人気ブログランキング | 話題のタグを見る
「労働形態として最高の姿」と「食うための仕事」論=登山家・山野井氏で思うこと
 しばらく前の日経新聞「交遊録」(最終面のコラム)にソロクライマー山野井泰史氏が登場していた。その道を極めたプロらしい内容で、他の方々とは一線を画すものとして強く印象に残った。山野井氏にとって登山とはもちろん労働ではなく、好きなことを極めているに過ぎない。しかし、「労働者」として見ると、その姿は最高(or最強)ではないかと思った。
 名誉欲も金銭欲もなく、死ぬリスクを冒して「登山」という職業に打ち込む。「仕事」が「大好きなこと」or「強い意義を感じること」であるなら、その仕事は人生と合体し、給料の多寡に関わらず、どんなにハードワークでもあっても(むしろ喜びを覚える)人は打ち込んでいくのだろう。そして、その仕事での「死」はむしろ本望(当然のリスク)でもあり、幸せな人生だったという結論になる。
 一般的にはしかし、人生と合体するほど大好きな仕事というものは見つからない。私もそうだったが、好きなこと(興味があること)が見当たらず、でも食わなきゃいけないので「仕事」に就いた。たまたま就いた仕事に意義を見出す、面白さを発見する、といったことがあればいいが、まあこれは私もそうだったが、偶然に左右されるもので、当てにはできない。
 「食うための仕事」はどうあるべきか。中小零細企業を幾つか転々とした私の経験上、辛かったのは給料が安いとか、福利厚生がいまいち(ほとんどない)とかいったとじゃなくて、「精神的な束縛」であった。「食うための仕事」は常識的な範囲での勤勉性、社交性、要領のよさがあれば十分であり、それ以上の「意義」とか「忠誠」とか「思想」とか精神論めいたものを求められるものではないと思った。
 トップが神格化され、ある種の崇拝めいたことが求められる、トップの思想(個人的な趣味のたぐい)が社風を束縛する、社員の団結が必要以上に強く求められ、やたらと社内イベントが多い。こういうのは結構辛い(まあ、これは人によって価値観は違うかもしれないが)。
 日本は体制移行国に匹敵する世界有数の自殺大国である。そして過労死も(うつ病になる人も)多い。「食うための仕事」にしては、人生との合体化が強く求められ、結果的に労働者に対する精神的な負荷が強い状況にあるのではないかと推測される。
 労働観は人それぞれで、経験によって異なると思うのだが、少なくとも私の経験則としては「食うための仕事」が精神的に辛いものであるのはおかしいと思った。そういう会社は得てして人材の流動化が高く、あまり発展しない。やはり「無能な怠け者」を前提にいかに効率よく(楽に)動かす仕組みを考えるのがマネジメントではないかな。

追記 私は登山はやらない。山野井氏の存在は「情熱大陸」(TBS、日曜夜)で知った。凄い人だと思った。
by bank.of.japan | 2008-05-11 17:13 | 経済 | Comments(11)
Commented at 2008-05-11 21:58 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by bank.of.japan at 2008-05-11 22:50
非公開さん、どうもです。いえいえ、こちらこそコメント頂きありがとうございます。関連で思うことはまだありますので、おいおい書いていくつもりです。
Commented by 初心者 at 2008-05-12 12:12 x
私も、「食うための仕事」が精神的に辛いものであるのはおかしいと思い、小金が貯まった時点で会社を辞めました。
今は、傍から見れば赤貧生活ですが、精神的束縛からは逃れて、自分としては、そこそこ満足できる生活を送っています。
Commented by 椿ライン at 2008-05-12 20:02 x
 毎度ご苦労様です~。
 よく一番好きなものを趣味に、二番目に好きなものを仕事にと言いますが、好きなものを仕事にできている人は少ないでしょうね。本石町さんが中小零細企業を幾つか転々としたというのは初めて聞きました。知的好奇心をくすぐられる仕事は性にあっているでしょうね(^^
Commented by bank.of.japan at 2008-05-12 20:04
初心者さん、どうもです。精神的負担は人によって耐性が異なるので、これは人に相談しても何とかなるものでもないです。自分で決めてそれで結果良しであればよいのだと思います。一方、事情によって簡単には辞められない方も多いと思われ、これは心が痛みます。
Commented by bank.of.japan at 2008-05-12 20:06 x
椿ラインさん、どうもです。過去の職歴は初期のころにチラッと触れたことがあります。そもそも経済への関心はゼロで、今の仕事も別な分野を担当するものだとばっかり思っていて、経済に行かされたときは相当にショックでありました(苦笑)。
Commented at 2008-05-12 22:53 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by あかさたな at 2008-05-15 14:11 x
みんな仕事にもっどドライになるべきなんですよ。仕事は所詮そんなもんなんだし。
第一、一生涯その仕事に縛り付ける前提のような制度・慣習と実態とのギャップが、
精神をおかしくする人、正社員になりたくてもなれない人が蔓延する元凶なわけです。

やっぱ日本に一番必要なのは労働ビッグバンですな。
制度ももちろんですが、企業の慣習も変えていかないと。
あっ、自殺はなんか働き盛りの人が精神を病んで自殺するのが一番多いイメージがあるかも知れませんが、
実際には仕事をリタイヤした高齢者の自殺が3分の1で、病苦が最も多いです。
(これは日本だけじゃなく世界的に高齢者がトップです)
Commented by bank.of.japan at 2008-05-16 00:46
非公開さん、どうもです。ご同情申し上げます。頑張ってください、とか言っちゃあいけないのですが、「食うための仕事」をどうやり過ごすかは、また書いて見たいです。

あかさたなさん、どうもです。もっとドライになる、というのは同感です。人生、多様な価値観持ったほうがよいと思います。
Commented by kisidan at 2008-06-08 14:03 x
「食うための仕事」が精神的に辛いものであるのはおかしいと思った。」

秀逸な文ですね。日本に自殺者が多いのはココでしょう。自分も自殺しそうだったので海外移住しました。貧乏でもいいです。いい女が抱けて、睡眠時間がたっぶりとれて、ネットがあれば十分です。
Commented by bank.of.japan at 2008-06-08 22:47 x
kisidanさん、どうもです。ありがとうございます。仕事は一般的には与えられた業務をきちんとこなせばよいのであって、それとは無関係な精神的束縛(圧迫)は不必要であろうと思います。精神的に余裕のある人生が良いと思います。今は充実されていらっしゃるようですね。
<< 業務連絡です=本日の日銀人事は… 日本電産・永守社長の精神注入棒論 >>


無料アクセス解析