ベンを擁護してみたい=まだケチャップは買っていない
 ネットをいろいろ巡っている中で、「FEDが何でも担保にとって金融機関の損失を穴埋めしている」という見方がちらっとあった。確かに、連銀貸出(ディスカウントウィンドウ)の担保範囲は広く、日銀に比べると何でも担保に取っているように見えるが、仮に担保を取るとしても、そのことが損失の穴埋めにはならない。担保を取るのは、融資の見合いであり、「融資」は貸す、すなわち金をくれてやるわけではない。返さないといけない。連銀貸出の利用期間は最長1カ月に延ばされたが、一ヶ月間の短期融資をしているに過ぎない(あまり使われないみたいだ)。
 私はリフレ派ではないが、セントラルバンカーとしてのベン(バーナンキ)の汚名をそそぐためにもちょっと擁護してみたいと思う。まず、ここではっきりしておきたいのは、FRBが今やっているのは、流動性対策(プルーデンス政策の一環)であり、金融政策ではない。公定歩合の引き下げも前者の範疇で捉えるべきで、金融政策(FF)がどうなるかは今後の進展次第である。
 さて、そのプルーデンス政策である。中央銀行は一般的に担保政策には厳しいもので、なるべく優良な金融資産を担保に取る。最も優良なものは国債で、民間債務もそれなりに取る(これも優良なものが中心)が、仮に劣位なものがあっても、それに応じて掛け目は低い。連銀貸出の担保基準は特に緩められておらず、単に公定歩合引き下げによって連銀から直接金を借りるコストがその分軽くなったに過ぎない。
 既に述べたように、担保を取るのは、融資の裏づけなので、これは資金繰りの継続上は役立つが、資産サイドにあいた穴を埋めるのには使えない。金融機関が持ち込んだ担保をFEDが額面で買い取れば穴を埋められるが、FEDはそうしていない。いずれにせよ穴埋めは、政治的にも出来ない相談だ。簿価で買い取れば連銀に損失が発生し、金融機関の救済のために公的資金が注入されたに等しい。米議会の激怒は必至で、そんなことはFEDとしてはできない。
 ヘリコプター(ケチャップ)・ペンの異名をとるバーナンキ議長だが、プルーデンス政策では公定歩合をちょろっと下げただけで、担保政策は従来通り。すなわち(価値がないものでも)何でも買うという意味で、ケチャップは買っていないです。
 
 では、いつ買うのか。それは金融政策上の話だが、分からないです。そもそも買うような局面がくるかどうか。金利の下げ余地が大きいので、いずれにせよそれを使い果たしてからの話だ。でも、金融政策運営面でケチャップが話題になるころ、わが国経済が悲惨な状態に陥っているのは確かであろう。ケチャップ論議が巻き起こる事態、職業上は大変興味があるが、実際にそういう場面を目撃したいとは思わないです(笑)。

ps ニュージーランド連銀が「銀行手形」を担保に取るようだが、これもセントラルバンキング的には異例の措置。二つの銀行が相互に持ち合って中央銀行に持ち込むと特融みたいになるため。日銀はこのリスクを大分前に遮断した。例、金融債の不適格化。NZの場合、国内に規模の大きい金融資産市場がなく、一時的な流動性ひっ迫では担保不足となりやすく、これを解消する臨時手段と思われる。
 なお、中銀が取引先信用を取る場合、どういうことが出来るかは日銀が昔に実施済み。かなりエグイ手段である。この辺の事情は別途紹介したいと思う。危機にもまれただけあって、日銀は何でも知っている。すごい中央銀行だよね。つくづくそう思うこのごろである。

ざっと書いているので、事実誤認等あればご指摘を。助かります。
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by bank.of.japan | 2007-08-24 21:40 | 金融システム | Comments(15)
Commented by 飛車 at 2007-08-24 23:37 x
読者に安心感を伝えたいのだと思うけど・・・危険にもまれた経験を自慢するより、事前に回避した力を自慢して欲しいなぁ。日銀の中の人も苦笑しているのでは?

実際に問題が生じて、戻ってこれるギリギリまでタカ派であり続ける事で、中央銀行の独立性を示して、ポリティカルバランスを保とうとするのは、周囲の人間にとっては迷惑千万かなと。そんな事にかまける必要が無いような制度にしないとね。
Commented by 通りすがり@USA at 2007-08-25 00:14 x
Fedがディスカウントウインドウでとる担保とその掛け目はここで公示されております。
http://www.frbdiscountwindow.org/discountmargins.pdf
今回作ったわけではありませんが、Fedは、ディスカウントウインドウのためだけのサイトhttp://www.frbdiscountwindow.orgを作って、懇切丁寧に説明しております。アメリカには銀行が9000もあるので、こうやって手取り足取り教えてあげないと、どうやったら借りられるかわからないところもあるみたいです。
本石町さんご指摘の通り、日本の金融界に蓄積された「金融危機への対処」ノウハウは、世界に冠たるものがあると思います。もっとも日本人の知識は中銀サイドの政策に偏っていて、「危機こそ買いのチャンスだ」という民間サイドの金儲けへのあくなき欲望という点では、アメリカにはかないません。バンカメがもう、カントリーワイドに出資を決めてしまうなど、この辺の動きの速さ、めざとさは日本の金融危機では見ることができませんでした。
Commented by bank.of.japan at 2007-08-25 00:29 x
飛車さん、どうもです。金融政策とは切り離し、ここではあくまでも資金繰りレベルでの戦術にとどめたものです。もちろん、金融政策がうまくいっていれば良かったのですが。ちなみに、資金繰りレベルではセーフティネットがない中で、システミックリスクをぎりぎりのところで未然に防いだ、という点はあまり知られていませんが、そこは私は評価するところです。飛車さん、もしかして日銀のやることは上から下までまったく評価していない、という立場ですか。そうだとすると、ちょっと残念ですね。
Commented by bank.of.japan at 2007-08-25 00:44 x
通りすがり@USAさん、どうもです。情報ありがとうございました。やはりかなり種類は多いですね。ちなみに、日銀の場合はロンバートとオペの担保管理が共通化されており、これは中銀界では先進的な担保管理システムとして羨望もされているようです。
 なお、金融市場が混乱するときにこそ、チャンスがあるのはご指摘の通りです。バンカメの出方など、かつての日本の苦境期に、もっぱら外資が底値を拾っていった動きを彷彿させます。ハゲタカと敵視するような風土なのは残念ですね。ちなみに、知り合いの銀行関係者らとは、一つのチャンスではないかと話しているのですが、うまく動けるかどうか。外の苦境は外に出るチャンスだとは思うのですが…。
Commented by bank.of.japan at 2007-08-25 00:54
飛車さんへ。ちょっと言い忘れましたが、私は日銀のこの手の対応は評価するものの、かつてやったことを自慢する、というつもりはないです。説明がやや不足しましたが、psの内容で、特に取引先信用を取る、という行為は実は禁じ手のところがありまして、昔やったエグイことを半分嫌味として指摘している、という面もあります。日銀とて、やむを得ないとは言え、やったことがかなりエグイことへの恥の意識もあり、書かれて欲しくない、という気持ちはあると思います。この辺の皮肉が通じなかったのは私の説明が不足した面があります。単純な自慢話と受け止められたのは私の不徳と致すところです。私は単純に日銀万歳という立場にはないですので。ただ、現場の力は評価しております。
Commented by 飛車 at 2007-08-25 01:13 x
日銀のプルーデンス能力についての賞賛が何回も出てきたので、何故そこまで?と思っただけです。要らぬ気を使わせてしまってすみません。

僕は改正日銀法以後の日銀という組織への統治のありかた(政策決定会合)について疑問を持っている立場です。どうしても利上げに前のめりに行動してしまうバイアスがあるように見えるわけで、その理由がわかりません。そこで「手段」と「目的」を明確に分離して、日銀の独立性を「手段の独立性」に制限すべしという立場をとっております。要するにインフレターゲットを導入してくれという事です。
中で働いている人たちの優秀さは疑っていません。しかし、この人材の力を自ら起こしてしまった問題への対応にあてるのでは、マッチポンプでしょう。糊代を作る事で、糊代を使い果たす道筋を作るのでは無意味です。せっかくの能力を有効活用できていないと思う次第。

取引先信用の件は良く知りませんので、本石町日記さんの次回エントリーを待ち遠しく思っております。
Commented by bank.of.japan at 2007-08-25 01:31
飛車さん、どうもです。逆説的ですが、現場は優秀だけど、政策は?、という疑問を投げかけている気持ちが多少あります。ご指摘の件ですが、私は基本的には政府の政策委員会メンバーの任命の仕方に尽きる、と思います。日銀マンは優秀ですが、基本的には法律の範囲でしか動けないので、政策委の決定には従わざるを得ない立場です。仮に「利上げに前のめりになるバイアス」があるのだとすれば、このバイアスを受け付けないほど優秀な人材を任命すればよい、と思います。私は経済学に詳しくないので、経済学における金融政策の位置づけがよく分からないのですが、経済学的に日銀がやっていることはおかしいよ、と日銀執行部を説得できるほどの人材はいるとは思うのですが。どうなんでしょうか。
Commented by biaslook at 2007-08-25 02:28 x
過去の日銀の問題点は金融政策そのものにあったのですよね。しかし、日銀の政策委員は政治任命ですから、最終責任は任命権者の内閣にあったということになりませんか。ケースは違いますが、大臣に問題があった時、最終的な責任は彼を任命した首相に帰するはずです。今回は、それが選挙結果に跳ね返りました。それと同じではないでしょうか?それとも、政策委員の任命は内閣の意見とは遊離した存在なのでしょうか?任命前はハト派と言っていたのに、任命後にタカ派となり任命権者をあざむいたということなのでしょうか?または、政策委員になっても、局長クラスの現場の意見にいつの間にか言いくるめられている、ということでしょうか?
日銀を批判することに対して、その点に私は違和感が覚えます。
その辺りの政治力学はどのようになっているのでしょうか?
Commented by EURO SELLER at 2007-08-25 04:47 x
日本の中銀関係者には博士が少ないと別のエントリで書いておられましたが,政治任命の委員はさらに輪をかけて理論で対抗できない経歴の持ち主なのでしょうか。だとすると,政策決定会合自体が日銀の独立性ばかり強調され,全体としても論理に欠ける現状も理解できます。

ひょっとしてタカ派の水野氏は実は一番優秀で理論派だったりして・・・
(空気を読めない鈍感の人:KYDかどうかは別の議論です。)
Commented by 成功者への道  at 2007-08-25 08:06 x
今『バーナンキのFRB』(加藤出他)を読んでいますが、それによると彼は意外と柔軟性があるとか。実際に市場の変化に応じて機動的な対応を望みたいものです。
Commented by EURO SELLER at 2007-08-26 00:43 x
とうとう出てきた公定歩合へのABCP担保容認。毎金曜日やるってところも週末に頭冷やしてよく考えるようにと市場に語りかけているようにみえる。恐るべし前任者はエニグマのマエストロだったがバーナンキは対話のマエストロだわねえ。
Commented by bank.of.japan at 2007-08-27 21:17
biaslookさん、どうもです。金融政策を決めるのは、事務方ではなく、あくまでも政策委員会で、そのメンバーは政府が任命します。金融政策の運営が政府の意に反する場合、または失敗したとき、任命側の判断も問われる面もあるでしょう。一方で、政策委メンバーのなり手もまたあまりいないという現実もあり、これはなかなか難しいところです。

EURO SELLERさん、どうもです。ドクターは増えつつありますが、他国との比較では特に政策ラインでは少ないです。これは日銀だけのみならず、日本全体としての風土の問題もあると思います。専門家よりもゼネラリストが重視される風潮がまだ優勢なのでしょう。変わっていって欲しいと思います。

成功者への道さん、どうもです。経済が厳しい局面を迎えつつあるときは、柔軟な対応を取ると期待しております。多分、そうしてくれると思います。

EURO SELLERさん、またどうもです。対話のマエストロと受け止める向きが増えると、対話は成功です。印象のもたらす力は大きいです。
Commented by biaslook at 2007-08-27 22:56 x
解説ありがとうございます。いや、総裁・委員発言も時々読んでますし、事務的な決定システムや金融史も一通りは知ってますから、そこまでの簡単な説明は不要です。お手数をかけて申し訳ないです。
Commented by bank.of.japan at 2007-08-28 22:46
いやこちらこそ。余計な解説でした。ご放念を。
Commented by 北の書生もどき at 2008-01-21 23:30 x
こんばんは。
本日は、「本石町日記」さんと「ケチャップ」でキーワード検索し、辿り着きました・・・
リンク先のようなニュースや、最近の国会論戦などをみますと、我が国でも再び”ケチャップを買え”と言わんばかりのムードが復活してくるんでしょうか。これは笑ってもいられませんね。
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-29868620080121
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