預金の圧力を回避するには…=極論を考えてみた
 金融庁・大森氏の「市場経由型資金仲介の拡大」、すなわち貯蓄(預金)から投資へのシフトでどういう手があるのか、極論も排除せずに考えてみた。まず大森氏の問題意識は、①集まる預金の圧力をバックに過当競争で低利融資する銀行の『不動産担保さえ取っておけば』という貸付姿勢がバブルの生成と崩壊の土壌にある②不動産担保付融資は地価上昇によってさらに増え、増えることが地価を高め、いったん崩壊すると逆の信用収縮スパイラルになる-というもの。すなわち、間接金融ルートのバブル生成・崩壊をもう一度繰り返したくないためだ。
 これ自体、私はちょっと異論があり、基本的には担保政策が適切に管理されているか、または融資基準が厳格に守られているか、に尽きるように思う。担保に取った不動産価値が上がったからといって、上がった分を機械的に追加融資する銀行は多分ない(と思う)。仮に追加融資するにしても、借り手の財務状況に応じて適切に判断すればよいのであって、今どき『不動産担保さえ取っておけば』という銀行はないのではないか。行政官の立場として、間接金融の健全性を重視するのは当然としても、1980年代後半のような不動産担保の上昇を見込んで追い貸しを続け、再びバブルが発生・崩壊するシナリオはやや心配症な印象を受ける。
 それはさておき、「貯蓄(預金)から投資」へのシフトは起きるのだろうか。もとより、銀行は「預金」に対しては受け身であり、預金を拒否できない。結局は、家計が預金か投資かを判断するわけで、この点に関して銀行が人為的に預金をコンロトールする(減らす)のは難しい。投信を買わせる程度だろうか。預金の魅力を減らすために利息を下げる手もあるが、これは世論の反発食らうでしょうな。
 預金が投資に向かう(or消費でもOK)ための本質的な解決は、投資=株式とした場合、株価の上昇期待、すなわち企業収益の増加期待、すなわち経済の成長期待が高まること。現在のように成長期待が低いと投資意欲はあまり高まらない。消費にもあまり向かわない(→だから日銀が緩和してインフレ期待を高めよ、という主張は当然あるでしょうね)。
 結局のところ、銀行の負債サイドに対する預金の圧力が続くなら、資産サイドでその圧力をどこに逃がすかを考えるしかない。銀行がもっぱら貸付に一生懸命になり、過当競争になってしまうなら、別なルートとして金利リスク(債券)に圧力を逃がすしかないのではないか。債券を買いやすくすればいいわけで、アウトライヤー規制を止めるとか、バンキング勘定の時価会計やめるとか、どうですかね。極論ですか、やっぱり。でも金利リスクで破たんした銀行ってあるんですかね。ないような気がするが。そういうケースがあればご教授を。
 知り合いの銀行幹部は「地公体向けのローンがいいよな」と言っていた。私もそう思う。
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by bank.of.japan | 2007-07-23 21:34 | 金融システム | Comments(17)
Commented by 日本人の遺伝子 at 2007-07-23 23:07 x
最先端の遺伝子研究でアメリカ人と日本人は遺伝子レベルで相当異なる特性を持っていることが近年明らかになってきています。日本人はアメリカ人と比べて、①非常に不安感を感じやすく、②神経質で、③新規探究性が弱いことが明らかになってきています(http://www.sankei.co.jp/culture/kagaku/070625/kgk070625000.htm)
ただ、これは悪いことばかりではなくて、神経質であるということは逆に細部までこだわりをもって仕事が出来ることにも繋がる訳で(世界で最も水準の高い製品・サービスが日本市場で出回っていることをご想起下さい)、どちらが良いとか悪いといった問題ではもちろんありません。弱みは別の角度から見れば強みになりますし、強みは別の角度から見れば弱みになります。
Commented by 日本人の遺伝子 at 2007-07-23 23:07 x
とはいえ、この、不安感が非常に強く、新規探究性が低い国民性というのは「投資」をする上では大変なハンデになると思います。その証拠に、おそらくは、一気にスッカラカンになることへの恐怖からでしょうが、株式投資を「今後したくない」と答えた国民が世論調査でなんと77%に上っています(http://www.mainichi-msn.co.jp/keizai/kinyu/news/20070629k0000m020039000c.html)
遺伝的な要因が強く効いていますし、必ずしも悪いことではないのですが、日本人にとって「リスク」は最も嫌なものの一つです。ほとんどの人の行動はリスク回避的に出来ています。また、悲観バイアスが非常に強い(不安を感じやすい)のも日本人の特徴で、異なる遺伝子を持ってこない限りは、なかなかリスクある投資活動を国民一般に行わせるのは難しいのではないかと思います。
Commented by 椿ライン at 2007-07-23 23:26 x
 毎度、興味深いエントリーご苦労様です。地公体向けのローンより、この際、スプレッドが取れる三セクはいかがでしょうか?
 個人的には関東の某地銀が、先の3月期決算で投信の販売手数料+信託報酬が好調だったものの、債券の売却損でチャラになってしまったことが印象的でした。債券市場のイールドが寝てしまい、ボラも低い状況下、預金は金融機関にとって収益を上げにくい単なる負債でしかないような気が(そもそも負債ですが)。
 金融機関にはベアスティープ化の勢いにのって、5年物個人向け国債を売りまくってもらいたいものです。販売手数料が安いので、商品券をつけるキャンペーンをやったら足が出るのが難あり。
Commented by bank.of.japan at 2007-07-24 00:31 x
日本人の遺伝子さん、どうもです。遺伝子レベルで国民性が異なるなら、まさか遺伝子操作して金融立国というわけにはいかんでしょうから、金融に向いていないならいないで、外資系金融機関にお任せする(ウィンブルドン化)のが一番いいかもしれませんね。あっ、それも不安で何も出来ませんかね。私も悲観バイアス強いですが、遺伝子のなせるわざでしょうか。

椿ラインさん、毎度です。三セクはちょっとリスキーでしょうね。地銀債券ポートは時価会計しなくてもいいんじゃないの、と密かに思ったりします。ある意味、国家がアウトライヤーですから…。
Commented by PK at 2007-07-24 07:48 x
今の時代は、変動が利益の源泉であり、特に、互いに反対方向に動く2つの商品を見つけることが重要であり、また流動性の厚い市場が重要。一方が他方に対して下がる時、それは後者が前者に対して上がることでもある。
Commented by 通行人55 at 2007-07-24 08:10 x
>知り合いの銀行幹部は「地公体向けのローンがいいよな」と言っていた。私もそう思う。

こう考える銀行って、終わっていませんか?
地公体ローンで収益を上げられるためにはは、
銀行定期預金の調達コスト<地公体の調達コスト
が必要ですが、信用力で、銀行が地方政府を上回るのは至難の技だから、理論的にはまず無理です。
実際には、日本の定期預金調達コストは低い(国債より低い)のですが、これはカルテルか預金者行動がまだ完全に合理的でないためでしょう。
海外ではめったに見られない現象です。

リスクのない地方政府へのローンで収益が得られるなんて、そんなおいしい話があるはずないでしょう。
Commented by bank.of.japan at 2007-07-24 13:23
PKさん、どうもです。変動(=ボラ)が利益の源泉になるのはその通りです。逆相関する二つを見つけるのは難しいかもしれません。

通行人55さん、どうもです。理論的にはいろいろ考えられますが、現実には地公体向けローンは出ておりますし、信用面でも格付け会社によると、銀行(大手)が政府を上回る格付けにもなっておりました。預金金利では特にカルテルみたいなものはないと思います。ところで、定期預金金利>国債利回り、があるべき姿なのでしょうか。定期預金は途中解約しても元本は割れない一方、国債は金利動向によっては売却ロスが発生するリスクがあり、単純に比較できない気がしますが。
Commented by 通行人55 at 2007-07-24 22:50 x
本石町日記さん

>定期預金金利>国債利回り、があるべき姿なのでしょうか

そうでしょう。
定期預金は中途解約できない(ペルティあり)、国債は中途換金できる(売却損外野なら最後までももてばいい)のですから、流動性プレミアムだけ金利がありますね。
理論的に、定期預金金利と国債金利は「単純に」比較でき、
定期預金金利=(同期間の)国債金利+信用力格差+流動性プレミア

になるのでしょう。
Commented by 北の書生もどき at 2007-07-24 23:39 x
本石町日記さま、こんばんは。今回、大変興味深い内容です。
預金については、個人的には「どうせ運用難なのに、どうして足並揃えて預金金利上げるかねぇ」と思うのですけれども、やはり「預金金利水準は近隣行並みが当然」、「預金残高拡大は善」との考え方が根強いということでしょうか。
あと、地公体向けローンは、量を稼ぐ打出の小槌さながらという印象です。リスクウェイト0%が魅力なのかもしれませんが、利回りは低かろうと思います。
Commented by bank.of.japan at 2007-07-25 00:50
北の書生もどきさん、どうもです。世間体を気にして利上げに付き合っている、のだと思います。預金は「流動性預金」なら増えてもよし、かもしれません。ローンなら時価会計する必要もないので、人気あるでしょう。リスクウェートの影響は大きいですね。

通行人55さん、どうもです。預金金利のカルテルもなく、どうして理論通りでないのか、考えてみます。ところで、となると郵貯は普通銀行になると、理論的には破綻するのでしょうか。
Commented by 通行人55 at 2007-07-25 10:14 x
>預金金利のカルテルもなく

法的な意味でのカルテルはないかもしれませんが、暗黙の協調行動や金利比較広告の回避などでカルテルと同じような効果をもつことをやっていますよね。

>郵貯は普通銀行になると、理論的には破綻

国債だけ運用していればそうでしょう。たしか、政府の郵貯民営化でも、政府から同じような説明があったような。
利ざやの取れる貸付が不可欠なのでしょう。

前に書いた言葉ですが、

>リスクのない地方政府へのローンで収益が得られるなんて、そんなおいしい話があるはずないでしょう。

リスクのない国債運用で収益が得られるなんて、そんなおいしい話があるはずないでしょう。



Commented by bank.of.japan at 2007-07-25 20:17
通行人55さん、どうもです。念のために、定期預金と国債利回りの比較は同期間が前提との理解でよろしいでしょうか。また、流動性預金も、その金利>国債利回り、が理論的な姿でしょうか。
Commented by 通行人55 at 2007-07-26 09:13 x
金融が専門のマスコミのかたからご質問を受けるとは・・

>定期預金と国債利回りの比較は同期間が前提との理解でよろしいでしょうか。

定期預金金利=(同期間の)国債金利+信用力格差+流動性プレミアム
と書きました。

>流動性預金も、その金利>国債利回り、が理論的な姿でしょうか。

国債利回りの期間は何でしょうか?
当座預金だとわかりやすいでしょうが、基本的には現金と同じなので、無利子でしょう。
もちろん信用創造の範囲で若干の利子を付けることは可能でしょう。
0<=流動性預金金利<信用創造の範囲で若干の利子
Commented by 通行人55 at 2007-07-26 16:36 x

信用創造の範囲とは、流動性準備の他に一部は貸出などに回せるという意味です。
Commented by bank.of.japan at 2007-07-26 19:34
通行人55さん、どうもです。「期間」のところ、大変失礼しました。うっかり見落としておりました。普通預金は「コア」として残る部分が信用想像に回るので、若干の利子がつくわけですね。この場合、信用力格差は無視できると考えてよいのでしょうか。それと、一連のやりとりで、国債との対比は「銀行社債」の方が分かりやすいのですが、「定期預金」もほぼ同等とみなしてよい、という理解でよいのでしょうか。また、預金金利のカルテルが暗黙的に存在する場合、カルテルを無視した銀行が理論にそって高い金利を呈示すれば、預金量を増やせるはずですが、そうならないのは①現状の金利がやはり妥当である②預金を増やしても民間資金需要がない-などが考えられますが、他にどのような要因があると思われるでしょうか。いろいろ聞いてすいません。興味深い論点ですので。
Commented by 通行人55 at 2007-07-26 22:17 x
本石町さん、お疲れ様です。

流動性預金のところ、私の説明は首尾一貫していませんね。
定期預金、銀行社債もでてきたので、預金者からの行動から、
銀行債務の金利=(同種類の)国の債務の金利+信用力格差+流動性プレミアム
とすれば、全部説明できると思います。
      同種類の国の債務 流動性プレミアム
定期預金   同期間の国債   大
流動性預金  現金       ほとんどなし
銀行社債   同期間の国債   小

高い金利にしたらどうなるかですが、多くの預金者が金利に無頓着であるので、ただ銀行収益をへらすだけとなって誰もやらないのでしょう。これが銀行が協調的行動(ほとんどは高い金利を示さない)になる理由でしょう。
Commented by bank.of.japan at 2007-07-27 00:47
通行人55さん、どうもです。このテーマ、引き続き考えてみたいと思います。理論と現実の姿の乖離が、現実がおかしいのか、それともおかしく見える現実の姿の中に気が付かない理論が潜むのか。異常に低い預貸スプレッドも含めて検討課題は多いと思います。
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