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銀行アナリストが銀行株動向を読み誤ったのは…
 金融新聞を読んでいたら、「預金金利の上昇に対して、思うように貸出金利の上乗せが進まないとの失望感が広がったことが、アナリストが(銀行の)株価動向を見誤った最大の理由だ。(銀行の)決算はそれを裏付けた」と書いてあった。ここで言われるアナリストとは、「銀行アナリスト」である。私が普段接触するアナリストは、マクロ経済や債券動向を分析するアナリスト(エコノミスト)で、エクィティ方面の銀行アナリストはまあ遠い存在である。
 このブログでは早い時期から、「利上げで銀行収益は拡大しない」、むしろ「資金需要が弱い中では利上げが正当化されにくい」といったことなどを指摘したつもりだ。少なくとも私の知り合いのエコノミスト、アナリストらは同じような見方を示していたし、日銀関係者も銀行収益のピークアウトの可能性を指摘していた。銀行関係者ですら、銀行株が上がることに驚いていたぐらいで、収益好転・株買いを本気で言っていた関係者は私の周りにはいなかった(私の環境が異常なのだろうか?)。
 では、銀行アナリストはなぜ見誤ったのか。私には謎である。資金吸収貸出動向、新規約定平均金利、地方銀行のアウトライヤー化、また仕組み物への傾斜。日銀さくらリポートに見る各地貸出事情。マクロ的な資金循環における金融システムの機能。銀行に対する公的制約の強い風土。こういったことのすべては貸出低迷を示唆し、日銀が利上げすれば負債コストが上昇し、銀行が原油高に直面したガソリンスタンド化するのは自明の理であるに思える。
 それでもなお、銀行株が上がる、というシナリオがなぜ描けるのか不思議である。一過性の美人投票で上がる可能性はあるにしても、利上げで預貸利ザヤが拡大し、収益増大・株高というシナリオは「資金需要をほとんど伴わない実感なき景気回復」によって否定されるだろう。
 地銀関係者と話をしていると、不思議なことを聞く。「貸出が振るわないので市場運用に力を入れる、との経営方針はウケが悪い」のだという。私が「誰のウケが悪いのか」と聞くと、「市場です」と言う。「市場とは具体的に何ですか」とさらに聞くと、「アナリスト説明会でのウケが悪い」のだそうだ。つまり「貸出増強路線は評価されるが、市場運用の強化はそうではない」という。私は大変驚いた。
 なぜなら、需要なき貸出の競争をやる銀行はむしろ「売り」であるからだ。以前のエントリーでも紹介したが、みずほ証券のチーフストラテジスト、高田創さんは邦銀融資行動を「南極の氷売り」と絶妙の表現をしている。氷(貸出)が既にたくさんあるところ、または氷の需要がないところで、氷を売ろうと努力するからだ。氷を売るとジリ貧になるから市場運用に傾斜するのは合理的な判断であり、それがなぜ評価されないのかちょっと分かりにくい。
 銀行(特に日本のような商業銀行形態)は収益がマクロ連動する。本来、銀行収益を予想するにはマクロ分析が欠かせない。また、銀行の投融資行動の影響が強く出る債券市場の分析も重要であろう。「銀行アナリスト」は何らかの理由によってマクロ・債券リサーチとの連携が取れないのだろうか。ファイヤーウォールの問題だろうか。金融新聞は「読み間違えた」と評しているが、単に予想を外したのではない何が構造的な理由がある気がする。考えすぎですかね。

ps 銀行が需要なき貸出で競争をするのは、ローンを借りている私から見れば、とても歓迎である。もっとも、個人的事情と状況分析は別であって、このエントリーは中立のスタンスで書いたつもりである。融資競争を評価するアナリストは私の家計の味方なんだが、それとこれとは別。
by bank.of.japan | 2006-11-24 21:18 | マーケット | Comments(26)
Commented at 2006-11-25 01:00 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by bank.of.japan at 2006-11-25 01:24
↑さん、コメント多謝です。疑問点にお答えすると、漠然としたイメージで収益拡大するとアナリストが予想していたのだすると、ちょっとプロ的ではないです。それなりに裏付けが必要で、しかも説得的なストーリーが投資家から求められます。それと、金利低下(利下げ)局面の銀行利ザヤは拡大しやすく、収益は増えやすい傾向があります。これは預金金利の下げが先行する一方、契約期間を終了しないと金利改定ができない貸出サイドの金利引き下げが遅れるためです。なお、今回預金金利(普通預金)の引き上げをゼロ金利解除に合わせたのは、収益面を考えるとちょっと不自然な判断と思われます。一般的に短期市場金利よりも普通預金金利はかなり低く設定されるもので、もう少し利上げされてやっと預金金利が上がるのが自然です。銀行界は、政治的判断をしたのだと思います。
Commented by なっしゅ at 2006-11-25 04:32 x
株式アナリストって債券アナリストと確かに違う。ファンダメンタルズの見方が当たってても株価動向が当たらなかったら良い成績にならないですから。極端な話「金利上昇期待による預貸金利鞘の拡大」というテーマ(含妄想)で買い煽ったけど上がらなかったというだけの話では(←新聞見てないので当てずっぽうです)? あるいは株価予測が当たらなかったのを責任転嫁してるとも言えるかも。
一方債券アナリストは過去の業績をもとに未来を見ますからどうしても現状トレンドに沿った予想をしてしまいますね。1年前の100bps超のスプレッドが、リファイナンスで一気に半分以下になってがっかりしたとか。思わぬ資本注入・メガバンク傘下入り・合併・資源高騰など株屋さんと違って事前には評価しきれません。
Commented at 2006-11-25 08:34 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by walrus at 2006-11-25 08:51 x
単なるイケイケか(上げ潮路線に便乗したか)、マクロに幻想をもっていたか、、語りたくとも語れなかったのか、外した原因は諸々でしょう。担当業界擁護バイアスといったものも長くやっていると染み付いてしまうのでしょうか?
Commented by 害債 at 2006-11-25 10:25 x
そもそもアナリストの所属母体が銀行系ないし銀行資本のウェイトの高いところということも大きな理由ではないかと思うのですがあまりにも単純化しすぎてますでしょうか?
Commented by 通りすがり at 2006-11-25 14:31 x
もっともっと単純に証券会社の営業戦略と関係しているだけかも。株価上昇をメインテーマに営業しているときにはアナリストも営業上、バラ色気味のシナリオを書いてあげることが多かったりします。
なお市場運用の強化がアナリストから評価されにくいのは、市場運用の強化が利益率に対して比例的に影響しないからでしょうね。(ヘッジファンドへの出資を2倍にしたからといっても、利益が必ず2倍になるとは限らないどころかマイナスに落ちることだってある。)
Commented by bank.of.japan at 2006-11-25 20:48
なっしゅさん、どうもです。なるほど、相場材料のテーマをいかに練るかが重要なのですね。うまくいけばテーマが自動走行すると。今回はちょっとそうならかったわけか。難しい職業ですね。
匿名さん、どうもです。氷売り止める銀行出てほしいですが、ヘッジファンドと揶揄されるかもしれません(笑)。
walrusさん、どうもです。担当業界擁護バイアスかあ。日本銀行を担当している私は擁護バイアスが足りない?
害債さん、どうもです。グループに属すると、なかなか本音で語れないかもしれません。そういえば知り合いのアナリストが、所属する財閥は分析対象から除外され、セクターがごっそり抜ける、と嘆いていました…。
通りすがりさん、どうもです。株式絡みだと確かに余程のことがないと売り推奨はできないかもしれません。薄利多売のローンをやるより、国債買った方が合理的な気もしますが、ローンは非時価、国債は時価という会計要因が邪魔する面もあるようです。
Commented by ドラめもん at 2006-11-27 05:58 x
量的緩和解除直前あたりから「利上げは銀行収益にポジティブ」というテーマが主に海外方面から発信されてたという記憶がありまして、「海外様がそういうのだから」っていうことでそのシナリオに皆で乗ったんじゃないかと邪推しております(笑)。
Commented by システム5.1 at 2006-11-27 08:11 x
大変失礼ながら、株式アナリストは「その程度」ということなのではないでしょうか。もちろん、中には極めて優秀な方もいらっしゃるのでしょうが。業界のことはアナリストよりも、その業界の人がよく知っている(その業界出身のアナリストも少なくないですが)。今回の件も、銀行関係者の方の多くは本石町さんと同じ意見だったと存じます。
本石町さん。国債が「北極星」であるとすれば、銀行の資金調達原価では別のリスク、たとえば、デュレーションを取らなければ鞘は抜けません。その点、ローンが妥当なのですが、それが薄利多売になっているというご指摘、それは銀行の経営の根幹問題です。これが是正されないと、「淘汰」が待っていることになりますよね。
Commented by Teddy at 2006-11-27 10:29 x
銀行株が金利循環にシクリカルな動きをするのは、洋の東西を問わず「常識」で、その理由は本石町さんが指摘していらっしゃる通り、貸出金利改定が相対交渉で遅れて決まるからですが、「海外のレポート」の論拠は、日本のゼロ金利という異常事態がなくなって、長期のところが短期のところ以上に大幅に上がるから、という論立てをしていたレポートは読んだ覚えがあります。
Commented by bank.of.japan at 2006-11-27 11:45
ドラめもんさん、どうもです。海外発で銀行株をはやす動きがあるなら、それ自体は短期的にせよ実現しやすいので、まあ乗っかった方が無難ですね(笑)。
システム5.1さん、どうもです。ご指摘のように、ローンへの執着は、邦銀界の根深い問題のように見受けられます。本来、お金に色はないので、資金循環上は、最大の資金不足主体(政府=国債)に自然にお金は流れるのですが、それが「市場運用」とみなされて評価されないと…。まずいすね。
Teddyさん、どうもです。日銀の景気見通し(脱デフレ、インフレ期待の増大)が正しく、それを全面信頼したリポートなら、スティープ化の形状になるのですが。ただ、日銀に乗っかるだけの銀行業界分析はあまり意味がないようにも思われます。
Commented by 壱万円札 at 2006-11-27 20:26 x
〈仮説1〉経営母体が銀行のアナリストの場合、経営母体の根拠なく景気の良い話をブチ上げる。金融危機の際、経営母体が銀行のアナリストが屁理屈で経営母体の擁護発言をしていた。〈仮説2〉アナリストが不良債権処理は峠を超えたと読み間違い。〈仮説3〉アナリストが景気の良い話をブチ上げ、ある勢力がその記事を信じた人から□□を企てた。
Commented at 2006-11-27 21:40 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by blue at 2006-11-27 23:35 x
アナリストの末端にいる者として弁護します。
1銀行側が利鞘に関して強気であった
 銀行の説明会資料をご覧になりましたでしょうか?業務純益について強気な説明をしてました。マクロ動向は把握した上で究極のインサイダーである経営者が強気である以上、企業努力を信じたくなります。
2マクロ動向だけで企業業績は語れない
 アナリストはマクロ分析も見ますが基本はミクロ(財務分析・取材)です。マクロだけでは分らない要因で業績は動きます。bank.of.japanさんの例のガソリンスタンドも大幅な値上げを8月に行いマージンが改善しています。また円高・米国経済減速でも日系自動車企業は最高益更新です。
 「リフレ政策による景気回復」が無くとも日本企業は最高益を更新しました。投資家はエコノミストの言説により多額の機会損失を被ったことでしょう。(リフレ政策無効論ではなく、外需要因の無視への問題提起です)
 アナリストの「外し」は確かに攻められるべきです。しかし、これをもってアナリストに関して「この程度」、「海外レポートに横並び」、「所属会社の陰謀論」は言いすぎです。
みずほIR資料 http://www.mizuho-fg.co.jp/ir/briefing.html
Commented by bank.of.japan at 2006-11-28 01:26
上の上の方や、blueさん、どうもです。確かに銀行経営層の情報発信は業界分析するうえで無視できるものではないと思います。私自身、企業努力は信じたい気持ちはありますが、普段接する銀行関係者との感触では、なかなか好調さが感じられなかった、というのが正直なところです。また、マクロ的な見通しにしても、日銀の言い分が楽観的に過ぎるのではないかとの思いも当初から強く、現にイールドカーブの形状は短期金利が上がり、長期金利が上がらないというフラット化になってしまいました。なお、個人的には銀行経営事情が結果的に集約される部分はALMセクションであり、多くの銀行がアウトライヤー化しているのが通常の景気回復とは様相の異なった回復局面(資金需要がさほど伴わず、体感もしにくい)であることを示唆しているように思います。なお、銀行と自動車メーカーを同列に論じるのは、幾つか側面からちょっと無理があるのではないかと思います。
Commented by blue at 2006-11-28 06:35 x
お返事ありがとうございます。銀行と自動車を同列に議論するつもりは無かったのですが申し訳ありません。あえて言うならば、エコノミストの多くが輸出産業に否定的であった時期があるのですが、アナリストが普段接触しているIRやマネジメントからの情報やミクロデータは好調さを示していました。今回はそれと反対のことがおきたことを受けて、「だからアナリストは・・・」と言われるのは心外だなと思っただけです。なお06年5月の決算説明会で個人戦略などによるトップラインの増加等を話したのは銀行のマネジメントです。現場の意識と乖離していた経営者の話を信じたアナリストが悪いといえばそれまでですが。
Commented by システム5.1 at 2006-11-28 08:27 x
Blueさん、言葉が過ぎた点はお許しください。ただ、IRを鵜呑みにするのなら、そこには投資家も出席できるのですから、アナリストが彼らに対して有利となる、差別化することはできないのではないでしょうか。そこを見抜くのがやはりアナリストという職業だと思います。「現場の意識と乖離していた経営者の話を信じたアナリストが悪い」はその通りだと思います。また、おそらく、他の業界と違って、エクイティ・アナリストにはそういった傾向が感じられるため、皆さん批判的な指摘が多かったのだと思います。また、このブログに来ているのは金融市場に属する方が多く、そういった株式市場の慣行(?)が奇異に映る部分もあったのでしょう。いずれにせよ、私も20年近く、分析を生業としているので、あえて申し上げました。
Commented by システム5.1 at 2006-11-28 13:56 x
本石町さん、多くの銀行がアウトライヤーまではいっていないと思いますが...。もっとも、今後も預貸率の低下は続き、預貸金利鞘の回復は望み難い状況であることには変わりないでしょう。
Commented by bank.of.japan at 2006-11-28 17:15
blueさん、どうもです。考えてみれば、個社相手の分析は相手が目の前にいる以上、反論するのは難しいですね。景気楽観論の日銀が間違っているとの前提を立てるにしても、業界アナリストの立場でそこまで言えるかどうか。マクロ分析の究極のインサイダーである日銀が過去何度も失敗している、ことを持ち出せばいいのでしょうかね。
システム5.1さん、どうもです。ちょっと舌足らずでした。地方金融機関ではそこそこ多い、でしょうか。もっともメガもアウトライヤー化するのではないかと密かに予想しておりますが、いかがでしょう。
Commented by 元IB現PB at 2006-11-28 19:21 x
銀行がガソリンスタンド化で収益低下、って表現、判りやすくて大好きです。営業で使わせていただいてます。さて、BOJさんの以前のエントリーにもありましたが、今日の日経に、金融庁のリスクウエイト見直しが載ってました。住宅ローンと小口貸出しと大企業貸出推奨、ヘッジファンド売却という、いかにもというバイアスがかかってます。2点感じたことは、間違いなく銀行の収益には悪影響だろうな、ってことと、分子が増えた結果必要以上に債券シフトを進めざるを得なくて、却って地銀の企業向け貸し出しを(当局の意向に反して)冷やす効果が生じはしないかということです。後者はギッフェン財みたいな話ですけど。
Commented by bank.of.japan at 2006-11-28 19:34
元IB現PBさん、どうもです。どうぞお使いください(笑)。日経の記事は私も見ました。住宅ローンなど軽減されたものは記事にもあったように競争激化(薄利傾向)を招きそうです(家計にはプラス)。南極の氷売りは永遠なれ、でしょうかね。
Commented by blue at 2006-11-28 21:47 x
今晩は。アナリストの仕事はマクロデータから見出せない投資機会を探すのが最大の仕事の一つです。そのために企業分析を行い、取材を行っています。投資判断を誤った時に「マクロデータからは予想できた、レベル低いw」と今回のように言われることもあります。そのデータを了解した上で、独自の分析からリスクをとって情報提供するのも仕事です。そもそも、マクロデータからの分析が常に正しいのであればアーニングサプライズは起きないし、膨大なマクロデータを用いた当局の判断は誤らないはずです。但し、この分析手法は確かに独特で統計学、経済学からは批判的です。ですからエコノミストとアナリストは仲が悪く、ファイヤーウォール等は無くとも接触はありません。
Commented by bank.of.japan at 2006-11-29 00:30 x
blueさん、どうもです。「このデータを了解した上で、独自の分析からリスクをとって情報提供するのも仕事です。但し、この分析手法は確かに独特で統計学、経済学からは批判的です」、この部分は学ぶところ大ですね。日銀のマクロ的な判断が疑問なとき、私もやっぱり銀行関係者にいろいろとヒアリングします。日銀の物言いが妙に威勢がいいときは、希望的観測である場合が多いです。
Commented by blue at 2006-11-30 06:06 x
いろいろ、コメントに返事をいただきありがとうございました。BOEさんをはじめ皆様のコメントを拝読するうちに、なぜ、エコノミストとアナリストのコミュニケーションが少ないか、わかったように思います。これからも勉強させていただきます。
Commented by システム5.1 at 2006-11-30 07:47 x
Blueさん。私はエコノミストではありませんし、統計学、経済学にもかなり批判的であります。念のため。ただし、自分のことを予想屋と称しているので、少数派かもしれません。
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