「ルワンダ中央銀行総裁日記」を読了。本を図書館に返却した。私の中では服部正也氏は英雄と化し、このままお別れするのも寂しいため、ご本人の弁などどこかに残っていないものかと考えた。もとより、著作の少ない方なのだが、国会議事録の検索を思い付いた。そしたらあったのである。昭和59年5月16日、参院の「外交・総合安全保障に関する調査特別委員会」に参考人として登場しておられた。国際協力に関して持論を述べた貴重な場面であります。答弁内容は簡単に紹介しますが、ご関心ある方は直接参照ください。
服部参考人 「…やれODAとかあるいはグラントエレメントとか言っておりますが、全部こういうものを発明するのは役人、日本の役人は別にしますが、官僚的な発想をする人あるいは実務を知らない学者が、総体を見て、そしていきなり総体をもって各論とするという考え方で一つの速記術としてやっているわけで、目的は後進国のあるいは世界全体の経済発展でありまして、効果がなければならない。そして同じ効果を生むならば、インプットは物が少なければ少ないほど効率がいいわけでございます。やたらにODA競争とかなんとか、これが国際政治の上で一つの基準になっていることは私はもちろん容認しますし、そしてそれが事実であればそれに対応するということもやむを得ないわけですが、仮に日本が援助をふやさなきゃいかぬということで、日本が世界全体のGNPの一〇%になるような大国になったならば、日本が援助哲学あるいは援助理論の間違っていることを正す、日本の援助理論を出すということが日本のまず第一の責任ではないか」 「…先ほどの慈善的な援助、災害に対する援助というものがエスカレートして、非常に安価なひとりよがりの善意で援助をやろう、あるいは実際に行われている援助があるわけであります。現場に行ってみまして、いかにそれがその国の経済の仕組みを崩しているか、かえって害になっていることが多いのでございます」 「現実に私が見た日本のODAのプロジェクトの問題で言いますと、これはアフリカがやっぱり問題が一番多いような感じがするのです。これはもう各国ともそうですが、日本の場合は何といってもアフリカの実情を知らない。先ほど別の先生がおっしゃいましたけれども、東南アジアについてそう知識がないということ以上に、アフリカについてはせいぜい冒険ダン吉みたいにしか考えてないということが一番大きいのじゃないか」 「日本の本で、援助といって全部読んでいるわけではもちろんありませんが、帰りましてから見ましたものはほとんど欧米の学者の焼き直してございます。これをやっておる限りにおいては、援助というのが本当の目的に戻るということはないと思うわけであります」 「まず、新国際経済秩序でございますが、これは全く果実のない議論の場だと私は思っておるのでございます、非常に極論かもしれませんが。私は外交官でもなければ政治家でもありません。学者ではもちろんございません。私は実務家なんです。実務家とすれば、こういうところに貴重なエネルギーを使って無用な議論を繰り返す、そのエネルギーと、それからその会議費、出張費、これはもう後進国にとっては大変な負担なんです。なぜこれを、自分の国の今ある枠の中でできることをやらないか」 「私が留学した一九五〇年では日本に重工業などやるのはナンセンスだという話がありまして、学校でも大学の先生でもいろいろ言われたわけです。そして私、それを帰って一万田総裁に話しましたら、それと関係があったかどうか知りませんけれども、川鉄のペンペン草の話があったわけですけれども、いかに人間の努力というものがいろんなものを克服するかということがこれは日本人の歴史の中であるわけなんで、これを伝えるということ、機械的な統計的なモデルというものでやることがいかに不毛だということ、これはもう人間信頼の問題、個人信頼の問題だと私は思っております」 服部節、冴えておりますね。
by bank.of.japan
| 2009-08-04 21:03
| 議事録
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Comments(11)
官僚たちの夏を毎回見ていますが、重ねるとおもしろさが倍増ですね。風越重工業局長いいじゃないですか。小生アフリカも興味がりいつか家族で訪れたい地域のひとつです。TOPIXは何気に連騰していますが、そろそろいいところでしょうか。
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かるぱーす
at 2009-08-05 00:02
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ルワンダ中央銀行総裁日記の後述談ありがとうございます。服部氏のコメント非常に共感しつつ、まことに冴えております。実務家万歳。「経済運営は現場で起こっているんだー」って前にも言いましたっけ。
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O山O
at 2009-08-05 00:22
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PK
at 2009-08-05 18:15
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実物経済と金融が一対一で対応していた時代で、しかも銀行制度がない途上国では、中央銀行総裁は国家唯一現金銀行の頭取でもあり、金融の動きから国内のすべての動きを読み取れる立場にあったわけで、ある意味牧歌的で幸福な時代ですね。しかも、日本市場最強の開発型帝国国家である帝国日本の教養主義で育った人間ですから、ウガンダにとっても良い相手だったのではないでしょうか。
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bank.of.japan
at 2009-08-05 23:30
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星の王子様さん、どうもです。「官僚たちの夏」を見ている官僚は多いような感じです。私はちなみに大臣や通産省国際派に理があるように思えます。でも、主人公は格好いいですね(笑)。
かるぱーすさん、どうもです。かなり共感を覚える国会答弁だと思います。 O山Oさん、どうもです。もっと早い時期に知っていれば是非お会いしたかったとつくづく思います。 PKさん、どうもです。今日のコメントは分かりやすいです。
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PK
at 2009-08-06 07:32
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大日本帝国は、各統治地域にひとつの中央銀行を持っていました。
台湾銀行は、鈴木商店に貸し付けもやっていたそうで、服部氏のような人材は結構多かったのかもしれません。 ウガンダは、服部氏を引きとめようとしたそうですが、固辞されて71年に退任。73年にはウガンダでクーデターが起きています。 満州国の通貨も満州崩壊後も2年ほど通用力を持っていたそうです。 クーデターももしかしたら番人が消えたお金の神通力が消えたせいか?
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上原 勇作
at 2009-08-06 21:25
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いつも大変楽しく拝見させてもらっています。
服部正也氏は戦前の海軍予備学生で、通信部隊に 所属していたそうです。 作家の阿川弘之氏が海軍に入隊したときに、服部氏から指導を 受け、その際に情報の大切さを力説していたことを著書に書いて いたと思います。 どうかご参考までに
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bank.of.japan at 2009-08-07 00:31
上原 勇作さん、どうもです。貴重な情報、有難うございます。参考にさせてもらいます。
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Tono
at 2009-08-07 00:48
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はじめてコメントさせていただきます。
少し難しい内容もありますが、いつも興味深く拝見しています。 ちょうど私も本石町さんの先日のエントリを読み「ルワンダ中央銀行 総裁日記」を図書館から借りて、読了したところでした。 そして、余韻を味わいつつ、服部氏の足跡を捜してネット検索を始めた ところでした。 そんなわけで今日のエントリにはビックリすると同時に特別に嬉しくも ありました。 本当に素晴らしい本をご紹介いただきありがとうございます。 これからも楽しみにしております。
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bank.of.japan
at 2009-08-07 18:19
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Tonoさん、どうもです。この本の存在は前から知っていましたが、これほど面白い内容だとは思わず、やっと最近になって読んだ次第です。これほどの本が図書館にしかないのは残念で、再刊されて欲しいものです。このエントリーを紹介した甲斐がありました。ありがとうございます。
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ナガ
at 2010-06-26 11:40
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はじめてコメントします。ナガと申します。
「ルワンダ中央銀行総裁日記」を読み(途中ですが)、服部氏のことを検索していてたどり着きました。 アフリカの大地に興味があり「ルワンダ〜」を手に取ったのですが、服部先生には本当に感銘を受けております。世界中の人に読んでほしいと思います。英訳されているのかと思ってアマゾンで検索したのですが見つかりませんでした。30年かければ自分にできるかなと半ば真剣に思ってます。それぐらい感動してます。
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