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時価会計が歪める?リスクのとり方(追記あり)
 先般、ある地銀幹部と会う機会があった。そこで、私はかねて暖めていたアイデアを披露した。それはテクニカルには多少無理があるが、いくらでも貸し出しが増やせる方法で、しかもリスクフリー。さらには金融庁を満足させるオマケ付きである。
 私が会社を設立し、資金を融資してもらう。その金で私は長期国債を買い、買った国債は担保に差し入れる。アンダーJGBの超低利融資だが、実質的には国債担保で焦げ付きはない。しかも、中小企業向け融資に区分されるので、御当局もハッピーというわけだ。
 これを聞くと地銀幹部はニヤリと笑い、「それに近いスキームは2、3年前から出回っている」とし、その手の営業に熱心な証券会社を幾つか挙げていた。私のアイデアは原始的なものであり、実際のスキームは味付けがあるようだ。『ハコモノ』と言われているそうで、現物国債にデリバティブを組み合わせて見た目のクーポンを多少高めたりしているようだ。
 これは知り合いの証券マンが以前教えくれたスキームとほぼ一致する。オフショア法人の東京支社を設立し、そこに運用難の銀行に融資を実行させ、JGBや銀行の劣後債・ローンに金が向かう仕組みと同様であろう。
 国債を買えば簡単なのに、なぜ複雑な経路で融資の形態を取るのか。大手行の知り合いも含めてよく言うのは「融資なら時価会計が適用されない」ことだ(商業銀行のDNAとして貸出本業意識が強く、市場取引などをオマケ、バクチと見なしがちな風土もあるが)。薄利多売の融資をやるより、流動性を考えるとJGBを買った方がいいようなものだが、JGBは価格変動がはっきりし、時価会計にさらされる。貸出はそんなの気にする必要はない。
 知り合いの銀行員(市場・ALM部門)は行内会議で、融資の利ザヤが薄くなり、JGBに接近していることを踏まえ、「流動性リスクを考えるとJGBを購入した方が安全であろう。そのためにキャピタルを市場・ALM部門に振り分けて欲しい」と提案。そしたら猛烈な反発に見舞われ、貸出増強という国益に背く反逆児扱いされたらしい。「市場部門もリスクを取らないとリターンがない。キャピタルの振り分けを」と懇願したところ、「そこを何とかするのがお前らの仕事だろ」と切り捨てられたようだ。
 財務省への提案である。政府負債を「債券」の形態で発行するのを止めたらどうか。全部とは言わない。ある程度でいいので、「借り入れ」に切り替えたらどうか。非時価の政府向け融資。応募が殺到し、今よりも低いコストで資金が調達できるのは確実である。えっ、先進国らしくない?だって「長期債が発行できず、短期債でぐるぐる回さないといけないときに、スワップ(の10年)を払えば金利リスクはヘッジできる」と豪語したのは…。
 ところで、地銀幹部との話に戻るが、「リスクテークはシンプルイズベスト」で一致し、「うちではデュレーションリスクを取るのが基本」と言いつつ、顔を曇らせた。「あれが気になるんだよ」と言う。何かといえば、バーゼルⅡの「アウトライヤー規制」であった。資金需要が乏しく貸出が薄利化するなら国債を買うしかないが、時価会計やらアウトライヤーやらがネックになり、奇妙なハコモノに金が流れ、そこで証券会社が潤う、という全体の流れは何やら歪みが蓄積している気がしてならない。大丈夫だろうか。

注意 ここで言う歪みは制度要因によるもので、量的緩和の副作用論と混同せぬよう。

追記 bewaadさんからのご指摘もあり、政府債務に関して補足を。現状、交付税特会など部分的に「借り入れ」が行われております。私としてはもう少し広げていけばいいのではと思っております。政府調達の多様化(退化かも・笑)で、中長期債の部分的な借り入れへのシフトですね。なお、bewaadさんを始めとするみなさんの指摘を受け「貸出」の歪みについて思い出したことがあるので、次のエントリーで取り上げたいと思います。しばしお待ちを。
by bank.of.japan | 2006-02-16 21:12 | マーケット | Comments(11)
Commented by at 2006-02-17 00:33 x
こんにちは
初めて訪問させて頂きました
秀逸なBlogですね
今後チェックさせて頂きます
不動産市場に関してもたまに言及願います
Commented by bank.of.japan at 2006-02-17 01:07 x
信さん、いらっしゃいませ。こちらにコメント頂き恐縮です。私は金利の方はよく見ていますが、不動産市場の専門的なことが良く分かりません。金利と不動産の相関性は高まっているものの、どの程度の相関性なのか、この点についてご意見頂ければありがたいです。当ブログの読者の方々へ。信さんはノンリコ関係の貴重なブログをやられております。アドレスはhttp://blog.goo.ne.jp/renrl です。興味のある方はご訪問ください。
Commented by 某自治体財務担当 at 2006-02-17 02:25 x
いつも興味深く拝見しております。
さて、国債と比べるとロットは桁違いに小さいですが、地方債の方は証書借り入れの方式がまだ残っているので、最近は都銀・地銀とも地方自治体の財務担当のところに足繁く通ってきます。
都銀なんて、ついこないだまでは地方自治体向け融資なんて見向きもしなかったものですがねえ・・・
Commented by 30兆円 at 2006-02-17 03:58 x
90年代後半、都銀が中小企業への貸しはがしを指摘されていた頃、海外SPCを利用し中小機関向け融資と称して数字を稼ぎました。その後、本石町さんスキームはこの地銀さん幹部さんのご指摘のように数年前にはやりました。このスキームでJGB4桁買ったところもあると聞きます。
Commented by 30兆円 at 2006-02-17 04:02 x
その後から現在にかけては、地銀さんのなど地方金融機関に新たなインセンティブとして「不良債権比率を低下させたい」が出てきまして、以下のスキームが出てきました(竹中・伊藤金融担当で、厳しく取り締まった副作用ですね)。2,3年くらい前から欧州系証券会社を中心にしかけた金融機関による金融機関向け融資のスキームです。金融機関向けに融資を行うことで、①不良債権比率を低下させる、②不動産関係融資比率を落せる、③エクスポージャーが大きい、④員外貸し出しを利用できる、⑤勿論、時価会計がない。などなど会計上メリットが大きいのです。現在は、国内大手証券や銀行を交えて、こうした営業が積極化し、なんと小さなJAにまで利用が広がっています。決算書類で業種別貸し出しを調べれば、実態がわかります。
Commented by 30兆円 at 2006-02-17 04:02 x
銀行の貸し出しが上向き始めたとはいえ、金融機関向け融資が数兆円積みあがっていることを考えると割り引いて考えないと行けませんね。さらに、某自治体財務担当者さんご指摘のように、地方自治体向け融資を地銀と組んでアレンジする証券会社の動きも活発になり、このスキームの裏側にも同様な危うさが内包されております。ここもとのSwap金利の急上昇で、怪我人が出ているのではないかと危惧しております、、、。雑駁ですが、こんなイメージですよ。BOJの方にも時々、このお話はしていますが目を丸くされています。
Commented by bewaad at 2006-02-17 06:12 x
国も借り入れをしています(交付税特会など)。ご参考まで。
Commented by オレンジ at 2006-02-17 08:40 x
アウトライヤー規制で窮屈になるのは、メガだけかと思っていましたが、地銀さんでも同じような話しになっているというのは驚きです。2007年4月から適用開始ですから、新年度の予算(目標)設計では、このあたりも皆さん意識してくるわけですね。
Commented by bank.of.japan at 2006-02-17 17:26
某自治体財務担当さん、どうもです。貴重なコメント、多謝です。銀行融資増加は公的向けも含まれ、次回エントリーの重要なヒントになりました。今後ともよろしくお願いします。
30兆円さん、いつも多謝です。今回も詳細なフォロー有難うございます。金融機関の金融機関向けの融資の件、私も聞いておりましたが、さらなる理解が進みました。こういう話、デフレ脱却の順バリに満ちた報道が多い中では浮上しませんね。ブログで頑張ります。
bewaadさん、ご指摘いただき多謝です。貸出動向の実態に関するエントリーを思いつきました。某自治体財務担当さん、30兆円さんの意見も踏まえて書こうと思います。
オレンジさん、どうもです。預・貸バランスからすると地方金融機関の方が影響大のように思われます。こんなに政府債務が多く、その吸収役の相当を銀行が担う国にアウトライヤー規制とは。制度・規定は状況をよく考えないと本来の趣旨から外れるリスクがあり、そうならないよう祈りたいです。
Commented by ラスト何マイル? at 2006-02-18 00:31 x
同様の発想で議論されていた「非市場性国債」については、さすがにブレーキがかかったようですが。
https://www.mof.go.jp/singikai/kokusai/top3.htm
Commented by bank.of.japan at 2006-02-18 13:13 x
ラストさん、どうもです。国債発行の選択肢としては残しておいた方がいいような。またはバンキング勘定の時価会計止めるとか。銀行が国債買いやすくなると、日銀も輪番減らしやすい、とはなりませんかね。
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