みなさんご存知のように、総裁の国会答弁で、国債買い切りオペ(輪番オペ=rinban)を減額することが指摘された。好意的に解釈すると、あくまでも長期的な話であって、解除してすぐ減らす、というわけではないことだ。もっとも、債券ディーラーにしてみると、だったら今言わなくてもいいじゃないか、ということになろう。その気持ちは私はよく分かる。
ここでアラン・ブラインダーの『金融政策の理論と実践』の一部を引用したい。何度も何度も引用して恐縮だが、これは実に素晴らしい本であるので、これからも引用の頻度が高いと思う。 ブラインダーは金融市場の特性について以下のように述べている。 「金融市場のトレーダーらは、長期金融商品を扱っている者でさえ、あたかもおろかな近視眼的発想しか持ち合わせていないかのように振る舞うことがしばしばだ。これに対し、長期的な視野を持ち続けることが適切な金融政策の本質である。…30年債を扱うトレーダーたちが、あたかも一年物を扱っているとしか思えない」 トレジャリー市場の特性は、わがJGB市場にも、多分より強く当てはまると思う。長期的なテーマであっても、金融市場の織り込み方は基本的には「瞬時」ではないだろうか。ここで問われるべきは、今の時点でrinbanが長期的に減る、という蓋然性であろう。 銀行券が減るには、まず「解除する」、しかも解除がゼロ金利に戻るだけでは今と変わらないので、退蔵された銀行券が戻ってくるほどの水準に預金金利が上がる、それをもたらすほどの「利上げが出来る」ということが見込まれる。 そうなるだろうか。私は「可能性は否定しないが、分からない」と思う。銀行券の動きも、本当に金融不安要因でタンス預金が増えたのか断言ができない。景気が良くなって、もしかしたらそれで銀行券が増えるかもしれず、増えないまでも横ばいかもしれない。 アラン・ブラインダーが警告した「自分の尾を追う犬」となった中央銀行の対話の危険性は、基本的には中央銀行が市場を尊重しすぎてその近視眼性を取り込んだ場合を指していると思われる。日銀の場合、自ら予断を与え、予断を与えられた市場との間で「尾を追う犬」化しているように見受けられることで、これは何というか、ブラインダーの想像を超えた市場との対話の失敗であるような気がする。 願わくば、解除ができ、景気が良くなり、物価も上がり、預金金利がタンス預金を引きつけるほど上昇するような利上げが実現して欲しい(リスクマネーとして株や不動産、外貨などに流れてもOK)。そうでないと、振り返ってみた場合に、要らぬ予断を与えたに過ぎなくなるからだ。 追記 ブラインダーの本は今読むと臨場感あり。お勧めである。 「金融政策の理論と実践」(東洋経済新報社)
by bank.of.japan
| 2005-10-21 22:15
| 日銀
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