だろうなあ、と思った。昨年暮れ、ある新聞(経済系です)の社説を見たときの感想である。個人的にはもちろん分配率の引き上げは歓迎である(笑)。しかし、いくらわが国が社会主義的な体質であるとは言え、曲がりなりにも資本主義経済陣営に属し、かつG7の主要メンバーでもある。そういう国のマスコミなのだから、いくら消費増大のためとは言え、労働分配率の引き上げを唱えてしまうと、社会主義国家の機関紙みたくなってしまう。
人材も重要な資本なのは間違いない。しかし、人材にどれだけのコストをかけるべきかは個々の企業経営の判断に委ねるしかない。経営側に多くの問題があるのは確だ。年功序列の廃止・成果報酬の導入などは、本来は能力に見合った報酬を与え、組織を活性化させる狙いがあるが、実際には単なる人件費抑制の仕組みと化し、組織の沈滞を招いた例が多いだろう。 とは言うものの、社会的圧力によって労働分配率を引き上げさせ、それによって経営が傾いた場合はどうなるのか。恐らくは誰も助けはしない。私は経営者の味方をするつもりはまったくないのだが、人件費の在り方で制約を受けた経営者は気の毒だと思う。構造改革(規制緩和など)の推進は企業の競争条件を厳しくするが、そういう時に人件費増加を強制させる行為は改革に逆行するようなものではないか。 理想的には、人件費の在り方も市場原理に委ねるしかないだろうと思う。すなわち、人的資本の重要性を軽視する企業は競争力を失って淘汰され、人材をうまく活用した企業が生き残るのを見守るしかない。それによって多くの企業が脱落したら…。その場合は、国際的に見て日本企業の人事政策が下手でしかなかったということだろう。 ps そもそも論として、人件費をケチる以外に収益を上げる方法がない企業は永続性がないのではないだろうか。そういう企業の労働分配率を引き上げさせると、淘汰が早まるだけのような気がする。なお、日本のマスコミがもともと社会主義的体質を帯び、それがはからずしも労働分配率の引き上げ論で露呈した面があるのは否めないです。残念ながら。
by bank.of.japan
| 2007-01-06 01:31
| マスコミ
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Comments(14)
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ななし
at 2007-01-06 11:49
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賃上げではなく、ストックオプションを要求すればいいんですよw>>労働組合
ステークスホルダー、って言うならね。 中の人なら良い/悪いは肌感覚でわかるだろうし、駄目ならいろんなレベルでの損切り(?)が必要になるだろうし・・・ こういうのも「インサイダー取引」になるのかしら?
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ゴム3号
at 2007-01-06 12:42
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安部総理はついに賃上げ要請までしてますね。日経のその記事を見て内需系の企業は相当困っているんだなぁと思っていたのですが、いまさら捨て去ったはずのフォーディズムのかけらが見られるとは思いませんでした。
労働分配率を上げすぎると、資本の投資意欲を削ぎ不況の遠因となるわけですが、今度は逆に削減幅が少し行過ぎたと考えたのかもしれませんね。 個人的には日本の経済構造で北欧諸国のように付加価値を上げ(労働分配率は意外に低い)ることが可能なのか?とも思いますが。 福祉国家、欧州社民の限界が見えてきた現在、南米などでは社会主義勢力が復興していますが、何かの拍子で日本でも復活するかも知れませんね。いまこんなことをいうと狂人扱いされるのは承知の上ですけど。
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bank.of.japan
at 2007-01-06 14:10
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ななしさん、どうもです。可能ならばストップオプションで代替するのも手でしょう。いずれにせよ、強制めいたことはやってはいかんと思います。
ゴム3号さん、どうもです。労働分配率は基本的には結果としての数字なので、それをいじればいいというシロモノでもないです。人材をうまく使え、に尽きるのでしょう。もともと日本は社会主義的なので、復活リスクは意外にあるかもしれませんね(トホホ)。
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北の書生もどき
at 2007-01-07 15:53
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人件費の問題・・・ホワイトカラーエグゼンプションを巡る議論をみていても感じるのですけれども、ひょっとすると、サラリーマン層が、「プラウダ」的報道が求めているのかも。理屈では、人件費がそう増えないのも、労働市場改革が必要なのも、皆分かっていると思うのですが、バブル以降15年近く苦労しっぱなしですからねぇ・・・
ただ、今回の問題を放っておくと、参院選前に、「くたばれGNP」ならぬ「くたばれ”上げ潮路線”」ムードが広がったりして(苦笑)
労働分配率は統計上の数値(平均値)であり、各企業個別の事情を斟酌しているものではない(例えば、メーカーと金融機関とを一緒くたには語れない)。それぞれの企業のアフォーダビリティーに応じて分配率を上げていくべきというのが筋である。どんなに優良企業でも、配当性向を上げ、時価総額を増やし、TOBに備えることも会社の責任であると考える経営者は多い。その経営者に、賃金を上げることを優先しろと言うのが、すべからく全ての企業において正しいとも思えない。団塊世代の人達のせいで退職金の引当金が不足している企業も多い。この団塊世代の人達のおかげで後の社員の退職金が大きく毀損させられた現状を考えると、一時金(ボーナス)ではなく賃金をそれ相応に上げていただかないと馬鹿馬鹿しくてやってられない。ホワイトカラー・エグゼンプション(除外)制度は、こういう観点からも利に叶っていると私は思う。
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aa
at 2007-01-07 22:42
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労働分配率以上に、組織の下位が実力主義で絞られる一方で、
組織のトップが得てして実力主義と無縁であることが問題なんですよ。 総理大臣しかり、経団連のトップしかり。 ともに世襲で、うまくいっている組織で下駄はかされただけですよね。
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たつ
at 2007-01-07 23:45
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aaさんそのとおり!
しかし、これもなんらかの結果、実力主義と無縁の人がトップになっているわけであって、なぜそうなったのか、日本はなぜそういう組織が多いのか考える必要があると思います。 なぜなのでしょうか?私自身、この問題を考えていくと、自分自身の行動にもつきあたるような気がして・・・・複雑な気分です。
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walrus
at 2007-01-08 11:11
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マクロ労働分配率が上がる一つの確実な経路は、景気後退です(収益の落ち込みに比べて人件費が限られるため)。グローバル化が非可逆的に進むなか、景気回復下での労働分配率の上昇は極めて期待しにくいのではないでしょうか。団塊世代退職を新卒で代替するのであれば、今後数年の労働分配率の底割れ(低下トレンド)は必至と思われます。
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at 2007-01-08 17:57
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ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
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壱万円札
at 2007-01-08 21:29
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先日までホワイトカラーエグゼンプションで揉めてて、そのうちにホワイトカラーエグゼンプションもブルーカラーエグゼンプションも成立して、全労働者の残業代が無くなる方向なのかと思っていたら、「残業代の割増率、時間に応じ3段階に・厚生省方針」という記事もあって、真っ反対のベクトルが蠢いていて、国の政策は今どちらに動くのか良く判らないです。
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bank.of.japan at 2007-01-08 22:02
北の書生もどきさん、どうもです。マスコミの大衆迎合的な側面を考えると、プラウダ的な報道も読者の意を汲み取ったものかもしれません。私も構造改革は支持するものながら、一サラリーマンとしては労働条件悪化だよなあと思いますからね。
fredyさん、どうもです。賃金制度はマクロの分配率でみるのではなく、個々の企業のレベルでそれぞれ判断するしかないでしょうね。団塊の世代は確かにお荷物で、うちの会社も同様。私の退職金はないかも(トホホ)。 aaさん、どうもです。ご指摘の逆進性の高い実力主義が国家的にも蔓延していると、徐々に競争力は失われますね。 たつさん、どうもです。日本人の特性として、兵隊として優秀で、将軍として向かないのであれば、ぐっちーさんが言われるようにアメリカ人の経営者を迎え入れるのが最適の組み合わせなんでしょうか…。複雑です。
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bank.of.japan at 2007-01-08 22:05
walrusさん、どうもです。人件費削減より収益落ち込みが大きいと確かに分配率は上昇します。もっとも、それ自体は収益と賃金のデフレスパイラルですが…。少なくともULCルートの物価上昇は絶望的でしょう。
一万円札さん、どうもです。税制にしても、企業は優遇、家計は増税とダム論も効かない方向でして。理解に苦しみます。
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Eco
at 2007-01-09 20:50
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過去の労働分配率と景気の山谷の関係を見ても、労働分配率が上昇したのは景気後退局面だけです。企業収益が2割増えた時に、給料も2割増えるということはないので、今のように企業収益が好調な時期に、低下傾向が続くのはごく自然な現象に思えます。労働分配率が上昇し始めたら、それは企業収益の頭打ちから景気後退局面の入り口に入りつつある可能性が高まっている、というのが過去の経験則でしょう。
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bank.of.japan
at 2007-01-10 20:20
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Ecoさん、どうもです。労働者の全体としては給与の収益連動性は薄いので、労働分配率が上がるときは景気悪化(収益減少)の場合が多いのかもしれません。収益のボラを考えると、経営者としては固定化しやすい給与は簡単には増やしたくないと思いがちでしょうね。
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