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「預超銀行」の貸出金利引き上げは合理的か(追記あり)
 複数の銀行関係者によると、貸出金利が上がっているようだ。「市場金利が上がっているため」とのことで、金利設定が市場連動するなら上がらざるを得ないのだろう。ただ、よく考えると、必ずも貸出金利が市場連動する必要はないのではないか、と思った。なぜなら、銀行の大半は預金超過であり、市場から資金を取り入れて融資に回しているわけではない。市場から金を調達しており、そのコスト(金利)が上がったから貸出金利に転嫁するならまだ話は分かるが、預金でほぼ貸出が賄えているなら、貸出金利を市場金利に追随させる必然性は乏しいように思われる。
 原油高に直面した製造業と比較してみよう。原材料価格が上昇した場合、製造業は合理化努力によって製品価格への転嫁を可能な限り避けようとしている。これは卸売物価の上昇が消費者物価にダイレクトに波及していないことにもうかがえる。日銀の量的緩和解除によって足元金利を除いて市場金利は上昇しているが、個別の銀行は市場性調達にほとんど依存しておらず、貸出に回す資金の調達コストはほとんど上がっていないのが実情だと思われる。預金金利が完全に市場金利に連動しているなら、貸出金利がスライドして上がるのは筋が通るが、そうはなっていない以上、貸出金利が単純に市場金利に連動する必要はないのではないか。
 銀行業も製造業と同様に、調達費用と販売価格のスプレッドで採算を取っている。貸出に対して預金超過となっている場合、市場金利が上がろうとも預金金利はわずかしか上がっていないのだから、貸出金利が市場金利に追随する必要はない。日銀の量的緩和解除に便乗して貸出金利を“利上げ”することはないのではないかと思った。
 多くの銀行が市場連動で貸出金利を引き上げているとき、ある聡明な頭取が「わが行は預金超過であり、市場金利が上がっても資金の調達コストは上がっていない。従って貸出金利を上げない」と宣言すれば、融資の申し込みが殺到するのではないだろうか。また、「資金需要が増大しているわけではないのに、量的緩和を解除して市場金利を上げた日銀の判断がおかしい。わが行は貸出金利を据え置く」と宣言する銀行頭取がいたりしたら、英雄扱いされるだろう。
 私が住宅ローンを借りているメーンバンクの渉外担当が「市場金利が上がって貸出金利も上がっている」と言ったので、①おたくは預金超過のはずで、市場金利の上昇はあまり影響を受けないのではないか②そもそも貸出金利は資金の調達コストに一定の利ザヤを乗せて決まるのであろう③預金コストが顕著に上がったわけでもないのに貸出金利が上がるのはおかしい④それともALM操作でフルヘッジしちゃったのか、だったらその証拠を見せて欲しい⑤原油高に直面した製造業は合理化努力によって販売価格への転嫁を避けようとしているではないか④資金需要が目に見えて増えていないのだから貸出金利が上がるのはおかしいと思わないのか⑤定期預金の金利をわずかに上げているようだが、それぐらいは合理化努力で吸収できないのか-などと畳み掛けたが、彼自身は真面目で誠実な人間で、とても困った顔を見せたので途中で追求をやめた。
 市場金利が上がって困るのは、短期固定の住宅ローンを借りてまもなくロールオーバーを迎える家計、莫大な借金を背負った政府、スプレッド貸しを利用している企業など。一方、メリットを受けるのは資産超過の家計、資金余剰の企業や生損保などの運用機関であろう。では、日銀はどうなのか。これについては次回エントリーで。
 
追記 足元資金需要が増大しており、需給関係から価格(金利)が上がっているなら別です。なお、銀行関係者の方々を困らせるつもりはありません。特に前線で融資業務をやっている方々としては、如何ともし難い状況だと察します。市場金利の動向と銀行の実際のバランスシート構造の相関性が乏しいように思われることから疑問点を書いたつもりです。景気回復の動きが貸出に顕著に波及するまで量的緩和の解除を先送った方がいいのではないか、というのが私の根本的な問題意識であります。住宅ローンを背負っているという個人的な事情も多少は影響しております、ハイ。

追記(3月31日) 本日の日経新聞(最終面)に「住宅ローン 夢の金利キャンペーン」との広告あり。頑張っている銀行もあるんですね。応援したい。
by bank.of.japan | 2006-03-30 00:25 | マーケット | Comments(10)
Commented by システム5.1 at 2006-03-30 07:28 x
思いっきりコメントしたいのですが、今から出張であいにく時間がありません(笑)。また、日を改めて。でも、おそらく色々な方がご意見を述べられるエントリーだと思います。では。
Commented by Baatarism at 2006-03-30 10:10 x
結局、日本の銀行業界には本当の意味での「競争」が無いのかなあと思いました。長年の護送船団で染みついた横並び意識は、まだまだ健在なのでしょう。w
Commented by bank.of.japan at 2006-03-30 18:32 x
システム5.1さん、お忙しい折にわざわざコメント多謝です。ご意見お待ちしておりますが、どうかお手柔らかに(笑)。 Baatarismさん、どうもです。確かに横並び的な風潮が真の競争を阻害する面はありますね。一方で、解除直後から利上げ懸念を招く情報発信で短中期金利を跳ね上げた日銀も困ったもんです。
Commented by オレンジ at 2006-03-31 11:19 x
本日発表されたCPIを見る限り、①前年比の上振れは全てガソリン等の特殊要因、②特殊要因を除くところのCPIの趨勢は、景気拡大と原油高にもかかわらず価格転嫁の動きはみられず、全体として下げ止まりの行きを出ていない、③都区部の動きを見ると、確かに少しずつ上がる品目が増えてきているが、都区部と全国は同列に論じられない、といった結論となります。夏場の基準改定では0.2%の下方向への段差も出ます。物価を見る限りは、利上げの必要はなさそうですが・・・本文と関係のないコメントで申し訳ありません。
Commented by bank.of.japan at 2006-03-31 12:46 x
オレンジさん、どうもです。予想では0.6でしたが、結果的に上昇率は横ばいでしたね。もともと1-3月期が高めに出るのは予想されたことであり、物価動向は4月以降または基準改定がある8月以降の見極めが重要となります。日銀は物価安定のための利上げという意義が説得性を持たないため、バブル懸念を持ち出したのではないか(これも説得的か疑問ですが)と勘繰る次第です。
Commented by オレンジ at 2006-03-31 14:37 x
バブル懸念ですね。すると、「財政再建と成長戦略は車の両輪」(与謝野さん)、「経済成長による自然税収増なくして財政再建なし」(中川さん)という立場との兼ね合いが難しそうですね。
Commented by bank.of.japan at 2006-03-31 18:46 x
日銀の立場で考えると、高成長してもバブルによるものなら、破裂した場合の悪影響が大きく、より持続的かつ安定的な成長のためにはバブル荷ならないように金融政策の舵を切る、ということでしょうか。問題は、金融政策で資産価格のコントロールが思うようにできるかどうか。得てしてバブルを念頭に置いた引き締めは失敗しがちで、それはコーンも指摘したとおりではないかと。バブルを未然に防ごうとするとオーバーキルになりやすく、発生するとその時点で負けとも考えられます。
Commented by ラスト何マイル? at 2006-04-03 01:24 x
それにしても、御社の以下の記事、分かって書いているならやや悪ノリですし、分かってないなら恥ずかしいですね。

総務省が31日発表した2月の全国消費者物価指数(CPI、2000年=100)は、価格変動の大きい生鮮食品を除く総合指数が前年同月比0.5%上昇の97.6となり、5カ月連続でゼロ%以上を記録した。生鮮を含む総合指数は0.4%の上昇となり、日銀の物価安定の目安としている「0―2%」の基準内に収まった。
Commented by むささび at 2006-04-03 03:16 x
貸出市場でも競争があるので、理由がないというのも考えにくいかな、と。

1.銀行は手元にじゃぶじゃぶキャッシュを持っているわけではなくて、LiborまたはTiborベースで日々の運転資金を調達しているわけで、だから市場金利と貸出金利は連動する
2.預金金利上昇分を貸出金利に反映
3.単純に契約が変動金利制

のどれかかなと当て推量をしています。プライムレートってどのように決まるのか銀行の方に教えていただきたいですね。
Commented by bank.of.japan at 2006-04-03 15:20
ラスト何マイル?さん、どうもです。そういう報道ありましたか。気が付きませんでした。ところで、ハンドルネームですが、現状維持でいかれますか。ちょっと気になりました。
むささびさん、どうもです。③に相当するのがスプレッド貸しですね。これはTIBORと連動して上がりそうです。②は、預金コスト分であれば微細の利上げにとどまるのですが、実際の上げ幅は預金対比で大きいようです。①は、現実には邦銀の大半は「預金超過」なので、資金の調達コストへの影響は市場金利の動きほどではないように思うのですが。なお、基準金利の決まり方はよく分からないですね。採算上のスプレッドが乗っかるはずながら、住宅ローンなど「優遇」金利であり、優遇幅を強調するために基準金利があるような感すら受けるのですが。うがち過ぎですかね。
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