ときどき巡回している「レジデント初期研修用資料」さんが、「量産型はダテじゃない」というエントリーで、感情労働の一例として日経記事で触れられた「スマイルゼロ円」について興味深い考察を行っていた。関心ある方はご覧ください。この方のブログは他にも興味深いエントリーが多いので、お奨めです。
まず、切り口は、モンスターな客から現場を守る手段としての「マニュアル化された笑顔」である。これはモンスターな患者に悩むお医者さんらしい発想であり、うなずける面もある。ちょっと引用します。 ーーーー 「スマイルゼロ円」なんて、現場の人間に頭を使わせない、マクドナルドの接客マニュアル。あれはたぶん、お客さんに均一な笑顔を提供する役割と、「笑顔が嫌いなお客さん」みたいに特殊な顧客から、現場を保護する役割とをあわせもつ。 マクドナルドに入れば、スタッフはみんな笑顔。このへんはたぶんマニュアル化されていて、おまけにもう一つ、「スマイルゼロ円」は、ほとんど公知のものとして公開されている。 仮に、笑顔を向けられるとものすごく不愉快になるお客さんがいたとしても、そんな人は本来、最初からマクドナルドには入らない。「マニュアルに強制された笑顔」が公知のものならば、「マクドナルドに入ると笑われる」ことを知って入った客さんだって、責任が発生するはず。 あらゆる種類のお客さんに対して開いている職場は、様々なクレームに翻弄された帰結として、きっとマクドナルドの接客マニュアルみたいな、現場を「無脳化」するやりかたにたどり着く。 万能の防衛手段は作れない。 どんなにきちんと接客しても、その行為自体を「不愉快」と定義されれば反論できないし、スタッフが訴訟に巻き込まれたら、現場の士気は下がってしまう。接客なんて行為に正解は存在しないからこそ、会社側が唯一取れる防衛手段は、「会社としての正解」を作ってしまって、それを誰の目にも止まる場所に公開しておくことなんだと思う。 ーーーー 提供されるサービスが広く認識されている、つまり予見可能であると、接客に超神経質な潜在的モンスター客はあらかじめ排除される可能性は確かにある。マックの機械的な笑顔は有名であるし、そういうもんだと思って行く人が多いのだろう。まあ、私は関係なく行きますが(苦笑)。 あと、レジデントさんも指摘しているように、サービス精神を超発揮する人をベンチマークに持ってくるようなことはしてはいけない、と私も思う。異常に尽くす人、それこそ宗教的な犠牲心すら発揮しかねない人はまあレアケースなので、そういう奉仕心を「真心のこもった」とか喧伝されちゃうと、この国はみんな病気になる。 感情労働は、機械的笑顔(ビジネスに応じた接客手法・スタンダード品)と、高度な笑顔(老舗旅館のいたりれり尽くせり・オーダーメード品)に分類して語る必要があるかもしれない。「お客様は神様」だけど、神様も色々で、中には悪魔みたいな神様もいるので、要注意である。ビジネスに応じた常識的サービスを提供すれば十分。それ以上の過剰な感情労働は、初期的には労働コストの低下に貢献するけど、長期的な持続性がないような気がする。 このフレーズは気に入った。 「ガンダムとか宇宙戦艦ヤマトみたいなプロトタイプには、本当は勝たせちゃいけないんだと思う。全人類の期待を一身に背負ったプロトタイプは、性能が劣った敵側の量産品に囲まれて、そのうち故障が頻発して、部品が足りなくなって、結局人類滅亡するのが正しいはず」 これは労働の世界において真実かもしれない。スーパーマンみたいな幹部の下で働くのはゾッとするし。日銀でもありがちなパターンかも。
by bank.of.japan
| 2008-02-25 22:19
| 経済
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Comments(7)
というよりもマクドナルドでもコンビニでもお客お客に応じたサービスを考えている余裕はないと思います。スマイルゼロ円っていうのも標語でお客さんを不愉快にさせない努力さえすれば言葉どおりに実行する必要はないしまた実行もさほどしていないと思います。(でも建前でなくこの記事のような現実論を展開してくださる方はいて欲しいと思います)
「ビジネスに応じた常識的サービスを提供すれば十分」には同意です。でもスーパーマンのような人を敬しつつも、別にその人を無理に見習わなくていいという認識も常識的な管理者や店長は持っていると思います。旧日本軍のような管理者はむしろ少数派だと思います。私が大企業からお店まで職場で様々な見てきた限りは。 それと前の財金分離論ですが、思い出しました。98年かそこらの法改正でシステム上はほぼ終わった議論だと思うのですが、私はほぼ単に形式的な人事の問題だと思います、金融サイドから財政赤字対策に影響を与えるというのならかなり政治的に筋違いな論理だと思います。欧米で成功例があるのかもしれせんが・・よく存じません。 長々と失礼しました。
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bank.of.japan at 2008-02-26 22:07
週間コーディネートさん、どうもです。「スーパーマンのような人を敬しつつも、別にその人を無理に見習わなくていいという認識も常識的な管理者や店長は持っている」のであればちょっと安心です。この点、日銀の方がまだちょっと古風かもしれません。1000本ノックみたいな発注があったりするようなので…。
財金分離論が形式的な人事の問題にこだわっているのならあまり意味はないですね。ECBのトリシェ総裁は、仏大蔵省の事務方トップ(大物でした)でしたし。それでECBがおかしくなったわけでもないです。
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koge
at 2008-02-27 08:11
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>スーパーマンのような人を敬しつつも、別にその人を無理に見習わなくていいという認識も常識的な管理者や店長は持っている
しかし、店長や経営者が常識的な認識を持っていたとしても、顧客が持っているとは限らないわけで。1店舗ならお引き取り願うことが可能だとしても、どの店舗からも追い出され(て、持っているサービスへの期待がかわらなけ)れば、暴動や(ネット上含めた)テロに走ってしまうのではないかと。 特に「公務員というサービス業」に対する期待は、すでに高い対価を払えば実現できるというレベルを超えているような気が…
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週刊コーディネート
at 2008-02-27 20:01
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>kogeさんへ
私へのご指摘という事で少し書かせていただきます。「店長や経営者が常識的な認識を持っていたとしても、顧客が持っているとは限らないわけで。」、というのは、まことに仰るとおりだと思います。しかし全ての店舗から追い出される顧客というのはかなり少数で性格的に異常な方だとお見受けします。暴動?はどうか知りませんが、ネットで悪評をかかれることはあるかもしれませんね。でもその内容を信じる人もかなり少数だと思います。
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koge
at 2008-02-27 23:34
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>しかし全ての店舗から追い出される顧客というのはかなり少数で性格的に異常な方
「医療崩壊」関連の話を聞いてると、消費者の持ってる「常識的な認識」が、既にスーパーマンですら実現不可能な水準なんてことは少なくともこの国ではざらにあるとしか思えないんですが。 暴動にしたって、「治安悪化している今だから起こる」のではなく、すでに35年前に「労働運動に対して資本家・経営者ではなく、消費者が自ら実力行使を加える」という『英国病』時代にすらなかった前代未聞の事態が起きているんですが(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%8A%E5%B0%BE%E4%BA%8B%E4%BB%B6、http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%A6%96%E9%83%BD%E5%9C%8F%E5%9B%BD%E9%9B%BB%E6%9A%B4%E5%8B%95)。フランスのようにストライキに消費者が一緒になってデモ行進しだすような社会というのもそれはそれで耐えられない気もしますが…。 正直この国では誰もが消費者であることばかり考えていて、生産者(労働者・経営者を問わず)であることが頭から抜けているんじゃないでしょうか。皆が利上げ、ひいてはデフレを望むのも、これが原因としか思えません。
マックのスマイル 0円のフィロソフィーは当時(大昔)、私はとても気に入っていました。アルバイトの女の子も皆、笑顔で対応していました。懐かしいですね。たまに(深夜)マックで小腹が空いたときに注文しても店員に覇気は(勿論スマイルなど)ありません。そもそも、マックが24時間営業などするからそういうことになるのかもしれません。チ○ピラみたいな若い男女に愛想(笑顔)を振りまけ という方が無茶な話しです。マックプレミアムコーヒーの方がスタバのコーヒーの方が美味しいと米国では言われているのに…。惜しいですね。
訂正:米国ではマックプレミアムコーヒーの方が、スタバのコーヒーよりも美味しいと言われています。
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