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リスクを取らねば生きていけない、リスクを知らねば生きる資格がない
 平成18年度の日銀考査方針が12日発表された。この中で、前年度考査を踏まえ、全体として「不良債権処理の進展や与信コストの減少から収益は大きく増加し、経営体力も回復している」と評価されたが、一方で「リスク管理や経営管理面では、なお課題も多く、収益力の向上という面でもさらなる改善の余地がある」との厳しい状況も浮き彫りとなった。
 リスク項目での問題点は以下の通り。
<信用リスク>
・債務者企業の将来キャッシュフローの見積もりが不適切
・地価下落の続く地方を中心に、担保不動産の処理見込み額が実勢からかい離
・債務者企業の経営改善計画の検証や経営指導が不十分
・シンジケートローンや不動産ノンリコースローンの将来キャッシュフローの見積もりや担保評価で問題のあるケースがみられた
<市場リスク>
・大手行ではリスク計量手法の精緻化を進めつつ、金利リスク制御方向で慎重な運用スタンスを継続する一方、地方金融機関は収益面の要請から、総じて有価証券運用を拡大し、市場リスク管理の重要性が増しているが、管理体制の整備が遅れている先が少なくない
・多くの金融機関では、運用利回り確保の観点から、仕組み債、不動産ファンド、ヘッジファンド等への投資を積極化しているが、リスク管理やリスク量の把握の面で問題のある事例が少なくない

景気回復、日銀利上げ、などが話題になっているが、金融システム周りはちょっと違う風景にある。収益増大とは言っても、与信コストの減少によるもので、貸出増加&貸出金利の上昇によるものではない。むしろ貸出は、増やそうとすると、金利が下がりやすい(or上がりにくい)、という構図で、利上げ懸念で急騰する市場金利とは別世界にある。
 特に、上記の問題点に透ける地方金融機関の経営状況はなお厳しいように思われる。もとより、金融業はリスクを取らないとリターンがない。地方においては、貸し先は乏しく、リターンを得るには、金利リスクを取る、高金利の仕組み物に手を出す、ぐらいしか手がない。適切なリスク管理、高度なリスク管理は、つまるところリスク管理の厳格化であり、結果的にリスク回避的になりがち。当局の言うままにリスク管理をがっちりやれば緩慢なる死を迎える恐れがある。
 仕組み債など売れているのだろうと思う。しかし、見た目おいしそうだが、毒も含む食い物であり、毒性の低いものなら苦い程度だが、毒性が強いと激痛が走ったり、悶絶したり、痺れまくるもものある。本当に景気がいいなら、目の前にはおいしくて栄養価の高い食べ物が並ぶはずだが、残念ながら、安全だがリターンがない(栄養価が低い)、おいしそう(高金利)だが毒があるものしか並んでいない。
 無理なリスクを取らないと生きていけない、無理なリスクを知らないと生きる資格がない、というかなりしんどいハードボイルドな状況に金融システムは置かれているように思えて仕方ない。こういう心配は杞憂ですかね。
by bank.of.japan | 2006-04-13 19:42 | 金融システム | Comments(10)
Commented by 30兆円 at 2006-04-13 23:48 x
抽象的な表現ですが、ある種の哲学を持たれている地方金融機関の運用は健全な印象があります(B/S全体を見て資金運用をしているところかな)。中途半端にリターンを求めているところは、結果として上手くいかないところが多いかなと思います。仕組債などの商品が全てが悪いわけでは有りませんが、コストが数パーセントから数十パーセント掛かってしまうと、リターンが出にくいのは当然です。そもそも何がしらのベータリスクを仕組債も取るわけですから、それなら直接、原資産を買うべきだと思います。会計上の買いやすさなどは残りますが、、、。
Commented by bank.of.japan at 2006-04-14 12:59 x
30兆円さん、どうもです。哲学、というのは、運用の基本方針がぶれない、ということでしょうかね。気迷いがあったり、周囲に流されたりすると、得てしてうまくいかないことが多いのではないかと思われます。なお、会計上の要因は意外に大きい、のかもしれませんね。
Commented by SAKAKI at 2006-04-14 13:02 x
どうもです。次は金融機関に投資と思っていましたが、おっしゃるとおり真の収益回復とは言いがたいようですね。素人目には、運用難でしょうから、長短期金利の乖離が実態としてアメリカ同様小さくなる可能性が高いですよね。古い体質の金融機関は実態が苦しいとのことでしょうか??
Commented by SA at 2006-04-14 18:22 x
つづけての書き込み容赦願います。んーやはり長期金利はアメリカにつられて騰がっていくと見る方が自然ですかねぇ・・貸し出しがさほど増えるようにも思えない。すると保有する債権は値下がりリスクを抱える・・悩むなぁ・・
Commented by walrus at 2006-04-14 18:46 x
 アメリカではまだ長期金利が名目成長率よりも1%低いのに対し、日本では長期金利と名目成長率がほぼ等しくなる可能性があります。今後も日米長期金利の上昇方向での連動性が維持される場合、米国ではまだ景気刺激的な長期金利水準が続くのに対し、日本では米国対比で景気引締め的な効果を持つ可能性があります。世界的な長期金利連動性は低潜在成長率国と高潜在成長率国の格差拡大要因と理解してしまっていいのでしょうか。
Commented by bank.of.japan at 2006-04-14 18:46 x
SAKAKIさん、どうもです。貸し出しが顕著に伸び、利ザヤも改善すればいいのですが、まだそこまでは至っていないですね。ただ、景気回復は与信コストを下げるので、業純は上がる感じでしょう。真の収益回復とは行かずとも、それを先に見込んで買いが入るのはアリです。美人投票として銀行に投票する人が多いかどうかで、実態はともかく投票行動の予測が大事かもしれません。
Commented by bank.of.japan at 2006-04-14 19:44 x
walrusさん、どうもです。日銀は実際、1999年初めに「長期金利上昇(&円高)」に配慮してゼロ金利政策を導入しました。またそうなるんですかねえ。今は株高で金利高への懸念は小さいですが、株が下がるとそうはいかんでしょうね。もっとも、株が下がるのはもともと景気が強くなかった、とも解釈され、解除判断が正しかったが問われることになりますが…
Commented at 2006-04-14 19:44 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by アホ学生 at 2006-04-14 19:45 x
就職活動中の学生なんですけど…
外資、後追いで内資の証券会社が地銀、信金、宗教法人にごっつい仕組債売ったりしてるんですよね。統計学専攻したおかげで仕組債組成するインターンできたんですけど、実質的な手数料が100パーセントに近いものばっかしでした。バリアーオプションつかったりして。なんでこんなもんに手をだすんじゃと思ってたんですけど、セールスの人たちが金握ってる人をキャバクラ、風俗漬けにして友達になっちゃうんですって。

しかも額が1000億円くらいのものばかりでした。
アホです
Commented by bank.of.japan at 2006-04-14 20:05
↑どうもです。ありがちな話ですね。究極が「プリンストン債」かもしれません。エキゾチック系が絡み始めると、手数料メチャ抜かれますから。30兆円さんがご指摘のように、直接原資産買うのが分かりやすいです。
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