FRBの資産変化は急速ですね=売手が打てたら…
 東短リサーチの加藤さんのリポート(7日付)を見ていたら、FRBの資産内容が激しく変化していて驚いた(オペを細かくウォッチしたら分かるのだが、そこまでチェックしておりませんでした)。具体的には、国債がどんどん減って、TAFとかMBSレポとかTSLFとか、流動性対策見合いの資産がどんどん増えている。加藤さんの数字をお借りすると、バランスシート全体に占める流動性対策系の資産比率は44%で、これは6月末には60%前後に達する可能性があるらしい。
 流動性対策見合いの資産のうち、ECBやSNB向けの為替スワップに伴うドル供給は、裏側にユーロやスイスフランがあるので、まあ安全資産だが、残りは各種資産担保証券やエージェンシー債などが多いので、ドルを裏打ちする資産の質がリスキー度合いを強めていると言えなくもない。私自身は、これを見て「ドルの信認が揺らいでいる」とは思わないのだが、中にはこの変化を見て騒ぐ人がいるかもしれないので、FX系の方はちょっと念頭に置いていた方がいいかも。
 ドルの信認に直結しないのは、次のような事情による。FRBがやっているのは、官民適格担保間で発生した資金の偏在の解消である。まず、金融危機で「質への逃避」が強力に起きて国債人気が高まった。一方で、非国債系の適格担保はマーケットで不人気となり、それを使ったファンディングが円滑にいかなくなった。仕方がないので、FRBは人気のないものを買い、人気のあるものを放出して資金が回るようにした。FRB資産は劣化しているかもしれないが、米国債人気は高いので、ドルは大丈夫でしょう(と思う)。
 ところで、流動性対策の資金供給すると、なぜ米債が減るのかは疑問に思うかもしれない。減らさずにどんどんTAFとか打ち込めばいいじゃねえか、というわけだ。これはややテクニカルだが、「売手」という機動性の高い資金の吸収手段がないためだ。中央銀行が一方的に資金を供給すると、金融システムでは金が余り、結果的に準備預金が増える。金利は下がってしまう、つまり利下げ状態になってしまう。
 FRBは金融システム不安の沈静化で金は出すけど、一方でインフレを警戒したいので利下げはしたくない。でも、売手という便利な吸収手段はない。そこで、持っている国債を減らす(事実上の吸収)ことで、供給する枠を作っているわけだ。たくさん食いたいけど、腹の大きさは変わらない。そこで、腹に入っている国債を減らし、空いたスペースに食いたい物を入れている感じであろうか。
 日銀は1997-8年の金融危機の際、資金供給する一方で、売手を打ちまくった。この結果、バランスシートは膨張した。既存のバランスシートはそのままに、資産側に追加供給がどんどんのっかり、反対側の負債では売手が増える感じであろうか。「売手」があると、別腹ができちゃうのですね。そんなことを思わせた「売手」なきFRBの資産変化でした。調節マニアとしては非常に興味深いです。

ps 日銀は気のせいかもしれないが、「売手」という手段にちょっと恥ずかしさを覚えている感じだ。ダサいとか、後進国の手段とか、そういったもんなんだろうか。この辺の事情はいろいろ調べてみたい。
 加藤さんによると、米国では中央銀行が負債(売手)を発行するのは制度上はグレーゾーンのようで、これもどういう哲学があるのか興味深いなあ。
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by bank.of.japan | 2008-05-16 00:30 | マーケット | Comments(11)
Commented by サントリー at 2008-05-16 02:13 x
戦略備蓄の減少も日本から調達することでオフセットしているみたいですから、米国の体制は磐石でしょう。

青木直人&青山繁晴 政界・財界・官界・マスコミ. ..敵は本能寺にあり!
http://youtube.com/watch?v=OTxU7h39Ct4
Commented by maconn at 2008-05-16 05:36
はじめまして。いつも拝見し参考にさせていただいております。私もこの資産の変化には驚いていたのですが、疑問は米国債の「放出」を誰が吸収していたのかです。金融機関は資金繰りに汲々としていたはずなのですが。だれが買い手なのでしょう?
Commented by bank.of.japan at 2008-05-16 19:05
サントリーさん、どうもです。情報、多謝です。参考にしたいと思います。

maconnさん、どうもです。基本的には、マーケットの担保ニーズとして国債が選好される一方、MBSなどが忌避される中、FRBは忌避されたMBSを担保に取る(資金供給)と同時に国債を放出(吸収)した格好です。買い手は金融機関で、市中においては全体としてMBSなどが減って国債が増えた、という格好でしょうか。
Commented by 鷹鳩 at 2008-05-16 22:23 x
なるほどですね。勉強になります。
しかし、トレジャリー売りのMBS買いのオペレーションを続けていくとFRBのバランスシートが相当質の低いものになっていきますね。MBSなどの流動性がさらに下がる、価格が下がる、裏にある資産が劣化するなんて事態になると、債務超過なんてことにならないんでしょうか。
Commented by 市場失敗に対するサプライズ at 2008-05-16 23:23 x
ということで、いつまでもやってはだめなので、短期間市場が思いもよらぬことをやって「あーあ持ってる資産は大丈夫だ」ということ思い込ませることに意味があるのですよ。金融政策は。短期の政策誘導の基本です。でも最近だまされない人が多くなって効果がいまいちです。
Commented by 植田日銀総裁 at 2008-05-16 23:27 x
日銀の売手は資金吸収と同時に資金の偏在をならす目的のオペであるという色合いが強く、(例えは資金余剰日に税揚げ日等の資金不足日をエンドとする売手オペを実行する。そうすると資金の偏在を均すことが出きる。)マーケット参加者も当たり前のようにとらえているので問題はないのですが、根本的に考えると売手の類は中央銀行が発行する債券、債務であり乱発すると中央銀行がどんどん資金調達してバランスシートを膨らませ同時に別の相手に資金供給するという資源再配分機能を恣意的に使っていることになります。それは中央銀行がそのような権限を持ちえるのかという問題につながり下手をすると一線を越える行為とも言えると思います。議長、ボードメンバーがすべて国民の審判を受けた人間であればそれもよいのかと思いますが、多少グレーな部分があると思います。アメリカにおいて中央銀行の負債調達に制限がかかっているのは、ある程度健全なような感覚もあります。突き詰めて考えると非常にデリケートな問題です。
Commented by ラスト何マイル? at 2008-05-16 23:45 x
準備預金への付利ができるようになれば、実質的に両建てオペができるようになりますね。
Commented by bank.of.japan at 2008-05-17 00:52
鷹鳩さん、どうもです。資産内容の激変は、質的には劣化方向であり、ご指摘のような懸念は持たれやすいです。ただ、買いきりではない(期間限定の現先方式)ほか、適格審査はしているので、債務超過の恐れはまあないであろうと思われます。とは言うものの、印象が悪くなったと思う人が増えれば、それだけで信認は揺らぎかねないので、リスキーではあります。

市場失敗に対するサプライズさん、どうもです。期待への働きかけは難しいですね。本当に。FRBの対応は、金回りの面では実効性はあったと思いますが、ここから先の金融政策としてのマクロ効果がどうかは見守るしかないです。
Commented by bank.of.japan at 2008-05-17 00:58
植田日銀総裁さん、どうもです。鋭いところを突きましたね。本日は、ご指摘のテーマで何人かの日銀マンと議論したばかりです。よくよく見ると、「売手」を持たずに流動性対策やっているFRBの方が、日銀よりも茨の道を歩んでいる、というか、売手を駆使するほうがイージーな感じにも見えたりして…。売手導入時には、第二銀行券問題とか言われて、かなりの議論が日銀内で行われた、とも聞きます。この問題、引き続きフォローしたいと思います。

ラスト何マイル?さん、どうもです。しかり、です。FRB、制度上は付利できるようになったと思ったのですが…。この点、ちょっと確認しますね。
Commented by maconn at 2008-05-17 04:37 x
丁寧なレスありがとうございました。今後ともよろしく御願いします
Commented by bank.of.japan at 2008-05-17 21:40 x
maconnさん、どうもです。こちらこそ今後ともよろしくお願いします。
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