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頑張りズム成長論の危険性=宮本武蔵的労働者の続編
 この問題にこだわるのは、個人的な経験によるところが大きい。「労働者の宮本武蔵を目指すのか=成長論の果て、そしてオチは…」の最後で、米国での労働経験を若干紹介した。あまり経緯は詳しく書けないが、私が米国で働くことになった最大の理由は「私が日本人である」ことだった。つまり、①安月給でも②さほど文句を言わず③言われることは何でも④残業も厭わずに勤勉にこなしてくれる-からである。そういったことは現地に行って分かった。
 私がやった仕事は難しくない。90%は肉体労働で、多少の事務がある程度だ。現地の米国人でも十分にやれる単純な仕事だが、契約社会であるだけに、労働条件は細かい。経営者からすると現地人は使い勝手が悪く、何でもこなす日本人を日本から連れて来た方が手っ取り早いし、コストも安い(注)わけで、そういう人材供給ルートに私は深く考えずに乗ってしまった。
 現地でのある日、トラック(小型)への荷物を積み込みを終え、倉庫から出発しようとしたとき、ちょっと遠い州の業者がバンに乗って「荷物」を幾つか引き取りに来た。私は、注文書を確認し、フォークリフトで「荷物」を集め、バンに積み込んでやった。業者はなぜか「エクセレンス!」とか、「ワンダフル!」とか、やたらに感動していた。
 聞くと、倉庫でこんなに簡単に注文が実行されることはないらしい。倉庫に人はいても注文を確認する人間がいないと、荷物は引き取れず、延々と待たされることが多いらしい。トラックに乗ろうとしていた人間が注文書を確認し、倉庫に戻り、フォークリフトを運転し、荷物を運んでくれるのは奇跡を目にしたかのようで、業者は私の能力が高いと勘違いしたのか、「おまえは素晴らしい」と絶賛する始末であった。
 私が思うに、米国の生産性上昇とは業務フローをひたすら細分化・単純化し、労働コストを下げることだろう(超単純・超低コスト&労働時間の切り売り。貧困化するが、何でもやれ、ということはないと思う)。これに対し、日本での生産性上昇とは、単に一労働者の負担がどんどん増すケースが多いように思われる。米国での個人的経験で労働観を語るのは的外れかもしれないが、何でも勤勉にこなす日本人は成長するために生産性上昇だと言われると、得てして「額に汗する」頑張りズムを発揮し、最後は精神論で乗り切ろうとする恐れがあると思う。

 しばらく前、ある日銀マンにゼロ金利を長期続けた場合と、金利水準を調整した場合の景気動向をグラフで示したもらったことがある。ゼロを続けると景気は急上昇してドカンと落ち、金利水準を徐々に調整すると、ゆっくりと長期に上昇する形状であった。ゼロ金利にそんなに威力があるなら、何も労働者に生産性上昇を訴えるまでもない。(グラフが方便でなければ)若年層の失業率が急低下し、賃金が十分に上がるほど景気が拡大するまでゼロ金利を続けた方が良いわけだ。金利も財政も正常化。国民は人口減少に備えて貧乏暇なしの生産性上昇に励む?あまり幸せそうな未来ではない。

注) 給料は現地の恐らくは最低ランク。私を雇った会社から見ると、渡航費用だけが余分にかかる。しかし、現地の人間なら残業代などが必要なところを、私らは当然残業代なし。

ps これから社会に出る学生さんへ。外国でのうまい話は要注意。苦労するだけです。お勧めしません。それから、普通に就職できる方は普通に就職しましょう。何かの夢があって就職しない場合、その夢が明確なものならいいですが、曖昧ならちゃんと就職しましょう。経験に基づく私のアドバイスです。
by bank.of.japan | 2006-11-06 22:46 | 経済 | Comments(5)
Commented by 名無之直人 at 2006-11-07 10:08 x
>『これに対し、日本での生産性上昇とは、単に一労働者の負担がどんどん増すケースが多いように思われる。』

これ、非常に頷けます。サービス残業/出勤とかとセットになってる事も多いでしょうし。
近年の日本の企業余力にしても、非正規社員の大量活用といったアナログな労働固定費の削減に負う所が少なくないかと。

>これから社会に出る学生さんへ。(中略) 普通に就職できる方は普通に就職しましょう。

今後の新卒さん達は、よほど贅沢言わない限り基本的に大丈夫かと。
博士課程とかは現在でも就職率5割程度なので、就職浪人の数は今後減少傾向を辿るでしょうね。
Commented by Willy at 2006-11-07 12:36 x
日本の労働市場は硬直的、つまり大企業が正社員を解雇できないので、過剰雇用リスクを避けるために、常に正規雇用に下方バイアスがかかっており、それが長時間労働の原因になっているのでしょうね。こうしたバイアスは、低成長下ではより大きくなる可能性が高いです。国民性うんぬんの議論もあながち外れてはいないと思いますが、個人的には、制度的な問題にもっと注目しても良いと思います。


Commented by EURO SELLER at 2006-11-07 15:36 x
福井翁の「リスクの顕在化する前の利上げ」って言う発言について:
6月の利上げを正当化するために,「この前の利上げは正しかったので,その証拠に次も時間を空けすぎないで上げますよ」という言っているみたいなんですが,そのうち実効性の無い発言で狼おじさんと言われてしまいそうです。つまり相当追い込まれている風情なのですが,いかがお感じになりますか。
Commented by bank.of.japan at 2006-11-07 17:02 x
名無之直人さん、どうもです。高度成長時代は、目茶働いても賃金は右方上がりで報われましたが、人口減でも成長しろ、と労働者に負担をかけると貧乏暇なし極まります。マクロ経済政策が十分に実行されているのか、問われますね。
Willyさん、どうもです。正社員の権利が強いと、非正規雇用に皺寄せがいき、労働階級社会の固定化にもつながる恐れがあります。私自身は、社会全体として、困難に直面すると下士官・兵卒が超頑張る体質(マネジメントの創意工夫の欠落性)が大きいのかな、と思ったりします。全員が二宮金次郎化を余儀なくされるわけですね。
Commented by bank.of.japan at 2006-11-07 17:03 x
EURO SELLERさん、本日の総裁講演の件ですね。これはエントリーをアップしますので、そちらでお答えしたいと思います。
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