に重要です。

PKさん、どうもです。私は、最近の事件を格差問題につなげるのはどうかな、という立場でして。あくまで個人要因ではないかと…。

えるさん、どうもです。ご指摘にうなずくところ大であります。誰がみても、たまたま敗戦処理に当たることになった人を罰するのは、いくら税金投入の免罪符にしようと無理があります。

WBJさん、どうもです。強いて戦犯を挙げよ、ということであればご指摘のようにバブル期に過剰融資の旗振りしたワンマントップでありましょう。ただ、背任など明らかな非がない限り、法的に責任を問うのは難しいかもしれません。
Commented by bank.of.japan at 2008-07-23 22:26
飛車さん、どうもです。経営者の成功・失敗はかなりの部分、時代に合うかどうかに左右される面は大きいです。勝てば官軍、負ければ賊軍、ということでしょうか。「運も才能のうちだ」とよく言われるのですが…。運を才能のように語られるのは嫌ですね(苦笑)。

平成の愚民さん、どうもです。バブルだとわかってもそれを叩き潰せば大変なことになるのを味わったのが日本です。かといって予防もできないでしょう。バブルかどうか分からない、つぶすと大変なことになる、つぶれたら迅速に利下げして手当てするというグリースパンの立場に私は近いです。不動産バブルは作ろうとして作れるものではない、と私は思います。いろいろな複合要因で発生したのでしょう。ドン杉浦会長の責任はかなり大とは思いますが、法的に問えない以上は仕方がないでしょう。

Cruさん、どうもです。バブル期の過剰融資が失敗であったのは、振り返って分かるわけで、当時は永遠に上がることへの恐怖から、劇薬の融資規制をやったわけで。ご指摘のようにバブル発生の事の本質は分からず、犯罪形成も立証できないと思います。
Commented by 官僚&T at 2008-07-23 23:19 x
時代のスケープゴートっていつの時代にもありますよね。古くは戦犯(とりわけBC級)、で昔政治家、大企業経営者、銀行マン、官僚ってとこ(当然やられるのは一部の方々です)ですかね。という中で、BC級戦犯という意味では、社会保険庁の懲戒職員といったところですかね。極めて政治的理由で、組織再編とともに、解雇事由ではない過去の行い(それも極めて恣意性の高い調査、自白にもとづく)で、解雇されるなんて言うとんでもない、労働者の人権侵害がこの世論とか、マスコミの悪辣な操作によって実行されようとしている。
でこの原因を作った官公庁労働組合幹部の出身母体のみんS党様はこの期におよんで、彼らを見捨てようとしてしているってね。でこれを実行しようとしているのが、労働行政を預かる監督監督官庁ってのがまたすごいところです。でこんなことが、まかりとおると民間だって経営母体が変われば誰でも首にできますよ。でおかしな全体主義がまかり通らないことを祈るばかりです。
Commented by bank.of.japan at 2008-07-24 19:11 x
官僚&Tさん、どうもです。社保庁の件は驚きました。確かに世間の批判が強いとは言え、これはやり過ぎではないか、という気もします。社会全体にぎすぎす感が強まり、ストレスが増大していくのではないでしょうか。将来はますます暗くなりつつあります。
Commented by ash at 2008-07-24 21:34 x
バブルはつくられるべくして創られ、まともな手当がないと強烈にはじける。バブルの研究はオランダのチューリップなどから散々されてますよ。
問題は形を変えて気づかないように起こり始めるのがやっかいなんですけどね。問題はそれに気づいていながら何も変えようとしない人間ですよ。それが出来ない人間が日本には多すぎると思います。そんな人間はトップになってはいけないし、トップなんですから当然結果責任も取るべきです。法的にどうこうじゃなくね。

後、労働者の権利は良いんですけど、無能で働かない人間を辞めさせられない集団って腐っていくと思いますよ。まともな競争原理も働かない集団なんですから自律してほしかったと思ってます。
Commented by bank.of.japan at 2008-07-24 21:46
ashさん、どうもです。確かにバブルの研究は過去の事例を中心に色々行われいるのでしょうが、未来に起こりえるかどうかを予め知ることは難しいと思います。また、人為的に起こせるなら、資産デフレの脱却に際して特効薬にもなると思われます。トップの見識は可能な限り高い方がいいとは思いますが、見識を客観的に測るのが難しいのではないでしょうか。公的組織の問題は、個々人ではなく、政治を通じたガバナンスが先行すべきではないかと思います。
Commented by 飛車 at 2008-07-25 12:26 x
バブルが集団幻覚のようなものであれば、特定の個人の責任に帰す事はできないと思います。バブル崩壊した際に自己責任となる分のリスクは負っていますから。

ただ、その一連の流れの中を虱潰しに探せば、現行法の中で法令に違反している行為(贈収賄・脅迫その他色々)はいくつも見つけられると思いまして、そういうものはしっかりと罰していれば良いと思います。

ここの区別はちゃんとしないといけません。

そして、蛇足ですが、バブルを市場機構の機能不全と考えたら、事後的であれ、その阻害要因を一つ一つ潰していく事は重要だと思います。
Commented by 平成の愚民 at 2008-07-26 15:55 x
>バブルだとわかってもそれを叩き潰せば大変なことになるのを味わったのが日本です。

バブルが拡大する局面で低金利を続け放置しながら、地価高騰で実需が消えピークを示す兆候が現出してから規制を始め、崩壊が始まって1年以上も金融引き締めを続けたのですから、大変な事になったのも当然でしょう。
行政の採った行動は、本来行うべき事と全く逆ですから。

>かといって予防もできないでしょう。

予防は出来なくとも、もっと早い段階で抑制を掛ける事は可能でした。
実際、総量規制が行われる数年前から、国会でも不動産バブルの問題は取り上げられていました。

>不動産バブルは作ろうとして作れるものではない、と私は思います

現在のアメリカの不動産バブルは、IT不況の対応策として、ある程度意図的に仕向けられたものです。
作ろうとして作れるのです。
上手くコントロール出来るかどうかは別ですが。
日本の不動産バブルにも、同様なものを感じています。

どうやら、bank.of.japanさんは日銀のマークが入った大きな太鼓を抱えてこのブログをされているようなので、野暮なコメントはこの辺で止めて置きます。

Commented by bank.of.japan at 2008-07-28 22:28
飛車さん、どうもです。ご指摘、賛同です。

平成の愚民さん、どうもです。日銀はむしろバブル予防論に近い立場で、私がこの場で主張していることには賛同しないように思います。
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